◆ Road to さいたまスタジアム 天皇杯準々決勝。浦和レッズがジュビロ磐田をホームのさいたまスタジアムに迎える。天皇杯に関しては、どういう決まりで試合会場が決まっているのかよく分からないが、浦和は、4回戦の静岡FC戦(駒場)、5回戦のアビスパ福岡戦(埼玉)に続いて、3試合連続でホームでの試合となる。浦和レッズ有利の状況になっているのは間違いない。
埼玉スタジアムは旧浦和市内に位置するものの、かなりの田舎にあって、浦和美園駅から埼玉スタジアムへ続く道は、約1.2キロも続く。ただし、露店が並んでいて飽きることがない。埼玉スタジアムというと、浦和レッズのホームのような感じがするが、大宮アルディージャもホームスタジアムとして使用することがある。スタジアム内にはオレンジのユニフォームが飾ってあるのに、少し違和感を感じてしまった。
会場は、試合開始の1時間も前から大盛り上がり。駅には赤いユニフォーム姿の人しか見当たらなかったが、サックスブルーのサポーターも多く駆けつけていた。快晴のもと、なかなかいいムードの中で、試合が開始された。
磐田は、GK川口がベンチ外だが、そのほかはほぼベストに近い布陣。一方の浦和は、ワシントン・闘莉王・三都主が不在。小野もベンチスタートとなった。
◆ 磐田が圧倒した時間帯 試合は、磐田が立ち上がりからボールを支配して猛攻をかける。前半31分に、前田のヘディングシュートで先制すると、後半開始早々にも、前田の落としから福西が決めて2点をリードした。
後半1分に、福西のゴールが決まって2対0になった時点までの磐田のサッカーは、文句のつけようがないくらい、素晴らしかった。浦和は主力メンバーが何人か欠けていたとはいえ、志向するサッカーの質が明らかに違った。1トップ気味に前田がいて、その下に位置する西・太田・福西の3人のMFがめまぐるしいポジションチェンジをして、浦和は全くマークを徹底することができなかった。
FWの前田遼一は、この試合も素晴らしいパフォーマンスを見せた。マッチアップした日本代表の坪井に対して、足元でのプレーだけではなく、制空権も握った。印象的なのは、2点目のシーン。左サイドバックの上田康太のロングクロスに対して、右サイドに流れながら相手に競り勝って中央に正確なボールを落とすと、そのボールをスペースに走りこんだ福西がゴールに結びつけた。
伝統的に、きれいに崩そうとしがちな磐田だが、前田の高さを生かした攻撃も使えるようになる、攻撃の幅が広がる。リーグ戦では、このようなシーンはほとんどなかったので意外なプレーだったが、非常に効果的なプレーだった。
◆ 磐田と浦和のサッカーの質の違い この試合では、磐田のパス回しが流れるような感じだったのに対して、浦和のパス回しは、まさに各駅停車だった。磐田の選手は、味方がボールをもつと、ボールを受けに入ったり、サイドに流れたりして、動いてボールを受けようとしたが、浦和の選手は、止まった状態でボールを受けようとするので、展開が広がらなかった。
磐田の攻撃は、3人・4人が絡んで、ボールを動かす意識が感じられる。多くのプレーヤーがボールに絡んで攻撃をすると、みんなの意識が一方向に向かってしまうので、イメージの共有ができていなかったり、単純なミスが起こったりすると、相手にボールを奪われてカウンターのピンチになってしまう。リスキーといえばリスキーだが、今の磐田には、しっかりとボールがキープできて、なおかつ、豊富なアイディアをもって攻撃の起点になれる選手が、前田・上田・ファブリシオと3人も有する。反対に、浦和には、このタイプの選手は、ベンチスタートだったの小野伸二しかいない。
これは、ワシントンや闘莉王らがいて、ベストメンバーのときも同じであった。リーグ戦でも破壊力はあるものの、リズムが悪くなると閉塞状態に陥りがちだった浦和レッズの攻撃の問題点は、ここにある。浦和レッズというチームは、自分達で流れを作り出すことが、それほどうまくはないという印象が残った。
◆ 試合の中盤以降に磐田が失速する原因は? 2点リードした磐田だったが、ここから、浦和に逆転を許す。後半9分、永井のヘディングシュートで一点差に迫られると、急にチームは浮き足立った。
磐田はリーグ戦でも、いい形で先制しながら、後半の半ばに追いつかれて「勝ち点3」を逃す試合が多かった。試合運びに安定感のない原因としては、
・前半から飛ばすので、後半になると運動量が落ちるから
・何度も同じような展開で追いつかれるので心理的な影響がある
・若さ(経験不足)
が挙げられるが、この試合を見る限り、どれが正解なのかは分からないかった。いいサッカーを見せる時間帯もあるが、突然、崩れだすこともあって、試合展開をマネージメントすることができない。それも若いチームのもつ魅力だといえるが、リーグ戦を制するためには、絶対に解決しないといけない課題である。
