戦争を起こした三人
Paul Craig Roberts
2014年3月23日
米西戦争は、三人の人物によって引き起こされた。テディー・ルーズベルト、ヘンリー・カボット・ロッジと、ウイリアム・ランドルフ・ハーストだ。多数のスペイン人と何人かのハーバード“有名人”を含むアメリカ人が死んだ戦争は、嘘と、この三人のたくらみだけに基づいており、この三人の個人的欲求以外、何の役にも立たなかった。プリンストン大学の歴史学者エヴァン・トーマスは、この三人の怪物を、The War Lovers(戦争愛好者)と呼んだ。
ハーストにとって、新聞読者を増やす為に、戦争が必要だった。ルーズベルトにとっては、流血への欲求と軍事的栄光に対する願望を満たす為に、戦争が必要だった。ロッジにとって、アメリカ成人男性を再活性化し、アメリカ成人男性から、自分のアメリカ帝国“拡張政策”への支持を得る為に、戦争が必要だった。三人で協力し、アメリカ国民の無知と愚かさのおかげで、連中はことを成し遂げたのだ。
彼らの敵は、ワシントンで最も有力な政治家、下院議長トーマス・ブラケット・リード、“皇帝”だった。正直で高潔な政治家のリードは、“アメリカ例外主義”というロッジの政策を、アメリカの諸目標にとって全く反するものであり、大いなる脅威となる、むき出しの帝国主義だと見なしていた。ルーズベルトの戦争への欲望を、アメリカ国民を犠牲にし、益々少数の人々の役にしかたたなくなりつつある経済を再建するという国家目標からの逸脱だと、リードは見なしていた。ところが、ハースト、ルーズベルトとロッジは“平和”を ののしり言葉に変えてしまったのだ。果てしないだまされやすさのアメリカ国民は、戦争への欲望に心を奪われてしまった。自分がその為に懸命に働いたアメリカ国民を、リードは信用できなくなってしまった。“イエロー・ジャーナリズム”による、インチキ・ニュース報道以外、国を戦争に追いやることに対し、リードは何の道徳的目標も見いだせなかった。
わずか数年前、英領ガイアナが領有を主張する鉱物資源の豊富な土地に関する、英国とベネズエラとの国境紛争を巡って、クリーブランド政権が英国と戦争をしようとするのを、リードは止めなければならなかった。現在、ホンジュラス、アフガニスタン、イラク、リビア、シリア、パキスタン、ソマリア、イエメン、グルジア、ウクライナや、南シナ海が、アメリカの安全保障と何の関係もないのと同じ、この国境紛争が、どういうわけか“アメリカの国家安全保障に対する脅威”と見なされたのだ。
ルーズベルトとロッジは、英国との戦争の可能性に夢中になった。戦争自体が目的だった。ルーズベルトはロッジにこう書いていた。“わが国の沿岸都市が爆撃されようが、されまいがどうでもよい。カナダを乗っ取ろう。”幸いな事に、あるいはむしろ不幸にしてだろう、厳しい現実が、アメリカの戦争への欲望に勝っていた。アメリカ海軍が所有する戦艦は3隻だった。英国には50隻あった。英国とベネズエラとの国境紛争を巡って、アメリカ政府が、英国と戦争していたほうが良かったろう。アメリカ海軍と沿岸諸都市の全面的な破壊が、アメリカ人の教訓となって、アメリカ国民をそれほど好戦的でなくさせ、アメリカ政府の戦争の嘘に対してより懐疑的にしていたかも知れない。トンキン湾、サダム・フセインの大量破壊兵器、イランの核兵器、アサド大統領の化学兵器使用、ロシアのクリミア侵略等々。
ルーズベルトとロッジは、イギリス海軍より弱い敵を捜し、スペインを選び出した。
だが、アメリカの利害と全く懸け離れた衰退しつつある古びた400年の帝国と、一体どうすれば戦争を引き起こせるだろう?
