誰も耳にしないマララ達
Wendy McElroy
2012年10月18日
"fff"
ニュースを読んで読者は心を傷めておられよう。10月9日、パキスタンで、14歳のマララ・ユスフザイが、タリバン武装集団に、頭部を二度射撃された。彼女は専門医療と身の安全の為に移送されたイギリス、バーミンガムの病院で手当てを受けている。医師団は“快方”を期待していると語っている。
マララは、タリバン基地となっている、パキスタン北西部のスワット渓谷で、少女の教育を推進する上で、重要な役割を果たしているために、暗殺の標的とされたのだ。支配権が行きつ戻りつする際、何度かタリバンは、スワットにおける女子教育を禁止していた。
マララは2009年、11歳の時、BBCのブログに、タリバン支配下の生活を記録し、平和を求めた投稿を続けて有名になった。2009年1月9日、彼女はこう書いていた。
昨日、軍のヘリコプターとタリバンの恐ろしい夢を見た。スワットで軍事作戦が始まってから、そういう夢をみるようになった。タリバンが少女全員に通学を禁止する布告を発令したので、学校に行くのがこわい。クラス27人のうち、11人しか学校に来なかった。タリバンの布告のせいで、人数が減ったのだ。
学校から家への帰り道、男の人が“お前を殺してやる”と言っているのが聞こえた。私は歩調を早めたが … ほっとすることに、男は携帯電話で話していて、誰か他の人を電話で脅かしていたのに違いない。
残忍な銃撃によるタリバンに対する怒りの反感で、パキスタン人は団結した。パキスタン新聞ドーン(10月12日)はこう断言した。
マララ・ユスフザイ攻撃に対する反応は、その規模と怒りゆえのみではなく、情けない程稀なこと、つまり全面的なタリバン非難を特徴とする点が特に重要だ。
マララは一夜にして、反イスラム教過激派と、少女教育を目指す女性の戦いの国際的シンボルとなった。世界中の集会で、抗議行動参加者達は“我々は全員マララだ。”というポスターを掲げている。
子供が銃撃されることに何ら肯定的な要素などないのだから、私はこうした反応を、良い面やら“肯定的な”結果として言及しているわけではない。そして、こうした意見の噴出も遅きに失したものだ。もしもパキスタンや世界中の人々が、これほど長い間、子供に対する残忍な仕打ちを容認してこなかったなら、マララ銃撃は起きていなかったろう。
他のマララ達
対テロ戦争という名の下で、アメリカ合州国によって行われる場合、欧米は依然、子供達の負傷や殺害を許容している。
9月、スタンフォード法科大学院とニューヨーク大学法学大学院は、“無人機の下で暮らす: パキスタンにおけるアメリカの無人機攻撃実施による、民間人に対する死、負傷とトラウマ”と題する共同研究を発表した(PDF)。
2004年以来、パキスタンの抗議にもかかわらず、パキスタン北西部において何百回もの攻撃をするのに、アメリカ合州国は無人航空機、無人機を活用してきた。無人機はテロリストを狙う上で、外科的に正確で、僅かな“巻き添え被害”しか引き起こさないとして歓迎されてきた。通常、巻き添え被害とは民間人を不具にしたり殺害したりすることを言う。
共同研究は“この表現は嘘だ”と断言している。研究はパキスタンでの犠牲者や人道支援や医療援助担当者との130件のインタビューを含む“9カ月の徹底的な調査”の後に発表された。発表には、ロンドンに本拠を置く独立したジャーナリスト組織、Bureau of Investigative Journalism (TBIJ)の研究結果も含まれている。
入手可能なデータに基づくTBIJの最良推定値によれば、2004年6月から、2012年9月中頃までに、パキスタンでの無人機攻撃で、2,593人から3,365人を殺害した。474人から884人は、少なくとも176人の子供を含む民間人だ。1,249人から1,389人が負傷した。他にも死者の証拠もあるというが、未確認だ。
