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2017年3月26日 (日)

中国・ロシアの戦略的な北極地方協力

2017年3月21日
F. William Engdahl
New Eastern Outlook

ロシアの北極地方や、極北のムルマンスク半島における、最新の鉄道路線、深水港や採掘インフラ建設への協力は、中国とロシアを結束させる新たな戦略的要素となりつつある。その潜在的重要性は吟味に値する。

3月29日、中国政府と私企業の高官代表団が、ロシア政府の相手方と、白海沿岸、北ドヴィナ川河口の由緒ある都市アルハンゲリスクで会談する。ロシア砕氷船の技術進歩のおかげで、現在、船舶が通年航海できるので、アルハンゲリスクは戦略的に重要だ。3月29日の会合は、ロシアが2010年に「北極地方: 対話フォーラム」を立ち上げて以来四度目の催しだ。議題の中には、ベルコムール鉄道とアルハンゲリスク深水港を含むプロジェクト開発における中国-ロシア協力がある。

総員70人の中国代表団を率いるのは、中国共産党中央政治局委員で主要な中国政治家、国務院副総理の汪洋だ。ロシア代表団を率いるのは、ドミトリー・ロゴージン副首相だ。ロゴージンは、現在、ロシアの北極地方委員会委員長だ。これまで6年間、彼はロシアの国防・宇宙産業に責任を負う副首相という重要な地位に就いている。彼は、アメリカ・ペンタゴンDARPAのロシア版である、ロシア国防産業高等研究プロジェクト財団の直接の責任者だ。

一帯一路への北極地方リンク?

現在、そう呼ばれているわけではないものの、協力は、中国の巨大な一帯一路OBORという高速鉄道インフラや深水港という大プロジェクトに統合されることが想像される。中国がOBORと呼んでいるものは石油、ガス、ウラン、希土類金属、金や人類が必要としている原料の大半という未開発原料の膨大な埋蔵量がある広大なユーラシア空間の何兆ドルもの開発となるべきものへと急速に発展しつつある。

1812年のナポレオンによる帝政ロシア侵略以来、二世紀以上、ヨーロッパ、そして後のアメリカ地政学的戦略は、ユーラシアを、1840年のイギリス-アメリカによる対中国アヘン戦争のように、征服しようとするか、あるいは、歴史上、ロシア革命として知られている、ロンドンとウオール街が資金提供した、1917年のボリシェビキ・クーデターのように発展の可能性を破壊するかのどちらかだ。イギリス地政学の父、ハルフォード・マッキンダーが、彼の後期の著作でハートランド-ロシアと呼んだ場所と中国で、混乱を作り出すという同じ地政学的狙いを、現在、NATOは追求している。

それが、ビクトリア・ヌーランド、ケーガンやジョン・マケインが率いたウクライナにおける2014年2月のアメリカ・クーデターの真髄だ。それが現在のアメリカが支援している緊張のエスカレーションや、g朝鮮半島や南シナ海での軍事力による威嚇の真髄だ。

そうした背景を考慮して見ると、北極地方における中国-ロシアの開発協力には、経済的、地政学的、そして軍事的に、大きな戦略的な潜在的重要性がある。

北極地方の存在感を取り戻す

NATOの東方拡大、2004年のウクライナとジョージアにおけるアメリカ・カラー革命や、ロシア周辺での、敵対的なアメリカ・ミサイル防衛設備設置で、ロシアに対する、NATOの意図がより明らかになるにつれ、ロシアにとって、アルハンゲリスクとムルマンスク周辺のインフラ開発は、今世紀初めから戦略的優先度を帯びていた。

ロシア北極地方の開発における中国との戦略的協力強化は、2014年に、ロシアに課されたNATO経済制裁の効果を損なう新たな可能性をもたらす。

これら経済制裁のかなりの部分が、ロシア北極地方大陸棚で、石油とガスを探査しているロシアのエネルギー企業五社を標的にしていた。対象企業は、ガスプロム、ガスプロム・ネフチ、スルグートネフチガス、ルクオイルとロスネフチだった。

レックス・ティラーソンのエクソン・モービルのような欧米ジョイント・ベンチャー・パートナーは、2014年9月に、アメリカ財務省による経済制裁で、大ロシア北極地方の膨大なエネルギー資源と推測されるものを開発するロシア石油企業ロスネフチとの大型ジョイント・ベンチャーからの撤退を強いられ、欧米経済制裁で、ロシア北極地方の経済開発は劇的に停滞した。アメリカ経済制裁前、エクソン・モービルのCEOティラーソンは、ロシア国営ロスネフチと、5000億ドルの北極地方エネルギー共同開発協定に署名していた。

ロシア北極領海のインフラ開発における、ロシアとの協力に対する中国の関心が増し、ロシアは北極地方における石油とガスの大規模な開発経費を負担しあうことに関して、欧米石油企業に対する十分な代案を得ることになった。中国の巨大な国営の中国石油天然気集団(CNPC)が、ロシア北極地方のバレンツ海、ペチョラ海大陸棚沖合地域での共同探査に関して、ロシアのロスネフチと交渉中だ。

2014年11月、アメリカ経済制裁で、エクソン・モービルの参加が絶たれた時期に、ロシアのガスプロムは、ロシア北極海大陸棚の共同開発を、中国海洋石油総公司(CNOOP)と話し合っていた。

今や、中国とロシアの産業・政府参加者の来る会合は、ロシア北極地方における、中国-ロシア経済協力を大きく前進させることになろう。2015年末 ウラジーミル・プーチン大統領の中国訪問時、中国巨大国営コングロマリット、保利科技有限公司が、712キロの新鉄道と、既存鉄道449キロの近代化用の資金調達、計画、建設における主要パートナーとなることに同意した。2012年以来、中国国営の中国土木工程集団有限公司が、ベルコムール鉄道リンクとして知られている別の分野での建設に関わっている。

