■ 日本平スタジアムへ静岡県の日本平スタジアム。
普段はそうでもないが、改めてその場所を訪問してみると、Jリーグの創世当時から存在するスタジアムには、それ以外の新興のスタジアムと比べて、一種の独特の趣があることを感じる。瑞穂陸上競技場しかり、万博競技場しかり、三ツ沢球技場しかり、ヤマハスタジアムしかり・・・。
まだまだ、誕生して間もないと思われているJリーグだが、すでに15年の歴史があって、少なくない歴史の積み重ねがある。日本平も、幾多の激闘の舞台となってきた、スタジアムの1つである。
日本平へ行くには、自家用車あるいは、公共バスしか手段がないが、静岡駅からは30分あまり、最寄りの清水駅からでも20分以上かかる。決してアクセス環境が優れているとはいえないが、オレンジ色の集団を左右に見ながら駆け上がる日本平までの道のりは、高揚感を増大させる効果を持つ。悪くないものである。
■ フジヤマダービー清水エスパルスは、第24節の静岡ダービーを制して、現在、5連勝中。対するヴァンフォーレ甲府は、現在、17位。残留のためにも、落とせない試合が続く。
なかなか思うような結果の出ない甲府は、05年の後半から続けてきた3トップを封印して、2トップに変更。192cmのラドンチッチと183cmの須藤のツインタワーを採用し、GKには、阿部謙作が復帰。DFラインは杉山・増嶋・秋本・山本。MFが茂原・宇留野・石原・藤田が先発。
ホームの清水は、<4-4-2>。現時点のベストといえるメンバーで、GK西部、DF市川・青山・高木和・児玉。MF伊東・兵働・藤本・フェルナンジーニョ。2トップは、チョジェジンと矢島。
■ ツインタワーの効果試合の序盤は、甲府が主導権を握る。中盤を、茂原・宇留野・石原・藤田の4人で構成し、中盤で細かくつないでサイドからクロスを上げてフィニッシュを狙う新しい形で、2トップの高さを生かそうとする。
甲府のシステムは、流動的なので、数字で表現しにくいが、もっとも適当なのは、藤田の1ボランチで、その前に、茂原・宇留野・石原の3人が並ぶ<4-1-3-2>だろうか。ショートパス主体のこれまでのスタイルに、高さが加わった甲府は、3次元的な攻撃が可能になって、試合の序盤は、いつも以上の期待感を感じさせた。
■ さえるミドルパスしかしながら、前半の15分を過ぎると、ホームの清水が盛り返す。序盤は、甲府にプレッシャーに押され気味だったが守備が機能し始めて、奪ったボールをシンプルに前線につないで、2トップを生かす本来のサッカーが、出来るようになっていく。
甲府の選手も細かい技術レベルは低くないが、ロングキックやミドルキックの精度の高さは、清水の選手の方が、1枚も2枚も上手だった。同じようにアバウトに見えるパスでも、清水のロングパスは、相手DFの嫌な位置を狙ってしっかりと蹴られており、甲府DFは簡単には処理できなかった。
前半の30分過ぎには、清水がCKから、何度か決定機をつかむが、甲府が何とかGK阿部を中心に守りきって、0対0で前半を終えた。
■ 矢島の先制ゴール後半は、一進一退の攻防が続いたが、甲府にアクシデントが発生。FWラドンチッチが後半9分に負傷でアルベルトと交代となる。
ラドンチッチの高さという脅威がなくなったためか、清水は、右サイドバックの市川が積極的に攻撃に参加し始めると、後半18分に、MFフェルナンジーニョのタメから、スペースに走りこんだ市川がアーリークロス。チョジェジンがニアに走りこんでつぶれて、その裏のスペースでフリーになったFW矢島が難なく押し込んで清水が待望の先制ゴールを挙げた。
ここにきて、キャンプ中のロッソ熊本との練習試合で大怪我を負って以来、ずっと戦列を離れていた戸田が復帰。その戸田が、2試合連続でアシストをマークしており、長らく安泰だった右サイドバックのレギュラーの座も危うくなってきていた市川だけに、うれしいアシストとなった。
■ 無かった交代の切り札甲府は、ラドンチッチと須藤の2トップをスタメンで起用し、ある程度、機能したが、その弊害として、1点を追いつかなければならない時間帯で、高さをもつ交代のカードがなく、終盤にパワープレーを仕掛けることが出来なかった。
暑さもあって、単純なミスパスも増えていった甲府は、後半44分にも、MF高木純にサイドを崩されて、MF枝村に決定的なゴールを許す。結局、0対2で敗れた甲府は、残留圏内に浮上することは出来なかった。
■ ラドンチッチはバレーになれるか?甲府の新外国人のラドンチッチは192cm。足元の技術もあって、その上、パワフルな左足のシュートを秘める。ポストプレーも正確で、相手DFを背中に背負った状態でのプレーにも、見所があって、相手にとっては、厄介な選手である。
今後、彼が、得点力不足解消の切り札となれるかどうかは分からないが、そのポテンシャルを考えると、その可能性は秘めている。
ただ、今後も2トップを採用するならば、須藤との2トップよりも、スピードタイプの選手と組ませる方が、効果的かもしれない。この試合では、須藤とラドンチッチの役割分担が明確ではなく、須藤に要求されているプレーが曖昧になっていて、須藤が、効果的な仕事が出来ずに終わった。それならば、須藤は、パワープレー要因としてベンチに温存しておいて、終盤に起用する方が、いいだろう。
