イラクで投げられた靴
direct aid Iraq
Najlaa A. Al-Nashi、Noah Baker Merrill
わずか数秒の出来事にすぎなかった。靴がブッシュ大統領めがけて飛んだのだ。そしてこれは、イラクの慣習では、重大な侮辱だ。
一人のイラク人ジャーナリストがアメリカ大統領に自分の靴を投げつけたというニュースは聞いておられようが、一人のイラク人として、私は、このジャーナリストについての多少の情報と、彼がなぜそうしたのかについて、お話してみたい。
ニュースで報じられているジャーナリストのムンタザル・アル-ザイディは、28歳だ。彼は南部の都市ナシリヤの出身で、バグダッドで暮らしている。彼はエジプト企業のアル-バグダディヤ・テレビ働いているが、イラク人だ。
ムンタザルは、彼を知っている人々の間では、占領に反対していることが良く知られていた。数カ月前、彼は弟に、もしも自分が、ブッシュ大統領にインタビューするよう選ばれたら、イラク国民の苦難と、イラクの破壊における、ブッシュの役割に対する、彼の怒りと反対のあかしとして、自分の靴を投げるつもりだと話していた。当時、彼の弟は、それはかっとして口にした言葉に過ぎないだろうと思っていた。
ムンタザルの最後の報道の仕事は、先月放映されたが、イラク人未亡人と孤児たちの状態を調査するものだった。三つの戦争、独裁者による支配、圧倒的な経済制裁、そして壊滅的な占領の結果として、500万人の子供たちが、少なくとも、その片親がなく、150万人の未亡人がいると推定されている。この報告を準備しながら、彼は目にしたことに深く衝撃を受け、イラクで放送されたその番組の中で、彼は泣いていた。
イラクで何が起きているのか、そして、この出来事がイラク人の間で、どう見られているのかを見てみよう。
バグダッド大学と、アル・ムスタンシリヤ大学では、学生たちは、勉強したり、授業に出たりするのを拒否した。そのかわり、学生は抗議し、イラク治安部隊がムンタザルを釈放するよう要求している。
世界中で、イラク人は、ムンタザルと彼の家族に、彼らの息子が表現したメッセージに、感謝するメッセージをおくり続けている。TVインタビューで、電話で、イラク人は、彼の行動を支持することを表明している。
イラク国内、国外の多くのイラク人は、「どんな行動にも、反応があります」と語っている。ブッシュは全員を傷つけたと、彼等は言っており、したがって、ブッシュは、イラク国民を代表した人物から、その怒りや侮辱的反応を受ける目にあっても、驚くべき理由などないのだ。
イラクでは、伝統的な共同社会は、部族の関係の中に深く根ざしている。スンナ派であれシーア派であれ(部族によっては、双方の宗派のメンバーがいる場合もある)、イラクの習慣では、もしも、ある部族の一メンバーが、ことを起こしたり、窮地に陥いったりすると、彼が属する部族のメンバーは、彼を代理することになり、彼を支持したことに対し責任を持つのだ。だがムンタザルの場合、北部、南部、および東部、更には西部、イラク中の部族指導者が、彼のことを我が息子だと主張している。彼等は、彼を無事に釈放して欲しい、政府が彼に課するいかなる罰金でも支払うと言っているのだ。
ムンタザルの行為は、最近、スンナ派、シーア派と、キリスト教徒を一体化させた。彼の行為は、イラク人を、イラク人として一体化しこのだ。しかも、それにはわずか数秒しかかからなかった。スンナ派と、シーア派の部族指導者達は、公式に、ムンタザルのことを、彼の所属部族名をつけて呼ばないよう(ムンタザル・アル-ザイディ)要求している。彼等は、彼の部族的所属は、今やイラクの全部族にわたるものと信じているのだ。彼等は、今後彼のことは「ムンタザル・アル-イラキ」(イラク人ムンタザル)と呼んで欲しいと要求している。同時に、部族指導者たちは、自分たちの敵は一つしかないことが今や明らかになったことを望んでいると語った。つまり、イラク占領だ。
イラク人の反応は、ムンタザルの行為が、イラク社会の中の、深い感情の放出を誘発したことを明らかに示している。主流マスコミがろ過してしまい、沈黙の壁を切り開く発言ができぬ中、外部の世界に対して、どれだけ多数のイラク人が占領や、イラクで継続中の外国兵士駐留に反対しているかということを示したのだ。
一人の男性によるこの行為は、ジャーナリストという役割ゆえに生じたものでもなければ、彼の人生における何らかの出来事から生じたものでもないことを、明確にしておくことが重要だ。占領で、ブラックウォーター・ワールドワイドが雇用しているような傭兵連中の行為で、アブグレイブ監獄や他の場所における、アメリカ兵士によるイラク人に対する拷問で、占領がはぐくみ、油を注ぎ、はびこるままにしている宗派間暴力で、他の全てのイラク国民同様に、大いに苦しんでいる一人のイラク男性がおこしたことなのだ。ムンタザル自身、数カ月前に誘拐されたが、幸いにも生きて釈放されていた。
状況分析をするのはこれまでにしよう。なぜこれほど多くのイラク人が、ムンタザルを「わが息子」と見なし、なぜ彼等は彼を英雄と呼んでいるのだろう? なぜ人々は、イラクの多くの場所で、イラク人の勇気と自由を進める象徴として、彼の写真を印刷して、配っているのだろう?