ベルコムール鉄道リンク

この北西ロシア最大のインフラ投資の一つ、1161キロ、150億ドルの、白海からウラルまでをコミ経由で結ぶベルコムール鉄道路線は、南ウラル、ペルミの採鉱・産業地域を、ロシアのコミ共和国スィクティフカル経由で、アルハンゲリスク港と結び、ウラルとロシア北西部間に遥かに短い接続を実現し、シベリア横断貨物用の主要経路となる。ウラルからロシア北西部への輸送距離は、800 kmも短縮され、経費も40%削減できる。ベルコムールの総貨物輸送は、年間2400万トンののぼると推計されている。主要貨物は、石炭、ボーキサイト、塩化アルミニウムと塩化カリウムだ。

コミ共和国には、ペチョラ石炭盆地に石炭、チマン-ペチョラ石油・ガス地域に、石油と天然ガス、ボーキサイト、金、ダイアモンド、チタン、硫黄と、膨大な資源がある。地域のほぼ三分の二は、豊富な森林と、トナカイ畜産という主要農業部門だ。

資源の豊富なロシア北部を、中国企業と共同で、より総合的な開発に向け開放するというロシアの決定は、2014年以来の、愚かなアメリカとEUによる経済制裁の直接の結果だ。

アルハンゲリスク深水港

ベルコムール鉄道路線は、アルハンゲリスクの新しい深水港建設と完全につながっている。ここでも、中国は、極めて重要な形で関与しており、2016年10月、国際貿易と採炭、鉄鉱石と原油探査投資に積極的な主要中国国営企業、保利集団が、ロシアのアルハンゲリスク北極地方輸送産業センターと、アルハンゲリスク北方55キロに新たな深水港建設の意向協定に署名した。港は年間能力4500万トンで、載貨重量100,000トンまでの船舶を扱うことができる。

新鉄道路線と、新たなロシア深水港の組み合わせは、アルハンゲリスク、コミ共和国、スベルドロフスクとペルミ地方を結びつける経済インフラとなる。ウラル山脈近くのカマ川沿いにあるペルミは、中央ロシア、北ウラルやロシア極東方向への路線とつながる、シベリア横断鉄道上の主要連絡駅だ。ペルミには、二つの大きな鉄道の駅がある - 歴史的なペルミ-Iと、近代的なペルミ-IIだ。ヨーロッパの水路と結ぶ、ロシアの深水水路体系の主要部を一体化する上で、カマ川は重要な接続点だ。カマ川地域から、貨物を積み直しせずに、白海、バルト海、アゾフ海、黒海とカスピ海の港に輸送することが可能だ。

3月14日、中国の保利集団代表団は、石炭出荷ターミナル用の港湾拡張に、3億ドルの投資を計画していると報じられている、バレンツ海の入り江、コラ湾の港湾都市ムルマンスクにも現れた。石炭ターミナルを、ロシア鉄道に接続する新鉄道路線が:現在コラ湾西岸沿いで建設中だ。

中国-ロシアによる鉄道と港湾リンクの完成で、広大で資源豊富な地域である北部ロシア全体が、巨大な新規経済的利益に開放されることになる。ユーラシア陸塊、愚かな欧米の経済制裁にもかかわらず、というより実際にはそのおかげで、我が哀れな地球で、最も美しい経済開発地域の一つとなりつつある。戦争をし続けている欧米が、彼らの多くの戦争に対する代案として検討すべき手本なのだ。

F. William Engdahlは、戦略リスク・コンサルタント、講師で、プリンストン大学の政治学学位を持っており、石油と地政学に関するベストセラー本の著者。オンライン誌“New Eastern Outlook”独占記事。

記事原文のurl:http://journal-neo.org/2017/03/21/strategic-china-russia-arctic-cooperation/

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植草一秀の『知られざる真実』の下記記事を興味深く拝読。

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コメント

経済規模が一定レベル以上の国に経済制裁を仕掛けるのがどれだけナンセンスかというのがよく分かる記事です。商機も市場も失うのならどちらが制裁されているのか分かったものじゃありません。ロシア(と中国)にとっては良かったのでしょうが。

前回に引き続き、中露の経済協力の話題、興味深く読ませて頂きましたが、一番目を引いたのはこの論説では枝葉に当たる部分、「1840年のイギリス-アメリカによる対中国アヘン戦争」「ロンドンとウオール街が資金提供した1917年のボリシェビキ・クーデター」のところでした。過去に読んだ陰謀論系書物(と世間では分類されているが、私自身は真実だと思っている)で、ロシア革命にロンドンとウォール街が資金提供していた事は目にしたが、アヘン戦争にアメリカが関わっていた事は恥ずかしながら全く知らなかった。この部分はサラッと簡潔に書かれているので、著者にとり説明の必要が無いほど当たり前なのかも知れない。自分の歴史知識の無さを痛感した。

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昨日月曜日、イランのローハニ大統領がモスクワを訪問した。 日本語の記事はないのかなとgoogle検索したけど、どうも中国のCRIとロシア・スプートニクのしかないみたいだ。日本のジャーナリズムという名の諜報の広報みたいな部隊は、トルコは結構細かいことを追い、ロシアはロシアにとってマイナスのネタを必至で追いかけまわすのだが、ロシアとイランみたいな案件はパスなんでしょうか。そのうち出てくるかもしれませんが、どういう戦略ラインなんだかさっぱりわからん。 ローハニ氏は次の大統領選挙にも出馬し、多分... [続きを読む]

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