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ネタニヤフに対するICCの逮捕状は、実際は、西側への訴追

<記事原文 寺島先生推薦>
The ICC arrest warrant for Netanyahu is really an indictment of the West
この動きはあまりにも小さく遅すぎるが、それでも「ルールに基づく秩序」の明白な偽善性を暴露している。
筆者:タリク・シリル・アマール(Tarik Cyril Amar)
Tarik Cyril Amar (ドイツ出身の歴史学者、イスタンブールのコチ大学でロシア、ウクライナ、東欧、第二次世界大戦の歴史、文化的冷戦、記憶の政治について研究)
出典:RT2024年11月25日
<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ> 2024年12月5日


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イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相。© Justin Sullivan/Getty Images


「ならず者政権」とは何か。この言葉の最初の米国の宣伝者の一人であり、1993-97年にビル・クリントン前大統領の国家安全保障顧問を務めたアンソニー・レイクによると、それは礼儀正しい国際社会の外に身を置き、「基本的価値を攻撃する」ことを選んだ「無法者」政府である。

もちろん、この用語は字義どおり適用されることなど一度もなかった。最初から、キューバ、イラク、リビアなど、実際には米国とその顧客たち、つまり西側集団を構成している国々の意思に屈しないという唯一の共通点を持つ国に対する西側複合戦争の道具として兵器化されるように設計されていた。西側の政治屋とその傘下にある主流メディアの出世第一主義の速記者が「ならず者政権」と声を上げ始めたら、侵略、クーデター、仕掛けられた経済戦争により飢餓でにっちもさっちもいかなくなるほど状況をかわす準備をしなければならなくなるし、さらにはこれらすべてが一緒になったときには、卑劣な公開拷問や暗殺を含む血なまぐさい政権交代を払いのける準備をしなければならない。

しかし、この原始的なプロパガンダ用語をしばらく額面どおりに受け取ってみよう。根底にある理論 (理論という言葉が適切だとしたら、だが) は、非常に単純なものだ。ルールを守るいい子ぶった国家 (そのほとんどがたまたまグローバルノースにある) と、そのルールに唾を吐く悪童国家に分かれる。また、どのようなルールがあるのか、誰がルールを作って、誰がそのルールを適用しているのかを尋ねることもしない。その質問は、私たちを「ルールに基づく国際秩序」というたわごとのうんざりする道徳的、知的な泥沼に導くだろうからだ。つまりこの言葉の本質は、「私たちは国際法(例の曖昧で勝手にこねくり回せる「ルール」とは真逆のもの) を超越しており、国連に唾を吐き、さらに、私たちは他の人々を命令し、従わない場合には個人的にも集団的にも殺すことができる唯一の特権を持っている」という欧米の本音を婉曲的に表すことばである。

いや、イデオロギー的な無意味さはしばし脇において、第一段階として、真にオーウェル的な「ならず者政権」という用語が、実際には知的で偏見のない観察者が真剣に受け止めることができる意味を持っているというふり(本当にふりだけだが)をしてみよう。続いて第二段階:その論理では、何がならず者政権よりもさらに悪いのかを尋ねてみよう。答えは簡単:法的および倫理的規則を公然と無視する政権よりも悪いのは、それらの規則を代表するふりをし、所有しているふりをして、それらを歪曲するだけの政権である。なぜなら、そのような政権は単に規則に従わないだけでなく、根本的に法的および倫理的規則を弱体化させるからだ。法と道徳を破る人はただの犯罪者なのだが、彼らはそんなことは屁とも思わないだろう。しかし、真の悪人、真の悪の力は、法と道徳規範を簒奪し、汚し、一般的な尊重を奪い、それによってその有効性と、究極的には存在さえも脅かす。

だからこそ、国際刑事裁判所(ICC)が最終的にイスラエルのジェノサイドの指導者であるベンジャミン・ネタニヤフ首相とヨアブ・ガラント元国防相の2人に逮捕状を発行したことによって、西側全体が最も大きな責めを負うことになる。なぜなら、悪役を演じているジェノサイド国家イスラエルはほかでもない西側の事実上の植民地だからだ。

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誤解しないでほしいのは、戦争犯罪や人道に対する罪で個人を裁くことができる唯一の国際裁判所であるICCが行なってきたことには、非常に残念ながら限界があるということだ。少なくとも今のところ、攻撃の対象となっているのはイスラエル当局者 (しかもあまりにも少数) と、すでに死亡しているとイスラエルが主張しているハマス指導者だけで、西側の共犯者は標的にしていない。その狭い意味では、明らかに、ジェノサイドを含む戦争犯罪と人道に対する罪を犯して常に新しい記録を更新している国家であるイスラエルが最も直接的な影響を受けるだろう。もしそうだとしても、繰り返しになるが、十分とは口が裂けても言えない。ICCの動きはあまりにも小さく遅すぎるからだ。実際、1998年のローマ規程第6条の下で可能であるのに、ネタニヤフとガラントをジェノサイドの罪で起訴さえしていない。そうすべきであったことははっきりしている。その代わり、ICCは彼らを戦争犯罪と人道に対する罪で「のみ」起訴した。さらに、ICCには独自の逮捕状を執行する能力がない。そのためには、ローマ規程に署名した国と、その下での義務を守る意思に頼らなければならないのだ。

しかし、ICCは司法機関であるが、逮捕状の真の意義はもちろん政治的なものである。エコノミスト誌が認めるように、それは「外交的大惨事」であり、エコノミスト誌は何とか避けて通ろうとしているが、ネタニヤフにとってだけでなく、イスラエルにとってもそうだ。しかし、これは通常の惨事ではなく、特に破壊的なものである。なぜなら、イスラエルにとっては、国際的な嫌がらせ、汚職、ロビー活動、スパイと恐喝のネットワーク、そしてあらゆる目的の破壊行為が、イスラエルの免責を死に至らしめていることを示す新たな兆候だからである。イスラエルとその共犯者たちが、まさにこの結果を防ぐためにICCに大きな圧力をかけてきたことを、私たちは知っている。しかし、彼らは失敗した。イスラエルの力と範囲はあまりにも大きすぎるが、無限ではなく、衰退している。

