ロシアとの戦争はアメリカとNATOが今まで経験したどれとも違うはず
スコット・リッター
2022年2月4日
RT
最近ハンガリーのオルバーン・ヴィクトル首相のモスクワ訪問時に行われた記者会見で、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が、NATOの拡大継続とウクライナが太西洋両岸連合に加入した場合、あり得る結果について語った。
「彼ら[NATO]の主要課題はロシアの発展を阻止することだ」とプーチンは言った。「ウクライナは、この狙いを実現する手段に過ぎない。彼らは我々を何らかの武力衝突に引き込み、今アメリカで語られている非常に厳しい制裁を課すようヨーロッパ同盟諸国を強いることが出来る」と指摘した。「あるいは彼らはウクライナをNATOに引き入れ、そこに攻撃兵器システムを配備し、一部の連中に、ドンバスあるいはクリミア問題を武力で解決し、我々を武力衝突に引き込むようけしかけることができる。」
プーチンは続けた。「ウクライナがNATO加盟国で、ポーランドやルーマニアと全く同様、兵器を注ぎ込まれ、最新技術のミサイル・システムがあると想像しよう。ウクライナが、ドンバスは言うまでもなく、クリミア半島で作戦開始するのを誰が阻止するだろう?ウクライナがNATO加盟国で、このような戦闘行動を思い切ってすると想像しよう。我々はNATOブロックと戦わなければならないのだろうか?それについて誰か何か考えただろうか?そうは思われない。」
だが、ウクライナを巡るロシアの懸念を表現するこれらの言葉は「鶏小屋のてっぺんでニワトリが怖いと絶叫する」キツネにたとえて「事実の声明として報じられるべきではない」と言ったホワイトハウス報道官ジェン・サキに無視された。
だが、サキ報道官の発言は現実から乖離している。ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領政権の主目的はクリミア半島の「非占領」と彼が呼ぶものだ。この目的は、過去「我々の取り組みの相乗効果が、我々の半島の返還を交渉するようロシアに強いるはずだ」と外交的に表現されてきたが、クリミア半島支配奪還に精力を傾けているウクライナのフォーラム、クリミア・プラットホームで、現実には、彼の返還戦略は純粋に軍事的なもので、ロシアは「軍事的敵国」とみなされ、返還はNATO加盟を通してのみ実現できるとゼレンスキーは述べている。
いかにして軍事的手段を使って、この狙いを実現するかというゼレンスキー計画は説明されていない。表向きは防衛同盟のNATOは、ロシアのクリミア半島を無理矢理占領するためのどんな攻撃的軍事行動も始めない可能性が高い。実際、ウクライナ加盟の条件は、もし認められるとして、ウクライナ加盟時、事実上、戦争状態が存在してしまうクリミア半島状況への対応として、NATOの集団的防衛に関連する第5条の制限に関して、多少の文言を含む必要があるはずだ。
最もありそうなシナリオは、東ヨーロッパに配備されたような「戦闘集団」がウクライナ領に「仕掛け線」部隊として配備され、ウクライナ領空の安全を確保するため最新の航空防衛が、前方展開戦力として配置されるNATO航空機と組み合わせ、ウクライナを急速にNATO保護の「傘」の下におくことだろう。
この傘が確立された途端、ウクライナは、2015年以来CIAから獲得した不正規戦能力を活用して、特に「ロシア人を殺す」よう意図された反乱を始めるため、クリミア半島のロシア占領と呼ぶものに対しハイブリッド紛争を始めるよう激励されたと感じるはずだ。
ウクライナがクリミア半島でゲリラ戦を実行する中、ロシアが座視しているという考えはばかばかしい。このようなシナリオに直面すれば、ロシアは報復として非正規戦能力を行使する可能性が極めて高い。ウクライナは、もちろん非難の声を上げ、NATOは第5条の下、集団的防衛の義務に直面するはずだ。要するにNATOは対ロシア戦争になるはずだ。
これは無駄な憶測ではない。進行中のウクライナ危機に応じて約3,000人のアメリカ兵をヨーロッパに派遣する最近の決定を説明する際、ジョー・バイデン大統領は「彼[プーチン]が攻撃的行動をする限り、東ヨーロッパのNATO同盟諸国に、我々がそこにいて、第5条は神聖な義務だと言って安心するよう再度保証するつもりだ。」と宣言した。
バイデン発言は、去年6月15日、NATO本部への初訪問の際になされた発言を反映している。当時、バイデンはイェンス・ストルテンベルグNATO事務局長と座り、NATO憲章の第5条へのアメリカの誓約を強調した。「第5条を我々は神聖な義務と考える」とバイデンは言った。「私はNATOに、アメリカがそこにいると知って欲しい。」
