ホンジュラス・クーデター一周年
2010年6月28日
民主的選挙で選ばれたホンジュラス大統領マヌエル・セラヤを追放した軍事クーデターで、今日まで続く同国労働者階級に対する弾圧的暴力の時期が始まって以来、今日で一周年だ。
ポルフィリオ・ロボ・ソサ大統領政権と、同政権による、半球と世界との関係正常化キャンペーンを、オバマ政権が擁護していることが、ワシントンによる暗黙のクーデター支援の頂点を象徴している。
2009年6月28日、重武装した兵員がテグシガルパの大統領官邸に突入し、セラヤに銃をつきつけて、追い立て、縛りつけて飛行機に載せて、国外追放した。この作戦は、二十世紀大半の期間にわたって、アメリカが支援する軍事独裁政権が国々を支配してきた地域、中南米における、21世紀初めての成功したクーデターだ。
クーデターの表面上の目的は、1982年に、退陣する軍事独裁政権と、アメリカ大使館によって決定された退行的憲章であるホンジュラス憲法を、書き改めるための憲法制定会議を招集することに対する国民の支持を判断すべく、セラヤが計画した諮問的な国民投票を中止させることだった。
クーデターを正当化するにあたり、ホンジュラス寡頭支配層内部の支持者達は、セラヤが、三期目の任期という超憲法的権力掌握をしかけたと非難していた。セラヤの後継者を選ぶ投票前に、憲法制定会議を招集する投票など仕組まれようがなかったのだから、アメリカのマスコミによって律儀に繰り返されたこの非難は、そもそも馬鹿げている。
ホンジュラスを支配している“10家族”も、ワシントンのオバマ政権にも、セラヤ打倒を狙う別の理由があったのだ。
ホンジュラスの低賃金労働の超搾取に対する多国籍企業への協力を通して築き上げた財産を、多少侵害しかねない、最低賃金引き上げの類の改革をしたがゆえに、裕福な地主で材木王であるセラヤを、現地の寡頭支配層は裏切り者と見なしはじめていた。
ワシントンにとって、安価な石油と債権の見返りに、セラヤが、ベネズエラ大統領ウゴ・チャベスと親密なつながりを築き上げることが、アメリカ帝国主義が長らく自分の“裏庭”と見なしていた地域の支配に対する潜在的脅威に見えていた。中南米におけるあらゆる米軍基地で最大のものが、ホンジュラスに存在していることを考えれば、これは特に警戒心をもってみられていた。昨年エクアドルのマンタ空軍基地を追い出されて以来、ホンジュラスのパルメロラ基地の利用が拒否されるであろうという見込みは、ペンタゴンにとって、戦略的に受け入れられないものだった。
オバマは、セラヤの現職復帰を公式的には支持しながらも、政権そのものは、クーデター指導者に対するいかなる行為をすることも、クーデターに反対する人々への弾圧を非難することも拒否していた。真実は、ホンジュラスへの投資と貿易の圧倒的な部分を占めるアメリカに、経済的に依存しているホンジュラスの支配階級が、ワシントンからの許可なしに、そのような手段をとったはずが無かろう。基本的にアメリカによって訓練され、助言を得、武器を得ている軍が、ペンタゴンの承認なしで実行したはずもありえない。
一年後、バルメロラの基地は、クーデターの日以降、そうであったように、通常に機能している。先月、アメリカ南方軍司令官ダグラス・フレーサー大将が、クーデター以来初めてホンジュラスを訪問し、ホンジュラス軍と“協力する機会は多数ある”と宣言した。ワシントンからの軍事援助も再開された。
軍部による打倒を仕組んだ金融寡頭勢力は、ロボ大統領政府を依然しっかりと掌握している。昨年11月に行われた、事実上の戒厳令という条件下での、半数以上の有権者が投票を棄権した茶番選挙で、彼は勝利者とされた。
クーデターと、それに続く残酷な弾圧をたくらんだ連中は、絶対的な刑事免責を享受している。クーデター政権の政治指導者、ロベルト・ミチェレッティば、彼が議員不逮捕特権を決して失わぬよう、終生議員資格を与えられた。クーデターの軍指導者、ロメオ・ヴァスケス将軍は、ホンジュラスの電話会社ホンジュテル総裁の地位に据えられた。
