第三世界へと向かうアメリカ
Paul Craig Roberts
2015年10月29日
2004年1月6日、チャールズ・シュマー上院議員と私は、ニューヨーク・タイムズ論説で、雇用の海外移転は自由貿易だという誤った考え方に異議を唱えた。我々の記事は、経済学者連中を大いに驚かせ、わずか数日後に、シュマーと私は我々の異説を説明すべくワシントンDCのブルッキングス研究所の会議に呼び出された。全国TV放送された会議で、雇用の海外移転の結果、20年後に、アメリカは第三世界になるだろうと私は断言した。
11年前のことだったが、私の予言の残り9年間が満了する前に、アメリカは第三世界状態へと落ちぶれる途上にある。
証拠は到るところにある。9月にアメリカ国勢調査局が、アメリカの五分位階級別家計所得報告を発表した。トップ5%も含め全ての五分位階級が、ピーク以来の実質家計所得の減少を味わっていた。第I五分位階級(下位の20パーセント)では、1999年のピークから、実質所得は17.1%減少した(14,092ドルから、11,676ドルに)。第II五分位階級では 2000年以来、実質所得は10.8%減少した(34,863ドルから、31,087ドルに)。第III五分位階級では、2000年以来、実質所得は6.9%減少した(58,058ドルから、54,041ドルに)。第IV五分位階級では、2007年以来、実質所得は2.8%減少した(90,331ドルから、87,834ドルに)。第V五分位階級では、2006年以来、実質所得は1.7%減少した(197,466ドルから、194,053ドルに)。トップ5%では、2006年以来、実質所得は4.8%減少した(349,215ドルから、332,347ドルに)。わずかトップの1パーセント以下(主に0.1%)だけは、所得と冨が増加した。
実質所得を計算するのに、国勢調査局は公式のインフレ基準を用いている。こうした基準はare understated。もしより正確なインフレ基準が使われれば(shadowstats.comで用いているような)世帯実所得の減少はもっと大きく、より長期間減少してきた。実質平均年間家計収入は、1960年代末と1970年代始めの水準を下回っていることを示す基準もある。
2009年から現在までの6年の景気回復とされるものの間に、就業率の長引く減少のおかげで、労働力が縮小していた時期に、こうした減少が生じたことに留意が必要だ。2015年4月3日、アメリカ労働統計局が、歴史的記録である、93,175,000人の労働年齢のアメリカ人は労働人口に含まれないと発表した。通常、景気回復は、就業率の増加が特徴だ。ジョン・ウィリアムズは、求職意欲喪失労働者が失業者の基準に含まれれば、アメリカの失業率は、現在23%であり、報じられている数値の5.2%ではないと報じている。
最近発表された報告書で、社会保障庁は個別の年間所得データを発表している。これを知る覚悟はおありだろうか?
2014年、全てのアメリカ労働者の38%は、20,000ドル未満の収入しかない。51%は30,000ドル未満収入しかなく、63%は40,000ドル未満で、72%が50,000ドル未満の収入だ。
就職難と低賃金は雇用の海外移転による直接の結果だ。“株主advocates”(ウオール街)や大手小売業からの圧力の下、アメリカの製造企業は、製造を、労賃が底値の国々に移転し、企業利益、幹部の“業績手当て”と株価が上昇する結果になった。
高給なアメリカ製造業雇用の海外移転後、ソフトウェア・エンジニアリングやITや他の専門職雇用の移転が続いた。
ハーバード大学のマイケル・ポーターやダートマス大学のマシュー・スローター等の浮ついた経済学者による無能な経済性評価は、アメリカの膨大な数の高生産性、高付加価値雇用を外国に差し上げると、アメリカ経済にとり、大きな利益になると結論付けていた。
記事や書籍で、私はこの馬鹿げた結論に異議を申し立てたが、あらゆる経済的証拠は私が正しいことを証明している。外国人に贈呈された雇用に置き換わるべく“新たな経済”が生み出すと約束された、より良い雇用は決して出現しなかった。そうではなく、経済が生み出しているのは、ウエイトレス、バーテンダー、小売店員や、救急医療サービス等の低賃金の非正規雇用しかなく、雇用全体に対する比率として、給付をもらえる常勤雇用は減少し続けている。
こうした非正規雇用では、世帯を形成するのに十分を所得は得られない。結果的に、連邦準備金制度理事会の調査が報じている通り、“全国的に、2012-2013年には、25歳の人々の約半数が両親と同居しており、1999年のわずか25%からは激増だ。”
25歳の人々の半数が世帯を形成できなければ、住宅や家具の市場は崩壊する。
金融は、アメリカ経済中で唯一成長している部門だ。金融業界がGDPに占める比率は 1960年の4%未満から、現在の8%にまで増えた。マイケル・ハドソンが示した通り、金融は生産的活動ではない。それは略奪行為だ(著書Killing The Host)。
しかも、金融業界の異常な集中と、無謀なリスク・レバレッジと、債務レバレッジが、金融部門を経済に対する深刻な脅威にしてしまった。