新聞をなんとしても売りたかったハーストは、するべきことが分かっていた。彼は、現在、アメリカの保守派に大いに崇められている画家・彫刻家である、当時の画家フレデリック・レミントンを雇った。レミントンの描いた、意地悪そうなスペイン人に囲まれた魅力的な裸の若い女性の画が、ハーストのニューヨーク・ジャーナル紙一面の半分を埋めた。ハーストは、アメリカの郵便船オリベット号の三人の女性客がキューバのハバナ港で、いやらしい目つきのスペイン男性によって、裸で所持品検査をされたと主張した。
合衆国建国の父のごく短期の時期だけ、アメリカには、理性的思考と哲学的熟考のまれに見る瞬間が存在した。アメリカは、以来ずっと、三文恋愛小説や“騎士道的武勇伝”として描かれた宮廷物語の国だ。残酷で理不尽なスペイン人の手によるこうした侮辱から女性を救い出そうとする騎士の様なアメリカ男性は一体どこにいるのだろう、とハーストは問うた。
ハーストは“最も高貴な家系の美しく若い女性”エバンヘリナ・シスネロスの物語を繰り返した。ハーストの物語では、エバンヘリナは、年老いた父親を、残酷なスペイン人から解放するよう要求して、パインズ島に渡った。好色なスペイン刑務所所長の口説きに抵抗した為、彼女は売春婦用の不潔な刑務所に投げ込まれてしまったのだ。
ヒロインを作り上げた後、ハーストは彼女の救出を急いだ。ハーストは、麗人救出の為に、南部連合支持派の騎馬隊大佐の息子カール・デッカーを雇い入れた。デッカーの大胆な救出を描き出すのに何千語も費やされたが、実際に起きたのは、ハーストがスペイン人守衛に賄賂を渡し、心地良いホテルの部屋から彼女が出るのを認めさせただけだった。“一人のキューバ人女性”を解放したハーストは“一体いつキューバを解放できるのか”知りたがった。
テディー・ルーズベルトは出来事のスターになりたがった。ロッジ上院議員とアメリカ人記者リチャード・ハーディング・ディビスがそれを実現した。テディーは、後ろから叱咤激励するのでなく、第1合衆国義勇騎兵隊(通称ラフライダーズ)を率い、自ら丘を突進し、独力でスペイン人を打ち破り、戦争に勝利したのだ。
独り善がりの利己的なアメリカ人が、金儲けと出世の好機を見いだす前に、独立を求めて、長年スペインと戦ってきた、混血で様々な人種で構成されるキューバ人にとって、これは何を意味していただろう?
キューバ人にとっては、あるご主人が他のご主人に変わったに過ぎなかった。
アメリカ侵略部隊責任者、ウィリアム・シャフター将軍はこう宣言した。“この連中[キューバ人] は一体なぜ、地獄での火薬と同様、全く自治に適していないのだろう!”キューバをスペインから解放する為、30年間戦ってきたカリクスト・ガルシアは、スペインがキューバに降伏した際、式典への出席を認められなかった。式典は、その人々の名前で戦争が戦われたはずの革命家に関係ない、全くのアメリカの見せ物だった。
ルーズベルトは、キューバ人の戦い方はお粗末で、スペインからの解放に貢献しなかったと国に書き送った。キューバに自由をもたらしたのは、テディーとその第1合衆国義勇騎兵隊(ラフライダーズ)だった。1898年に議会で成立した、キューバの独立を保障するテラー修正条項は、1901年のプラット修正条項に取って代わられた。プラット修正条項は、アメリカ政府が好きな時いつでもキューバに介入する権限をアメリカ政府に与えた。
アメリカ人が用いる単語“文明”とは“肌の色が濃い人種には自治権を認めないこと”を意味するものであることに、ようやくキューバ人は気がついた。1908年、スペインに対して戦ったキューバ人は独自の政党を結成した。今や自国民の声よりも、アメリカ政府を喜ばせることに敏感なキューバ政府によって、彼らの何千人もが虐殺された。
アメリカによる介入の筋書きは、どこでも全く同じだ。アメリカによる介入は、アメリカ政府とアメリカ大企業と同盟関係にある連中を除けば、誰の利益にもなっていない。
イエロー・ジャーナリズム上で、ハーストのライバルは、権威あるジャーナリズムの賞にその名が残るジョセフ・ピューリッツァーだった。現在、アメリカのあらゆる印刷、TVメディアは、ハースト/ピューリッツァー時代のイエロー・ジャーナリズムに従事している。21世紀が始まって以来ずっと、アメリカが、米西戦争と同様、全く無意味な戦争をし続けるのを、イエロー・ジャーナリズムが手助けしているのだ。ネオコンは、アメリカ例外主義の原則で正当化される、ロッジのアメリカ帝国主義“拡大政策”を復活させた。
