ノーベル戦争賞
wsws.org
2009年10月10日
バラク・オバマが、2009年平和賞の受賞者に選ばれたという、金曜日のノルウェー・ノーベル賞委員会による発表に対し、世界中で驚きの声があがった。
就任後10カ月にも満たず、いかなる面においても、目に見えるほどの成果を上げていないオバマが、一体なぜ選ばれたのかをいぶかる人々は多い。平和賞ノミネーション締め切り日のわずか11日前に、彼は就任している。
しかし、より重要なのは、オバマが大統領として行ったことは平和と全く無関係だということだ。
オバマ大統領は、午前半ば、ホワイトハウスのローズ・ガーデンに現れ、平和賞受賞に「驚き、非常に謙虚に受け止めている」という告白から始まる所見を述べた。彼はそれからホワイト・ハウスに歩いて戻り、軍事会議に出席し、更に何万人もの兵士をアフガニスタンに派兵し、この国での爆撃を、国境を越えて、パキスタンへエスカレートすることについての議論をした。
その声明を、イランに対する無言の脅しとして利用しつつ、オバマは自分が統轄している二つの戦争と占領に言及し、自分こそ“全軍最高司令官”であると彼流に宣言した。
ノーベル賞委員会は、彼の“核兵器の無い世界というビジョン”を褒めたたえてはいるが、オバマは、この目標は「私が生きている間には、実現できないかも知れない。」と発言している。モスクワとの交渉で、彼の政権が、最小限1,500発の核弾頭を保有する権利を要求したことを考えれば、彼は自分が何を言っているかは良く分かっているのだ。
「我々が知っている世界に我々は立ち向かわねばならない”とオバマは語り、彼の“ビジョン”とされるものと、彼の政権の好戦的政策という現実の間の違いを明らかにした。
表面上、アメリカ大統領への平和賞授与は茶番めいている。この選定は、オバマ政権にとって有り難迷惑にしかなるまいという警戒が広まっている。一度の攻撃で、100人以上の男性、女性と子供の命を奪うような、5月に行われたアフガニスタン一般市民への爆撃といった類の戦争犯罪に関与している“全軍最高司令官”を、一体どうやれば、平和の擁護者として讃えることができるだろう。
とはいえ、ノーベル平和賞受賞というのは常にうさんくさい栄誉だった。戦犯として逮捕されるのが恐ろしいので、現在、アメリカ合州国から一歩も出られないヘンリー・キッシンジャーに、1973年、賞を授与した判断から、賞の評判は未だ完全に回復できてはいない。キッシンジャーと、パリ和平協定交渉をした同時受賞者のベトナム人指導者レ・ドゥク・トは、協定はベトナムに何の平和ももたらしていないと指摘し、受賞を拒否した。
数年後、メナヘム・ベギンが受賞者に選ばれた。ノーベル賞委員会は、彼のテロリスト、殺し屋としての長い経歴は無視することに決め、共同受賞者であるエジプトのアンワル・サダトと、キャンプ・デーヴィッド合意をまとめたことで、彼を讃えた。
その政権が、百万人の命を奪ったアフガニスタン戦争をひき起こした、ジミー・カーターが、2002年に同じ賞を与えられた。
委員会が、委員会自身の原理に違反したことで、非難されることはあり得ない。そもそもそういうものなのだから。賞の創設者、アルフレッド・ノーベルは、ダイナマイトの発明者だった。大型貫通爆弾(MOP)、つまり地下の標的を撃破するように作られた30,000ポンド(13.5トン)爆弾の製造を加速しようとするペンタゴンの尽力に、彼なら興味をそそられたであろうことは疑うべくもない。この兵器は対イラン用としてすぐに使えるよう準備ができている。
オバマの“ビジョン”や、“世界の関心を惹きつけ、人々によりよい未来の希望を与えた”ことを、絶賛しながらも、ノーベル賞委員会は、彼の選挙キャンペーンでの巧みな弁論に対する幻想でオバマを選んだわけではない。
ノーベル平和賞は、現在も、かつても、特定の政策を推進する狙いから与えられる、政治的褒賞だ。
