ロドリゴ・ドゥテルテのような問題をいかに扱うか?
Peter Lee
2016年9月15日
CounterPunch
フィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ大統領のアメリカ合州国からの厄介な離反を巡る厄介な事実が、厄介な報道をいくつか生み出しているようだ。
オバマ大統領に対する、フィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ大統領の侮辱とされるもので、ラオスでのドゥテルテ-オバマ会談がキャンセルされることになった件で、ドゥテルテが提起した問題を除いて、大半の欧米マスコミにより即座に報じられたことに関し、アジア・タイムズに“ソノファ売女ゲート”という記事を書いた。「マスコミに照準を定められた真実とドゥテルテ」だ。
お読み願いたい。繰り返し! ツィート願いたい! 家族や友人にお話し願いたい。話題をりあげて頂きたい。
おまけに、記事はアメリカ-中国関係における、どうやら最も重要な問題らしき話題“ステアゲート”、杭州のG20サミットで、大統領として適切な形で、オバマ大統領がエア・フォース・ワン機から降りるのに必要なタラップ手配のへまについても、しっかり論じている。
全ての報道を読んだわけではないが、アメリカのフィリピン駐留に対する彼の姿勢を説明するという点で、ドゥテルテ報道は、おそらく不当に、かなり浅薄だと思う。こういう主張は私が独占しているようだ。 [更新: 読者のGW氏が、同じ話題でのシドニー大学のアデレ・ウェブ素晴らしい記事を紹介くださった。だから、こういう主張は私だけが独占しているのではないことになる。]
かいつまんで言えば、ドゥテルテの故郷ミンダナオへのアメリカ軍駐留という、115年間のホラー・ショーを、ドゥテルテは終わらせようとしているのだ。最近繰り返しているのは、全てのアメリカ特殊部隊をミンダナオから無くしたいというドゥテルテ発言だ。
アメリカ軍駐留批判だけでなく、海洋法に関する国際連合条約に関する裁定で、中国が追い込まれた問題で、アメリカが画策した統一戦線の一環として中国に対決するため、協力してアジア基軸の雷を落とす代わりに、二国間交渉をして、ドゥテルテはアメリカ合州国を仰天させた。
ドゥテルテとアメリカを巡る話題で、いくつか、かなり気のきいた記事を書いた。(全て英文)
Meiring、殺人、転覆と、反逆罪: ドゥテルテのアメリカへの不満
もう一編ある! 余り報じられないドゥテルテの麻薬戦争の結果に焦点をあてたものだ。
ドゥテルテの最優先事項は麻薬戦争で、欧米マスコミは主として、法手続きによらない殺人という視点で報道している。
ヒューマン・ライツ・ウォッチが、彼の政策を“暗殺部隊が正当な理由なしに暴れ回っている”と簡単に酷評できるような形で、ドゥテルテの行き過ぎを描きだし続けるため、フィリピンの麻薬問題は大問題でないとかたづけようとする興味深い企みが行われている。
だが、明らかに、社会的費用(東アジア中で、フィリピンはメタドン使用が最も高い)、複数の国々への影響(フィリピン人運び屋は、中国やインドネシアで処刑されており、シナロア・カルテルは、フィリピンを、市場と原料源として目をつけはじめてさえいる)という点で、そして、非常な高位にまで至るフィリピン政府と治安部隊の腐敗の駆動力として、これは実際大問題だ。
本当の所は、ドゥテルテは、即決の処刑という脅威を、常習者と麻薬密売人の検挙だけに利用しているわけではない。麻薬カルテルの幹部連中や彼らを匿っている国会議員や地方の政治家や幹部連中を、彼は全部知っているのだ。これはむしろスリル満点の、いちかばちかのゲームなのだ。今週、ダバオで、14人が死亡した爆発があり、アブ・サヤフ・イスラム主義の山賊ではなく、麻薬戦争で脅かされている、麻薬で儲けている政治家連中によって、ドゥテルテ暗殺の企てが、実際行われているという疑惑があらわれたが、アメリカ・マスコミは、こうした連鎖的展開を報じる興味をほとんど示さないようだ。
ドゥテルテの麻薬戦争は、いくつかの重要な点で、中国とフィリピンのより深い協力を必要としている事実に関する報道もさほど目にしていない。