研究は、無人機によって、無傷の人々にまで引き起こされる被害を記録している。
無人機はパキスタン北西部の地域社会上空を一日24時間飛び続け、警告無しで、住居、車両、公共の場を攻撃する。無人機の存在は、男性、女性や子供達を威嚇し、地域社会の民間人に、不安や心理的トラウマをもたらしている。
人々はたとえ葬儀や宗教儀式の為であっても、集まることを恐れるようになっている。同じ標的を複数回攻撃するというアメリカの習慣のおかげで、救助者や医療関係者も負傷者救助をいやがりがちだ。“両親の中には子供達を家に留めておく人々もあり、負傷したり、攻撃で精神的ショックを受けたりした子供達は学校から落ちこぼれてしまう。”
パキスタン現地の経験が豊富なCNN記者、ピーター・バーゲンは無人機攻撃の“効率”について報じている。彼はこう書いている。
2004年に開始されて以来、無人機作戦で、49人の過激派指導者を殺害したことが、少なくとも二つの信頼できる情報源によって確認されている。これは過激派の指揮系統にとって大きな打撃ではあるが、この49人の死は、無人機による全死亡者数のわずか2%にすぎない。
一方、ほとんどが民間人居住地である地域の絶え間ない爆撃が、テロリストや過激派集団の新兵応募の急増を招いているという証拠もある。
“秘密の‘殺人名簿’は、オバマの原則と意思の試験”と題するニューヨーク・タイムズの記事で、調査報道記者ジョー・ベッカーとスコット・シェーンはこう主張している。
無人機は、過激派お好みの勧誘手段として、グアンタナモのお株を奪った。2010年の有罪答弁で、タイムズ・スクエアで自動車爆弾を爆破させようとしたファイサル・シャフザドは“無人機は攻撃する際、子供達を見ようとはしない”と裁判官に言って民間人を標的にしたことを正当化した。
恣意的な憤り
アメリカの主流マスコミも子供達を見ようとはしていないようだ。少なくとも、アメリカの無人機攻撃の犠牲となっている子供達は。
ミネソタ州セント・クラウド州立大学准教授フォウジ・スリスリは書いている。
もしマララが無人機攻撃で殺害されていたならば、健康状態についての最新情報を聞くこともなかったろうし、彼女が“国の娘”と呼ばれることもなく、マスコミが彼女のことを騒ぎ立てることもなかったろう。カヤニ将軍が彼女を見舞ったりせず、世界中のマスコミが絶えずそれを報道することもなかったろう。言いなりの欧米マスコミやリベラル派は、アメリカ政府が毎日無人機で殺害しているパキスタン人やイエメン人の少女には、この1%の注目も向けようとしない。連中は、人道的な怒りですら、自分達の陰険な政府の権益に役立つ場合にしか、表そうとはしない。
一体なぜアメリカの無人機によって殺害された子供達は、ほとんど無視されたままなのだろう? 無人機攻撃もマララ銃撃同様に卑劣であり、本当の犠牲者全員が認識されてしかるべきなのだ。タリバンもアメリカ合州国政府も子供達の血に塗れており、連中の手は決してぬぐい去れるものではない。
結論
マララの事件に対する恣意的な憤りも、アメリカの無人機によって殺害された176人のパキスタン人の子供達に対する恣意的な沈黙の原因も、もっぱら政治的なものだ。アメリカ人の命は大切だ。パキスタン人の子供の命そうではない。 …もちろん、子供達の生死がホワイト・ハウスからつむぎ出されるテロと戦争のお話に貢献してくれない限りは。政治家、軍隊や、マスコミが、亡くなった子供の何人かだけを重要と見なす一方で、亡くなった他の子供達を、オーウェル風の歴史抹殺装置に送り込んで済ませている事実は、連中の悪行の深さを目立たせるばかり。
ウェンディ・マッケルロイはThe Reasonable Woman: A Guide to Intellectual Survival (プロメテウス・ブックス、1998)の著者。彼女は、http://www.ifeminists.com と http://www.wendymcelroy.comの二つのウェブで活動している。時事問題に関する更なるマッケルロイ記事については、当ウェブサイトのコメント欄を参照願いたい。彼女にメールを送る。彼女のTwitterをフォローする。
