アフガニスタン補給基地閉鎖を巡って米露間の緊張激化
Bill Van Auken
2009年2月6日
オバマ政権が計画している、アメリカが率いるアフガニスタン戦争拡大策に対し、影響の大きい、旧ソ連共和国キルギスタンにあるペンタゴンの主要補給基地閉鎖の危機に直面して、ワシントンとモスクワ間の深刻な緊張が深まっている。
キルギスの首都ビシケク近くに位置するマナス空軍基地は、アメリカ軍とアフガニスタン駐留アメリカ占領軍間の主要空路だ。昨年、少なくとも170,000人のアメリカ軍要員が、5,000トンの軍装備品と共に、アフガニスタンへの出入りするにあたって、この基地を経由した。フランスとスペインのより小規模な分遣隊と共に、約1,000人のアメリカ兵が基地に駐留している。
火曜日、キルギス政府がマナス基地を閉鎖するという意図を、キルギスのクルマンベク・バキーエフ大統領が発表した当初、単なる交渉の策略(2006年にキルギスタンは同様な脅しをかけたが、アメリカが施設の賃貸料を上げた後、態度を和らげた)と片づけていたものの、ワシントン当局筋も、木曜日頃になると問題を生真面目に取り扱い始めたように見受けられる。
「率直に言って、我々はこれを交渉戦術と考えており、虚勢に対応答しようとするところだった」匿名の軍当事者は木曜日ウォール・ストリート・ジャーナルに語った。「だが、冗談ではなく、彼らが我々を追い出したいことがはっきりしてきた。」
アメリカ占領に対し、激化する民衆のレジスタンスを鎮圧する狙いから、今後18ヶ月間で、追加として30,000人のアメリカ兵をアフガニスタンに派兵する計画をオバマ政権が発表している現在、基地の戦略的重要性は一層増している。この増強で、アフガニスタン内の現在36,000人というアメリカ軍の人数がほぼ倍増される。他のNATO諸国から、更に32,000の兵が占領に参加する。
アメリカ軍への補給のおよそ四分の三を占める、パキスタンからアフガニスタンへの主要な陸上補給路カイバル峠で高まる危機とういう、ワシントンが直面している問題とあいまって、この基地の果たす決定的な役割は増大している。月曜日、レジスタンス戦士がカイバル峠の90フィートの鉄橋を爆破して補給路を切断し、アメリカとNATOの軍隊に対する全ての補強を少なくとも一時的に停止させた。攻撃後、一連の大胆な奇襲攻撃が続き、補給トラックを炎上させ、軍車両は占領と戦うゲリラの手中におちた。
木曜日、ホワイト・ハウスの報道担当官ロバート・ギッブスは、アメリカのアフガニスタン戦争にとって、キルギスタン基地は「極めて重要」だと述べ、ホワイト・ハウスは状況を「修復する」方法を模索中であると言明した。
「この件について、アメリカ政府は、キルギスタン当局と継続協議をおこなっている」とペンタゴンの広報担当官ブライアン・ホイットマンは木曜日記者団に語った。「これは、他に使える手段や選択肢が、我々にないことを意味するものではない。」
マナス基地閉鎖が切迫していることについて尋ねられて、ヒラリー・クリントン国務長官は木曜日「これをキルギスタン政府が検討しているのは残念なことだ」と語ったが、この行為がワシントンがアフガニスタンでの植民地型戦争を強化する妨げにはならないと主張した。
「更に協議したいと考えている」彼女は国務省記者会見で記者団に語った。「しかし、キルギスタン政府の検討結果がどうであれ、わが国は極めて効果的な形で進めるつもりだ」
クリントンは、キルギス基地を失った場合ペンタゴンは「他にどのように進めるべきか、調査をおこなっている」と付け加えた。