NATOとウクライナに関するバイデンの意見は、バラク・オバマ下の副大統領としての経験から引き出される。2015年、当時の国防次官ボブ・ワークが記者団に言った「オバマ大統領が言った通り、ウクライナは自身の未来を選択可能であるべきだ。我々は勢力圏に関するどんな話も拒否する。エストニアで昨年9月演説し、大統領はロシア侵略に直面しての我々のNATO同盟諸国への約束が変わらないと明らかにした。彼が言ったように、この同盟には古い加盟国がなく、新しい加盟国もない。下位パートナーがなく、上位パートナーもいない。皆同盟諸国だ、実に単純。我々は全ての同盟諸国の領土保全を防衛する。」
この防衛は何を意味するだろう?かつてソ連軍と戦うべく訓練を受けた者として、私はロシアとの戦争は、米軍がこれまで経験したどれとも違うはずだと証言できる。米軍はロシア軍と戦えるよう組織されても、訓練されても、装備されてもいない。大規模総合武力紛争を支えられる教義もない。もしアメリカがロシアと従来の地上戦に引き込まれたら、アメリカ軍史上未曾有の規模の敗北に直面したことに気づくはずだ。要するに総崩れ。
私の話を信じてはいけない。2016、当時の中将H.R.マクマスターが、東ウクライナでの戦闘から学んだ教訓を研究するため2015年に始めたロシア新世代戦争研究の結果について語り、ロシアは大砲火力で優位で、戦闘車両で優位で、無人飛行機(UAV)の戦術的効果のための高度な使用を学んでいるとワシントンの戦略国際問題研究所CSISの聴衆に言った。「米軍がロシアとの地上戦をするようなことになったら」マクマスターは言った。「彼らは不都合で冷厳な現実を突然知ることになるはずだ。」
要するに、彼らはこてんぱんにやられるはずだ。
アフガニスタン、イラクとシリアでのアメリカの20年の中東における不幸な出来事は、もはや対等レベルの相手を戦場で負かすことができない軍を産み出した。この現実は2017年、NATO緊急時待機軍の中心的なアメリカ部隊である米軍第173空挺旅団に行われた研究で明らかになった。この研究は、ヨーロッパの米軍は、ロシアからの軍事攻撃に直面するのに、装備不十分で、人手不足で、十分組織化されていないことを見いだした。もし彼らが、特にアメリカ/NATOの脅威を打倒できるよう組織化され、訓練されたロシア軍と対決すれば、存続能力ある航空防衛と電子戦能力の欠如が、衛星通信とGPSナビゲーションシステムへの過剰依存と相まって、米軍の素早い段階的破壊をもたらすだろう。
問題は質的なだけではなく、量的なものもある。たとえ米軍がロシアという敵に直接対決できたとしても(そうできないのだが)、どんな持続する戦闘や作戦でも生き残る大きさに欠けている。米軍がイラクとアフガニスタンで行った小規模紛争は、全てのアメリカ人の命が貴重で、彼らが可能な限り短時間で救命治療を受けられるよう負傷者を避難させるため、あらゆる努力がなされるという考えのもとでうち立てられた組織的気風を作りだした。この概念は戦争が行われる環境をアメリカが支配できる場所では実行可能だったかもしれない。だがそれは大規模総合武力戦争では、ただの夢物語だ。救出のため飛ぶ医療救助ヘリコプターはないだろう。たとえ飛ばしても撃墜されるだろう。野戦救急車はないだろう。たとえ現場に到着しても、彼らは即座に破壊させられるだろう。野戦病院はないだろう。たとえ設置されても、ロシア機動部隊に占領されるだろう。
あるだろうものは死と破壊、しかも大量だ。マクマスターのロシア戦争研究のきっかけになった出来事の一つは、2015年早々ロシア砲撃によるウクライナ混成旅団の破壊だった。これは、もちろん、あらゆる類似のアメリカ戦闘隊形の運命だ。配備された大砲システムの数でも、弾薬の致死性の上でも、ロシアが大砲火力で享受する優位は圧倒的だ。
米空軍は、どんな戦場の上でも領空で戦いを開始することが可能かもしれないが、イラクとアフガニスタンでの作戦でアメリカ軍が享受した完全制空権のようなものは何もないだろう。空域は非常に能力があるロシア空軍と争うことになり、ロシア地上部隊は、アメリカ、NATOいずれも今まで直面したことがない航空防衛の傘の下で活動するだろう。窮地に立たされたアメリカ部隊の救出に来る近い空挺部隊はないだろう。地上勢力は孤立するだろう。
ロシアの電子戦能力における圧倒的優位のため、地上の米軍は耳が聞こえず、話すこともできず、彼らの周囲で起きていることが見えず、通信し、諜報情報を受け取り、無線も、電子システムも兵器が機能を停止するので、活動さえできないという現実によって孤立感は深まるだろう。