弾圧は、ホンジュラスで、長く暗い歴史を持つ、特に残虐な方法で続いている。暗殺部隊による虐殺だ。ロボが大統領に就任して以来、9人のジャーナリストが殺害されており、この職業にとって、ホンジュラスは世界で最も危険な国となっている。
労働組合指導者や、2009年6月クーデターの反対派と目された人々も、政治暗殺の対象となっている。人権団体は、ロボが大統領に就任して以来、14件のそうした殺人を確認している。
こうした殺人、そしてクーデターの後におかされたあらゆる犯罪のいずれも、それを理由に逮捕された人間は皆無だ。恣意的拘留、打擲、拷問、反対派マスコミの閉鎖を含む、他の手段による弾圧が、衰えることなく続いている。
ロボ政府は、2月に破産を宣言し、逆累進税の引き上げと、政府支出の20パーセント一括引き下げを含む、一連の過酷な緊縮政策に取りかかった。まったくこうした削減に会わないのが、ホンジュラス軍で、予算は増加した。こうした政策は、グローバル資本主義が生み出した危機と、昨年のクーデターに対する反対を弾圧する経費を、ホンジュラスの貧しい大衆に支払わせることを狙っている。
既に西半球でも最も貧しかった、ホンジュラス労働者の生活条件は、悪化するばかりだ。ホンジュラスの統計局によると、労働年齢人口の51パーセントが失業しており、若手労働者の大半が労働市場から締め出されている。
国民のほぼ60パーセントが貧困の中に生きており、36パーセント以上が、極端な貧困ライン以下で生活している。失業は、雇用主と政府が賃金引き下げを迫り、労働法の大規模な廃止を促進するための、労働者階級に対する破壊用の槌として利用されている。
一年をへて、ホンジュラス・クーデターの主要な政治的教訓が明らかとなった。
第一の点は、バラク・オバマ選出は、アメリカの外交政策が“相互尊重”と、特に中南米における平和的な国際協力へと移行することの前兆だという主張が誤っていることが証明されたことだ。ホンジュラスの出来事には、コロンビアへの基地確保、ハイチへの軍事介入、メキシコにおける麻薬戦争に対するアメリカの支援強化が続き、西半球のワシントンによる支配を回復するためには、オバマ政権は反革命的な暴力と軍事力の使用も辞さないことを、はっきりと示している。
アメリカ資本主義は、長引く経済的衰退に直面して、中南米の労働者階級による抵抗や、ヨーロッパや中国を含む、有力なライバルたちの、この地域への食い込みの増大によってもたらされる難題を受けて立つため、こうした手法に走りつつある。
二つ目の教訓は、権力の座をおわれた元ホンジュラス大統領の行動によって実証されたように、ブルジョア国粋主義の破産だ。ワシントンの顔色を窺い、自分を打倒した連中との、アメリカが仲介した和解によって大統領復帰を実現しようという無駄な企みよりも、クーデターへの抵抗を、セラヤは終始下におき続けていた。
ホンジュラスの出来事は、労働者階級の独立した政治動員以外に、帝国主義者の介入、クーデターや独裁に、有効に対抗することが、不可能であることを再度確認するものだ。ホンジュラスの労働者は、ことの始まり以来、昨年据えられたクーデター政権に対して英雄的に抵抗しているが、彼等の戦いは、セラヤとミチェレッティ双方が所属する党である、ブルジョアの自由党とつながった指導部によって、消散され、かわされてしまった。
ホンジュラスと全ての中米諸国を支配している現在の危機を前にして、火急に必要なものは、アメリカ社会主義共和国連邦を目指す戦いの一部として、すべてのブルジョア政党から独立し、ホンジュラスのみならず、地域全体の社会主義的変革という計画を持った、労働者階級の新たな革命的政治運動の構築だ。
Bill Van Auken
記事原文のurl:www.wsws.org/articles/2010/jun2010/pers-j28.shtml
