■ ノボリのラストゲーム「ミスター・エスパルス」沢登正朗選手の引退試合。場所は、もちろん、清水エスパルスのホームの日本平スタジアム。聞くところによると、1999年のジュビロ磐田とのチャンピオンシップ以来の混雑とのこと。スタジアムの収容人数は、18000人程度にもかかわらず、スタジアムの入り口では、丘の上まで人が並んでいて、全員が中に入りきれるのか不安になるくらいであった。
キックオフは13時で、ボクがスタジアムに到着したのは10時45分ごろだったにもかかわらず、すでにゴール裏(エスパルス側)は満員。メインスタンドとバックスタンドも、7割方客席が埋まっている。尋常ではないほどの出足の良さだった。
■ バナナキングコンテストキックオフ前には、スーパーサッカーのイベントで、「バナナキングコンテスト」が行われた。挑戦者は、藤田俊哉、藤本淳吾、岩本輝雄、ラモス瑠偉、沢登正朗の5名。この5人に加えて、ゴン中山と小倉も飛び入りで挑戦。
ちょうど、ゴール裏(アウェー側)から見ていたので、ボールの曲がり具合が良く見えて、面白かった。左利きの選手のキックは、軌道がきれいだった。結果は、「ON AIR」で。多分、過去、最高にグダグダな収録だったはず。でも、番組的には、過去最高の面白さとなるはず。ラモス・ゴン・オグ・俊哉に、加藤浩次が絡めば面白くないはずがない!
■ いよいよキックオフバナナキングが終わると、いよいよ出場選手が紹介される。とにかく、両チームのメンバーが豪華で、名前が呼ばれるたびに、大歓声が上がる。
ジャパンのなかで、ひときわ大きな声援を浴びたのは、やはり、カズとラモス。エスパルスのなかでは、ノボリはもちろんだが、シジマールや長谷川健太に大きな声援が送られた。
ジャパンは、<4-4-2>。GKが下川、DFは三浦ヤス、柱谷哲二、小村、都並の4バック。中盤は、北沢と山口素弘がダブルボランチで、カズと磯貝が攻撃的MF。2トップは、アトランタ五輪では幻に終わった、城と小倉の2トップ。
エスパルスも、<4-4-2>。GKは、伝説の守護神・シジマール。市川・堀池・高木和道・平岡の4バック。中盤は、大榎と伊東輝悦のダブルボランチで、沢登と藤本淳吾の新旧№10が攻撃的な位置に入り、2トップは、安永と長谷川健太。
■ ノボリの決勝ゴール前半いきなり、セットプレーからエスパルスが先制する。沢登のCKを中央で合わせたのはDF平岡。(ハーフタイムに長谷川健太の得点に変更。)カズを起点に攻めるジャパンは、前半16分、小倉からカズにボールが渡ると、カズの左からのクロスを城がフリーでヘディングシュートを決めて同点に追いつく。1対1で前半を終了した。
後半に入ると、沢登は、ジャパンチームで登場。ラモス・ノボリの2人で、完全に中盤を支配したジャパンは、後半13分、カズのパスから沢登が決勝のゴールを決める。結局、2対1でジャパンが勝利した。
16 GK シジマール→真田(23分) 1 GK 下川 健一→川口(HT)
4 DF 堀池 巧→森岡(HT) 2 DF 小村 徳男→磯貝(74分)
22 DF 市川 大祐→安藤(HT) 5 DF 柱谷 哲二→澤登(HT)
26 DF 高木 和道→内藤(HT) 6 DF 都並 敏史→ラモス(HT)
6 MF 大榎 克己→田坂(28分) 21 DF 三浦 泰年
10 MF 澤登 正朗→永井(HT) 8 MF 北澤 豪→藤田(HT)
12 MF 平岡 直起→高木純(HT) 15 MF 山口 素弘→北澤(71分)
17 MF 伊東 輝悦→平松(61分) 17 MF 磯貝 洋光→相馬(20分)
20 MF 藤本 淳吾→三渡洲(HT) 11 FW 三浦 知良
8 FW 安永 聡太郎→興津(61分) 12 FW 城 彰二→武田(HT)
9 FW 長谷川 健太→向島(23分) 22 FW 小倉 隆史→岩本(26分)
■ 創生期を彩ったスターの競演「たまにはこういう試合も面白い。」という感じで、スタジアムに集まった観衆は、みんな満足して帰っていったことだろう。Jリーグの創生期を彩ったタレントたちが、これほどまでに集まる機会は今までなかったのではと思われる。とにかく、いちいち、懐かしかった。