記事原文のurl:www.fff.org/comment/com1210o.asp
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沖縄のアメリカ兵による強姦事件や、オスプレイ配備、原発再稼働、核燃料廃棄物処理や、TPP問題よりも、尼崎の異常殺人事件の方が、言いなりの日本マスコミにとっては重要なのだ。
連中は、人道的な怒りですら、自分達の陰険な政府の権益に役立つ場合にしか、表そうとはしない。
アメリカ人兵士によってなされ日本人に対する強姦・暴行に対するマスコミの恣意的な沈黙も、ひたすら政治的なものだ。
孫崎享氏の『戦後史の正体』にとんでもない「いいがかり」書評を掲載した新聞、孫崎享氏の要求に応じてだろう「冒頭部分を削除する」という訂正を行った。一度ベストセラー本は「いんちき本」という否定的イメージさえ植えつけてしまえれば、彼らの目的は達したのだろう。あの駄文を書いた人物の本、今後も読むことはないだろう。書評欄、以後さらに警戒しながら読むことにするか。(そもそも、あまり読まない)
同じ新聞系統の週刊誌、異神の怪ヒーロー氏の出自を巡る連載記事で、本人にお詫びをし、一回で終わらせた。自爆というより、自作自演あるいは共演による、異神の怪応援報道としか思えない。不自然な程脇が甘すぎたろう。
選挙候補者を選ぶのが、郵政売国政治を推進した新自由主義派のあの人物であることからすれば、ヒーロー氏とて、宗主国、属国幹部が選んだ好都合な傀儡にすぎないだろう。言いなりの日本マスコミは、そうした全体像、決して追求しないのがお役目。こういう発想は陰謀論だと書くのがせいぜいだろう。
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ペシャワール会の中村哲さんの会報111「因縁のカシコートで取水堰準備工事を開始」
の中に女子野外学校での砲撃事件のことが書かれています。
米軍ヘリの機銃掃射で野外学校の女子生徒12名が負傷(うち6名重症)したそうですが、
その事件の後で中村さんは、学校の教師や父兄たちに、女子学童のための教室建設を懇請されたそうで、
ペシャワール会は女子生徒のための教室建設も約束なさったそうです。
この例を見ても、アラブ全域で女子教育が禁止されているという事はないと思います。
(以下引用)
http://www1a.biglobe.ne.jp/peshawar/kaiho/111nakamura.html
■サルバンド村の銃撃と青空教室
2月15日、「危険な演技」は度を超え、女子学童に米軍ヘリが機銃掃射を加える事件が発生しました。作業現場から遠くないところに学校があり、百数十名の女子生徒は、まだ教室がなく、野外で黒板を囲んで学んでいます。ヘリコプターは超低空で飛来し、子供に襲いかかりました。12名が重軽傷(うち重症6名)、機銃弾が「教室」の石垣を跳ね、その破片で負傷したものです。
折から外国兵による「コーラン焼却事件」で、アフガン中が騒然としていました。PMS側は直ちにケガ人の救援活動を行いました。その際に、学校の教師や父兄たちが、女子学童のための教室建設を懇請しました。
この状態で野外の学習は危険です。青空教室が悪い訳ではありませんが、木陰もない岩石沙漠、厳寒酷暑の中、まともな学習ができるとは思えません。その上、機銃掃射の餌食となるとあっては、たまったものではありません。
PMS側は大いに同情し、用水路工事が山を越える時点で、女子教室の建設を約束しました。
投稿: 和久希世 | 2012年10月23日 (火) 08時12分