ロシアとのどんな戦争でも多数のアメリカ兵士が虐殺されことになるだろう。1980年代の昔、それがソ連の脅威に対する近代的戦闘の現実だったので、定期的に30-40パーセントの喪失を受け入れて戦いを続けるよう我々は訓練を受けていた。当時、我々は事実上、部隊の規模、構成、能力に関し、ソ連と対等だった。要するに、負けずに、あるいはそれ以上にやりかえすことができていた。
それはロシアに対するどんなヨーロッパ戦争でも当てはまらないはずだ。ロシアの長い砲撃射程のため、どんなロシアの敵とでも交戦する前に、アメリカは軍隊の大半を失うだろう。敵と交戦した時でさえ、アメリカがイラクやタリバン反抗分子やISISテロリストに対して享受した優位は過去のものだ。我々の戦術はもはや標準に達していない。接近戦があれば、極めて暴力的なものとなり、アメリカは大半の場合、敗北側になるだろう。
たとえアメリカが対等レベルの歩兵隊に対しする戦術的交戦で、たまたま勝つのに成功したとしても、それはロシアが投入する戦車や装甲戦闘用車両の圧倒的な数に対抗手段がない。たとえアメリカ地上部隊が所有する対戦車火器が近代的ロシア戦車に対して効果的だったとしても(経験が、おそらくそうでないことを示唆する)アメリカ部隊は直面するロシア人の大量戦闘力に圧倒されるだろう。
1980年代、私はカリフォルニア州フォート・アーウィンの全国訓練センターで、特別に訓練された米軍部隊「OPFOR」が実行するソ連式攻撃に参加する機会があった。二つのソ連風機械化歩兵連隊が米軍機械化歩兵旅団に攻撃した。争いはおよそ午前2時に始まった。午前5時30分までに、米国旅団が破壊され、ソ連が標的を掌握して終わった。自分の陣地に170台の装甲車両が迫ってくるのは敗北をほとんど避けられなくするものがある。
これはロシアとの戦争の様相だ。それはウクライナに限定されず、バルト諸国、ポーランド、ルーマニアなどの戦場に及ぶ。それはヨーロッパのあらゆる深部、NATO飛行場、貯蔵所と港に対するロシア攻撃を伴うだろう。
これが、アメリカとNATOがNATO憲章第5条の「神聖な義務」をウクライナに適用しようと努めた場合に起きることだ。それは要するに、自殺協定だ。
スコット・リッターは元米海兵隊情報部員で「'SCORPION KING: America's Suicidal Embrace of Nuclear Weapons from FDR to Trump.' サソリ王:フランクリン・ルーズベルトからトランプまで、アメリカの自殺的な核兵器抱擁」の著者。彼は国連武器査察官としてソ連でのINF条約実施の査察官を務め、湾岸戦争中、シュワルツコフ大将スタッフを、1991年-1998年、国連の兵器査察官を勤めた。ツイッター@RealScottRitterで彼をフォローする。
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記事原文のurl:https://www.rt.com/op-ed/548322-war-russia-us-nato/
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プーチン大統領、二つの国の独立を認めた。
Putin signs ‘immediate’ recognition of Donbass regions RT
今朝の孫崎氏メルマガ題名
ウクライナ情勢新展開。プーチン大統領はウクライナ東部二地域の「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」の二地域の独立を承認。かつ同地域の平和維持を目的としてロシア軍を派遣。ソ連崩壊後、欧州における最大の軍事緊張。
UIチャンネル
日刊IWJガイドも
ところで、クリス・ヘッジズ氏、日本語も読めるのだろうか?と不思議に思えた。
『ロバート・オッペンハイマー 愚者としての科学者 (ちくま学芸文庫)』の文庫版あとがき(444ページ)に最近刊行された好著としてあげられている本のうち、
K・バード、M・J・シャーウィン著『The Triumph and Tragedy of J. ROBERT OPPENHEIMER』の著者Kai Birdに、彼が司会をしているRT番組On Contactでインタビューしている。Oppenheimer & the bomb culture "OPPENHEIMER AND BOMB"
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