しかし、イスラエルは非常に特殊な国家である。事実上すべての国家が、法律を曲げたり破ったりし、エリートたちが考える自分たちの利益のために、少なくとも一部の道徳的規範を従属させるが、イスラエルはその核心が犯罪的であるという点で異なっている。これは修辞的な指摘ではなく、分析的な指摘である。たいていの国家は、法律や通常の道徳を侵害することが否定的な結果をもたらしても、存続することができる。別の言い方をすれば、ほとんどの国家にとって、免罪は良いことではあるが、不可欠なことではない。しかしイスラエルにとって、免罪は不可欠な要素である。なぜなら、イスラエルという国は犯罪の上に成り立っており、これ以上犯罪から逃れられなくなれば、必然的に、そして当然のことながら、自国の利益だけでなくその存続すら危うくするからだ。だからこそ、イスラエルの政治家やメディアは結束を固め、問題はイスラエル全体にあるのであって、一部の精神病質的な指導者たちにあるのではないことを改めて示し、明日をも知れぬかのように反ユダヤ主義というおかしな非難を投げつけ、再びヒステリックに騒ぎ立てようとしているのだ。

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そしてある意味でイスラエルに、たぶん、明日はない。少なくとも、道徳的な背骨と半分の頭脳を持つ人間が真剣に受け止めている例の告発について明日はない。皮肉なことに、その点でもイスラエルに感謝するしかない。正確に言えば、イスラエルがアパルトヘイト、民族浄化、大量虐殺といったイスラエル自身の犯罪から目をそらすために、パレスチナ人、アラブ人全般、ペルシア人、イスラム教徒に対して、ヨーロッパとキリスト教の反ユダヤ主義の暗い歴史(その最悪の結果であるホロコーストを含む)を武器にするという、イスラエルのうんざりするようなやり方である(主なものを挙げればきりがない)。

人類の利益のためには、反ユダヤ主義とホロコーストの両方を真剣に受け止めるべきであるが、それらの話の重みと信頼性を奪うために最悪のことをしたのはイスラエルである。組織的に人種差別的暴力主義者を騙ったイスラエルのフーリガンたちが大量虐殺のシュプレヒコールを叫び、アンネ・フランクのような「被害者」としてオランダ市民を激しく攻撃した恥知らずでばかげたアムステルダムの偽の「ポグロム」の話は、この忌まわしい現象の最近の例であった。

イスラエルが、絶え間ない犯罪と嘘によってその存続を左右されている国家であることは、まさに事実である。それゆえ、ICCのような機関に真実の断片が伝わっただけでも、違いが生じる。結局のところ、この恐ろしい政権とその忌まわしい犯罪を終わらせるには、それ以上のことが必要なのだ。だが、どんな些細なことでも助けになる。

それでも、イスラエルへの影響とその非常に危うい未来は別として―繰り返しになるが、イスラエル人は自分を責めるしかない―、西側諸国全体は、イスラエルの2人の主要な虐殺者に対するICCの逮捕状によって、さらに深刻な打撃を受けることになる。その主な理由は3つある。

第一に、少数の例外を除いて、西側の政治・メディア・エリートたちは、パレスチナ人とその近隣諸国、特にレバノン、シリア、イランに対するイスラエルの犯罪に大きく加担してきた。例えば、米国、英国、ドイツなどの国々は、資金、武器、直接的な軍事参加、外交的援護、そして最後に(とは言ってもその重要性は減じないが)、イスラエルによる犠牲者との連帯に対する残忍な抑圧によって、イスラエルのジェノサイドと戦争犯罪を執拗に支援してきた。彼らの司法制度、警察、主流メディアは、この共犯の道具となっている。そして、イスラエルに熱狂的に関わっているわけではなく、しばしばイスラエルの犯罪にさえ反対している一般大衆を前にして、これらのことはすべて行なわれている。

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ジェノサイドにおける彼らの卑劣な協力を隠蔽するために、西側のエリートたちは、イスラエルが想定する「生存権」(国際法の下では実際には存在しない権利)、イスラエルが主張する「自衛権」(占領者が被占領者に対して実際には持っておらず、いずれにせよジェノサイドを正当化することはできない権利)、そして最後に(とは言ってもその重要性は減じないが)、パレスチナ・レジスタンスが実際には犯していない犯罪 (赤ん坊の大量殺人と大量強姦) について延々と語ってきた。そして、イスラエル自身がハンニバル指令の下で、不明ではあるが確実にかなりの数の自国民を虐殺したという事実については頬かむりをしている。

言い換えれば、欧米のエリートたちは、大量虐殺を行なうイスラエルに隷従することで、自分たちに残っていた信用を単に傷つけただけでなく、ガザやベイルートの住宅ビルや難民テントのキャンプを米・イスラエルのバンカーバスター爆弾が消し去るように、信用を粉々にしてしまったのだ。

二番目に、信頼性の問題とは別に、優先順位の問題がある。パニックに陥った米国の戦争屋のリンゼイ・グラハム上院議員は、すでにXに深い不安を投稿している:ICCがネタニヤフとガラントを追うことができれば、「次は米国だ」と彼は恐れている。何たる発想! アメリカ政府の犯罪者でさえ、実際には他の人と同じ法律に従わなければならないかもしれない世界を発想している。グレアムは、長い間、冗談のような、それも非常に味気ない冗談のような人間だった。しかし、米国のエリートの多くは犯罪者であり、同様に訴追されなければならない、という彼の意図せぬ告白は、直感的に完全に正しい。

