王毅の太平洋歴訪:後がまに座る中国
2022年6月7日
Sofia Pale
New Eastern Outlook
2022年5月26日、中国の王毅外務大臣は、オセアニアの7つの独立国家訪問を含む画期的な10日間歴訪を始めた。ソロモン諸島、キリバス、サモア、東ティモールと、フィジー、トンガ、バヌアツとパプアニューギニアだ。この展開は、南太平洋の伝統的当事者、アメリカ、オーストラリアとニュージーランドを大いに懸念させている。今彼らは、その伝統的勢力圏で、中国の強力な台頭に対し、無駄な抵抗をしている。これまで、北京はオセアニアの小さい島国と、貿易、経済協力だけを拡大しようと努めていたのに対し、今や世界最大の地域で、軍事関与を目指している。
太平洋でオーストラリアの確固とした戦略同盟者であり続けているアメリカの助けを借りて、第二次世界大戦後以来、日本の脅威を取り除き、キャンベラはメラネシアの大部分を覆う東部の海上に「防衛線」を確立した。今日、この南太平洋地域は、オセアニアで4つの最大国家で構成されている。ソロモン諸島、フィジー、バヌアツとパプアニューギニアだ。この国々は、オセアニアの全天然資源の90%を所有し、自身の通貨を持ち、政府間貿易、経済同盟Melanesian Spearhead Groupを組織している。
2018年以来、海のシルクロード・プロジェクトの一環として、中国インフラ施設が建設され、中国軍事基地を置く計画が密かに推進されている、これらの国々の訪問を王毅が計画した時、主目的の一つとして考えていたのは天然資源アクセス促進だった。
これまでのところ、キャンベラは、メラネシアでの中国軍事基地出現という、オーストラリアの国防問題にとって極めて重要な問題を、中国の申し出よりも魅力的な、オセアニアの指導者たちが依然信じている約束をして回避し無力化に成功した。だが「川は岩をも穿つ」という原理に則って、2022年4月、北京は、オーストラリアの防衛政策にとって重要な国、人口700,000人のソロモン諸島との安全保障協定締結に成功したが、この協定のもとで、中国は、希望すれば、オーストラリア沖の2,000kmの場所に軍部隊の派遣が可能だ。だが5月26日に、ソロモン諸島の首都で外務・貿易大臣ジェレミア・マネレと会談した王毅によれば、中華人民共和国はそうしない。ソロモン諸島が、太平洋歴訪の一環として中国外務大臣が訪問する最初のオセアニアの国であるのは興味深い。ちなみに、2000年代、ソロモン諸島が、すんでの所で内戦になるところだったのを、オーストラリアが2003年から2017年まで現地に駐留したソロモン地域支援ミッションRAMSIを派遣して封じ込めに成功した。
ソロモン諸島に加えて、中国軍事基地受け入れ候補者には、長年、中国に回収不能債務があるオセアニア最貧諸国、キリバス、サモアとトンガがある。このような状況は歴訪中にオセアニア諸国と包括的戦略協定に署名したい希望を述べた王毅の計画と一致する。
ミクロネシア連邦諸州のデイビッド・W・パヌエロ大統領は断固このような協議に反対だ。彼の国はアメリカとの自由連合盟約にあり、米ドルを公式通貨として使用し、オセアニアでは米軍基地と他の防衛施設が最大に集中しているグアム風に、領土へのアメリカ軍事駐留強化を望んでいる。オセアニアの諸国と属領の指導者21人宛て書簡で、パヌエロ大統領は、欧米と中華人民共和国間で新たな「冷戦」を引き起こしかねないので、中国の包括的防衛協定提案は拒否すべきだと述べていた。核保有国の利害関係が危うくなり、2021年に、オーストラリアがAUKUS核防衛同盟に参加した状態で、オセアニアの小国各国は地域の強力な当事者とのバランスを維持し、確立した構造に悪影響を及ぼす外交政策の動きを試みない方が身のためだ。
だが彼の声は聞きいれられない可能性が高い。オセアニア諸国間には、今や巨大な分割があり、オーストラリア、アメリカと、2021年にEUを抜けて、今自身の積極的外交政策を進めているイギリスと、小さな海洋の国々を通して太平洋での大きい地政学ゲームに入りたいと望んでいる中国との間に、もう一つの影響力圏の分裂がある。
王毅歴訪のもう一つの国が、オーストラリア海岸から、わずか600キロ、太平洋とインド洋の合流点に位置する世界最貧国東ティモール(ポルトガル語でティモール-レステ)だ。ジョゼ・ラモス・ホルタ大統領は中国との関係拡大に賛成だ。ロシア科学アカデミー東洋研究所、東南アジア・オーストラリア・オセアニア研究センター長ドミトリー・モシャコフ教授によれば、北京にとって、この国の戦略的重要性は、そうした絆を深くするのに役立つだろう。東ティモールはオーストラリアの都市ダーウィンの対岸にある。一方ではダーウィン港は99年間中国にリースされており、他方、すぐ近くには米軍基地がある。だがもし北京が東ティモール水域の支配権を得れば、中国潜水艦隊は最大の可能性を得るだろう。
中国人学者の分析的発言によれば、東ティモールは、アメリカとオーストラリアよりも、中国との協力から一層の利益を得ることを期待して、欧米制裁の脅威にもかかわらず、中華人民共和国との協力を強化する傾向がある。この協力成功の一つの局面が、一帯一路構想の共同実施で、「全人類繁栄のための小国経済開発」が狙いだ。地域の不穏状態とグローバル危機に導くだけの「冷戦思考」に基づいていないので、東ティモールは中国と親密な関係を作りたいと願っている。中国側は正常な外交関係の発展は世界の全ての人々の利益にとって最良の選択で、中国と二国間接触を拡大するという東ティモール大統領の決定は「賢明な決定」と考えている。この国が中国を選んだ事実は、東太平洋地域で中国の影響力を封じこめるアメリカとオーストラリアの試みの明白な失敗を示している。
