ベルリンの民主党大統領候補オバマ、ヨーロッパにアフガニスタンへの兵員増派を要求
Stefan Steinberg
2008年7月26日
およそ200,000人の聴衆を前にしたベルリンでのバラク・オバマ演説は、反共冷戦と、アメリカ帝国主義者の軍国主義や侵略、つまりいわゆる「対テロ世界戦争」という新たな枠組みを推進する企てを、反動的に肯定するものだった。
分かりやすい戦後の米欧関係史が描かれた背景幕を背に、民主党の大統領候補は国際テロという「新たな危険」に対する戦いにおける、二大陸同士のより緊密な協力を呼びかけ、ヨーロッパ諸国政府に、アフガニスタンの兵員を増強するよう要求した。
「対テロ戦争」に軍隊を動員する呼びかけの中で、オバマは、ヨーロッパ諸国民、特にドイツは、戦争嫌いを克服しなければならないとすすめた。民主党の大統領候補は、多くのドイツ人の間に、ドイツ軍のアフガニスタン駐留への反対があることを良く知っており、こう語りかけた。「戦争を歓迎する人はいません。アフガニスタンにおける大変な困難さを私は理解しています ... アメリカ一国だけではできないのです。アフガニスタン国民には、アメリカ軍と皆さんの軍が、アメリカの支援と、みなさんの支援が、タリバンとアルカイダを打ち破るために必要なのです....」
オバマの最初の提案は、ヨーロッパとアメリカが歩調を合わせ「イランに対し、核の野望は捨てなければならないということを直接に」伝えようという呼びかけだった。ドイツとフランスが、当初イラク侵略に反対したことに触れ、彼は言った。「過去の違いにもかかわらず」ヨーロッパは、バグダッドの傀儡政権を安定化させようというアメリカの努力を支援すべきで、「最終的には、この戦争を終わらせるのです」つまり、無期限のアメリカ軍駐留とアメリカのによるイラク支配の受容だ。
本音を語る一つのメッセージで、オバマは、彼が大統領に選出されたからといって、アメリカ軍国主義や、ドイツや他のヨーロッパ諸国に対する軍事的負荷が、減少することを意味するわけではないと示唆した。彼はこう宣言した。「たしかに、アメリカとヨーロッパの間には違いがあり続けています。将来も、違いがあり続けることは疑うべくもありません。しかし、グローバルな市民としての身分という重荷が、私たちを一つに結び続けてくれるでしょう。ワシントンにおいて、指導者が変わるからといって、こうした負荷がなくなるわけではありません。」
オバマは、こうして海外ツアー中唯一の公的演説という機会を利用して、果てしのない戦争と軍事的暴力についての展望を改めて表明した。
オバマ演説の政治的要旨は、金曜日に、演説は「かなり保守的で、際立って愛国的だ。」と好意的な論説を書いた右派共和党の新聞ナショナル・レビューがうまく要約している、論説はこう書いている。
約20分の間、上院議員は以下のような立場を表明した。
* 共産主義者の暴虐への強い非難と、冷戦中、アメリカが巧みに抵抗したことの祝辞。
* 大西洋同盟の継続と、国際安全保障と安全な通商の為の唯一の基盤として、グローバルな協力関係に進化させようという熱烈な訴え。
* 「[テロ]を支援する過激主義という井戸を、干からびさせ」なければならないというブッシュ大統領おはこの主張をも含んだ、対テロ戦争の承認。
* アフガニスタンにおけるNATOの任務への疑う余地のない支持と、ヨーロッパ人はアフガニスタンにより多く派兵するべきだという明確な要請。
* 自由貿易、開かれた国境、そして、グローバル化への公約。
* 中東や他の地域においてデモクラシーを推進することへの支持、これにはイラク戦争で、アメリカ、同盟諸国、および現イラク政府が勝利したのを認めることが含まれる。
* イランは、核の野望をあきらめ「なければならない」という単刀直入な発言。
* そして自由と正義という世界の希望の媒介者としてのアメリカの愛国的描写
オバマの登場に先立ち、前例のないドイツマスコミのキャンペーンが行われ、大統領候補への賞讃があふれかえっていた。多くの新聞が膨大な参加者を予測し、1963年のジョン・F・ケネディ、そして1987年のロナルド・レーガンの時のようなベルリン大集会になぞらえていた。
注目に値するのは、オバマが、公式なアメリカ世論が、冷戦に勝利した人物と認めているレーガンのせりふを喚起させるのを選んだことだ。レーガンのせりふ「ゴルバチョフ書記長、あの壁を取り壊そう」をまねて、オバマはこう宣言した。「皆さんが、ドイツ国民が、あの壁を取り壊しました。東と西を、自由と独裁を、恐怖と希望を隔てていた壁です。壁は世界中で崩壊し.... デモクラシーの扉が開かれました。」
「自由市場」への熱意を決して隠したことのないオバマは、次の文章を「市場も開かれました。」といって始めた。しかしながら、資本主義制度を東欧に導入したことによる、社会の破滅的な結末については一切触れなかった。資本主義化は、東ドイツ産業の大規模な解体と大量失業をもたらし、旧ソ連では、かつて戦乱に見舞われた国々でしかみられなかったほど平均寿命が短くなった。オバマの演説は、アメリカ合州国やヨーロッパの先進工業諸国で何百万人もの人々が直面している社会危機も、世界を新たな大恐慌に陥れようとしているアメリカの金融崩壊も、無視していることも注目に値する。
演説は、同時に複数の聴衆を説得するよう巧みに構成されていた。ドイツとヨーロッパ国民には、発言の中に、異なる文化の団結と、第三世界の貧困や地球温暖化と戦う努力についての曖昧な呼びかけを散りばめた。ドイツとヨーロッパのブルジョアジーには、より親密な協力関係を提案し、アフガニスタンや、他の国におけるアメリカの新植民地主義的な冒険的企てを、ヨーロッパが救ってくれれば、見返りとして、戦利品の大きな分け前が期待できるとほのめかした。
アメリカの支配エリートに対しては、オバマは大統領として、多国間よりの姿勢をとり、欧米の同盟を強化しながら、アメリカ帝国主義の世界的覇権という狙いを押し進める決意を保証した。
ドイツのあらゆる政治党派がオバマの演説を絶賛した。キリスト民主党、キリスト教社会同盟、自由民主党、社会民主党、緑の党や左翼党の指導者たち全員が満足の意を表した。
ドイツとヨーロッパのブルジョアは、概してブッシュ時代の終焉を歓迎し、オバマが大統領になれば、自らの帝国主義的な狙いを追求する機会が増えると見ている。オランダの新聞デ・フォルクスクラントは、オバマのドイツ訪問について、こう書いている。
「近年アメリカは、アフガニスタンやイラクで、またイスラエル-パレスチナ問題や、イランとのウラン論争のような他の国際問題で、力の限界を認めざるをえなくなった。アンゲラ・メルケルやニコラ・サルコジが、国際外交の上で、ますます重要な役割をにないつつある。9月11日以後に、明らかになり、今益々明らかになりつつあることは、冷戦終結以来、アメリカが、主要なあるいは唯一の代表である普遍的価値以外のものは世界に存在しないということだ....アメリカは古くからのNATO同盟国を再び必要としている。」
下記も参照のこと:
What accounts for Europe’s love affair with Obama?(翻訳:ヨーロッパがオバマに夢中になっている理由は何か?)
[2008年7月24日]
本記事原文URLアドレス:www.wsws.org/articles/2008/jul2008/berl-j26.shtml
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