そしてそれは、アメリカの枠を超えている。例えば、ドイツのまだかろうじて首相であるオラフ・ショルツはどうだろう。彼は、あらゆる証拠に反してイスラエルの犯罪性を繰り返し否定し、つい最近、自国政府が大量虐殺を行うアパルトヘイト国家に武器を提供し続けていることを自慢したばかりだ。彼だけではない: ドイツでは、アナレーナ・バーボック外相とロベルト・ハーベック経済相がすぐに思い浮かぶ。イギリスでは、キーア・スターマー首相とデイヴィッド・ラミー外相が間違いなく心配しているはずだ。カナダには、ジャスティン・トルドー、メラニー・ジョリー、クリスティア・フリーランドがいる。

挙げればきりがない。いくつかの例外を除いて、西側の現在の支配者たちは、イスラエルに味方し、イスラエルが産んだ犠牲者に対して復讐心を燃やしている。彼らにも、彼らに従順に仕えてきた多くの官僚たちにも、誰も説明していないように見えるのは、1948年の基本的な国連ジェノサイド条約の下では、(第三条e)も明確に犯罪としてリストされているということだ。彼らが今、ネタニヤフとガラントを逮捕する法的義務を (行動ではなく言葉で) 認めようと認めまいと、彼らが今までに言ったこと、したこと、しなかったことに何の違いももたらさない。

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イスラエル政府の2人の犯罪者に対するICCの逮捕状が、イスラエルよりも西側にとってさらに大きなダメージを与える、第三の、そしておそらく最も根本的な理由は、西側のエリートたちが、本来パレスチナである場所を乗っ取った怪物国家との共生関係の中で生きることを選んだからである。イスラエルが取ってきた政治形態が概して犯罪的であったため、イスラエルは、イスラエルの指導者たちが逃げ切れる範囲内で常に国際法と基本的な道徳規範をひどく傷つけてきた。その規模は非常に大きい。

しかし、まさに西側集団こそが、イスラエルによる大量殺人をはじめ、考えつく限りのあらゆる犯罪や倒錯、そしてまともな人々が思いもつかないような多くの犯罪を野放しにしてきたのだ:故意に、組織的にジャーナリストを殺害し、犯罪のニュースを封じ込めたり、第一発見者を殺害することで最初に生き残った犠牲者が助けを見つけられないようにしたって? そんなことはイスラエルならできる。まず犠牲者を飢えさせ、それから少しずつ援助物資を入れ、それを手に入れようとするその犠牲者を罠にかけて虐殺したって? それもお安い御用だ。医者をレイプして殺したって? こんな悪行はイスラエルの独創性に任せておけば可能だ。

そしてこれらすべての悪行の後ろ盾になってきたのが、ほかでもない西側集団だ。傲慢にも人種差別丸出しに、西側外の世界は「ジャングル」であり、西側は「価値観」の「庭」を象徴する、と主張してはばからないそんな西側集団が、だ。アンソニー・レイクの言葉を借りれば、単に国際社会(それが何であろうと)だけでなく、人類の最も基本的な価値観を、あらゆる場所で攻撃してきたのが西側諸国とイスラエルなのだ。その一方で、自分たちの非人間的で忌まわしい野蛮さを、「ルール」と「秩序」の金字塔のように見せかけようとしている。西側諸国が衰退しつつあるのは、エリートたちの無能、腐敗、不誠実といった多くの理由がある。しかし、そのエリートたちがイスラエルと結んでいる倒錯した自殺協定は、それだけで西欧を崩壊させるのに十分だろう。
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漏洩文書により、英国軍の秘密組織が「ウクライナの戦闘継続」を企てていたことが発覚

<記事原文 寺島先生推薦>
Leaks expose secret British military cell plotting to ‘keep Ukraine fighting’
筆者:キット・クラレンバーグ(Kit Klarenberg)
出典:グレーゾーン 2024年11月16日
<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ> 2024年12月5日


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漏洩した文書には、英国軍の高官らがケルチ橋爆破事件の実行、ウクライナでの「グラディオ」型の残留部隊の秘密訓練、そしてロシアに対する代理戦争による生活水準の低下に向けて英国民を準備する共謀関係にあったことが示されている。

グレイゾーンが確認した電子メールと内部文書は、ウクライナ代理戦争を「どんな犠牲を払ってでも」激化させ、長期化させようと企んだ英国軍と諜報機関の老練家たちの陰謀の詳細を明らかにしている。2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻の直後に英国国防省の指示のもと召集されたこの組織は、自らを「アルケミー(錬金術)作戦」と呼んでいた。英国指導部がキエフとモスクワの和平交渉を妨害する中、この組織は「ロシアに戦略的な混乱や費用、摩擦を押し付けることで」ウクライナを戦い続けさせる一連の計画を提示した。

グレイゾーンが入手した漏洩文書は、英国のウクライナ政策の背後にある隠された手を暴露し、合法性の限界を超えた秘密作戦を通じて長期にわたる厳しい戦争を企てようとした経緯を異例の細かさで示している。

アルケミー作戦が提案した計画は、サイバー攻撃から「秘密作戦」、そしてあからさまなテロまで、考えられるあらゆる戦争分野に及んでいた。この秘密組織は、法的な嫌がらせやオンライン検閲の積極的な取り組みを通じて、グレイゾーンを含む独立系報道機関を「積極的に追及」し「解体」し、「閉鎖に追い込む」計画まで提案していた。この扇動的な計画は、英国の国家および国家安全保障組織の最上位層に伝えられ、明らかに好意的に受け止められていた。