消費者実質所得の伸びがないということは、経済を推進する総需要も伸びないことを意味する。消費者に負債がある状況がクレジットにして消費を拡大する消費者の能力を制約する。こうした消費者の消費の限界は、企業にとっては新規投資はわずかな魅力しかないことを意味する。経済は、企業が常勤雇用を非常勤雇用で置き換え、国内労働者を外国人で置き換えて経費を下げ続け、縮小する以外、もうどうにもならない。政府はあらゆるレベルで債務過剰で、量的緩和がアメリカ通貨を過剰供給している。
話はこれでは終わらない。製造業が出てゆくと、研究、開発、設計やイノベーションがそれに続く。ものを作り出さない経済にはイノベーションはない。単にサプライチェーンのみならず、経済が丸ごと失われる。
家族そのものや、法の支配、政府の説明責任を含め、経済・社会インフラは崩壊しつつある。
雇用が海外移転されたため、あるいは労働ビザを持つ外国人に与えられたために、大学卒業生が職につけないと、大学教育に対する需要は減少する。借金を背負った上に、学資ローン返済もできない仕事にしかつけないことになるのは、まずい経済的意思決定だ。
既に、単科大学や総合大学当局は、大学予算の75%を自分のために使い、非常勤教員を数千ドルで雇う状況になっている。以前のような、昇進がある常勤教員に対する需要は崩壊した。アメリカ人の雇用より、短期的な企業利益を優先した結果にすっかり見舞われて、大学教育への需要は崩壊し、アメリカの科学技術も同じことになろう。
ソ連崩壊は、アメリカ合州国に対して起きたことの中で最悪だった。ソ連崩壊の二つの結果は壊滅的だった。一つの結果は、アメリカ世界覇権というネオコンの傲慢さの勃興で、これが経費は6兆ドルの14年間の戦争をもたらした。もう一つの結果は、社会主義インドと共産主義中国の考え方の変化で、両大国は、活用されていない膨大な労働力を、欧米資本に開放することで“歴史の終わり”に対応し、この記事が説明しているアメリカの経済的衰退という結果をもたらし、悪戦苦闘中の経済に膨大な戦債を背負いこませている。
これほどまずく運営されている社会・政治・経済制度は、既にして第三世界だというのは妥当な結論だ。
参考記事リンク:
http://www.advisorperspectives.com/dshort/updates/Household-Income-Distribution.php
http://www.census.gov/hhes/www/income/income.html
https://www.ssa.gov/cgi-bin/netcomp.cgi?year=2014
Paul Craig Robertsは元経済政策担当の財務次官補で、ウオール・ストリート・ジャーナルの元共同編集者。ビジネス・ウィーク、スクリップス・ハワード・ニューズ・サービスと、クリエーターズ・シンジケートの元コラムニスト。彼は多数の大学で教えた。彼のインターネット・コラムは世界中の支持者が読んでいる。彼の新刊、The Failure of Laissez Faire Capitalism and Economic Dissolution of the West、HOW AMERICA WAS LOST、The Neoconservative Threat to World Orderが購入可能。
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記事原文のurl:http://www.paulcraigroberts.org/2015/10/29/us-on-road-to-third-world-paul-craig-roberts/
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製造業勤務経験から、良い新製品を開発し、収益を確保し続けるのは実に大変なことだと実感している。いくら評判のベストセラーを出しても、欠陥商品を販売すれば、それまでの収益も吹き飛ぶ。企画した製品が好評な時のうれしさ。収入出世と無関係だった。首にはなった。
一方、原発の危険性、安全対策装置配置の危険性等々を重々知りながら、人類史上最悪の原発事故を起こした企業が、史上最大の利益をあげるという制度、まっとうなのだろうか?
既におられる膨大な被害者の方々、そしてこれから続々生じるであろう被害者の方々は、収益計算の外。
常識で考えれば、補償やら廃炉費用で破産するだろう。こういう状態を是とする政治経済学があるとすれば、学問でなく、極論の押しつけだ。被害者への補償を放置してもよいから、権力者が大いに儲かる大犯罪をおかせば英雄になる、と証明しているようなものではないか?
外部不経済の見本。
といっても、素人のメタボ中高年、知識の幅はたかがしれている。拝読した下記二冊を越える説明、大本営広報部で読んだり、電気洗脳箱で見た記憶はない。正論をおっしゃる著者が勲章を受けたと聞いたことはない。庶民の自分に永久無縁の勲章、もとより全く興味ないが。
これほどまずく運営されている社会・政治・経済制度は、既にして第三世界だというのは妥当な結論だ。
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