もしアメリカ人が三冊の歴史の本を読めば、地球上のあらゆる生命を危険にさらしている自分達の独り善がりの妄想から自らを解放できるだろう。本は下記だ。ハワード・ジンの『民衆のアメリカ史』、オリバー・ストーンとピーター・カズニックの『オリバー・ストーンが語るもうひとつのアメリカ史』とエヴァン・トーマスの『The War Lovers』だ。
これらの本を読んだ人なら、ワシントンのアメリカ政府が、アメリカ帝国が征服した諸州に“自由と民主主義”をもたらす“世界の光”で“例外的で必要欠くべからざる”政府だなどと、決して信じることはあるまい。
ワシントンは、思いやりや正義という観念を持たず、自らの権力強化と金稼ぎだけを目指す、戦争を商売にする自己本位連中の巣窟なのだ。テディー・ルーズベルトが自国の沿岸都市が爆撃される見込みを意に介さなかったと同様、自分達の政府が爆撃する国の国民のことなど、アメリカ国民は無関心なのだ。2014年3月18日、ロシアのプーチン大統領が、アメリカが、国際法より、銃による支配を好んでいることを、世界に気付かせた通りだ。
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Paul Craig Robertsは、元経済政策担当の財務次官補で、ウオール・ストリート・ジャーナルの元共同編集者。ビジネス・ウィーク、スクリップス・ハワード・ニューズ・サービスと、クリエーターズ・シンジケートの元コラムニスト。彼は多数の大学で教えていた。彼のインターネット・コラムは世界中の支持者が読んでいる。彼の新刊、The Failure of Laissez Faire Capitalism and Economic Dissolution of the Westが購入可能。
記事原文のurl:www.paulcraigroberts.org/2014/03/23/2nd-attempt-three-made-war-paul-craig-roberts/
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宗主国で起きることは、たとえ形を変えても、必ず属国でも起きる。国名と人名をわずかに変えるだけで、そのまま素晴らしい記事だ。例えば首相、副首相、有名新聞社幹部に。もちろん翻訳の質は全く別。
現在、日本のあらゆる印刷、TVメディアは、ハースト/ピューリッツァー時代のイエロー・ジャーナリズムに従事している。21世紀が始まって以来ずっと、宗主国アメリカが、米西戦争と同様、全く無意味な戦争をし続けるのを、属国のイエロー・ジャーナリズムは手助けしているのだ。
東京は、思いやりや正義という観念を持たず、自らの権力強化と金稼ぎだけを目指す、戦争を商売にする自己本位連中の巣窟なのだ。
最近『日本の社会主義』という本を買った。「読んだ」というより「買った」という表現が適切だろう。「日本の社会主義」について知りたいと思ったのではな。書名の横に小さな文字で「原爆反対・原発反対の論理」とあるのが気になって、ほとんど読んだことのない著者の本を買ってみたのだった。案の定、違和感が強くて、読み進めない。飛ばし読みしながら、違和感に、閉じること再三。不思議に思ってネット検索し、著者を強烈に批判しているブログを読んで納得。
『日本の社会主義』の著者、こういう文章を書いておられる。チョスドフスキー教授の記事をお読みではないようだ。全く賛成できないご意見。
チュニジアのジャスミン革命に始まり、エジプトの若者たちに受け継がれ民衆革命を達成したソーシャル・ネットワークの波は、リビアのカダフィ独裁を崩壊寸前まで追い込み、バーレーンやイエメンでもデモは続いています。権力が揺らぎ崩壊して、独裁者たちの莫大な蓄財や海外資産が明らかになりました。中国や北朝鮮の政府は、そうした情報を封じ込め、言論の自由を暴力で抑えるのに必死で、「権力は腐敗する、絶対的権力は絶対的に腐敗する」というジョン・アクトンのテーゼを、自らの行動で実証しています。
「ちきゅう座」に掲載された記事を転載される場合は、「ちきゅう座」からの転載であること、および著者名を必ず明記して下さい。とある
したがって、著者名を明記しなければならない。加藤哲郎:一橋大学名誉教授
このジャスミン革命賛美記事を知っていたら、『日本の社会主義』という本、購入しなかったと思え残念。大学名の肩書で、うっかり購入してしまったことを恥ずかしく思っている。この部分だけ大賛成。
権力は腐敗する、絶対的権力は絶対的に腐敗する」というジョン・アクトンのテーゼを、自らの行動で実証しています。
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