英国国防省の高官が創設したアルケミー作戦は、西側諸国とロシアの全面戦争を望む老練軍人と諜報員で構成されている。中には、破壊工作をおこなう戦術についてウクライナ軍を秘密裏に訓練した者もいる。

国家安全保障陰謀団の構成員は、彼らが提案した作戦が英国法の限界を超えていることを暗黙のうちに認めていた。そのため彼らは、英国政府は目的を達成するために「法律を創造的に利用する用意」をすべきであり、ロシアに対する「英国の否認可能な作戦に対する法的制限」を削除する用意さえあるべきだ、と示唆した。

アルケミー作戦の最も過激な提案のいくつかはすでに実行されており、その多くは悲惨な結果を招いている。その中にはクリミア半島のケルチ橋を攻撃するという同組織の提案も含まれていた。なおロシアはこの攻撃を受けて、戦争を激化させ、ウクライナの電力基盤施設への痛烈な攻撃をおこなった。アルケミー作戦はまた、敵陣の背後で暗殺や破壊活動、テロ活動をおこなうために、ウクライナの非正規軍戦士による秘密のグラディオ軍を編成することも構想していた。

英国のキール・スターマー首相は、7月の選挙で「戦時首相」の役割を熱心に引き受けた直後に、アルケミー作戦の陰謀団の影響下に入ったようだ。しかし、スターマー首相は「必要な限り」ウクライナを支援すると誓った後、静かにその最大主義政策から撤退しつつある。キエフでは、ウクライナの人々がロンドンの「友人」がどのようにして自分たちをこの混乱に陥れたのか、そしてなぜ自分たちをそこから救い出せないのか、あるいは救い出そうとしないのか、ただ思案させられている。

アルケミー作戦に集まった英国の諜報員たちは、代理戦争が長く続くほど、ロシアのプーチン大統領の「国内外での信頼性が低下し、NATOと戦う能力が低下する」と推論した。今日、アルケミー作戦の策略は明らかに裏目に出ており、プーチン大統領はロシア国内で人気を保っているいっぽうで、崩壊しつつあるウクライナ軍は西側諸国による絶え間ない再軍備にもかかわらず、日々領土を失っている。しかし、ロンドンの戦争計画者らは、自分たちの悪魔的な提案を棚上げすることを拒否し、戦争の激化に固執し続けている。

英国、ロシアの「政権交代」で「一方的な主導権」を握る

アルケミー作戦は、英国常設統合司令部の長として「英国主導の合同および多国籍の海外軍事作戦の計画、実行、統合」を任されているチャーリー・スティックランド中将の個人的な指示で設立された。スティックランド中将は、漏洩した文書の中で、自分の家系が「代々続くカリブ海や世界各地の海賊の血筋」であることを自慢している。また同中将は電子メールの署名で、虹色の文字で「LGBTQ+の支持者」であると自らを名乗っている。

スティックランド中将と補佐官のエド・ハリス少佐は、グレイゾーンからの個人電話への電話には応答せず、ワッツアップを通じて送られた詳細な質問にも回答しなかった。


スティックランド中将は、ロシア軍がウクライナに最初の侵攻をおこなったわずか数日後の2022年2月26日に、アルケミー計画の最初の会議を招集した。会議の議事録によると、「一流の学者、作家、戦略家、計画者、世論調査員、情報伝達担当者、基礎情報科学者、技術者ら」が一堂に会し、「大戦略対策文書」を作成した、という。

この文書は、英国政府が「ウクライナでプーチン大統領を倒し、将来の開かれた国際秩序を再構築するための条件を整える」ための一連の提案から構成されていた。文書全体を通じて、この紛争における英国側の「主な取り組み」として「ウクライナの戦闘を継続させる」必要性が述べられていた。

スティックランド中将は2022年3月3日付けで英国軍の官僚に送った電子メールの中で、このアルケミー作戦対策文書は「『偏屈な考えを持つ人々』一団と私がやってきた悪ふざけ」の結果だと説明した。同中将は「この論文は英国政府高官や軍高官を含むあらゆる人々に見られ、好評を博した」ことに満足感を示していた。

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同計画責任者のドム・モリス氏が作成した、この取り組みの潜在的および確定した新兵を一覧表にしたエクセル文書には、軍高官のほか、民間部門や学術界の多数の人物の名前が挙がっている。現在キングス・カレッジの「大戦略センター」研究員であるモリス氏は、この文書では「民間指導者」として記されている。「軍指導者」の役割は、アフガニスタンでの「勇敢で際立った貢献」により2013年に大英帝国勲章を授与されたサイモン・スコット英国陸軍准将が担うことになっていた。

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情報作戦部門については、その時点ではまだ団員が決まっていなかった英国の第77心理作戦旅団の隊員が指揮を執る予定だった。情報作戦部門の参加者には、長年の英国心理作戦員で、「偽情報対策」分析会社ヴァレント・プロジェクト社の創設者であるアミル・カーン氏も名を連ねていた。

2021年、グレイゾーンは、当時のチャールズ皇太子がカーンのヴァレント・プロジェクト社に協力を依頼し、疑似社会主義のYouTube上の影響力の大きい発信者になりすまして、政府の不器用なコロナ対策に懐疑的な人々を攻撃させたことを暴露した。カーン氏は以前、シリアの政権交代を促す英国外務省の計画に参加していた。

アルケミー作戦がカーン氏を構成員として推してから数ヶ月後、グレイゾーンは、カーン氏が著名左派ジャーナリストのポール・メイソン氏と共謀してグレーゾーンを潰そうとしていたことを暴露した。流出したメールの1通には、カーン氏が「グレイゾーンを財政的に圧迫するための全面的な核攻撃」を提案していたことが示されている。新たに発見されたこの文書は、グレイゾーンを攻撃するという決定が英国政府の最高幹部の承認を得たことを示している。