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当然、本日のマスコミ、この件に全くふれない。属国の不都合な真実。見なおすべきは、消費税ではない。憲法ではない。見なおすべきは、安保、基地。普天間基地のつながりで、本来、解説すべきだろう。戦時報道管制。エクアドル・マンタ基地についても報道は全くないも同然。
日米ならずもの同盟強化でトップ合意の茶番や野球賭博、道路無料化試験は報じる。
天木直人氏の新刊『さらば日米同盟』には、2007年9月の日本でのセミナーにおける、アーミテージによる身も蓋もない発言が引用されている。同書202ページ。
セミナーの基調講演で彼はこう話した。
「米国にとって日本との関係が世界でもっとも重要なのは、日本が世界第二の経済大国であるためなどではない。日本の人々が政府を通じて米軍基地の使用を認め、安全保障上の(米国の)守備範囲を広げてくれるからだ」
これほど明確に米国の本音を日本人の前で認めた米国政府関係者がいただろうか。
在日米軍は米国のために日本に駐留していると言っているのだ。日本人もなめられたものだ。
1Q84の100分の一でも良いから、『さらば日米同盟』売れて欲しいものだ。天木直人氏ブログには「相撲賭博・過剰報道があぶりだす権力者の巨悪」という記事もある。
ロメオ・ヴァスケス将軍、西半球安全保障協力研究所と改名された、中南米の軍人に対し、拷問・殺害技術を訓練する有名な施設、スクール・オブ・アメリカ卒業生であることは周知の事実。
沖縄のみならず、軍隊が一般国民に何をしてくださるかは明白。韓国哨戒艇事件を報じる熱意で、ホンジュラス・クーデターを、マスコミが報じることはありえない。政府広報プロパガンダにならないためだろう。
日本では、さすがにパジャマ姿で拉致されることはなく、首相は自ら辞任したが、結果の類似は、驚くばかり。
安保・地位協定は見なおさず、日米軍事同盟を強化、基地も軍事予算も、思いやりみかじめ予算も、事業仕分けなどせず、消費税増税、企業税減税に取りかかろうとしている。
ホンジュラスでは押さえ込まれたとはいえ広範な反クーデター国民運動が存在した。
一方こちら、それにもめげず、民主党、自民党、公明党、彼らの党他竹の子を支持し、自らの首を絞め続ける世にも珍しい「美しい属国」。
6/28のホンジュラス・クーデター一周年に一切ふれないマスコミの中にも、7/5のウイグル暴動一周年については、ふれるものがある。アメリカ属国には、同じ海外問題でも、実は一番身近なはずの問題を報じる「自由」はないが、中国の圧政を浮かび上がらせるウイグル暴動ならふれる「自由」なら捨てるほどあるのだ。
相撲界に未来はあるのか?、あるいは、サッカーはどうなるのか?などという目くらまし、テレビ番組も新聞記事も、極力読まないことにしている。
属国日本に未来はあるのか、あるいは、属国日本はどうなるのか?という真面目な記事があれば、もちろん読みたいと思っているが、あるはずはないだろう。
追記:2010/17/16
「野中広務が再び爆弾宣言」で、鳩山退陣は、アメリカに命じられたことだという。やはり、属国の首相の就任も、退任も、宗主国が決めている。原理的には、ホンジュラス・クーデターと同じことだ。道理で、大手マスコミ、ホンジュラス・クーデターのことを全く報じないわけだ。
米国が内政干渉で鳩山道連れ辞任を命令!!!?~日米首脳会談を拒否して、普天間の問題は辺野古と決めろと米国がニホンの首相に命令!!!?~
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もちろん9/11後の世界は、アルカイダの望んだ世界ではないでしょうけど。
もう、テロの被害者と、「テロとの戦争」での誤って殺された民間人、どっちが多いのだろう?
ふたつ足しても、銃社会の(事故)死者より、少ないでしょうけどね。
いっしょに、タリバンに入りますか? ありませんかね、タリバン日本支部。
投稿: sonesayaharu | 2010年6月29日 (火) 19時25分