イスラエルと「新しい」中東
2023年5月18日
Salman Rafi Sheikh
New Eastern Outlook
2020年、アメリカの支援を受けたイスラエルがUAEや他の中東諸国とアブラハム合意に署名した際、イスラエル政府は中東和平プロセス軌道を進んでいるように見えた。3年後、中国によるイラン・サウジアラビア和解仲介成功が、中東地政学の現地および国際的動態を大幅に変えたため、もはやアメリカやイスラエルによって和平はもたらされない。現地では今や益々多くのアラブ諸国が「正常化」を追求している。国際的にワシントンではなく北京が主導的役割を果たしている。明らかな理由から北京を介して間接的にさえこれら進展に影響を与えられないため、イスラエルにとって問題は積み上がる。同時に、アブラハム合意の根底にある論理が、アラブ世界におけるイスラエルの影響力を拡大し、イランをさらに孤立させることだった場合、これはもはや不可能だ。
イラン・サウジアラビア和解は政治に影響を与えず、アブラハム合意延長の可能性に影響を与えないとアメリカとイスラエルの当局者は述べているが様々な協議にもかかわらず、合意は依然実現していない。主な理由の一つはアメリカの政権交代で、バイデン政権は中東和平と、サウジアラビアとの深い関係の両方に対するトランプ政権の熱意を共有していないが、サウジアラビアもこの合意に熱心ではない。言い換えれば、中国が主導する中東における「新しい」和平プロセスは、イスラエルにとって後退に他ならない。
これはイスラエルとの交渉に対するサウジアラビアの立場が過去数ヶ月程度で硬化した方法から最も明白だ。アメリカ主流メディアも報じている通り、サウジアラビアはワシントンに追加の安全保障を要求しているだけでなく、原子力発電所計画を進展させる支援も求めている。これはアメリカに対するサウジアラビア向け武器販売制限緩和というサウジアラビアの要求に加えてのものだ。これら要求はサウジアラビアの「パレスチナ人の独立願望に対処するため何かをする」というイスラエルに対する永続的要求への追加だ。
アメリカとイスラエルの観点からは、サウジアラビアは「正常化」と引き換えに、彼らから最大限の譲歩を引き出すためこのシナリオを利用しているだけだ。彼らの観点からは、中国の支援下、他の国々が政治的正常化を追求し続ける可能性が最も高い以上、イスラエルを当事者として排除する中東和平プロセスが最終的にこの地域でイスラエルの孤立につながることを考えると、彼らは最終的にサウジアラビア要求のいくつかに対処する必要があるかもしれない。皮肉なことにアメリカの立場を更に複雑にする可能性があるため、中国は最近、現実的な和平計画を策定すべく、イスラエル・パレスチナ間仲介を申し出た。アメリカがサウジアラビアを説得し損ねた場合、孤立化が悪化するのを恐れるイスラエルは、最終的に新しい和平プロセスで中国に頼る可能性がある。
これまでのところ、アメリカはこの方向、つまりイスラエル・サウジアラビアの和平プロセスに向けて前進できていない。実際サウジの要求に対処しそこねたことが、サウジを反対方向に押しやっている。アメリカ主流メディアで再び報道されているように、イスラエルに抵抗し、アメリカに「テロ集団」と指定されているパレスチナ民兵のハマスとの関係を正常化、効率化すべくサウジアラビアは動いている。ウォールストリート・ジャーナルが報じたように、サウジアラビアの動きは
「ハマスとの王国の和解努力は地域の当事者がシリアとの関係を再確立し、中国やロシアなどの国々が、不安定な地域での影響力を求めてアメリカに挑戦するにつれ、皇太子の外交的影響力を示すためのより大きな動きの一部だ。」
この動きは二つの基本的な理由からイスラエルにとって大きな後退だ。第一に、それはサウジアラビアがイスラエルとの交渉を無思慮に追求しているわけではないことを示している。実際サウジアラビアの動きは、イスラエルに困難な選択を強いるためイスラエルの地域スペースを押しつぶすのを目的としている。第二に、報道はサウジアラビアが中東でアメリカに積極的に対抗していることを示している。少なくとも明らかにワシントンとエルサレムがそう見なしているのと同様にサウジアラビアがハマスをテロ集団と見なさない以上、ハマスとの関係確立はアメリカと直接対峙する。
