■ J1勢が登場する4回戦天皇杯の4回戦からJ1のチームが登場する。清水エスパルスの対戦相手は、栃木SC。3回戦で東京ヴェルディに1対0勝利したJFL所属のアマチュアチームである。清水は、代表戦が続いていて疲労の色の濃い、チョ・ジェジンと青山が欠場。代役の矢島と岩下のプレーに注目が集まった。
試合は、栃木SCの激しいプレスに清水がなかなか本来のパスサッカーが出来ずに大苦戦。前半は、0対0で終了した。後半に入ると、清水の運動量が落ち始めて、栃木FCも攻撃の形を作り始める。最大のチャンスは、後半13分ごろ、FWの吉田が相手DFをかわしてキーパーと1対1になった場面。栃木FCが先制かと思われたが、シュートはキーパーにはじかれた。
■ ひやひやの勝利このビッグチャンスを逃した栃木SCは、一瞬集中力が切れたのか、直後のコーナーキックを矢島にヘディングで合わされて、先制ゴールを許す。人数をかけて攻撃する必要が出てきた栃木SCは、ここから、藤本・マルキーニョス・矢島と3連続ゴールを許す。0対4となり、勝負アリかと思われたが、まだ試合は終わっていなかった。
後半30分に、10番只木のゴールで1点を返すと、続けて吉田もゴール。2対4と追い上げる。もしかして、という空気も流れ始めたが、清水は藤本淳吾のゴールで突き放す。しかし、後半43分に茅島のゴールで再び2点差に。その直後、マルキーニョスのゴールで6対3となるが、ロスタイム直前にも、永井のゴールで追い上げる。結局、後半は、両チームあわせて10ゴールが入る、超乱戦になったが、清水がひやひやながら勝利した。
■ 明暗を分けた二人のルーキーチョ・ジェジンの代わりに先発出場した矢島については、2得点挙げたものの、期待以下のプレーだった。高い身体能力を生かしたダイナミックなプレーは影を潜めてしまった。秘めたる潜在能力は、チョ・ジェジンとマルキーニョスの2トップ以上のものがあると思うが、まだまだ、安定感はない。来シーズンは、是非とも、レギュラーポジションを獲得して欲しいと思っているが、この試合のようにスペースを消されると、十分な仕事が出来なくなるようだ。課題が見えた。
同じルーキーの藤本淳吾は、2ゴール1アシストの大活躍。ボールを持ったときに、味方の攻撃参加を促すための、時間と空間を作ることの出来る能力は、並の選手ではないことを証明している。印象としては、怪我から復帰したあとのパフォーマンスの方が優れているように思う。現在は怪我で離脱中だが、同じ左利きのM兵働とは、どうしてもプレーエリアが重なってしまう部分もあるので、藤本と兵働がどのように共存していくのかが、来シーズン以降の課題といえる。
■ J昇格に向けて大きな一歩を踏み出した栃木SC一方、清水には中心的存在のチョ・ジェジンと青山がいなかったとはいえ、栃木SCの戦いぶりは賞賛に値する。3回戦で東京Vを破ったというのも納得できる。
最終スコアだけを見たら、「JFLのチームに4点も取られるなんて、清水は油断しすぎだろう。」ということになるかもしれないが、チョ・ジェジンと青山を温存していたとはいえ、清水は、立ち上がりから、100%の力で勝利を目指して戦っていた。やる気のないJ1のチームがJ2やJFLのチームに敗れるケースは毎年見られるが、清水はそうではなかった。そこに価値がある。
負ければ終わりというトーナメントだったということもあったが、0対4でリードされてからの栃木SC戦い方は、感動的だった。4得点とも、完全に清水の4バックを崩した末にもぎ取った文句なしのゴールだった。栃木SCの前身は、栃木教員サッカークラブ。現在でも、メンバーの1/3が教員である。練習時間は、週に3・4日だという。アマチュアの身分で、明らかに練習量がプロと比べると少ない中での終盤の粘りは脅威である。
■ 優れたサッカーをしていたのは栃木SCだったという事実清水には、チョと青山のふたりがいなかった。とはいえ、両チームを比較すると、より質の高いサッカーを披露したのは栃木SCだった。(注意:普段の清水は、もっといいサッカーをしている。清水のよさを出させなかった栃木SCの戦術が見事だったともいえる。)
栃木SCは立派な戦い方をしたが、それでも、6失点を喫したということを忘れてはいけない。「チャンスの後のセットプレーは、特に集中しなければならない」、「得点を奪った後の時間帯は、いつも以上に集中しなければならない。」ということは、おそらく、栃木SCの選手たちは、生徒達に口を酸っぱくして言っていることだろう。頭の中では分かっていても、行動には出来なかった。確かに自力の差はあった。
■ J1のレベルダウンを示すものではない。”J1のレベルが、下がっているのではないか?”という疑問もあるかと思うが、J1のレベルは、停滞はしているかもしれないが、下がってはいないと思う。最近の傾向としては、Jリーグだけではなくて国際試合でもそうだが、個人能力の差がそのままスコアに表れることはなくなってきている。少々の戦力差であれば、監督の腕があれば、イーブンの状態に持ち込むことが可能である。この試合は、その典型的な試合だった。
J2を見ているとよく分かるが、最近のJ2は、前述のヴィッセル神戸・横浜FC・サガン鳥栖・愛媛FCのように、J1のチームよりも質の高いサッカーを見せているチームがいくつもある。栃木SCのサッカーの健闘もその流れだと思う。J1のチームを”不甲斐ない”と叩くよりも、下部リーグのチームの頑張りを称えたいと思う。
普段、日本代表の試合だけしか見ない人は、ドイツW杯の結果を受けて、「日本サッカー界は停滞している。」と感じているかもしれない。が、間違いなく、日本サッカー界は進歩している。うわべだけを見ているとなかなか気がつかないかもしれないが。
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