■ 大卒選手の存在日本サッカーの特徴の1つと言えるのは、「大学」の存在である。欧州の一流国では、大学を経由してプロの世界に進む選手はほとんどいないと言われているが、日本の場合、代表クラスに登りつめた選手も少なくない。インテルのDF長友がもっとも有名で、川崎FのMF中村憲なども大学からプロに進んで日本代表選手となった。DF長友の場合は、4年生になる前にプロ入りを果たしているので、大卒ルーキーではなかったが、プロ1年目から大活躍した。
J1にも大卒選手は何人もいるが、大卒ルーキーの活躍が目立つのは、J2の舞台である。J1になると、目玉クラスの大卒選手でも活躍できないケースがあるが、ややレベルの落ちるJ2では大卒ルーキーが戦力となる確率は高くなる。J2に昇格してから年数が経っておらず、下部組織から優秀な人材が出てくるような段階でないクラブは、大卒選手というのは、戦力補強をする上で重要と言えるが、毎年、1年目からレギュラーとして活躍する選手が何人も出てくる。
今シーズンのJ2も大卒ルーキーの活躍が目立っているが、もっとも印象に残る活躍をしているのは、徳島のDF藤原ではないかと思う。Jリーグには「新人王」という賞は無いので、プロ野球などと比べると、ルーキーの活躍が話題になることは少ないが、もし、NPBのような「新人王」という賞がJ2リーグにもあるとしたら、有力候補の1人である。J2は36節が終了したが、ここまで全試合でスタメン出場しており、プレーオフ圏内のチームを支えている。
■ プレーオフを目指すチームでレギュラーここ最近、右SBで起用されているDF藤原は、FC東京の下部組織出身で、立命館大学から徳島に入団した。徳島というクラブは、J2では、比較的、資金力のあるクラブなので、J1やJ2の有力クラブで出場機会が得られない若手から中堅選手を積極的に獲得してきた。日本代表のFW柿谷が徳島での2年半で大きな成長を遂げたことは何度もスポーツニュースなどで取り上げられているが、レンタル制度をうまく活用して、2011年はJ2で4位と結果を残した。
ただ、そういうやり方というのは、安定しない。2012年に15位と低迷したことが改革のきっかけになったのかもしれないが、昨オフは3人の大卒選手を獲得しており、その中で、DF藤原がチームに欠かせない選手となった。レンタルでやってきた選手はレンタル先で活躍すれば、当然、翌シーズンは元のクラブに戻ることになるので、長期に渡ってチームを支えてくれることは無いが、新卒の選手は他チームに引き抜かれない限りは、大丈夫である。
チームが3バックを採用していた時はウイングバックで起用されて、4バックに変更した後はサイドバックで起用されているが、サイズも、運動能力も、テクニックも、それほど高い選手だとは思えない。非常にあいまいな言葉であるが、「ポテンシャル」という尺度で図ると、優秀とは言えないが、真面目な選手で、変なミスをすることもなく、毎試合、同じようなパフォーマンスができる点が最大の強みになっている。小林監督の評価は非常に高い。
J2のクラブに入団してくる大卒選手はエリートではない。J1のクラブと獲得競争をして、勝てるはずはないので、ランクの落ちる選手が中心となるが、これまでは、明確な武器がある選手であったり、「ポテンシャルは高いけれども、開花しきれていない。」という素材型の選手を好むチームが多かったと思うが、DF藤原という選手は全く違っている。「こういうタイプもプロでイケるのか?」と思っている関係者はたくさんいると思う。
■ 素材型のルーキーJ2で素材型の大卒選手を積極的に獲得してきた印象があるのはFC岐阜で、2009年に加入した現長崎のFW佐藤洸、現富山のFW西川という2人の大型ストライカーが代表例として挙げられる。また、ずっとFC岐阜でプレーしているサイドアタッカーのMF染矢やCBのDF関田も同じグループだと思うが、「荒削りではあるが、光るところがある。」という選手を獲得して、J2の試合で使い続けることで、眠っていた潜在能力を引き出すことに成功した。
ただ、Jリーグは、1年1年が勝負になるので、特に大卒選手になると、のんびり育成している余裕は無い。したがって、徳島のDF藤原のように、将来性はそれほど高くないかもしれないが「即戦力」として活躍できる選手と、FW西川やDF関田のようなポテンシャルの塊のような選手をバランスよく獲得していくことが非常に大事になってくるが、下位になるとJFL(J3)へ降格する可能性も出てきたので、今後は、即戦力志向が強まっていくかもしれない。