◆ 余裕?埼玉スタジアムの雰囲気 それにしても、埼玉スタジアムの雰囲気は、ちょっと独特だった。先制されても、2点リードされても、全く慌てない。リーグ制覇を成し遂げた余裕なのか、天皇杯だからなのか、不甲斐ない内容だった前半の終了時も、ブーイングはなかった。
他のスタジアムであれば、ホームチームがリードを許すと、試合中であっても観衆から味方に対するブーイングの声が聞こえてくるものだ。ただ、大概は逆効果になっていて、ムードは余計に悪くなっていく。”レッズのために何が出来るのか”、”どうすればレッズがよりよい状態で試合を進められるか”を、浦和レッズのサポーターは良く知っている。さすがだと感じた。
◆ 小野伸二のショータイム 後半9分に、永井のヘディングシュートで1点差に迫った浦和は、ここから、小野が獅子奮迅の活躍を見せる。後半開始から平川に代わって投入された小野は、パスの出し手ではなく、むしろ、パスの受け手として機能した。前半は、フリーランニングがほとんどなく硬直していた浦和の攻撃を活性化させた。後半18分に、右サイドに流れた相馬のクロスをヘディングで合わせて同点ゴールを決めると、後半35分にも、ポンテのスルーパスを受けて、勝ち越しのループシュートを決めた。
パサーのイメージが強い小野だが、フェイエノールト時代は、ボランチながらコンスタントに、1シーズンで10得点近くをマークしており、シュートセンスのあるプレーヤーである。得点能力という意味では、中田英寿や中村俊輔を上回るものを持っている。ヘディングで決めた同点のゴールは、中盤で相手のマークから消えて、ゴール前に気配を消して侵入して決めた、オランダ時代によく見られた得意の形からのゴールだった。
なんだかんだいっても、レッズサポーターの小野伸二への期待の仕方は段違いで、一番大きな歓声が上がる。小野の状態を心配している人も多いかもしれないが、怪我が完治して、この日のようなアグレッシブな姿勢で試合に臨めれば、まだまだ、日本のトップに君臨できる。それだけのポテンシャルをもっている。
◆ 右サイドバックの犬塚 小野の逆転ゴールで3対2とリードした浦和だったが、その直後、磐田の右SDF犬塚のゴールで追いつかれる。ペナルティエリア内で前田が粘って、そのこぼれ球を犬塚が押し込んだ。
磐田の攻撃は、上田康太のいる左サイドから展開することが多い。上田が、太田や西と絡んで攻撃を組み立てて、左から多くのクロスが上がるのだが、中の枚数が少なくて、なかなか中央で合わせられなかった。しかしながら、後半に入ると、逆サイドで組み立てているときに、右サイドバックの犬塚が中に絞ってシュートを狙うシーンも目立つようになっていた。その結果が、見事に結びついた同点ゴールだった。
◆ 左サイドバックの上田 左SDFの上田は、五輪代表にも名前を連ねる。本来は中盤の選手だが、リーグ戦終盤は、左SDFで起用されるようになった。上田をサイドバックで起用するメリットは、DFラインからの組み立てに落ち着きが出ること。特に、磐田のように単純なクリアがほとんどないチームは、無理をしてつなごうとして逆にピンチを迎えてしまうこともがあるのだが、危なくなったら左サイドに回しておけば大丈夫という安心感が生まれるので、リズムよくボールが回る。デメリットは、守備面となるが、守備にはある程度、目をつぶって起用するだけの価値はある。
ただ、上田の将来を考えると、左SDFで出場することがいいのかなという気がする。明らかに、試合中、暇そうな感じの時間帯もあって、最大限の能力が発揮されているわけではない。左サイドでは、日本代表経験のある村井がいて、来シーズンは完全復帰を果たすだろう。村井を左SDFにして、上田を左ボランチで起用する考えも、当然、考えられるが・・・。
◆ 不可解な判定 3対3の同点になったあとは、両チームとも中盤が間延びしてカウンターで攻め合う、見ごたえのある展開になった。しかしながら、決勝点は奪えずに、PK戦に入った。
PK戦では、浦和の4人目の酒井がGK佐藤洋平に、1度はストップされるが、岡田主審によってやり直しを命じられる。やや疑問に残る判定であった。(リプレーは見ていないが、)厳密に言うと、PKを蹴るまでGKは動いてはいけないというルールがあるので、岡田主審の判断に間違いはなかったのだろう。ただ、試合中のPKのときに味方がペナルティーエリア内に入り込んでやり直しを命じられることもあるが、どちらのケースも基準がはっきりせず、取ったり取らなかったり、アバウトさが残る。この判定以外にも、試合を通して浦和寄りの判定が目立ち、せっかくの好ゲームに水を差す形となった。
結局、磐田の10人目の犬塚が枠に飛ばすことが出来ずに失敗。浦和が磐田をPKで下して、準決勝進出を決めた。
