■ スコアレスドロー反町監督率いる五輪代表の今年最初の試合は、アメリカ戦。Jリーグ開幕とアジア予選の初戦を目前に控えて、フィジカル的には一番厳しい段階での試合ではあるが、いい形で予選に望むためにも大事な試合である。
日本は、<3-4-3>の布陣。平山・カレン・李の3人のフォワードが起用された。1トップ2シャドー型の3トップならば記憶にあるが、いずれもが180cmを超える長身選手を並べたハイタワー型の3トップは、近年の日本代表では記憶になくて、非常に興味深いメンバー構成。中盤は、右に水野、左に本田圭で、ダブルボランチが梶山と本田拓。3バックは、水本・伊野波・青山で、GKが松井。攻守の中心であった、MF青山敏が風邪のため欠場した。
試合は、日本が平山を中心に攻め込むが、決定機で決められず最後まで得点は奪えなかった。アメリカもカウンターから日本ゴールを脅かすが、攻撃の人数を欠き、なかなかシュートチャンスを作れなかった。結局、スコアレスドローで試合を終えた。
■ 3トップの評価平山・カレン・李の3トップは、不発に終わった。前半の立ち上がりはいい形の連携からシュートチャンスを作っていたが、次第に勢いを失っていった。
これまでの、<3-6-1>の布陣では、1トップの平山の周囲に増田と苔口(谷口)が位置して、ボランチも含めて6枚の中盤の選手が代わる代わるゴール前に入り込んでいくスタイルで、このシステムも一定の成果を上げていたが、どうしてもゴール前が平山1枚という状況になっていて平山にかかる負担が大きかった。これを改善するための一つのアイディアが3トップだったが、考え方としては悪くない。
日本には、水野や本田圭といった優秀なサイドアタッカーがいるので、ゴール前に入り込んでいく選手が、常時3枚いるというのは非常に魅力的であり、この日も、ゴール前で迫力あるシーンを作り出した。3トップは今後に向けて新しいオプションになりそうである。
■ 見えたいくつかの課題3トップの配置は、中央に平山がいて、サイドに李とカレンがいることがほとんどであった。3人が中央に位置するのは好ましくないということで、李とカレンは広範囲に動いてチャンスを作ろうとしたが、それが逆に、両翼の水野と本田圭の活用するサイド奥のスペースを消してしまったような印象が残った。前半の中盤以降になると、アメリカはサイドにしっかりと人数を割くようになって、日本のサイド攻撃は硬直した。
中盤は、ダブルボランチに両翼の2人という、新しい形だったが、こちらもそれほど、うまく機能しなかった。この試合では、FWとMFの中間に位置して、これまでの試合で好プレーを見せていた増田をスタメンから外し、MFとDFのリンク役をしていた青山敏が欠場したことが影響したのか、DFとMFとFWが分断していた。最後まで、攻撃のリズムがつかめなかった。
ベンチには、MF谷口、MF上田、MF家長らが控えておりタレントは豊富であるが、まだ、反町監督が中盤の組み合わせを決めかねている印象である。
■ 李とカレン初めて五輪代表に選ばれたFW李は、あまりいい出来ではなかった。本来は、もっとスピードがあってダイナミックなプレーをするストライカーだが、この試合では、切れが感じられずほとんど持ち味は発揮できなかった。ただし、日本に帰化した末の代表入りという、特別なプレッシャーを抱えての代表デビューだったことを割り引いて考える必要があるように思う。
カレンは、昨シーズンよりも切れが出ていて、いい印象をもった。シュートシーンがほとんどなかったのは残念だが、(フリーで放ったヘディングシュートのみ)ドリブルで長距離を運べるのは魅力である。
■ 中心としての自覚が出てきた平山と梶山好調が伝えられていたFW平山だが、出来はよかった。3トップだったことで、守備面やポストプレーといったタスクの絶対量が減っていたこともあり、頻繁にシュートシーンに顔を出した。特に、後半に本田のクロスを合わせたヘディングは圧巻で、得点はなかったが十分なプレーを見せた。
同じFC東京のMF梶山も、いいプレーを見せた。平山ほどは話題にのぼっていなかったが、福西の加入もあって、キャンプから相当に気合が入っていたようで、落ち着きのないチームの中で、唯一、安心してボールを持てる選手だった。背番号も10番に代わって、五輪代表の中心は梶山であるということを、アピールした。
■ 出色の出来だった伊野波ただ1人、本職以外のポジションでプレーした伊野波だが、この試合では最も出来がよかった。二次攻撃のときの左右への散らしのパスが正確で、見事なロングパスを何度も通した。
日本代表にも招集されている伊野波だが、FC東京でも、ポジションを確保しているわけではなくて、左サイドアック・右サイドバック・ボランチ・センターバックと、いろいろな位置で起用されるが、それぞれのポジションで新しい一面を見せてくれる。かなり、引き出しの多い選手なのではないだろうか。
一方、活用できるスペースがなかったとはいえ、水野と本田圭のプレー自体は、それほどよくなかった。特に、本田は、ほとんど見せ場がなかった。すでに、Jリーグでの存在感を発揮する2人なので、硬直した状況は、彼らに打開してもらいたいところだ。
■ テストの意味と意義反町監督は、かなりテスト(=実験)が好きなようで、アメリカ戦でも3トップのテストに時間が費やされた。結局、3トップ自体はあまりうまく機能しなかったが、次回、3トップを試みるときのいいサンプルになって、収穫はあったのではないだろうか。
五輪代表の本番は、あくまでも北京五輪の本大会である。結果だけ求めるならば、統一したメンバーとシステムで試合を行った方が要領はいいだろう。しかしながら、テスト(実験)は、チームの立ち上がりのこの時期にしか出来ないものであり、この時期にしておかなければ将来的なふくらみが生まれてこない。どうしても代表チームには結果を求めがちになってしまうが、そのあたりは、冷静に判断しておきたい。
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