イスラエルの観点からは、これは重大な複雑化要因だ。以前アブラハム合意が交渉された際、根底にあった論理は、全ての「スンニ派アラブ諸国」とイスラエルの共通の敵としてのイランだった。中国外交はアラブ諸国のイランに対する見方を変えた。イランは依然ライバル国だが、これらアラブ諸国は、イランの地域的および核的な野心を抑制するため中国を間に挟んでいる。その結果、アラブ諸国は2020年に追求しようとしていたほど熱心にイスラエルとの関係を発展させる必要がなくなった。
最近アブラハム合意署名国であるUAE政府がイスラエルとの防衛協定を延期する決定から、これが明らかになった。この決定は先月イスラエル政府によるアル・アクサ・モスク襲撃、パレスチナの町への入植者による攻撃およびイスラエル財務大臣ベザレル・スモトリッチのフワラ町殲滅発言への対応として行われた。これらの事件はパレスチナ問題の重要性が続いていることを示しているかもしれないが首長国指導部がイスラエルから離れる、より決定的な理由は、かつてのライバルのイランやシリアやハマスなどとの関係を正常化する地政学的動態の変化に関係している。今や明らかに「新たな常態」だ。
イスラエルにとって、これは困難な状況だ。伝統的な地政学手法に固執し、積極的に利益を追求し、より広範な紛争のリスクを冒したり、「新しい」和平プロセスで中国に頼ったりすることが可能だ。しかし後者の選択肢は中東におけるアメリカの立場をさらに弱体化させるだろう。
Salman Rafi Sheikhは国際関係とパキスタンの外交、国内問題専門家。オンライン誌New Eastern Outlook独占記事。
記事原文のurl:https://journal-neo.org/2023/05/18/israel-and-the-new-middle-east/
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スコット・リッター氏、ロシア講演。最新はボルゴグラード。ママエフ・クルガン 母なる祖国像で有名。
Scott Ritter Extra Ep. 68: Ask the Inspector (Live from Volgograd) 1:22:08
サミット会場の宇品、中国との戦争を議論する場所として相応しい。Wikipediaにある
宇品港には続々と兵員が輸送され、この地区は大陸進出の前進基地とみなされた
孫崎享氏のメルマガ題名で、下記記事の一節を思い出した。政府が「敵」を押しつける手口を。
ゲーリングは言っています。「もちろん国民は戦争を望んではいない。なぜ畑にいる貧しいまぬけが、自分の命を戦争にさらそうなどと望むだろう?だが、結局、政策を決定するのは国家指導者だ。国民はいつでも指導者達の命令に従わせることができる。連中に、我々は攻撃されているのだと言って、平和主義者は愛国心に欠けると非難するだけで良いのだ。これはどこの国でも同様に機能する。」
今朝の孫崎享氏メルマガ題名
ギャラップ社は2023年「米国の最大の敵国はどこか-%-」中国50、ロシア32、北朝鮮7、イラン2、アフガニスタン1、イラク1以下。ウクライナでロシアを敵に大々的武器支援。にもかかわらず、中国の脅威が露より大。世論自然にできるのでなく政権側の働きかけ
「ゼレンスキー大統領が来日して21日のG7会議に参加! 不正蓄財の天才ゼレンスキーにさらなる支援をしてドブに金を捨てるのか!?」
※【IWJ号外】G7広島サミットの招待国、インドのモディ首相が、来日直前インタビューで「民主主義(G7中心)と権威主義(中露中心)の二極」のどちらにつくのか、という選択を拒否!
https://iwj.co.jp/wj/open/archives/516087
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