「ウクライナ次章―年配者による大戦略対策文書」

アルケミー作戦の秘密作戦室では、長期戦への執着が急速に広まった。この組織の構成員は、スティクランド中将が「様々な人々が統合した組織」と表現した「年配者」が作成したとされる政策文書からヒントを得た。「年配者」とは、英国軍と強いつながりを持つ学者や防衛産業の人物の層を指していた。

スティックランド中将の監視下で作成された「ウクライナ次章―長老たちの大戦略対策文書」と題されたアルケミー作戦関連文書は、陰謀団の構成員がクレムリン内部での「宮廷クーデター」は避けられないことを確信していたことを示唆している。ロシアがウクライナ国内で苦戦している限り、英国の諜報機関は、ロシアが世界の舞台で「有能な国際的大国としての地位」がますます高まっていることに「挑戦する機会」を与えられる、と彼らは信じていた。

「小国との長期戦争はプーチンを愚か者に見せる」とアルケミー作戦関連文書にはある。「プーチンはカダフィの終焉が頭から離れず、自分が同じ目にあうことは避けたいだろう…戦争が長引くにつれ、財閥からの圧力は増すだろう。プーチンは財閥らに自分の権威を脅かす口実を与えたくないだろう」と。同文書は「長期戦争はプーチンの国際的信用に影響を与える」とし、「ウクライナを迅速に打ち負かすことに失敗すれば、ベラルーシやハンガリー、中国、インド、中東、ブラジルなどの新興富裕友好諸国からの信用を深刻に低下させるだろう」と論じた。

「最も重要なのは」、ロシアのウクライナへの長期にわたる関与が「NATOを勇気づける」とアルケミー作戦関連文書で主張されていたことだった。プーチンが東ドンバス地域で失敗し、政権崩壊の引き金になると確信したアルケミー計画の構成員は、その後「プーチン後のマーシャル・プラン(戦後の欧州復興計画)」を装って、ロシアを西側主導の金融秩序に吸収することを公然と夢想していた。特に興味深いのは、英国政府が「世界のエネルギーおよび商品市場」でロシア側と「再関与」する、とされている点だ。この記載は、西側が安価なロシア産ガスと小麦を欲していることを示唆している、と言える。

「秘密作戦」:ウクライナで「グラディオ作戦」テロ作戦が復活

ロシアのバルカン化を達成するために、アルケミー作戦の計画者は、第二次世界大戦後に共産主義の根付かないようにファシストの準軍事組織が西ヨーロッパ全土で偽旗テロ攻撃を実行した、CIAとNATOが画策した秘密作戦であるグラディオ作戦からヒントを得た。

アルケミー作戦の戦略文書には「秘密裏におこなわれる作戦」の可能性を詳述する部分があり、「『公式』以外のあらゆる方法で介入する必要性」を強調し、「情報化時代に合わせて更新される」ことになる「グラディオ部隊の手引書/非正規軍のための冊子」を明確に推奨していた。

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アルケミー作戦が提案したもう一つの策は、英国の「強力な」民間軍事会社(PMC)を「ロシアのワグナー民間軍事会社を凌ぐ」よう展開することだった。言い換えれば、同組織は、今は亡き司令官エフゲニー・プリゴジン氏が創設したロシア傭兵部隊に対抗する英国軍を設立することを目指していた。この目標には、「PMCとその他の非軍事的主体の活動を効果的に統合するための新しい教義、運用の概念、法的枠組み」の策定が必要だった。これらの指針では、「SAMS(IT関連の監視業務)や電脳、戦闘機、ドローンなどの高度な兵器」を使用できる英国の傭兵会社が「ウクライナ軍の運用、訓練、随伴」に雇用されることになる、とされていた。

これらの作戦はすべて、NATOの第5条の発動を避けるために「慎重な隠れ蓑を使って」英国政府が最終的に「支援し、指揮する」ことを意図していた。

壮大な戦略文書の作成後、スティックランド中将はアルケミー作戦の「横道に逸れた考えを持つ人々」からなる一団に、グラディオ型の作戦に関するさらなる提案を提出するよう依頼した。提出された提案の中には、「大胆な方法でケルチ橋を無力化し、クリミアへの道路と鉄道の接続、およびアゾフ海への海路の接続を妨害する」という「指令」があった。この非常に挑発的な計画の青写真は、ケルチ橋を無力化したトラック爆弾攻撃の直後の2022年10月にグレイゾーンによって暴露された。

アルケミー作戦の組織はまた、「ウクライナ特殊部隊の訓練による海洋主権回復―年配者」と題するパワーポイントのプレゼンテーションを作成し、「ロシア海軍を弱体化させ、ケルソンとウクライナ南部の戦いで新たな側面を開く」ために「英国装備を装備した軍の退役軍人によって英国で訓練された」1000人規模のウクライナ特殊部隊を編成する計画を概説していた。

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アルケミー作戦団は、プレゼンテーションの提出時までに少なくとも3か月間、この計画に取り組んでいた。提案書には、「迫撃砲や対戦車ミサイル、狙撃艇、崖からの攻撃、小型艇の訓練、爆破を含むすべての部隊兵器の使用」に関する12週間の基礎訓練に先立ち、「海外在住のウクライナ人とウクライナ国内の志願者」がすでに募集されていたと記されている。

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この計画では、特殊部隊を正式にウクライナ海軍に統合することが求められていた。アルケミー作戦は、将来の部隊は「戦力増強と高い機動性を発揮する」と豪語しているが、ロシアの「時代遅れの教義では、クリミアを標的とした奇襲作戦を実行する、意欲が高く装備の整った海軍部隊に苦戦するだろう」とのことだった。

