ノルド・ストリーム2に対するアメリカ制裁はトランプの経済的自殺?
2019年12月25日
ピーター・ケーニッヒ
New Eastern Outlook
次々の、そして今ロシア・ドイツのガスパイプライン・ノルドストリーム2に対する制裁が、もちろん彼自身にとってではなく、アメリカ合州国にとって経済的自殺になるのをトランプは本当に分かっていないのだろうか? 彼は、ロシアだけでなく、1250kmパイプラインの最終段階に共同で取り組んでいる、ロシアやドイツや、あらゆる国の全ての企業、建設会社も罰しようとしているのだ。
ノルドストリーム2は、ロシアのキンギセップからドイツのバルト海岸グライフスヴァルトに至る海底パイプラインだ。費用は1000億米ドル以上と見積もられている。それは(地図参照)ノルドストリーム1に並行しており、特にドイツが核エネルギーから離脱した後、ドイツのエネルギーを安定させるはずだ。2011年3月の福島原発事故後、既にドイツは17基の原子炉の8基を永久停止し、2022年末までに残りを閉鎖すると誓っている。
約1,250キロの二本のパイプラインが並列にバルト海海底を走り、ロシアは既にノルトストリーム1を通してドイツに配送しているのと、ほぼ同じ量、ノルドストリーム2よって、550億立方メートル(m3)の液化天然ガス(LNG)を供給する予定だ。ノルドストリーム2は、2020年半ばに稼働開始予定だ。
パイプラインは90%完成しており、何事があろうとも止められるまい。最悪の状況となった場合、ヨーロッパ企業が制裁の恫喝で辞めれば、ロシアは自身の船と建設能力で仕事を完成できるとロシア大統領報道官ペスコフ氏は述べている。
トランプ大統領はそれを知っている。すると、なぜ制裁を押し付けるのだろう? 一社か二社の「協力企業」が環境上より良いロシア・ガス離脱し、アメリカの巨大抽出企業で働きたいと望むだろうか? 確かにそれが起きる危険はある。だがそれはどれほどありそうだろう?
常識ある読者がお考えになるよりは、ありそうだ。プロジェクトのパイプライン敷設という重要な部分は、制裁で直接影響を受けるスイス-オランダ企業Allseasが行っている。結果的に、Allseasは12月21日土曜、仕事をしばらく見合わせた。彼らは「アメリカとの法律的、専門的、環境問題が解明されるまで」と言う。他の参加企業はロシアのガスプロム、ヨーロッパのOMV、Wintershall Dea、Engie、Uniperとシェルだ。これまでのところ、彼らは制裁の恫喝に反応しなかった。
***
12月17日、上院は、ドイツであれ、どの国であれ、ノルドストリーム2パイプライン建設に貢献する、いかなる企業も罰する制裁法案を通過させた。二つの主権国家の間の事業/取り引きに干渉する合法性やアメリカの権利を問題にしてはいけない。それは法外だ。だがさらに法外なのは、190以上の国連加盟国が(ほとんど)沈黙していることだ。彼らの多くもアメリカ制裁の被害者だ。だが大部分は、ワシントンが罰せられずに国際法を破ることへの返答として、平和的にさえ、逆「制裁」さえしないのだ。
制裁が発効するのは、このアメリカ法案が署名された30日後でしかなく、つまり、パイプライン事業が終了しているだろうことを意味する。だが、我々が知っている通り、アメリカの場合、いかなる規則も実行可能だったり、信頼可能だったりせず、制裁はさかのぼって適用されるかもしれないのだ。
今回に限り、メルケル女史は断固たる態度で臨むように思われる。彼女は「アメリカ制裁はノルドストリーム2プロジェクトを止めない」と言い、プーチン大統領もそう言っている。ロシアのセルゲイ・ラブロフ外務大臣は「制裁や最後通牒や恫喝を課すことで、アメリカ外交は恫喝に限定されている」と言って、アメリカを酷評した。ドイツのハイコマース外務大臣は「ヨーロッパのエネルギー政策は、アメリカではなく、ヨーロッパで決定される。」と付け加えた。
