■ グループGの首位決戦イングランドの強豪・アーセナルが、グループGの首位に立つCSKAモスクワをホームに迎えた大一番。CSKAモスクワ・ポルトとグループリーグ突破を争うアーセナルとしては、何としても勝ち点「3」が欲しい試合だった。
試合は、戦前の予想通り、アーセナルがボールをキープして試合を支配し、CSKAモスクワがカウンターで対抗する展開となったが、アーセナルが、決定的なチャンスを決めきれず、スコアレスドローに終わった。
■ 芸術的な美しさ得点こそ奪えなかったが、アーセナルのサッカーは、美しいと表現するほかない。フォーメーションは、4-1-4-1。4バックで、アンカーにジウベルト・シルバ、アンリの1トップで、その下に、ファン・ペルシ、フレブ、ロシツキ、セスクと並べる。ファン・ペルシが左サイドで、セスクが下がり目に位置することが多いが、それでも、そのポジションはあってないようなもの。頻繁にポジションチェンジを繰り返している、というよりは、ベースとなるポジションがもともと存在といった方が適切かもしれない。
高い位置でボールを奪うことが出来ると、その瞬間にショータイムが始まる。ダイレクトパスの応酬から、オープンスペースに、柔らかいパスが通される。ピッチに近いカメラの影響もあって、そのスペースに誰がオーバーラップしているのか、分からない。
■ 予測不能のサッカー攻撃に関しては最低限の約束事はあると思うが、ピッチ上で繰り広げられるアーセナルのサッカーは即興的である。次の展開が予想できて、その期待通りにプレーが進むようなサッカーも面白いが、アーセナルのような次の展開が全く予想出来ないサッカーの方が、やはり面白い。
キープレーヤーは、中央に位置することの多いロシツキとフレブ。両者とも、ドリブルもできて、決定的なスルーパスも繰り出すことの出来る天才肌のアタッカー。運動量も申し分なく、何でもこなせる二人の存在が、アーセナルの攻撃に彩りを加える。
■ 自意識過剰のサッカーアーセナルのサッカ-を一言で言うと、”自意識過剰のサッカー”か。彼らは、決して、相手に合わせるようなサッカーはせず、自分達のサッカーを披露することにこだわる。ゴール前でシュートを打てそうな場面でも、もっと相手守備を崩せそうなら、味方にパスを出す。あくまでも、きれいに崩してゴールすることにこだわる。そして、なるべく、楽にシュートを打てるような選択をする。
ただ、世の中はうまくいかないもので、これでもかとDFを崩しながら、ゴールにはつながらない。この試合でも、完全に相手守備を崩したシーンが5度ほどあって、もうゴール前で押し込むだけという場面や、キーパーと1対1になった場面があったにもかかわらず、どうしてもゴールができない。
■ アーセナルに立ちはだかった20歳の天才キーパー試合を評すると、「アーセナルが決定機をつかみながら、外してしまった試合」ということになるが、アーセナルが決定的なチャンスを決め切れなかった要因は、内的な要因だけではない。CSKAモスクワの20歳のキーパー、イゴール・アキンフェエフが素晴らしかった。
4歳でクラブに入団し、17歳でクラブのレギュラーをつかみ、18歳で代表にデビューした、天才キーパー。185cmとキーパーにしては、決して大きくないが、飛び出すタイミングや反射神経が尋常ではない。そして、なにより、この選手がゴールを守っていると、安心感がある。体型的にも、ペルッツィのようなタイプに成長するのだろうか?20歳とは思えないくらい落ち着いて見えたのは、相手のゴールキーパーがレーマンだったことだけが原因ではないはず。
■ ゴールシーンはいらない?CSKAモスクワには、世界的なファンタジスタに成長する可能性のあるダニエル・カルバーリョ、俊足のストライカーであるワグネル・ラヴ、元柏レイソルのドゥドゥら、ブラジル人タレントの宝庫で、単に守っているだけのチームではなかった。まとまった、いいチームである。
第3者から見れば、ゴールシーンも盛り上がるが、決定的なシーンでシュートを外すシーンも同様に、盛り上がるものである。得点につながらなくても、ゴール前の攻防が多ければ、テンションは上がる。リアリスティックなサッカーをすると、ゴールシーンにしか盛り上がれないが、アーセナルの芸術的なサッカーは、ゴールシーン以外でも盛り上がれる要素が満載である。これほど、エキサイティングなスコアレスドローも珍しい。
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