さらに、「ロシア語が堪能で、秘密の潜入捜査に適していると判断された人物」、これには「女性工作員」も含まれ、「占領下のウクライナ南部とクリミアに潜入し、情報収集と主要インフラの破壊活動をおこなう」とも記載されていた。これらの人々はMI6の職員によって訓練を受ける、とされていた。このためにアルケミー作戦は英国政府に総額7350万ポンドを要求していた。「この計画は非常に準備が整っています。いつでも出動できます」とプレゼンテーションでは力強く宣言していた。

この巨額の金は、アルケミー作戦の構成員によって設立され、元MI6職員リチャード・トムリンソン氏が「SIS(戦略情報システム)の現場作戦訓練センター」と表現したフォートモンクトンからわずか15マイルの住所に登録されているエルダーズ・サービス社に支払われる予定だった。ウクライナでのグラディオ作戦の復活のために同社が英国政府からいくらの金銭を受け取ったかは不明である。エルダーズ・サービス社は、財務諸表を提出することなく、営業開始から1年も経たないうちに2023年3月に閉鎖された。

英国の諜報員がグレイゾーンに対する「行動」を呼び掛け

アルケミー作戦団の強気な態度の背後には、ウクライナとロシアを隔てる氷の国境地帯で西側の覇権が崩れつつあるという感覚があった。今年10月にロシアのカザンに集結し、米国主導の金融秩序に挑んだ BRICS 同盟の台頭に言及し、アルケミー作戦の計画者は、SWIFT(国際銀行間通信協会)が西側の反ロシア制裁によって「ゆっくりと、しかし必然的に」破壊されることになるとして、英国の指導層に「SWIFTIIに備える」よう促していた。

アルケミー作戦の分析家によると、世界中の国々は当然のことながら、安全に現金を保管し取引をおこなうための「米国以外の代替手段の必要性」を認識し始めるだろう、とのことだった。英国の諜報員は、珍しく政治的に冷静な態度を見せ、ロシアに対する制裁とウクライナ代理戦争が組み合わさることで消費財の価格が上昇し、「英国の有権者の財布に打撃を与える」と予測していた。

このことは、英国政府のウクライナに対する「強硬路線」が「国民の支持に対する脅威」となると彼らが警告していたことを示している。当然のことながら、「英国国内の世論」は日用品に高いお金を払うことに「うんざり」し、「妥協を求める圧力が高まる」ことになるだろう、と。

英国民を来たる嵐に備えさせるため、アルケミー作戦の首謀者たちは、彼らが「情報作戦」と平然と表現したものを提案したが、この作戦はより正確には、国家による国民向けの喧伝と国民内に混乱を引き起こす報道機関への悪意ある攻撃を組み合わせたもの、と表現できるだろう。

彼らが概説した任務には、ソーシャル・メディアに圧力をかけ、RTとスプートニクを禁止することで「ロシアの偽情報基盤組織を解体する」ことだけでなく、グレイゾーンのような批判的な独立系報道機関を標的にすることも含まれていた。

「これらの報道機関に対しては、さまざまな措置が講じられる可能性がある。最も明白なのは法的な措置だ。なぜなら、これらの報道機関の報道内容は、英国や米国、EUの報道機関関連法に頻繁に違反しているからだ」とアルケミー作戦は主張していた。

「被害者は現在、こうした報道機関による名誉毀損を無視する傾向がある。もし被害者がこうした報道機関を積極的に追及すれば、閉鎖を余儀なくされる可能性が高い」

この文書によれば、グレイゾーンはこれまで資金提供を「うまく隠蔽してきた」と主張されており、この報道機関がロシアやその他の敵国から秘密裏に資金提供を受けているという示唆があるが、これは完全に誤りだ。2023年5月にルートン国際空港でグレーゾーンの記者が拘束され、尋問された際、イギリスの対テロ警察がこのグレーゾーンへの資金提供の件について質問したのも、イギリス諜報機関の偏執的な空想によるものかもしれない。

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アルケミー作戦の陰謀者たちはロシアとの戦争において英国に主導権を担わせようとしている

アルケミー作戦は、報道機関の操作で主導的な役割を果たすことに加え、ウクライナでの戦争犯罪容疑でロシア政府を捜査・訴追するという国際刑事裁判所への提訴において英国を最前線に立たせようとした。

アルケミー作戦は、英国政府に対し、この代理戦争における「基礎情報と証拠の収集のための国際的な条件、収集の枠組み、資金提供を設定し」、英国の諜報員が旧ユーゴスラビア国際刑事裁判所(ICTY)に対しておこなったのと同様に、「戦争犯罪の捜査活動において、ICC(国際刑事裁判所)に情報を含むあらゆる可能な支援を提供する」よう提案していた。

この文書には名前は挙がっていないが、有名人のアマル・クルーニー氏を含む著名な英国の弁護士らが、ロシア当局者を戦争犯罪で訴追し、ICTYに相当するものを設立する取り組みの最前線に躍り出た。グレイゾーンのマックス・ブルメンソール氏が報じたように、英国はアマル・クルーニー氏の師であるカリム・カーン氏をICCの検察官に任命する上で重要な役割を果たした。

アルケミー作戦の挑発的な提案は、何らかの形でキール・スターマー首相の机に届いたようだ。NATO創設75周年首脳会談で、スターマー首相はウクライナ軍によるロシアへの徹底攻撃を声高に支持した。アルケミー作戦文書に見られるような攻撃的な言葉を繰り返し、同首相は「必要な期間、毎年30億ポンド相当の支援をウクライナに提供する」と誓った。

しかし、ロシアのクルスク地域でのウクライナ軍の攻勢が行き詰まる中、バイデン政権はロシア中心地への攻撃の呼びかけから距離を置いている。そんな中でモスクワでの戦いに固執する英国指導者にとって幸運なことに、アルケミー作戦による以下のような帳簿外の選択肢が手元に残されている。