ドイツ-ロシア商工会議所は、このプロジェクトはドイツの経済的権益とエネルギー安全保障の役に立つと述べ、アメリカ合州国に対す報復制裁を要求し、極めて強い姿勢を示した。そう報復制裁! だがヨーロッパに、そうする勇気があるだろうか。アメリカ商品に対する関税や、特定アメリカ商品、例えば自動車やiPhone輸入停止など有意義な制裁で。
アメリカは、ドイツの環境規則に違反し、ロシアのLNGよりずっと高価な抽出ガス販売を望んでいるだけではない。同様、あるいはより重要なことは、ワシントンがドイツとロシア間にもう一つのくさびを打ち込みたいと望んでいるのだ。これはうまく行くまい。
ドイツ、特にドイツ実業界は、中国にまで至るユーラシアの巨大で広大な陸地ロシアがドイツだけでなく、ヨーロッパ全体にとって、うってつけの市場であることを認識している。輝ける二つの海の間の優位な位置から世界を支配し、優雅な暮らしをすることを狙って、イギリスが大西洋を横断し、北アメリカを征服し、何百万人もの原住民を殺して、帝国を移植する前は何百年もそうだったのだ。
それはほぼうまく機能した。少なくともしばらくの間。だが今アメリカの横柄や貪欲や世界中での暴力は、裏目に出ている。世界はアメリカの例外主義にうんざりしている。ワシントンの気まぐれに屈しない、あらゆる国に対する、比較的最近の、無差別、無制限の制裁プログラムは経済戦争をもたらした。それは引き付ける国々より多くの同盟者を追い払っている。だから、それはアメリカの経済自殺を意味している。
アメリカ経済は金融覇権と戦争に依存しているのだから、それはアメリカ経済の緩やかな落下を意味する。それは多くの人々が望んでいるように突然の崩壊ではないかもしれず、むしろアメリカの筋肉の遅いながら着実な消失で、依然米ドルに依存している国々を傷つけないよう、彼らに、市場や準備金を多角化する時間と機会を与えるための、まさにあるべき形なのだ。
***
ノルドストリーム2に対するアメリカのめちゃくちゃな制裁は一体何を意味するのだろう。国務省の事前のヒントによれば、プロジェクトに関係する個人のアメリカ・ビザが無効にされ、財産が差し押さえられる可能性がある。アメリカ・ビザが無効にされる? それが何だろう。だが財産「差し押さえ」というのは、アメリカだけでなく、2017年初めから、ベネズエラが徹底的なアメリカ資産没収により、約1300億ドル失ったように、世界中至るところで財産が、アメリカ当局に実質的に没収され、盗まれることを意味する。
米ドルを基本にしている国のどの国であれ干渉できる、不換米ドルを基盤とする経済に、欧米が依然支配されているがゆえに、この全てが可能なのだ。その意味で、アメリカ制裁には肯定的な長期的影響がある。制裁は、ニセ米ドル経済から、中国元やロシア・ルーブルのような金に保証された通貨を持った、東の強い堅実な生産を基本とする経済に向かって、敵も同盟国も、離脱させてしまうのだ。
トランプと、トランプの背後で糸をあやつる金融オリガルヒ全員が、この中長期的影響を理解できないのには、当惑し、肝を潰すばかりだ。彼らは聖域の「例外主義」を本当に信じていて、最高の横柄さから、制裁される国々が東の選択肢を見て、それで生きられると悟っても、世界は制裁に、はめられ続けると期待しているのだろうか? それとも、自分が万事休す状態なのは分かってはいるが、没落しながら死に瀕した獣のように、できるだけ多くの国々を一緒に引きずりこもうとしているのだろうか?