そもそも、フィリピンの麻薬取引、主としてメタドン、現地で「シャブ」として知られているものは、巨大で、管理不足な中国麻薬業界が、麻薬製造に必要な、すぐ使える仲介者の源である事実と、三合会が、フィリピン内の多数の在外中国人社会に深く根付いている事実のおかげで、中国の三合会に支配されている。中国は、おそらく、主要な三合会の作戦基地、香港における厳重な取り締まりを奨励するのに事務所を活用することで本土における、より厳格な取り締まりという点で協力できる点が多々あるのだ。
一方、中国は、もしその気になれば、輸出志向のメタドン貿易を見て見ぬふりをして、ドゥテルテを困らせることが可能なのだ。簡単な話だ。
ドゥテルテは、8月に中国大使を召喚し、中国支援への彼の期待をはっきりさせていた。
水曜日、フィリピン政府は、今週始め、中国大使を召喚し、密売人連中が、中国から麻薬を持ち込み、議論の的になっているロドリゴ・ドゥテルテ大統領の対麻薬戦争で、新たな戦線を開いている報告を説明したと述べた。
火曜日、フィリピン警察長官は、上院の聴聞で、中国、台湾と香港が違法麻薬の主要源で、中国の三合会が密輸に関与していると述べた。
ペルフェクト・ヤサイ外務大臣は、水曜の上院聴聞で、説明のため中国大使を召喚し、政府は“更に積極的な調子でこれを推進するため”北京に外交通信を送る予定だと述べた。
フイリピン-中国協力の可能性ある分野には、暗殺部隊の標的にされるのを避けるため、警察に自首したフィリピン人麻薬常習者を更生させる突貫計画がある。
欧米マスコミでは事実上全く報じられないが、700,000人以上の常習者が自首している。
繰り返そう。700,000人以上の常習者が自首しているのだ。
そして、彼らには、おそらく、地域で安全に暮らせるための清潔な "更生" 施設が必要で、フィリピンの麻薬更生施設。とっての大きな課題となっている。ドゥテルテは、フィリピン軍に、追加の更生施設用に基地敷地を提供するよう呼びかけたが、最初の施設をラモン・マグサイサイ駐留地に予定しているようだ。
ドゥテルテは中国に麻薬更生施設建設の資金提供をしてくれるよう依頼し、中国は願いを聞き入れた。ドゥテルテと広報担当官によれば、マグサイサイ施設の準備作業は既に始まっている。
ここで愉快なことがある。
マグサイサイは、フィリピン最大の軍事居留地だ。しかも、EDCA、比米防衛協力強化協定の下で、アメリカ軍がフィリピン基地に公式に戻る、アメリカによる利用を想定されている五つのフィリピン基地中で、王冠の宝石でもある。アメリカ軍は、マグサイサイ基地を、何千人もの麻薬常習者や…中国人建設労働者と共用することになりそうだ。
ペンタゴンは、ドゥテルテの無礼に、密かにいきまいているだろうと思う。
ドゥテルテが、麻薬戦争で彼を支援するよう、中国に頼るのも無理はない。フィリピン支配層は、麻薬の金で徹底的に買収されていよういまいと、連中はたぶん、麻薬戦争に関する法律の成立を引き延ばして、彼を束縛するのが嬉しいのだ。
“法執行と訓練”用に、アメリカ合州国は、素早く3200万ドルを“約束した”とは言え、それが何時のことになるのか、本当に実行されるのか、どういことになるのか誰にも分からない。フィリピンの民間と軍支配層が、アメリカ合州国を喜ばせる主要任務に復帰し、アジア基軸外交政策に回帰することができるよう、ドゥテルテと、彼の麻薬戦争が大失敗するのを目にするのを、アメリカは全く気にしていないような感じを受ける。
そこで、ドゥテルテは、行政命令を使い、中国に圧力をかけ、素早く効果的な“現場での事実”つまり更生施設を手にした。更生施設は、ドゥテルテの計画にとって絶対不可欠だろうと私は思う。もし彼が常用者に対処できなければ、自首した常習者を、地元社会に放置せざるを得ず、暗殺部隊が、彼らの残忍な能力さえ上回ると私が思う、更に700,000人を殺りくする用意がない限り、麻薬戦争が失敗に終わる計画で、茶番であることが明らかとなってしまう。
海洋法に関する国際連合条約についての裁定を、中国を、黄岩島(スカボロー礁)から追い出すという無駄な取り組みで、アメリカ合州国を喜ばせるかわりに(ちなみに、少なくとも今のところ、中国はフィリピン漁船が浅瀬で作業するのを許しているように見える)、大勢の麻薬患者を収容することに、中国の協力を引き出すことで、より有効活用できるとドゥテルテは考えているように見える。
興味深くはないだろうか?