木曜日にAP通信が引用した、匿名のペンタゴン当局者によると、代替施設を探す緊急策として、かつてアメリカが、アフガニスタンでの作戦への補給用に、旧ソ連空軍基地利用を享受していたが、今はぎくしゃくした関係にあるウズベキスタンと、よりをもどすことを、ワシントンは考慮しているという。2005年、政府軍が数百人の民間人を殺害した、東部の都市アンディジャンにおける大虐殺後、ワシントンは、ウズベキスタンへの軍事援助の廃止を余儀なくされ、アメリカ軍は追い出されている。基地再利用の実現は、ウズベキスタンの独裁者イスラム・カリモフとの和解をともなわざるをえない。
アメリカ軍基地を閉鎖する意向を、キルギス大統領バキエフが発表したのは、火曜日、モスクワでのロシアのドミトリー・メドベージェフ大統領との会談後のことだが、その会談でモスクワはキルギスタンに対し、20億ドル以上の援助計画を約束している。
援助計画は、1億5000万ドルの直接助成(マナス基地に対する資金として、同国に対するアメリカの年間資金総額支援に等しい金額)と、更に名目的な利子つきという形で貸与される30億ドルと、水力発電所建設のための17億ドルを含んでいる。更に、クレムリンは、ロシアからの1億8000万ドルものキルギス債務を帳消しにすると約束した。
提案されたロシアの援助計画は、世界的な金融危機の影響で、貧しい国民が、益々増大する困難に直面しているキルギスタンの年度予算のおよそ二倍で、国内総生産の半分に等しい。
「経済危機の時期に、これはキルギスタンの経済成長を下支えする、ロシアからの本格的かつ重要な支援だ」とバキエフは明言した。
キルギス首相イゴール・チュディノフは木曜日の記者会見で、ロシアの援助申し出の直後に、大統領が基地閉鎖を主張したタイミングは「単なる偶然の一致」だと主張した。
「大規模借款を認めるというロシアの決定は、キルギス領土からのアメリカ空軍基地撤退とは無関係だ」とチュディノフは発言した。
バキエフ大統領は、この決定を、キルギスタンへのアメリカ駐留に対する大衆の反対が、2006年に、アメリカ空軍兵がキルギスのトラック運転者を一人射殺した時に燃えあがったことと結びつけた。2001年に、アメリカがアフガニスタン侵略を開始した時に、基地が最初に開設された際、一時的な対策と見なされていたとも主張した。
「キルギスタンは、アメリカ合州国の要望に応えて、領土を対テロ戦争に提供したが、これは戦争に対する大きな貢献だった」と彼は語った。「一、二年という話だったが、もはや8年になる。キルギスタンに対する経済的な補償問題について、アメリカのパートナーと再三交渉したが、合意には至ることができなかった。」
キルギス当局は、政府の決定を伝える公式な外交書簡が交換されてから、基地を閉鎖して、全員を撤退するまで、アメリカには180日の猶予があると語っている。国会がこの政策に対して、金曜日に票決するはずであったが、政府幹部は木曜日、国会は最低あと一週間は取り上げないだろうと発表した。
キルギス政府の否定にもかかわらず、 マナス基地を閉鎖するという決定が、何世紀にもわたって自らの勢力範囲と見なしてきたこの地域へのアメリカ軍駐留に対するモスクワの反対によって動かされていることは明らかだ。
こうした緊張は、昨年8月、あからさまに燃えあがり、旧ソ連共和国グルジアのアメリカが支援する政権が、南オセチアの分離脱退地域に派兵し、ロシアの軍事的な反撃をひき起こし、ロシア軍は、南オセチアと黒海の分離脱退地域アブハジアの両方から、グルジア軍を押し出した。モスクワは、続いて両地域の独立を承認した。
この紛争に油を注いでいるのが、ロシア国境にミサイル防衛システムを設置し、ロシア領土を、中央アジアとバルト諸国の軍事基地で包囲するという企てから、グルジアとウクライナをNATO同盟国に取り込もうというアメリカの政策だ。
問題になっているのは、イラク侵略と同様、アメリカのアフガニスタン戦争の裏に潜む、地域の戦略的エネルギー資源支配をめぐる、モスクワとワシントン間の主要目標という対立関係の激化だ。