ただ、使い勝手のいい選手ばかり獲得していると、チームとしてスケールアップはできない。1年や2年は我慢して、素材型の選手を育てることも必要になってくると思うが、今年の大卒ルーキーで素材型の代表例と言えるのは、愛媛FCのFW渡辺である。日本体育大学出身で、190センチの高さがあって、身体能力も高くて、しかも、左足を得意としている。体も強くて、大型ストライカーとしての素材は一級品と言える。
石丸監督も期待をかけているが、ビハインドのときに投入されても、効果的なプレーができなくて、何も出来ないままで、試合が終わってしまうこともある。高さだけの選手であれば、「ターゲットになる」という点だけを意識してプレーすれば大丈夫だが、もう少し幅の広い選手なので、動きに迷いが感じられることが多いが、こういう選手を一人前に育て上げることもプロの仕事だと思うので、どういう風に育成するのか、注目したい。
■ ポテンシャルの高い水戸のDF新里その他では、福岡のMF中原、横浜FCのDF野上、G大阪のMF岡崎、札幌のDF松本、岡山のMF島田譲、北九州のMF新井、栃木SCのMF湯澤、松本山雅のMF飯尾竜、水戸のFW山村とDF新里なども出場機会を得ている。将来性を感じるのは、やはり、中京大学出身で水戸に入団したDF新里で、184センチとサイズがあって、フィードもできて、大型選手の割に動きもスムーズである。CBとボランチをこなすところは、現役時代の柱谷監督に通じる。
松本山雅のMF飯尾竜と札幌のDF松本もなかなか面白い選手だ思う。神戸の下部組織で育ったMF飯尾竜は、右サイドが本職の選手だと思うが、松本山雅では左WBで起用されることが多い。違和感はあると思うが、アップダウンの多さは魅力で、こういう選手がいると攻撃が活性化する。札幌の左SBのDF松本は失点に絡むミスも目立つので、運の無さを感じるときもあるが、重量感あふれる体から繰り出される左足のキックは目を見張るものがある。
中でも、注目しているのは、岡山のボランチのMF島田譲である。岡山のダブルボランチというと、2012年からMF千明とMF仙石の2人で固定されてチームの躍進を支えてきた。3番手以下のボランチとの差が大きくて、ともに「替えの利かない選手」だと考えられていたが、29節の東京V戦以降、ずっとMF島田譲がスタメンで起用されており、MF仙石はベンチスタートが続いている。大卒ルーキーがポジションを奪う形となった。
早稲田大学出身なので、大宮のMF富山と同級生になるが、武器となるのは左足のキックの精度の高さで、ミドルパスやロングパスで局面を変えることができる。ミドルパスやロングパスというのはミスになりやすいので、相当に自信が無いと蹴ることはできないが、MF島田譲は左足に絶対の自信を持っているので、彼がボランチに入っていると、展開がダイナミックになる。展開力というのは、J2の舞台でも目立っている。
■ 「左利き+左利き」のコンビフィジカルの強さもウリの1つと言えるが、ボールをさばくだけでなく、前に飛び出していく力も持っている。MF仙石も、MF千明も、ゴール前に進出してシュートに絡むタイプでは無いので、MF千明+MF仙石のコンビになると、ゴール前の厚みに欠けることがあったが、MF島田譲は積極的に攻め上がるプレーができる。「試合に出場するためには、何をすべきか。」、「どういうプレーをしなければならないか。」を心得たクレバーな選手だと言える。
29節以降、MF島田譲とMF千明のWボランチになっているが、ともに左足を得意としている。今シーズンは、松本山雅のWボランチもMF岩沼とMF喜山で組むことが多くて、「左利き+左利き」のコンビになっているが、ボランチに左利きを並べることは弊害もあるので、あまり見ないパターンである。J1で言うと、2011年の終盤にC大阪がMFマルチネスとMF扇原の2人でボランチを組んでいたことがあったが、それ以外というのは、すぐには思い浮かばない。
MF仙石は右利きなので、利き足のバランスを考えると、MF島田譲とMF千明のWボランチというのは、考えにくい組み合わせである。左利きのMF島田譲が右利きのMF仙石からポジションを奪うことは、通常よりも難易度は高いと言えるが、影山監督に「レフティコンビでも問題ない。」と思わせるだけのものを持っている。プレーオフ出場を目指す岡山にとって、今シーズンだけでなく、これから何年にも渡って、チームを支えていってほしい選手である。
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