彼の行為は、皆が感じている同じ怒りと苦痛を表現したのだ。だが彼の行為は、その怒りに声を与え、そしてあの一つの小さな行動で、 彼はイラク国民が自分たちの歴史と威厳を思い出すための口火を切ったのだ。彼の象徴的な抗議行為が、事のすべてをさらけ出し、国連と世界に逆らって、イラクに侵略し、占領して以来、ブッシュと彼の支持者たちが入念に作り上げてきたイメージを、切り裂いたのだ。
諸々の反応に戻ると
200人以上のイラク人とアラブ人弁護士が、その機会さえ与えられるなら、イラクの裁判所で彼を弁護すると、進んで申し出た。
あるイラク人実業家は、白地小切手に署名し、その実業家がムンタザルが投げた靴をもらえるなら、ムンタザルがどんな金額を書き込んでも良いと言った。別のサウジアラビアの男性は、靴に1000万ドルを支払うと言った。
ムンタザルには6歳頃の甥ッ子がいる。その甥ッ子が、叔父の別の靴を一足持って、アル-バクダディヤ・テレビ画面に登場し、もし叔父を釈放してくれなければ、この二足目の靴も投げるつもりだと話した。
エジプト、ヨルダン、シリア、レバノン、そしてパレスチナで、抗議と祝賀を含む、強い支持の表明があった。
多くのイラク人が、現在のイラクの状況は、イギリス占領軍を追い出した1920年の革命前のようだと言っている。彼等は、ムンタザルが、イラクにおける新たな革命の火付け役になるかも知れないと言っている。最近では、イラク中で、ムンタザルの釈放を求める抗議行動が見られる。ナジャフの群衆は占領軍に向かって靴を投げた。アメリカが支援するイラク軍に拘留されている間に、ムンタザルが、殴打され、拷問されていることを国民が知るにつれ、イラクの街路は怒りで満ちつつある。
昨日ヨルダンで私の仲良しの友人がタクシーに乗った。在ヨルダン・イラク難民にとって、タクシーに乗ることは、往々にして、非常に多くのイラク人が自国に避難してきていることに不満なヨルダン人やパレスチナ人から、侮辱されたり、軽蔑されたり、あなどられたりすることを意味する。だが今回は違っていた。運転手は彼女に丁寧に対応した。彼女のイラク訛りに気がついて、彼は言った。行かれたい所、どこへでも行きますよ、もう喜んで。あなたは「靴を投げた人々」の一人ですから。
彼の例は、単なる個人的な例ではない。これは国民的な関心の的になっているのだ。昨日、国会は彼の釈放を促進するために会合した。昨日のニュースでは、イラク法に基づき、行為に対し、200イラク・ディナール、近年のイラク経済の壊滅的崩壊後では、アメリカの額にして20セント以下の罰金を支払えば、二日以内に釈放されそうだというものだった。
現在は、しかしながら、状況は緊張したまま、悪化している。イラク政府は、彼は7-15年間、拘留される可能性が高く、罰金を払って釈放される可能性は皆無だと述べている。こうしたニュースにもかかわらず、彼をまもなく釈放しなければならないもののように思われる。もしそうしなければ、政府は、イラクの多くの場所で、彼等が握っている、さなきだに薄弱な支配をも失ってしまう危険があるのだ。ムンタザルの行為は、占領とアメリカが支援する政府に反対するため、イラク人を団結させる火付け役として機能してしまう可能性があるのだ。イラクの歴史を良く知っている人なら誰でも、部族の怒りがどれほどの事をひき起こせるかを知っているはずだ。
1920年に、イギリスがイラクから叩き出される前、イラク内の占領軍の地位に関して、直前に調印された条約があった 。外国による占領に反対する持続的な全国規模の反乱による圧力の元、イギリスの占領者達が望んだよりずっと早く、軍隊は去った。ブッシュと、ヌリ・アル-マリキが、「靴投げの瞬間」の直前に署名した条約も、同じ道をたどり、2011年以前に駄目になるだろう。多くのイラク人が、今はそう願っている。
一方、ムンタザルは今でも拘留されており、そこで彼はひどい怪我を負わされており、手首と腕を折られ、目を負傷し、更に両足も怪我をしている可能性がある。現在、イラクの多くの行政区域で、彼の釈放を要求する抗議が行われている。
2003年初頭の頃、侵略するアメリカ兵士たちは「花束で迎えられる」だろうと言われていたのを覚えている。イラク人が、ブッシュと彼の占領に対し、どのようにお別れの挨拶をするかは、誰も、何も言わなかった。
« 靴を投げたイラク人ジャーナリストに連帯し、平和活動家はホワイト・ハウスに靴を持って集合しよう | トップページ | 靴投げ犯「醜い行為」を詫びる »
「イラク」カテゴリの記事
- クレイグ・マレー - 中東における多元主義の終焉(2024.12.09)
- 欧米帝国主義は常に嘘の溜まり場だったが、今やメディア・トイレは詰まっている(2024.11.30)
- フィクション 歩きながら政治について語る二人のアメリカ人(2024.07.20)
- アメリカは「中東で紛争を求めていない」と言いながらに中東に積極的爆弾投下するバイデン(2024.02.16)
「ユダヤ・イスラム・キリスト教」カテゴリの記事
- イスラエルの完全な狂気(2024.10.28)
- レバノン爆撃で、ヒズボラを更に強化するイスラエル(2024.10.15)
- ガーセム・ソレイマーニー将軍の勝利:抵抗枢軸の罠にはまったイスラエル(2024.10.13)
- 不快な西洋エリート主義と現実世界からの乖離の象徴、パリ・オリンピック(2024.08.08)
- 2023年のクリスマスが中止されたベツレヘムの暗闇(2023.12.22)
« 靴を投げたイラク人ジャーナリストに連帯し、平和活動家はホワイト・ハウスに靴を持って集合しよう | トップページ | 靴投げ犯「醜い行為」を詫びる »
コメント