アルケミー作戦が大戦略文書で指摘したように、「英国は常に多国間で行動することを目指しているが、多国間の合意に達するのに時間がかかり、困難であることが判明した場合は、一方的に主導権を握る用意がある」のだ。前線から1000マイル以上離れた安全な場所に隠れていた戦争の秘密支援者の間では、「ウクライナの戦闘継続に全力を尽くすべきだ」という意見が固く一致していた。
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ロシアのオレシュニクと中国の「オイル・マネーを使った脱ドル化作戦」に米国は太刀打できない

<記事原文 寺島先生推薦>
How Russia and China are rewiring Greek mythology
筆者:ペペ・エスコバル(Pepe Escobar)
出典:Strategic Culture Foundation 2024年11月29日
<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ> 2024年12月5日


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ロシアがギリシャ神話全知全能の神ゼウスの役割を刷新するいっぽうで、中国はギリシャ神話の商業の神ヘルメスの役割を刷新することに忙しい。

ああ、食器洗い機用の半導体チップ*が解き放った驚異。
*2022年のウクライナへの特別軍事作戦により西側から課された制裁のため、ロシアは軍事用の半導体が不足し、その不足分を家電用の半導体チップにより補ってきた状況があった。

神々の王ゼウスはなぜそれを予見できなかったのだろうか。ゼウスのもつ神聖な直感ならば、その先、オレシュニク(ロシア語でヘーゼルナッツを実らせるハシバミの木の意味を持つなんの怖さも滲ませない響きだが)を通じてロシアで彼の雷が再現されることを承知していたろうに。

神話は、その後の全ての現実を予示する。

さて、ここでニュートンの話をしよう。彼の公式によると、非常に高速で飛行する長さ1メートルのウラン弾は、6メートルの厚さの硬い岩を貫通することができる。 (BGMに英国のハードロックバンド「ディープ・パープル」の「ハイウェイ・スター」は如何?)。

毎秒1200メートルで飛行する弾頭は、46メートルの厚さのコンクリートを貫通する能力がある。

ここで、衝撃速度が音速を超える場合を想像していただきたい。当然、衝撃の深さは指数関数的に激しくなる。

非常に高速の衝撃により、前方にあるものはすべてガスに変わる。運動衝撃波は50メートルほどの深さまで到達し、地下深くに群がり、その跡にあるすべてのものを粉砕、破壊し、実際に内破する。

ドネプロペトロフスクのユジュマシュ工場の地下深くでまさにそのような事態が起こった。オレシュニクはこうした物理的原理を改良して考案された。そしてロシアはオレシュニクの最初の実験では、弾頭ではなく空砲だけを使った。

商品にご満足いただけなければ返金いたします

目を転じて、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領とカザフスタンのカシムジョマルト・トカエフ大統領がアスタナで直接会談し、CSTO(集団安全保障条約)内での協力強化に向けた新たな取り組みを含め、両国の戦略的友好関係を深めている様子を見てみよう。

さらに、カザフスタンはBRICSの友好国となるよう正式に招待された。

プーチン大統領は、オレシュニクとNATO代理戦争全般について、報道陣からかなりの数の質問に答えた。しかし、最も興味深かったのは、 CSTO集団安全保障理事会の出席者制限付き会議での演説だったと言えるだろう。その演説の一部は、長々と引用する価値がある。特に、大統領が「顧客満足度」について冗談を言ったからだ。

「ロシアのイスカンデル・ミサイル・システムとその改良型は、米国の3つのATACMSミサイル改良型すべてのロシア版です。弾頭の重量はTNT(トリニトロトルエン)換算でほぼ同じですが、イスカンデル・ミサイルの方が射程距離が長いです。新しい米国製のPrSMミサイルは、どの仕様でもロシアの同等品より優れていません。米国のストームシャドウ空中発射ミサイル、フランスのSCALP、ドイツのタウルスは、TNT換算で450~480キログラムの弾頭を持ち、射程は500~650キロメートルです。ドイツのタウルスミサイルの射程は650キロメートルです。Kh-101空中発射ミサイルは、これらのシステムのロシア版で、弾頭の威力では同等ですが、射程距離では各ヨーロッパ製システムを大幅に上回っています。先ほど述べたように、新しい米国製のPrSMミサイルは、JASSMミサイルと同様に、技術仕様の点でロシアの同等品より劣っています。我が国は潜在的敵国が使用している関連兵器システムの間違いのない数を把握しています。それらのうち、何個が保管施設に保管されているか、それらの正確な位置、ウクライナに供給された兵器の数、さらに何個が供給予定であるかを知っています。関連ミサイルシステムと関連機器の生産に関して言えば、ロシアはNATO諸国全体の生産量の合計の10倍を保有しています。来年、我々は生産量をさらに25~30%増やす予定です。キエフ政権の首謀者たちが、主人に別の種類の軍事装備を懇願しているのがわかります。カリブル、キンジャール、ジルコンの極超音速ミサイルシステムを忘れてはなりません。これらは、その技術仕様の点で世界でも比類のないものです。それらの生産も増加しており、全速力で進んでいます。このような製品が、この階級の製品メニューにまもなく追加されるかもしれません。いわば、顧客満足は保証されている、ということです。」

近づく隕石衝突

プーチン大統領は、オレシュニクの攻撃を隕石の衝突の衝撃に例え、「歴史から、どんな隕石がどこに落ち、どんな結果になったかはわかっています。時には湖が丸ごとできるほどでした」と述べた。同時に、彼は「新兵器を扱う際に宣伝は不適切です」と語気を強めた。オレシュニクの場合もまさにそうだった。