ところが、アメリカの指定されている主題は、アジアにおける実存的問題は、フィリピンにおけるアメリカ駐留の大規模再開によって、勃興する中国の軍事的脅威に対抗することなので、麻薬に関する計り知れない社会的、政治的激変や、中国とフィリピンとの相互依存性に脚光を当てることは、どうやら実際報じるに値しないようだ。
アメリカ政府とアメリカに友好的な欧米マスコミは、ドゥテルテと彼のアメリカ離脱傾向は不満かも知れないが、彼を悪魔化する新たな仕掛けを見つけるのはいささか困難だ。
第一に、アメリカとアキノ政権が、立法上の見直しを実に賢明に回避するように作り上げた比米防衛協力強化協定EDCAは、それを実施する支配力を、完全にフィリピン大統領権限にしてしまったが--それが、何とマニラの言いなりになる連中ではなく、ほかならぬロドリゴ・ドゥテルテというわけだ。もしアメリカが、余り辛辣に批判すれば、1993年に、アメリカ軍が追い出されて以来のアメリカの大切な目的で、南シナ海における重要なチェスの駒である、フィリピンで基地を利用することが制限されてしまう可能性がある。
第二に、ドゥテルテは社会主義者ではなく、自由で公正な選挙できた実務派だ。だから“フィリピンのプーチン/チャベス/アサド”という描写は、なじまない。
第三に、全身全霊をかけて実行している麻薬戦争のおかげで、ドゥテルテは人気がある。彼の支持率は、80%台だと思う。
四つ目に、フィリピンにおけるアメリカの実績は、本当にぞっとするほどのものだ。アメリカ合州国が注力したがっている任務、私が「水兵服/戦艦/海賊的民主主義と自由」と呼ぶんでいる、南シナ海における中国との対決は、フィリピンにおけるアメリカの存在と、フィリピン軍や治安部隊や、マニラにいる支配層に対する、アメリカの腐敗的な浸透という現実のごく一部に過ぎない。アメリカのドゥテルテ問題を深く分析すれば、フィリピンにおけるアメリカの存在が、インディアン戦争、ベトナム戦争、イラク戦争を繰り返しであることを認めることになる。巨大かつ残虐な帝国のぶざまな仕業を。
ドゥテルテがアメリカから離れようとしているのは実にもっともで、おそらく正当化できるということを、美しい精神のアメリカ人読者にわざわざ説明する必要はないと思う。
だから、ドゥテルテのアメリカ合州国との問題の根源を欧米マスコミが、詳しく誠実に報じるだろうとは思わない。
だが、もしドゥテルテがアメリカの急所を捻り続けるのであれば、当惑している読者諸氏を導くための、違った視点の報道が開発されべきだと私は期待している。
他に説明しようのないアメリカへの不可解な愛情の欠如と、中国との二国間関係を進める彼の積極性を、“ドゥテルテは中国にやとわれた傀儡”で説明する実地試験がいくつかおこなわれてきたが、十分支持を得られているようには見えない。
アメリカ政府やマスコミは、“フィリピンのドナルド・トランプ”モード、つまりドゥテルテは、近頃実に曖昧な、規則に基づく国際秩序を維持する高位の職務にむかない、情緒不安定な反動的ならず者というところに落ち着いて、中国が勃興する時代に、フィリピンには非同盟外交政策を行う余裕はない事実から目を逸らしているようだ。
ドゥテルテを理解する最善の方法は、加工されていない彼自身の発言を聞くことだ。
ラオスに旅立つ前の彼の悪名高い記者会見ビデオがここにある(AT記事では、誤って、マニラでのものとした。彼は実際は、ダバオ国際空港から出国するところだった。お詫びする!)