極右から社会民主党に至るまでの主要政党から選ばれたノルウェー議会の、5人の議員で構成される委員会によって選定が行われた。委員会の選定は、ヨーロッパ支配層エリート全体の内部における優勢な立場を反映している。
金曜日、元ノルウェー首相のノーベル賞委員会委員長トルビョルン・ヤーグランは、オバマを選定したことを擁護したニューヨーク・タイムズとのインタビューで、この選定の皮肉さを表現した。「ノーベル賞委員会にとって、奮闘している、理想主義的な人々を褒賞することは大切だが、毎年そうできるわけでもない」と彼は語った。「時として、政治的現実主義の領域にも分け入らねばならない。」
近年、他の二人の著名アメリカ人政治家に平和賞を授与するにあたって、政治的現実主義が決定的な役割を果たしたことは疑いようがない。2002年のカーターと、2007年のアル・ゴアだ。カーターが受賞したのは、アメリカの対イラク戦争の直前、ブッシュ政権の好戦的な単独覇権主義に対する非難としてだった。2008年の大統領選挙に先立ち、2000年の民主党大統領候補者ゴアに賞が授与されたことは、ヨーロッパが、ブッシュ政権から離れたがっていることの見え透いたほのめかしだ。
かつて、賞がアメリカ外交政策に対する批判として使われていたのに対し、今回は、是認の役割を果たしている。ヤーグランが語っている通り「彼がしようとしていることを、多少とも、強化するのに貢献できるよう願っている。」のだ。
より多くの兵士をアフガニスタンに派兵しようとしているさなか、オバマに平和賞を与えることの、どぎつい矛盾がはっきりと見えてくる。褒賞は、ワシントンによる、アフガニスタン戦争のエスカレーションと、パキスタン攻撃と、イラク占領の継続を正当化し、ワシントンの連中に、戦争は平和のためであるという、ヨーロッパからの太鼓判を押してやるものだった。
この授与は、オバマ政権の下で遂行されている戦争、更には、いまだ計画中の将来の戦争、に対する、アメリカ合州国国内における、また国際的な、大衆の反対運動に冷水をあびせるのに役立っている。
ヨーロッパの大国はアフガニスタン戦争を支持しており、この立場は、マスコミ報道でも、より頻繁にみられるようになっている。例えば、イギリスの日刊紙インデペンデントは、木曜日、更に40,000人ものアメリカ兵士を戦争に派兵するという要求を“基本的に”支持することを宣言する論説を掲載した。
同時に、ドイツ、フランスや他諸国は、対イラン姿勢でも、ワシントンのより強硬な作戦を支持する方向へと変えている。
ヨーロッパの支配層が、オバマに見ているのは、平和の擁護者ではなく、アメリカ帝国主義の戦略目標追求において、ブッシュ政権時代の単独覇権主義をやめ、ヨーロッパの支持を進んで考慮する方向への移行だ。
ヨーロッパ各国政府が、アメリカ軍の介入を自分たちが支援することで、結果的に、中央アジアとペルシャ湾でのエネルギー資源開発に参加することになると計算していることは確実だ。
更に、ヨーロッパの大国は、これらの戦争を正当化し、アメリカ外交政策の多国間協調主義への復帰を推進させることが、自分たちが軍国主義を進めるのを正当化し、自国内における反戦運動を抑圧するための手段だと見なしているのだ。
オバマのノーベル賞は、世界最大の軍事大国が平和に向かいつつあるという希望の前兆どころではなく、戦争の是認であり、深化しつつある世界資本主義の危機が、軍国主義の復活と、国家間対立の激化という脅威をもたらす条件を生み出していることへの警告として機能しているのだ。
Bill Van Auken
記事原文のurl:www.wsws.org/articles/2009/oct2009/pers-o10.shtml
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「戦争は平和である。 自由は隷属である。 無知は力である。」
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