◆ 着実な進歩を見せつけた磐田 磐田としては、完全アウェーの中で勝利は出来なかったが、見事なサッカーを見せた。3月に対戦したときは、同じ埼玉スタジアムで完敗を喫しているが、あれから9ヶ月たって、チームが好転していることを印象つけた。今シーズンの日程は全て終了したが、来シーズンに向けて期待は高まる。
シーズン終盤はメンバーも固まっていたが、来シーズンは、今のメンバーに加えて、10番の成岡やサイドアタッカーの村井が復帰してくる。攻撃のアクセントになりそうな村井をどの位置で起用するのか、さらには、前田と前線でコンビを組むのは、カレンなのか、西なのか、はたまた補強選手なのか、来シーズンの構成がどうなるのか非常に興味深い。メンバーが整理されて、チームが熟成されたならば、きっとジュビロ磐田の07年は、素晴らしいものになるだろう。
◆ 勝つサッカー、そして、魅せるサッカー 勝利した浦和レッズ。2点リードをものともしない、勝利のメンタリティはさすがだった。しかしながら、前半の内容は非常にさびしいものだった。攻撃に関しては、明らかに磐田の方が魅力的なサッカーを披露していた。僕は、”勝つサッカー”と”魅せるサッカー”は、基本的には、別物のだと思っている。そして、勝つサッカーよりも、見せるサッカーを披露する方が、はるかに難しいと思う。
今シーズンが終了すると、現監督のブッフバルト氏が退任してオジェック氏が就任する運びだが、オジェック氏のサッカーは、基本的にはブッフバルト氏と同系統のサッカーだと思う。(ブッフバルト氏が現役時代に仕えたオジェック氏のスタイルを取り入れたという解釈が正しいが・・・。)今の浦和レッズのメンバーであれば、もっと娯楽性の高い試合を毎試合のように魅せてくれてもいいように思のだが、オジェック氏の就任で、どの程度変えられるのだろうか。
大丈夫だとは思うが、もし、この試合で磐田に苦しめられた原因を、リーグを制覇をしたことによる満腹感や、ワシントン等の怪我人の多さを理由にするようであれば、今後の浦和レッズの発展はないだろう。浦和レッズは、発展途上のクラブである。謙虚に上を目指して欲しい。
◆ 大きさを感じる三都主の穴 左サイドに入った相馬は、果敢なドリブルを見せて、サイドを切り崩しにかかった。もともと、打開力には定評がある選手だが、三都主と比べると、チャンスにつながる効果的なクロスはなかなか上げられなかった。
三都主がザルツブルクに移籍することが決まった。相馬がいるので、三都主の穴は埋められるという論評もあるが、僕は、三都主の穴はなかなか簡単には埋められないように思う。三都主のクロスの精度の高さは尋常ではなく、代表でも、レッズでも、多くの得点を演出してきた。相馬もいい選手だが、シーズンを通して、三都主レベルの活躍が出来るかというと疑問に感じる。
採点
GK 佐藤洋平 4.5
PKでは不運もあったが、一本も止められず。試合中も、飛び出しの判断が甘く、1失点目の永井のゴールは、パンチングで逃れたかった。能活がいればと思った人も多かっただろう。
右SDF 犬塚友輔 6.5
値千金の同点ゴール。相馬への対応も、破綻はなかった。左サイドからのクロスに対してゴール前であわせる意欲を見せた。PK失敗はマイナスポイントにはならない。
CB 金珍圭 5.5
身体能力の高さを見せて永井を封じた。試合を通しては、悪くなかった。
CB 鈴木秀人 6.0
スピード勝負では、負けていなかった。素早いフィードも良かった。
左SDF 上田康太 6.0
前半は、左サイドで攻撃の基点となったが、徐々に試合から消えていった。ボールをもったときの落ち着きはさすがだが、もっとチャレンジしても良かった。
DMF ファブリシオ 7.5
攻守に大貢献したチームの心臓。ポジショニングが正確で、気の利いたプレーを見せた。文句なく、MOM。
DMF 菊地直哉 5.5
正確なフィードも見せたが、パスのミスも多く、出来自体はいまひとつ。守備では、ゴール前に進出した小野を捕まえきれず。
OMF 太田吉影 7.0
尽きることのないスタミナとスピードで浦和DFを混乱させた。スピードに乗ったドリブルは止めようがなかったが、もう少し、アタッキングエリア内で仕事をしたかった。
OMF 西紀寛 6.0
試合開始直後の1対1を外すが、前線で動いてチャンスを呼び込んだ。ただ、結果は残せなかった。ライバルは多い。
OMF 福西崇史 6.5
素晴らしいゴールで、追加点をマーク。巧みなキープでタメを作り、効果的なプレーを見せた。
FW 前田遼一 7.0
1ゴール1アシストで、全前得点に絡んだ。キープ力は驚異的。後半に入ると、前田にボールが入らなくなると、浦和にペースを握られた。
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