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2008年10月 3日 (金)

『予期しなかった戦争- カンダハールのカナダ』書評

ジャニス・グロス・スタインおよびユージン・ラング共著

ヴァイキング・カナダ (ペンギン)、トロント、2007刊

Jim Miles

2008年9月24日、

Palestine Chronicle

アフガニスタンは、カナダにとっては、予期しなかった戦争だったのかもしれないが、アメリカ新世紀プロジェクトにまつわるアメリカの期待については十分知っていたことと、カナダ軍が卑屈にも進んでやろうとしている意欲とが結びつけば、この戦争は、起こりそうにないというより、いかにもあり得るはずのものだった。『The Unexpected War(予期しなかった戦争)』で、著者のステインとラングは、二つの主題に、終始注目している。一つ目は、イラク戦争への貢献の欠如と、ミサイル防衛への貢献の欠如を穴埋めするための、カナダ政府によるアメリカに対する妥協の程度だ。二つ目は、大国に、自分たちの力量を誇示したいばかりに、アメリカの相手方に、取り入ろうとするカナダ軍の卑屈な態度だ。

この現在の出来事に関与したすべての政治家と軍関係者が、カナダの国全体として、アメリカに対し、独立した姿勢を実現することができずにいた為に、我々がアフガニスタン戦争に巻き込まれてしまったように見える。あらゆる党派の政治家達は典型的な政治家として行動しており、情報操作を極めて受けやすく、しかも不幸なことに、カナダは、アメリカ合州国に対し、本当に独立した姿勢がとれないことが多すぎるのだ。

表向きは、アフガニスタン政府の原状回復を目指すということだが、アフガニスタンの地政学的地勢をより広く見れば、それは、石油と天然ガス資源の両方を得るためこの領土を支配し、ロシアと中国を孤立化させ、南アジアへの動きを封じ込めるというアメリカの帝国主義的戦いなのだ。これは、国会議員から、政府高官に至るまでのカナダ政府の面々が、明らかに理解してはいなかった複雑な状況なのだ。カナダが、アフガニスタンに巻き込まれてしまったのは、ある面、カナダがアメリカに従属的であることが理由であり、また、ある面では、単なる無知が理由だ。現在の保守派政府のある議員が、全議員に対して私がした多くの具申の一つに反駁しようとして、「アフガニスタンには石油はない」と語った。私はそんなことは言っていないのだが、議員たちと、おそらく他の多くの人々が知らなかったのは、イランやロシアを避けるため、アフガニスタン領土を経由して石油を輸送するという課題があったことだ。更に、アフガニスタン北端のカスピ海には、価値ある天然ガス田が多少ある。

アメリカの本音と、実際の状況と、この地域に内在する複雑な事情に対するこの無知さが、100人が戦闘で死亡するという始めての世紀を迎えようとしており、その解釈と、カナダ国内で派兵に対する国民の支持を得ようという、カナダ軍にとって膨大な問題をもたらしている。カナダ国防省の政策審議官が、「この国について、我々は何も知らない。」と言ったとして引用されている。これらは余りに真実であり、そしてこの無知が、国内における余りの政治的混乱と、アフガニスタンにおいて、カナダ軍が不必要に危険に曝される状況をもたらしたのだ。

著者は、アフガニスタンの状況について、ロシア侵略から始めて、短いかも知れないが、妥当な背景説明をしている。それは、アメリカが、その属国に対して行いがちな支援だ、という言い方もできよう。とはいえそれ以前に、ソ連を引きずり込むような一層不安定な状況を作りだす為、アフガニスタン内でCIAを活動させたことに対するブレジンスキー発言には一切触れていない。パシュトゥーン人領土を横断し、パシュトゥーン人をアフガニスタンとパキスタン二国に分けてしまっている、デュランド・ラインという名の国境線のわざとらしさが、事態進展の上での重要な要素として認識されている。惜しみないCIAの資金供与と軍事補給支援、特に、効果的なスティンガー・ミサイルなどによる、パキスタンISIに対するアメリカの支援にも触れられている。触れられていないもう一つの要素は、この地域全土にわたりムジャヒディン戦闘部隊を育てようとした、アメリカの広範な尽力だ。[1]