***
例外的な国アメリカは、常に同じ主張をする。お前は我々の味方か敵か。想像できたことだが、バルト諸国とポーランドは、反ロシア、反EUで、それゆえ親米だ。ブリュッセルは、2020年から、EUの国々に、1120億m3のアメリカの水圧破砕LNGを売る合意を発表した。アメリカはそれを「自由ガス」と呼んでいる。2003年、アメリカの一方的なイラク侵略で、フランスがワシントンに反対した際、フレンチ・フライの代わりに「自由フライ」と呼んだのを思い出させる。覚えておられるだろうか。同じことだ。いまだに、人々が「アメリカ製の自由」が一体何を意味するか知らないかのように。
第二次世界大戦でヒトラーのドイツに勝利する上で、アメリカと西洋同盟諸国ではなく、ロシア、当時のソ連が決定的要因だったのだから、ヨーロッパの他の国々も、ロシアには多少の恩義があるのを悟っているかも知れない。
***
ノルドストリーム2に反対して戦うワシントンの主張の一つは、ヨーロッパへのロシア・ガス通過で毎年儲ける20-30億ドルを失ってキエフが破産することから、ウクライナをアメリカは救いたいためだと言う。それは、新パイプラインが、ウクライナを迂回して、ウクライナから、高額の通過料金を奪うことを意味する。この議論は何年もの法廷闘争と交渉の後、2019年12月31日に期限が切れる現在のガス通過協定延長で、キエフとの歴史的協定にロシアが署名した後、語られなくなっていたものだ。合意は、年間20から30億ドルの通過料金を復活させるものだ。加えて、プーチンは、ウクライナに対し、国内消費用の天然ガスに対し、ロシアが25%の特別割引を与える用意があるのを確認している。何世紀にもわたり、自国が不可欠な一部だったロシアに、最も醜悪な形で背中を向けた国に対し、プーチンにしてはかなりの譲歩だ。平和に向けたロシアの称賛に値する動きだ。
ヨーロッパへの全てのロシア・ガスの50%以上がウクライナ経由で流れ続けるだろうが、これは1100億m3 /年以上だ。ロシア、ドイツ両国は、ノルドストリーム2は、ヨーロッパへの安定供給を保証するための補完経路と意図されていると常に主張しており、ウクライナ領域を通過するものに取って代わることはあるまい。
ロシアとウクライナと欧州委員会でまとまったばかりの合意は、アメリカ制裁に影響を与えるだろうか?アメリカがヨーロッパ市場以上に望んでいるのは、もちろん見込みのない取り組みだが、ヨーロッパをロシアから引き離すこと、より広い意味では、中国を含め、ユーラシアから引き離すことなのだから、そうな可能性は極めて低い。
重要なのは次の疑問だ。ドイツやEUは、なぜ対抗制裁でワシントンを脅さないのだろう?何が怖いのだろう?このような処置を許さないはずのEUを運営しているのはNATOではないだろうか。違うだろうか? NATO諸国は、彼らの中で、ドイツにつくか、アメリカに制裁を課するEUかで既に分裂しており、NATOの反対で、NATO分裂になるかもしれない。まだヨーロッパはこの一歩の準備ができていない。
結論として、アメリカは、ノルドストリーム2を、制裁で本気で止めようと思っているのだろうか、それとも、経済的いじめで「誰がアメリカ側で、誰がアメリカに反対か」の動向や、東に対する戦いで、西ヨーロッパを服従させための戦略展開(原文のまま)にワシントンが適用できるかもしれない臆面もない、いじめの限界が一体どこにあるか教訓を得ようとしているのだろうか。これも、ワシントンもトランプの人形師も知っているに違いない失敗する考えだ。没落するアメリカの暗い運命を先のばしにするだけだ。
Peter Koenigは経済学者、地政学専門家。彼は世界銀行で30年間働いた経験に基づいた経済スリラー「Implosion - An Economic Thriller about War、Environmental Destruction and Corporate Greed」の著者。オンライン誌New Eastern Outlook独占記事。
記事原文のurl:https://journal-neo.org/2019/12/25/nord-stream-2-us-sanctions-trump-s-economic-suicide/
----------
呆導番組特集版、怖いも見たさに、ちらり見てしまった。「提灯持ちサクラ司会者」が発言者の一人として座っているだけでお里が知れる。アメリカが主導したウクライナ・クーデターには一切触れず、クリミア占領ばかり言い立てる下劣洗脳。ロシア・バッシング、中国バッシングをしていれば傀儡政権はおよろこびだ。その点、72時間テレビや居酒屋放浪やボクシングの類は無害。傀儡政府ヨイショとは、ほぼ無関係。
多少は正気でいたいので、大本営広報部ではないものを拝見予定。
IWJへの寄付・カンパ 貧者の一灯、雀の涙しか協力できないのが残念。
2019年-2020年末年始は是非IWJをご覧ください!! 本日は午後2時より岩上安身による作家・歴史評論家・原田伊織氏へのインタビュー、午後5時より「拉致被害者家族会」元事務局長・蓮池透氏へのインタビュー、午後7時より岩上安身による島根大学名誉教授・井上寛司氏へのインタビューを再配信!
最近のコメント