■ あわてないエスパルス清水は、前半に決定機に決めきれず、いやなムードで後半を迎えた。下位の甲府を相手ということもあって、絶対に「勝ち点3」が欲しい試合だったが、決してあわてる戦ったことが、好結果に結びついた。
甲府は、後半9分に、FWラドンチッチを下げてFWアルベルトを投入したことで、攻撃がパワーダウンして勢いがなくなってしまった感もあったが、一方の清水は、ベンチにFW西澤やMF枝村、MF高木、DF戸田といった攻撃的なカードを何枚も持っており、余裕を持って戦うことが出来た。ベンチ要因の差も、勝敗を分けた鍵の1つだった。
■ 2トップの関係清水は、2トップのチョジェジンと矢島のコンビネーションが良かった。タイプこそ違うものの、ともに180cmを超える大型選手であり、これまでは、かみ合わない試合も少なくなかったが、この日は、ポストに入るチョジェジンとその裏のスペースに走る矢島という棲み分けが出来ており、お互いに持ち味を引き出した。
矢島は、これで、今シーズン4得点目。昨シーズンと比べると、高い身体能力を生かしたスーパーなゴールシーンは見せられていないが、その分、ポジショニングで勝ち取ったストライカーらしいゴールが増えてきている。嗅覚が増しているのかもしれない。
■ ワンボランチ?トリプルボランチ?清水は、依然として、両サイドの兵働と藤本のポジショニングが曖昧なままで、試行錯誤の状態が続いている。攻撃的に戦おうとしているのか、守備的に戦おうとしているのかは、彼ら2人のポジショニングを見れば一目瞭然だが、あまりにも、守備に気を使いすぎていて、トリプルボランチ気味になる時間帯が多く、攻撃面では、彼らの持ち味を十分に、発揮しきれていない。
チョジェジンと矢島の2トップで固定しつつあるため、その余波を受けて、フェルナンジーニョが攻撃的MFの位置に1つポジションを下げているが、中盤の守備という観点から見ると得策ではなく、守備面で、穴が開いた部分は、すべて、アンカーの伊東が埋めているという状態である。もう少し、チーム全体が流動的になれば、チームとして、レベルアップ出来るのではないだろうか。
■ 甲府はどうする?甲府は、アウェーの清水戦ということもあって、試合前から、苦しい戦いになることは想定していたと思うが、その通りで簡単ではなく、結果は残せなかった。
甲府というクラブの規模から考えると、J1で戦っていること自体が奇跡的といえるような状況であり、よくがんばって入るが、いったん、J2に降格してしまうと、もう一度、J1に上がるためには、かなり多くのエネルギーが必要になる。したがって、その負担にチームが耐え切れなくなる可能性もある。よって、何としても、J2には降格したくないところである。残り試合は、ヴァンフォーレの未来をかけた戦いになる。
清水エスパルス:採点
GK:西部 5.0
→ オフサイドに救われたが、完全な凡ミスであわや失点という場面を作った。
DF:市川 6.5
→ 後半は、積極的に攻撃参加。見事なアシスト。
DF:青山 6.0
→ ラドンチッチにてこずる場面もあったが、ゴール前での仕事はさせず。
DF:高木和 6.0
→ ややフィードがぶれたが、守備は問題なし。
DF:児玉 6.0
→ キックの精度は安定している。前半は、攻撃の基点になった。
MF:伊東 6.0
→ 広範囲に動いたが、ややパスミスも目立った。
MF:兵働 4.5
→ 危険なパスミスもあって、流れに乗れないまま途中交代。
MF:藤本 5.5
→ 精度の高いミドルパスで攻撃をつかさどったが、守備では集中が切れるシーンがあった。
MF:フェルナンジーニョ 6.5
→ キレキレのドリブルで相手を翻弄したが、決定機に決めきれず。
FW:チョジェジン 6.5
→ 安定したキープで前線で起点になった。
FW:矢島 6.0
→ 値千金の先制ゴール。
サブ:枝村 5.5
→ 追加点を挙げるも、仕事量が少なすぎる。
サブ:高木純 7.0
→ 途中出場で、攻守に貢献。2点目をアシスト。
サブ:岩下 採点なし。
→ 守備固めで出場。
ヴァンフォーレ甲府:採点
GK:阿部 6.5
→ 久々の出場で、好セーブで失点を防いだ。
DF:杉山 5.5
→ 悪くなかったが、もっと攻撃的にプレーしたかった。
DF:増嶋 7.0
→ 高さ勝負では、チョ・ジェジンに快勝。カバーリングもたくみ。
DF:秋本 6.0
→ 2トップを自由にはさせなかった。
DF:山本 4.5
→ 軽率なパスミスが多く、リズムを壊す。
MF:藤田 6.0
→ よく動いてボールを散らしたが、アイディアが不足していた。
MF:宇留野 5.0
→ 中盤で、消えてしまった。
MF:茂原 5.5
→ 切れはあった。2トップの一角で起用しても面白いのでは?
MF:石原 5.5
→ 前半は、試合に入りきれなかった。後半は、持ち直した。
FW:ラドンチッチ 6.0
→ 相手にとっては、嫌な存在。
FW:須藤 5.0
→ ラドンチッチとのコンビがいまひとつ。
サブ:アルベルト 5.0
→ 前線で存在を示せず。
サブ:木村 採点なし。
→ 流れを変えられず。
サブ:大西 採点なし。
→ 仕事は出来なかった。
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