アメリカ(そしてつまりはカナダ)が、「安定化と再建」にだけ向き合うのだと考えていたのに対し、著者達の結論は「この判断の上で、無知と傲慢さが効果を発揮していた。」

そこから本書は、カナダの話、つまり、誰が何を誰に言ったのかという典型的な話、あるいは、何を誰に言ったかを彼等がどのように覚えているかになる。アメリカに対して「信用を維持する」というテーマが何度も繰り返される。カナダを、イラクという「困難から抜け出させる」ことには、弾道ミサイル防衛網を懸念し、カナダが「ホワイト・ハウスを離反させてしまう」ことを恐れる、軍部からの「政治家達に対する大変な圧力」があり、そしてまたもや、イラクについての決定を「穴埋めするために、何か目ざましいことを早急にすることが必要だという感覚の再燃」から…アフガニスタンは、手始めとして、道理にかなった場所のように思えた…。「ペンタゴンを感心させるような自らの行動」と、スチーブン・ハーパーのおはこの一つ「世界的に、カナダの刻印を残す」ことが、本書後半で、「ワシントンの友人たちと協同して政策を進めようとした」として、軍部がとがめられる際に、この主題は再び現れるが、「カナダの軍事的任務は、完全にではないにせよ、多くの部分が、『強迫観念』とさえいえるほどの、オタワとアメリカ合州国との関係を基本にして決定されたのだ。

こうした全てに直面すべく、カナダ政府(それぞれ、ほぼ民主党と共和党に対応する、自由党も保守党も)は、これまた政治家たち同様に、本当の状況にうといと思われる典型的に迎合的なマスコミを通して、カナダ国民に対し、かなりの情報操作を行った。アメリカ同様に、部族と村々の統治については、通常カーブル中央政府が関知するところではない地域において、西側がイメージする自由とデモクラシーを打ち立てることが目的だとしたのだ。

カナダは無知ゆえに、どこにいようと、戦闘的なイスラム教徒を打ち破る世界戦争である対テロ・グローバル戦争という、アメリカの路線にも付き従っている。著者たちは、アフガニスタンの立場を、正当に、「現地の不満で激昂した、現地の政治的目標をもった…タリバンや現地の、パシュトゥーンの土壌の息子たち」のイスラム社会として扱っているが、他にも無知な分野があるなかでも、これはほとんどのカナダ政治家が認識しそこねている部分だ。

二大政党いずれもが、カナダがアフガニスタンに派兵している責任を負っているとは言え、それは[ハーパー]政府の未来を決定する」ものとなった。彼のリーダーシップのもと、「アフガニスタンのことをほとんど知らない国会」における論議の為、国会は「悲惨なほど不十分な時間」しか与えられなかった。この表現の裏にあるのは、「ハーパーは、政治的な目的のため、投票を操作しながらも、国会に対する尊敬の欠如を示している 」という見方だ。彼はブッシュ的用語を使っている。「カナダはアフガニスタンからあわてて逃げ出すことはしない」というもので、彼の見解は「9/11に対する報復」をも含んでいた。

最後の章は、将来についての疑問であり、アフガニスタンでの今後の進め方を、カナダがどのように決断するかを問うている。本書が書かれてから、ハーパーは政治的手腕を存分に駆使して、国会を操っており、特にそもそもこれを始めた自由党に、2011年までの延長を支持させている。アフガニスタンの状況は大幅に悪化しており、イスラム教徒との戦線(以前から、そういう状況にはあったが、現在の出来事の歴史は、必ずしもブッシュが感じているようなものではない)に、ブッシュが、新たにパキスタンをも加えたことによって、状況は今後更に悪化しよう。カナダ軍とカナダ政治家の無知に加え、パキスタンの内部事情と、アフガニスタンとインドに対する外交問題という二つの屈折した問題の複雑化について、恐らくは更に無知なことが追い打ちをかける。考慮すべき後の二つの要素は、最後の項で、多くの疑問を受ける部分である、カナダのNATOとの関係、および国際法の問題だ。

ハーパーは、現在、(行われなかった)信任投票の場合を除き、四年ごとの確定日選挙(アメリカの期待に対する、もう一つのハーパーの仕掛け)をするとした法律より早く行われるカナダの選挙戦中だ。このタイミングは、彼の政府を到来する不況に備えさせるとともに、更に、アフガニスタンとパキスタンへの、過去の壊滅的政策の延長であり、危険かつ無知な軍事関与を、アメリカの両党とも強化する予定でいるのだが、新たに授権されるアメリカ政府の到来とともに、更なる海外への介入を議論しなければならなくなることを避けるためだとも言われている。アメリカ軍にへつらおうとするカナダ軍の傾向と、ハーパーの偽装した右翼的好戦性を考えれば、ハーパーが選挙に勝つようなことがあれば、アメリカと並んでカナダが戦争を継続するようになるのも驚くべきことではなかろう。

カナダの有権者に対する課題は、これを「伝統的な平和維持軍」・対・「対ゲリラ」戦士という立場(違う人々たちの用語では、あるいは侵略者または占領者)という概念ではなく、カナダ海外政策の独立・対・世界の多くの場所に死と破壊をもたらしているアメリカの海外政策への卑屈な追従、という問題として考慮すべきだということだ。