ロシアの支配エリートは、エネルギー価格の下落による最近の財政損失にもかかわらず、旧ソ連共和国内にモスクワの影響力を復興することは、ロシアの利害関係にとって決定的に重要であり、大規模な投資に値すると考えていることは明らかだ。
中央アジアの諸政権は、最も有利な条件を引きだす企てとして、ある場合にはロシア側に寄り、また別の場合にはアメリカに寄り、この対立関係を自分たちに有利なように活用しようと試みてきた。
モスクワとキルギスタン間の合意は、アメリカの利害関係に対し、益々積極化するクレムリンの挑戦の一部だ。
援助計画と基地閉鎖予定発表の翌日、ロシアのメドベージェフ大統領は、ロシアが率いる集団安全保障条約機構(CSTO)サミット会議中に、地域における「軍事侵略をはねつけ」「テロ」と戦うため、主としてロシア空挺部隊員から構成される総勢10,000人の緊急対応部隊を設置する計画を発表した。
「これは非常に手ごわい部隊となるはずだ」とメドベージェフは強調した。「彼らの戦闘能力からすれば、北太平洋条約同盟の同様な部隊にひけをとらないはずだ。」部隊は、ベラルーシ、アルメニア、カザフスタン、キルギスタンとタジキスタンを含む他の旧ソ連共和国のほんのお印ばかりの部隊をも含むと伝えられている。モスクワは、マナス基地を、アメリカが撤退した後、この部隊の司令部として使用する可能性を考えている節もある。
ロシア政府は、アメリカ国務省とNATOの抗議をも招きかねない計画である、アブハジアに空軍と海軍基地を設置する意図も示している。
キルギスタンに対する援助に加え、モスクワは今週、隣国ベラルーシに対する好意的な27.7億ドルの借款への動きも示唆し、またメドベージェフは、明らかに、東欧へのアメリカ・ミサイル防衛網計画に対する反撃である、統合防空システムの設置で、ベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領との条約にも署名した。
最後に、キューバの指導者ラウル・カストロは、8日間のモスクワ訪問中に、3.54億ドルの援助計画を確保したが、これは1991年のソ連崩壊以来、ロシアとキューバとの間で初めてのトップ同士の接触だ。崩壊後、何十年も続いたソ連のハバナへの助成が停止していた。モスクワが、アメリカの海岸からわずか90マイル先にあるキューバとの絆の更新を、旧ソ連共和国に対するワシントンの介入に対する懲罰と見なしていることは明白だ。
一方、水曜日、ロシア外務次官グリゴリー・カラーシンは、ロシア領土を横切ってアフガニスタンに非軍事的な補給を運ぶというアメリカの要求に対し、モスクワが数日前、「前向きの回答」を示した、とも語った。
「我々とアメリカ合州国が、近い将来、この問題に関し特別の専門的な会談を持つことを期待している」とカラーシンは語った。「どのようにすれば効果的に協力できるかを検討する予定だ。」
だがこの種の「協力」こそ、まさにワシントンが避けようとつとめてきたものだ。ワシントンは、アフガニスタンの命運に対するロシアのあらゆる影響を排除し、この地域全体への、モスクワの力を弱体化させようと努力してきたのだ。
アフガニスタン占領用のロシア以外の補給路探しは、カスピ海盆地の石油とガス資源を搬出するロシア以外の経路を見いだし、それをアメリカの支配下に置くという戦略的目標と、厳然としてつながっている。
益々激化するこの議論と、アフガニスタンにおけるアメリカ介入強化というオバマ政権の意欲には、世界の二大核大国間の、はるかに大規模で潜在的に破局的な軍事衝突の脅威が伴っている。
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