スパイダーマンことGKシジマールのセービングに対しては、試合前の練習中にも関わらず、大歓声が起こる。ボランチの田坂は気の利いたプレーで現役時代と遜色のないプレーを見せ、FW興津大三にはあの頃のスピード感はなかったが、FW向島建の機敏な動きはあの頃のままだった。
ジャパンチームでは、ダイナモのMF北沢は、現役時代と全く変わらず、精力的な動きで中盤を活性化させ、左サイドバックの都並敏史の悪気のないアフタータックルは健在。岩本輝雄の左サイドからのクロスの精度は相変わらず高精度で、城彰二のゴール前のポジショニングは巧みだった。柱谷哲二のオーバーリアクションは現役時代と全く変わっておらず、あやうく、シミュレーションを取られるところだった。ノボリの最大のライバルといえる、MF磯貝の体重は倍になったが、技術は全く衰えておらず、高度なテクニックで観衆を魅了した。
■ エンターテイナーたち改めて感じたのは、この試合に出場した、かつてのスター選手はみんな華があって、個性的だったなということ。レベル的には、今の選手と比べると劣っているかもしれないが、エンターテイメント性では上回っているように思う。
J1年目やJ2年目は、「プラチナチケット」と呼ばれて、どのスタジアムのどのカードでもチケットの入手が困難だったが、それは、単なるブームだったからという理由だけではなくて、固有名詞で観衆をひきつけられるだけのスター選手が、多くリーグに存在したことの証だろう。
そんななか、この試合で、特に目立っていたのは、カズとラモスと長谷川健太の3人である。
■ 千両役者KINGカズが、得意の左サイドでボールを受けて、「18番」のまたぎフェイントを披露すると、それだけで大歓声が上がる。この試合では、フォワードではなく中盤でプレーしたカズだったが、うまくボールを受けて、チームのリズムを作り、自らもゴールを狙っていった。今年40歳になるカズだが、圧倒的なオーラは健在でまだまだ若々しかった。久々のJ1でも、大いに期待できそうだ。
後半から出場した、ジャパンの監督兼選手のラモスは、とても49歳とは思えなかった。冗談ではなく、本気で、東京Vでプレイングマネージャーとして活躍できるほどのクオリティを維持している。独特のリズムでボールをキープして、意表を突くタイミングで繰り出すラストパスで何度も好機を演出した。絶妙のループでのラストパスは、久々に見たが、当時と変わらず鮮やかな軌道を描いた。
実は、主役となるべき沢登よりも、ある意味で、目立ってしまったのが、長谷川健太現清水監督。かつて見せた右サイドのエリアでの強引なドリブル突破を見せるシーンは一度もなく、消極的なプレーに終始し、そのたびに、観衆から大ブーイングを浴びた。前半22分には、シジマールが怪我で交代するときに、さらっと自らも交代を申し出て、またまた大ブーイングを浴びた。
試合の終盤には、観衆の要請にこたえて、ピッチに再登場したものの、味方のスルーパスに反応できず、観衆からは野次が飛んだ。だが、こういった歓声は、それだけ、健太監督が、エスパルスのサポーターから愛されているということの証だろう。サポーターから、これほどまでに、信頼されている監督は珍しい。今シーズンのエスパルスは期待できる、と確信した。
■ ノボリのラスト背番号10を背負ったノボリは、最後まで「背番号10」らしいプレーを見せた。決勝ゴールのシーン以外にも、あわやゴールというシュートを2度ほど放っており、観衆の期待を裏切らないパーフェクトなプレーだった。
ノボリは、Jリーグ初年度の93年から、実に、14年もの間、エスパルスの10番を任されてきた。1チームに14年間在籍し続けること自体が相当に困難なことであり、しかも、ずっとチームの中心選手としてプレーするとなると、不可能に近い。もう、こんな選手が、日本サッカー界に現れることはないだろう。彼の最後を、目の前で見ることが出来てよかった。
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