しかし、それは本書の第二巻になるのかも知れない。更なる無知、更なる西欧風の傲慢さ、アメリカの欲望に対する更なる追従によって、「予期しなかった戦争」は思ったより長びくだろう。著者達は、アメリカの利害と並んで、カナダがアフガニスタンに関与した現在の出来事の歴史をうまく描き出しており、巻頭における出来事の要約に多少些細な脱落があるとは言え、全体像は明確で、直截で、適切な疑念をはさんでいる。これから五年先に、本書の第二巻が書かれることはないのかもしれない。

[1]この地域の複雑さに関するより詳細情報は、Michael ScheuerのMarching Toward Hell - America and Islam After Iraq、Free Press、New York、2008;  およびAhmed RashidのDescent Into Chaos - The Unites States and the Failure of Nation Building in Pakistan、Afganistan、and Central Asia、Viking (Penguin)、2008を参照のこと。

ジム・マイルズはカナダの教育者で、The Palestine Chronicleの評論記事と書評の常連寄稿者/コラムニスト。マイルズの仕事は、他の非伝統的なウエブ・サイトやニュース媒体によって、世界中で発表されている。

記事原文のurl:www.politicalaffairs.net/article/articleview/7452/

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明日はわがみ。全く人ごととは思われない本、書評だ。

衆議院選挙で、アフガニスタン派兵に反対する野党が大幅に躍進しなければ、日本は周回遅れで、カナダと同じ経験をすることになる。派兵に反対する野党の中には、もちろん民主党は入らない。代表は一貫して、国連至上主義、アフガニスタンISAF派遣を主張しているのだから。

湾岸戦争に、膨大な資金を提供したのは、当時自民党の幹事長だった小沢一郎氏だ。

小沢一郎という政治家が、小選挙区制度導入を推進し、実現した。マスコミはこぞって小選挙区制度導入をあおった。その結果は、どうなっただろう。

小泉政治を、小泉911選挙を、マスコミはこぞって翼賛した。その結果は、どうなっただろう。

そして今、マスコミは政権交代を、こぞってあおっている。その結果は、火を見るよりあきらかだろう。

引退を表明した元首相、国をすっかりアメリカの為に破壊しておいて、アメリカの安保専門家、有名ジャパンハンドラーに預けた次男、日本版サアカシュビリの卵に地盤を譲るという厚かましさ。辞任した中山元国交相のセリフに習えば、「自民党など体制派政治家の子供は頭が悪くても政治家になる。自民党の強い政界はレベルが低い。自民党は日本の癌だ」ろうか。

こりずに、サアカシュビリの卵に投票する市民が多数いる、なんとも不思議な不沈空母基地属国。前回は、天木氏と、羽柴秀吉氏が立候補していた。天木氏の得票、驚くほど少なかった。

マスコミがあおる政権交代、事実は、政権交代ではなく、アメリカ従属を旨とする派閥間交代にすぎまいに。小選挙区制度導入の時から予定されていた遠大なシナリオ。小泉元首相が破壊した日本を、小沢氏が粉砕してくれる。

しかし、人は痛みを実際に感じないと懲りないものなのだろう。もちろん、悲惨な現実を見てから後悔しても遅すぎるのだが。

10/7追記 共同通信で、驚くべき記事が配信されている。

【ワシントン6日共同】米国防総省当局者は6日までに、治安が急速に悪化しているアフガニスタンの国軍増強のための費用として、米政府が少なくとも170億ドル(約1兆7000億円)の負担を日本を含む同盟諸国に要求したことを明らかにした。ロイター通信が同日伝えた。

 ロイターによると、米政府が費用負担を求めたのは、米同盟国のうち、日本やアフガンに展開する国際治安支援部隊(ISAF)に派兵していない北大西洋条約機構(NATO)加盟国など。

 モレル国防総省報道官はロイターなどに対し、アフガン国軍増強について「少なくとも170億ドルが必要。これは誰かが支払わなければならない」と指摘した上で、「アフガンに軍隊、特に戦闘部隊を派遣することに消極的な国は、財政的な貢献をするべきだ」と述べた。

 同報道官によると、米政府は既に日本に費用負担を要請済みだが、要請は福田前政権に対し行われたため、麻生政権に対してもあらためて要請する方針という。

2008/10/07 00:29   【共同通信】

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こんな大強盗のような国家と、この属国は、本当に同じ価値観を持っているのだろうか?

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2008/10/08追記 MSN産経ニュースに、【ノーベル物理学賞】風呂あがりに浮かんだ「小林・益川理論」 研究秘話というのがある。

研究が始まったのは昭和47年5月。当時、益川さんは教職員組合の書記長も務め、多忙だった。2人は益川さんの時間が空く午前中に議論し、結果を家に持ち帰って熟考。翌朝、また議論する生活を続けた。

辞任した中山元国交相のセリフとは、完全に逆ではないか?

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