時間をさくに値するわずか19分のものだ。ご覧いただければ、ドゥテルテと、彼の優先課題をかなり良く理解できる。
最後に、来るべき出来事、彼の政策を邪魔するようアメリカ政府からけしかけられていると彼が考えているマニラの支配層とドゥテルテとの迫りくる対決のの前触も知ることができる。ドゥテルテにとって、フィリピン人の主権と尊厳を主張するよりも、麻薬戦争における人権侵害に関するオバマの質問に応えるほうがより重要だと考えて、現地で彼を批判している連中の性格を最後の言葉で、ドゥテルテは描写している。
アメリカ人の尻を舐める犬並みの知的能力の連中もいる。
ビエンチャンで、ミンダナオにおけるアメリカの歴史的犯罪を、残虐行為の写真も添えて、告発する発言を準備していたのを、ドゥテルテがやめたことも明らかになる。
ドゥテルテは多くの興味深く、重要なことを語っている。しかし、こうしたことを、欧米マスコミで、皆様が読めるだろうとは思わない。
記事原文のurl:http://www.counterpunch.org/2016/09/15/how-do-you-handle-a-problem-like-rodrigo-duterte/
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アメリカ軍戦闘機が沖縄沖で墜落。垂直上昇する画面で思った、あのハリアー。
すごい政治家があらわれたものだ。ボンボンのアキノと偉い違い。
お金持は、高い塀にかこまれて、銃を身につけた警備員が守衛をしている高級住宅街で暮らしているのに驚いた。仕事先の幹部に随行していたガードマンも、拳銃を持っていたような記憶がある。
孫崎享氏の今日のメルマガ、まさに「政権への従属を取るか、主張を貫くか」というテーマ。 南シナ海の島々ではなく、尖閣だが、同根。『小説外務省 尖閣問題の正体』のテレビ・ドラマ化はやはり実現しませんでした。でも話を持ち込んでくれたディレクターには感謝です。』
出版社「現代書館」による紹介記事を引用させて頂こう。
『戦後史の正体』の著者が書いた、日本外交の真実。事実は闇に葬られ、隠蔽される<つくられた国境紛争>と危機を煽る権力者。外務省元官僚による驚愕のノンフィクション・ノベル。
「この本の主人公は外交官である。1977年生まれ、名前は西京寺大介。2022年のいま、彼は、尖閣諸島の扱いで外務事務次官に真っ向から反対し、外務省から追い出されるか否かの瀬戸際にいる……。」の書き出しで始まる本書は、尖閣問題での日中の争いの正体の本質を日米中の政府高官を実名で登場させ、小説仕立てで詳細に描き出している。2012年から始まった尖閣諸島を巡る、争いの立案者は誰か。何故そのような馬鹿げたことが、起こったのか。日米中の資料を駆使し、日本外務省の内幕を一気に読ませるノンフィクション・ノベルである。今年話題沸騰間違いなしの書籍である。日中間領土紛争は争わずに解決する途があることをわかって欲しい。
【著者プロフィール】
1943年、旧満州国鞍山生まれ。1966年、東京大学法学部中退、外務省入省。英国、ソ連、米国(ハーバード大学国際問題研究所研究員)、イラク、カナダ勤務を経て、駐ウズベキスタン大使、国際情報局長、駐イラン大使を経て2002~2009年まで防衛大学校教授。【プロローグ】
この本の主人公は外交官である。1977年生まれ、名前は西京寺大介。2022年の今、彼は、尖閣諸島の扱いで外務事務次官に真っ向から反対し、外務省から追い出されるか否かの瀬戸際にいる。多くの人が彼の行動をいぶかるだろう。「黙って勤務していれば大使と呼ばれる職に就く。なぜそれを捨てるのか」と。西京寺は石川県の鶴来で生まれた。加賀はかつて一向一揆衆によって支配され、「百姓のもちたる国」といわれた。100年近く門徒の百姓たちが治め、1人の百姓が絶対的な権力をふるうこともなく、また、権力のある1人の百姓に媚びへつらうこともなかった。権力に迎合するのを極端に忌み嫌う土地柄なのである。
そこで育った彼は、東京大学を経て、1999年に外務省に入り、ロシア語の研修を命じられ、最初の2年間はハーバード大学で、3年目はモスクワ大学で研修を受けた。彼に大きな影響を与えたのはロシア勤務である。ソ連・ロシアは最も全体主義的な国家だ。弾圧が厳しい。ここで自由を求めて闘う人々がいる。犠牲を伴うことを承知の上でだ。