「我が国は実験を実施し、実際に結果が出るまで待ちました。それから発表をおこなったのです。」

これが、一見無害に見えるこのヘーゼルナッツ、つまりゼウスの雷の完全な複製品の実際の作成者であるミハイル・コヴァルチュク氏が、シリウス教育センターでおこなわれた第4回若手科学者会議の傍らでロシアのイズベスチヤ紙に語ったことの背景となっている。

コワルチュク氏はクルチャトフ研究所国立研究センターの所長である。同氏は「ロシアが持つ超高温に耐えられる素材によってオレシュニクシステムの開発が可能になり、他の種類の極超音速兵器の開発も可能になるでしょう」と述べた。

ロシアはどうやって他の国を追い抜くことができたのか、全世界が疑問に思っているかもしれない。「我が国は世界の5先進国の1つです。(中略)我が国は短期間で極超音速兵器を開発しました。これらはかつて1500度で機能した素材で、その後1800度、そして2000度でも機能できるようになりました。我が国はそれを実現しましたが、他の国はできませんでした」。

さらに、コヴァルチュク氏は「高温に耐えられる他の素材を使えば、さらに高度な兵器を作ることも可能になる。次の発展は、2500~3000度に耐えられる素材の開発になるはずです」と語った。

これにより、例えば、非常に低い高度でもマッハ15、あるいはマッハ20でミサイルを飛行させ、すでに実験済みのオレシュニクよりもさらに壊滅的な衝撃(プラズマ衝撃波を含む)を与えることが可能になる。

いっぽう、プーチン大統領は、国防省が現在、オレシュニクによるさらなる攻撃の「標的を選定中」であり、ウクライナの「意思決定中枢部」、工業生産拠点、軍事施設などが含まれている、とほぼ何気なく語った。NATOは聞いているのだろうか? 明らかに聞いていない。

最大のソフトパワーとは何か

ロシアがゼウスの役割を刷新する一方で、中国はヘルメスの役割を刷新することに忙しい。

中国当局は現在、サウジアラビアで米ドル建て債券を販売している。つまり、中国がこれらの債券を多く販売すればするほど、これらの「アラブ」米ドルは一帯一路(BRI)の有効諸国への融資として転用され、覇権国米国が支配するIMFと世界銀行への強要的な債務を返済できるようになる、ということだ。

最も素晴らしいのは、これらのBRI友好諸国が、中国へのドル建て負債を、ほかでもない人民元を使って、あるいは生産した商品や天然資源を使って返済できる点にある。

この戦略を「脱ドル化超高速道路」とでも呼ぼう。そして、中国の米ドル建て債券は金(きん)に裏付けられているのに対し、米ドル建て債券は紙幣印刷機に裏付けられていることをゆめゆめお忘れなく。

多額の負債を抱える中国について西側諸国があれこれ言っているのは全く無意味だ。中国の債務は、明らかに莫大だが、その大半は人民元建ての国内債務だ。中国は国内債券市場を利用して、企業が資金を投資し、実質的に危険なしでまともな利益を得られるよう支援している。そして、そのすべてが経済を刺激しながらおこなわれている。

中国政府は、サウジアラビアからオイル・マネーを引き出すために米ドル建て債券を発行するという素晴らしい名案を思いついた。そうすれば、オイル・マネーが直接米国に戻らなくなるからだ。多くの国が以前のように米国債を購入していないことは誰もが知っている。そのため、債券利回りが上昇する必要があることも。中国政府は、借入利回りを高く維持する方法を見つけた。それは米国に対する借入の費用を高くすることだ。

最も重要な方向性は、債券から調達した米ドルが、IMFや世界銀行からの法外な利子の融資を返済するための融資として、多くの南半球諸国に提供されるという点だ。中国政府は、20~30%の利子を支払う代わりに、これらの国々に債券金利(5%程度)を課すだけだ。つまり、中国がやっていることは、基本的に、南半球諸国のために安い米ドルを借りるための隠れ蓑になっているということだ。これが、最大限のソフトパワーの目的である。

南半球諸国が返済した米ドルはどうなるのか? 過剰流動性は米国を新たなインフレ危機に陥れるだろう。株式市場は活況を呈するだろうが、金利は上昇し、借り入れ費用はさらに高くなる。これに高関税が加わり、香港の賢い取引業者のことばを借りれば「完全なる嵐」だ。

ゼウスと美しいプレアデスのマイアの息子であるヘルメスを演じている中国へようこそ。ヘルメスが持つ無数の神性の中には、旅行者や道路と貿易 (まさにBRI!連結回廊!)、狡猾さ、外交、言語、書記、占星術などがある。ゼウスの伝令者であり個人的な使者でもあるヘルメスは、いたずら好きでもある(「サウジアラビアで米ドルを我が中国から買ってください」のようないたずらだ)。

ここでも、ロシアがチェスをしているのが見える。ロシアが何手もの先を考えてチェスをしているのに対し、中国は囲碁をしている。中国も同じように何手もの先を考えて囲碁をしている。そして、この両国の友好関係は、常に同期し、素敵なギリシャ神話が復活しているかのような様相を呈している。

ヘーゼルの木という名を持つ雷撃により、ロシアに対する覇権国米国の戦略は完全に死に体となった。ロシアを挑発して戦術核兵器で攻撃させることで得た「戦略的優位性」はもはやさらば、だ。今やロシアは時速1万2千キロでいつでもどこでも攻撃できる。しかも放射線も出さず、民間人の犠牲者も増やさずに、だ。

軍事的にも地政学的にも、衝撃的な波が押し寄せている。NATO属国諸国が何もわかっていないのも無理はない。ゼウスは冷えた赤ワインのブルネッロの瓶を飲みながら、ニヤニヤしながらチェス盤を見守っている。
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