オーストラリアのスコット・モリソン前首相が、2022年4月の中国・ソロモン諸島安全保障協定調印を「見逃した」事実は、ある程度、選挙での支持率凋落の要因になった。第二次世界大戦以来、誰もまだ南太平洋の安全保障地域に挑戦していないから、オーストラリアは適切に北京に対応しなければならないと次期首相アンソニー・アルバネーゼは述べた。オーストラリア新外務大臣ペニー・ウォンは、王毅がフィジーに到着する4日前、5月26日、フィジー政府と、南太平洋の防衛、海の安全保障と気候変更の追加援助準備について論じるためフィジー訪問から始めた。中国の外務大臣も同様の発言をしたので、オセアニアの重要な国の一つ、フィジーは、いつも通り両訪問者から恩恵を得るだろう。
当然、王毅のセンセーショナルなオセアニア歴訪が進むにつれ、パプアニューギニア、ほぼ900万の人口を持った最大の最も重要なオセアニアの国との戦略的提携に関する中国と欧米間の戦いは、一層凄まじくなるだろう。オーストラリアから2,000キロの資源国バヌアツについても、同じ事が言えるだろう。
オーストラリアの選挙後の期間に行う、抜け目ない敏感な政治家王毅による時宜を得た歴訪は、彼が利益を最大にし、オセアニアで中国の影響力を拡大する彼の狙いの大部分を実現するのを可能にした。
ソフィア・ペールは、歴史学博士、ロシア科学アカデミー東洋研究所、東南アジア・オーストラリア・オセアニア研究センターの研究者。オンライン誌「New Eastern Outlook」独占記事。
記事原文のurl:https://journal-neo.org/2022/06/07/wang-yi-s-pacific-tour-china-takes-over/
----------
Redacted with Clayton Morris、ウクライナ戦況の話題で、Scot Ritter氏登場。13分。大本営広報部と、かなり違うのでは?
The TRUTH is coming out in Ukraine and Zelensky is furious | Redacted with Clayton Morris
The SakerにThorsten J. Pattberg氏の新記事が掲載された。ひきこもりも属国化のおかげ。
百々峰だより 新記事は翻訳ではない。
大本営広報部のテレビを一日24時間一年365日見続けても、下記のマイケル・ハドソン氏のような新自由主義経済分析を知ることはできない。
耕助のブログ
日刊IWJガイド
「厭戦ムードの漂いはじめた欧州で、ポーランドが積極的にウクライナを「開発」とラブロフ外相が指摘!/IWJがピンチです。緊急のご支援を!」
« トランプは我々は「ロシアと仲良く」すべきだと言った。彼は正しい | トップページ | 石油備蓄を見て、アメリカ外交政策を研究する:言説のマトリックスの端からのメモ »
「アメリカ」カテゴリの記事
- 空騒ぎ:トランプ大統領のウクライナ大詰め計画(2024.12.19)
- シリア:全てが、金、金、金の問題(2024.12.18)
- イスラエルはシリア問題に介入するつもりはないというネタニヤフ首相の滑稽な主張(2024.12.17)
- 「テロ組織」は、アメリカがそう呼びたいもののこと(2024.12.16)
「アメリカ軍・軍事産業」カテゴリの記事
- 空騒ぎ:トランプ大統領のウクライナ大詰め計画(2024.12.19)
- シリア:全てが、金、金、金の問題(2024.12.18)
- イスラエルはシリア問題に介入するつもりはないというネタニヤフ首相の滑稽な主張(2024.12.17)
- 13年間にわたるアメリカによる国家テロ後のシリア…一体何が期待できよう?(2024.12.14)
「中国」カテゴリの記事
- エリート主義的暴政が暴露され、崩壊しつつある「欧米民主主義」(2024.12.13)
- トランプ大統領の対中国「貿易戦争2.0」は過酷なものになるだろう(2024.12.06)
- ウクライナ紛争や国内政治崩壊の損失によりドイツは崩壊しつつある(2024.11.23)
- トランプ政権:「戦争タカ派なし」から「全員戦争タカ派」へ(2024.11.20)
- ドイツはロシア燃料を使用していたがゆえにヨーロッパの原動力だった(2024.10.24)
「オセアニア・クアッド」カテゴリの記事
- カート・キャンベルの日本・モンゴル訪問:アメリカ外交政策にとって何を意味するのか(2024.04.11)
- オーストラリアを中国からアメリカが守っていると信じるのは愚か者だけ(2023.09.02)
- アジア太平洋地域にしっかり照準を合わせているNATO軍産複合体(2023.05.29)
- 戦争への助言のためワシントンの沼地怪物に謝礼を払うオーストラリア(2023.04.30)
« トランプは我々は「ロシアと仲良く」すべきだと言った。彼は正しい | トップページ | 石油備蓄を見て、アメリカ外交政策を研究する:言説のマトリックスの端からのメモ »
コメント