国際ジャーナリスト連盟は、2009年に「ロシアでは1993年から約300名のジャーナリストが殺害されたか行方不明になっている」と伝えた。そのほぼすべてが政府の批判を行っている。民主化弾圧と闘うロシア人は、多くの場合、逮捕され、シベリアなどの過酷な収容所に送られる。この中で国際的に最も著名なのはアンナ・ポリトコフスカヤである。彼女は次のように書いた。
「権力機構に従順なジャーナリストだけが“我々の一員”として扱われる。報道記者として働きたいのであれば、プーチンの完全なる奴隷となることだろう。そうでなければ、銃弾で死ぬか、毒殺されるか、裁判で死ぬか―たとえプーチンの番犬であっても」
ポリトコフスカヤは自らの予言どおり、2006年、自宅アパートのエレベーター内で射殺された。これらのジャーナリストはなぜ自分の命を犠牲にしてまで、ロシア政府を批判するのか。この現象は何もプーチン政権特有の現象ではない。ソ連時代もあった。ロシア帝国時代もあった。権力と闘える人、それがロシア・ソ連の文化人の資格かもしれない。
この国に勤務する西側の外交官や情報機関の人間は、権力と闘うロシア人に共感し、時に助ける。やがて彼らは自国に帰る。そして、自国の政治や社会状況を新たな目で見、その腐敗に驚く。
「なんだ。腐敗しているのはロシアと同じではないか」と思う。彼らの中に、自国の政治や社会状況が問題だとして闘い始める人間が出る。これが最も顕著に出たのは2003年のイラク戦争の時だ。ブッシュ政権は大量破壊兵器があるという口実のもとにイラク戦争を開始した。米国や英国などの情報機関の相当数の人間は、イラクが大量破壊兵器を持っていないことを知っていて、それを組織の中で主張した。チェイニー米国副大統領(当時)は彼らを脅した。
「君は今、ブッシュ政権の下で働いている。ブッシュ政権はイラク戦争を実施する。君はブッシュ政権に忠実なのか、否か。忠実でないなら今すぐ去れ」政権への従属を取るか、主張を貫くか。情報部門のかなりの人が職場から去った。米国や英国には従属の選択をせずに闘う人間がいる。西京寺もその1人である。彼は権力に迎合するのを忌み嫌う土地で育った。さらに、政治の腐敗や弾圧と闘うロシア人の気風を受け継いだ。
しかし、日本の社会に問題がなければ、彼が動くことはなかった。
日本は驚くほど危険な国になっている。それは10年ほど前の2012年頃から顕著になってきた。映画人がそれを敏感に感じ取っていた。この頃公開された『少年H』の宣伝文句には「軍事統制も厳しさを増し、おかしいことを『おかしい』と、自由な発言をしづらい時代となっていく中、盛夫は、周囲に翻弄されることなく、『おかしい』、『なんで?』と聞くHに、しっかりと現実を見ることを教え育てる」とある。これは、日本社会が「おかしいことをおかしいと自由に発言しづらくなっている」ことに対する警鐘であろう。また、映画監督の宮崎駿は引退宣言で「世界がギシギシ音を立てて変化している時代に、今までと同じファンタジーを作り続けるのは無理がある」と語った。同じ頃、原発再稼働反対の立場で、最前線で発言していたのが新潟県の泉田裕彦知事である。彼はあるインタビューに答え、「もし僕が自殺なんてことになったら、絶対に違うので調べてください」と言った。しかし、彼はその後、原発再稼働に対する態度を軟化させ、「一部では『政府が知事のスキャンダルを探している』『特捜検察が泉田知事を徹底的に洗い始めている』といった怪情報が飛び交っていた」と報道された。
この頃から日本は、「正しいこと」を「正しい」と言えない国になってきたのだ。日本の社会は、あちらこちらでギシギシ音を立て、変容してきている。その音は日増しに大きくなっている。一方、「おかしいこと」を「おかしい」と言っても、摩擦が生じ、ギシギシ音がする。西京寺はその音の一つだ。たまたま音を出す場所が外務省だった。彼の心にはあるべき外務省員の姿がある。しかし、それを貫こうとする時、摩擦が起こる。
強力な相手に対峙する中で異なった意見を発することに意義があるか――彼は自らの生き方そのものを問うことになる。その模索の旅がこの物語のテーマである。そして話は少し遡り、2012年2月から始まる。
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日本軍が余計なことをしてアメリカ支配の方が相対的にマシだなんて風潮を作り出さなければアメリカによるフィリピンの苦難はもっと早くに終わっていたでしょうし、マルコスも生まれなかったでしょう。
投稿: 一読者 | 2016年9月23日 (金) 21時39分