■ 城福新監督に対する期待原博美監督に代わって、FC東京の監督に就任した城福氏。2006年の秋に行われたU-16アジア選手権の日本代表チームの監督で、C大阪のFW柿谷曜一朗や横浜FMのMF水沼宏太らが中心となったチームを率いて、アジアチャンピオンに輝いたことで知られている。
2006年にイビチャ・オシム氏が日本代表監督に就任して以降、「考えて走るサッカー」≒「ボールも人も動くサッカー」は、日本サッカーを表現するための代名詞のようになっているが、このサッカーを、フィールドにおいてもっとも高いレベルで具現化したのが、このときの日本代表だった。
以下は、城福語録である。「どういうサッカーをしたいのかを明確に伝えられること」、そして、「すでにU-16でモデルを示しているということ」という2つの要素が、城福新監督に期待せずにはいられない要因となっている。
"とにかくボールを動かせるチームになること、二つ目に頭と身体を動かせるチームになること、三つ目に、これは自分でもチームにも一番大事なことだと思っているのですが、観ている人の心を動かすこと。"
"ムーブという言葉は、『感動させる』という意味ももっていますが、そういうチームになることが、味スタを満員にすることにつながり、サッカーを文化にしていくことだと思っています。"
"相手に動かされたり、ボールに動かされる時間よりも、自分たちの意図で動く、ボールを動かす時間を長くし、50%以上確保したい。"
"パッションのない者はピッチに立てない。小平で全力を尽くせない選手は試合には出られない。小平のピッチで日本一になるくらいの自負を持って365日やる"
"スキルフルで意外性もあって、見ていて楽しい、きれいな崩し方、ゴールは誰もが見たい。それがラブリーなんです"
"自分の得意なところだけじゃなく、少なくとも2つのポジションを高いレベルでできないと(起用は)難しい。交代のカードを切らずに、相手に対応できるようにしたい"
"ハンディをエネルギーにして、だからこそ、”準備”を大切にしたい。監督であっても選手にしても完璧な人間はいないと思います。足りないものをどう補っていくか、そこで一生懸命考えることも自分のやり方です。"
"「世界にはとんでもない選手がいて、想像を絶するプレーをしているわけです。ただ、いくら相手の素晴らしさを評価したところで事実は変わりません。速い奴は速い。でかい奴はでかい。うまい奴はうまい。それは不変です。それに対して我々がその「特長」を出させないサッカーをするにはどうするか。その方法がポイントになるわけです。ボールをコントロールして、ボールと意識を繋ぎながら主導権を握る時間帯をどれだけ保てるか。能動的にボールを動かし、人も動く。ポゼッションに加えて『仕掛け』のあるサッカーをいかにやるか。そこがやれる限り相手の長所は限りなく消せると思っています。端的にいえば、『ロナウジーニョと対戦する時はロナウジーニョにディフェンスをさせろ。』というオシム氏の考えに近いかもしれません。もちろんそれは簡単ではありません。常に走れる体力が要求され、ボールに触れる選手が増えればミスをするリスクも増えます。逆に多人数がボールに触れることによって斬新なアイディアも加味されます。そこで自分を表現して欲しいんです。"
"全国を見て回ると上手な子は大勢います。そのうまさを試合の局面でどう生かすのか?そこには「判断」だったり「勇気」だったり、さまざまな要素が加味されますが、最終的にはサッカーで自分を表現する「表現力」です。身体能力ではなく、的確なボールコントロールができ、最善の選択ができてこそ表現者になれる。その「表現」力を追求したいんです。"
"リスクを冒しても自分たちのスタイルを追求する姿勢。そこだけは一貫していきます。育成世代でやるべきことはそこだと思って来ましたから、その中で何ができて、何ができなかったのか。そこが結果として出てくるものだと思います。"■ 「考えて走るサッカー」を追求する道は正しいのか?ところで、城福監督が志向するサッカーは、オシムサッカーにも通じるものがある。もともと、FC東京には攻撃のタレントが豊富であることも加味すると、ジェフ千葉がそうであったように、目指すサッカーが完成すれば、他チームのサポーターをも魅了できる可能性をもつ。
ただ、間違ってはいけないのは、「考えて走るサッカー(≒ボールも人も動くサッカー)」を行えば、必ず、試合に勝てるというわけではないということである。たとえば、オシム監督は、アジアカップで4位という結果に終わった。(高温高湿の中、考えて走るサッカーができたかどうかは疑問だが・・・。)しかしながら、その結果を受けて、「オシムの考えて走るサッカーは通用しない。オシムの指導は間違っていた。」という結論を導くことはできない。「考えて走るサッカー」は、オーストラリア代表や韓国代表やサウジアラビア代表に確実に勝つための方程式の解とはいえないからである。
それはワールドカップの舞台でも同じで、たとえ、日本らしいサッカーができたとしても、それがイコール、結果につながるかといったら、そうではない。すでに、確固たるスタイルが確立しているオランダ代表やメキシコ代表ですら、ワールドカップを制した経験はない。
さらに言うと、オシムサッカー(=「考えて走るサッカー」)が本当に、「日本らしいサッカーなのか」、また、「最も日本人に適したサッカーなのか」も分からない。2010年に、岡田ジャパンが素晴らしく日本的なサッカーを披露したとしても、あえなくグループリーグ敗退に終わるかもしれない。
ただ、黄金時代のジュビロ磐田やイビチャ・オシム監督のジェフ千葉やオリベイラ監督の鹿島アントラーズや西野朗監督のガンバ大阪や関塚隆監督の川崎フロンターレや大木監督のヴァンフォーレ甲府や松本育夫監督のサガン鳥栖のように、「こういうサッカーが日本らしいサッカーなのかな?」と感じさせるチームがひとつでも増えていくと、日本サッカーは豊かになることだろう。そして、その中から、時間をかけて、「本当に日本的なサッカー」を作り上げていけばいい。
もちろん、代表チームとクラブチームは事情が異なるし、代表にはFW柿谷曜一朗という世代のアジアレベルでは特出した才能を有していた。だから、城福監督のFC東京の仕事がそう簡単に進むとは思えないし、苦労もするだろう。
でも、城福監督に期待したい。U-16のアジア選手権で見せたサッカーを、味の素スタジアムでも披露してほしいと思う。今シーズンは、FC東京のサッカーに注目したい。
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