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アヴディエフカを超えて

<記事原文 寺島先生推薦>
Transcending Adveevka
筆者:ペペ・エスコバル (Pepe Escobar)
出典:ストラジック・カルチャー・ファウンデイション 2024年2月17日
<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ> 2024年3月11日

もちろん、ウクライナの代理戦争はアヴディエフカで終わることはなく、10年近く続くドネツク山麓での戦いは続く。

船酔いした船員たちは、故郷へ漕ぎ出す。
手ぶらの軍隊は、家に帰る
(Your empty-handed armies are going home)


アヴディエフカ。まるで呪文のような名前だ。デバルツェボ*やバフムート**のように。呪文は煮えたぎる大釜の姿を呼び起こす。
*デバルツェボの戦いは、ウクライナのドンバス地域での内戦中の2015年1月14日から2月20日までの間、ドネツク人民共和国 の親ロシア派分離主義勢力がドネツィク州のデバルツェボ市の再奪回を試みた戦い。2015年2月18日にウクライナ軍が撤退し、分離主義勢力が勝利した。
**バフムートの戦いは、2022年8月1日~2023年5月21日まで続いたロシアによるウクライナ侵攻のうち、ドネツィク州バフムートの支配権をめぐるロシア連邦軍及びワグネル・グループとウクライナ軍による一連の軍事衝突。ロシア軍は5月21日時点でバフムート市のほぼ全域を占領。


現状では、すべてが電光石火のスピードで動いているため、包囲の大釜が閉じられるためにはあとわずか2キロだ。事実上、すべての道路とぬかるんだ小道は、ロシアの大規模な銃火器の統制下にある。ウクライナ軍(AFU)の兵士は6000人ほど残っているかもしれない。彼らはどこにも行くところがない。彼らはすでに地獄にいる。

キエフでのやっかいな権力争いで、AFU総司令官に任命されたばかりの 「虐殺者」シルスキーは、さっそく新しい大釜に着手した。古い習慣はなかなか消えない。

AFU戦闘員の士気と心理状態はボロボロだ。アゾフ大隊のネオナチは、大砲、FPV*、FAB**によって壊滅させられている。
*FPVは、First Person Viewの頭字語、「一人称視点」のドローン。
**FAB-3000は、3,000キログラムの無誘導発射体は、主にバンカーなどの堅牢な施設の破壊を目的として設計された。爆発質量は1,400キログラム、潜在的な破壊半径は46メートル。


それでも、AFUの将兵たちは、イロヴァイスク*とデバルツェボの再演という、もうひとつの「勝利」のための宣伝の舞台を用意している。実際の退却、避難、「引き抜き」が地獄の回廊を通して進行するだろうが。
*イロヴァイスクの戦い(Battle of Ilovaisk)は、2014年8月7日、ウクライナ軍と親ウクライナ準軍事組織が、親ロシア派に占領されているドネツィク州イロヴァイスク市の奪回を試みた戦闘である。

実際、時間ぎりぎりで地獄からの脱出に成功した兵士はザルジニー元将軍だけだった。ディランの言葉を借りれば、
「Strike another match/ go start anew. (もう一つの闘いを、そして新たな開始を)」
である。


抵抗の枢軸とスラブの鏡

ほんの数日前、ドンバスを横断する目が回るような旅をしていたとき、*アヴディエフカという呪文がいたる所から聞こえてきた。ドネツク西郊外の暗闇に包まれた秘密施設での会合で、正教徒大隊の2人の最高指揮官が戦術を議論しながら、アヴディエフカの陥落は数日から最大でも数週間の問題だと指摘した。
*アヴディエフカは、ウクライナのドネツィク州ポクロウシク地区にある都市。カームヤンカ川の河岸に位置する。

その象徴は極めて超越的だ。キエフは10年近く、アヴディエフカをノンストップで要塞化してきた。基本的には、ドネツクやドンバスの他の地域の市民を無差別に、無限に砲撃し続けるためだ。ドネツクは依然として極めて脆弱であり、砲撃は続いている。この歴史的な鉱山の町、そして周辺の田園地帯の住民の強さ、回復力、信念には深く心を動かされる。

アレクサンドル・ドゥーギン*との特別な対話の中で、私たちはノボロシア**の労働者階級がパレスチナやイエメンの抑圧された人々の精神的な兄弟であることを、直接的にも間接的にも明らかにした。そう、西アジアにおける抵抗の枢軸は、草原の黒い土壌におけるスラブの抵抗の枢軸と鏡のように重なる。
*アレクサンドル・ゲーリエヴィチ・ドゥーギンは、ロシアの政治活動家、地政学者、政治思想家、哲学者。 ソビエト連邦モスクワ出身。2008年から2014年までモスクワ大学で教授を務めた。クレムリンに影響力を持つ存在とされ、レフ・グミリョフに始まるネオ・ユーラシア主義の代表的な思想家の一人とされる。
**ノボロシア (新ロシア)。 ウクライナからの分離独立を宣言した同国東部の分離・独立運動でできた国家。ノボロシア人民共和国連邦、またはノボロシア連邦。ロシア政府は「ノボロシア」と呼んでいる。


ロシアは集団的な西側に対する文明戦争に引き込まれたかもしれないが、それは精神的な戦争でもある。ウクライナにおける覇権国によるロシアへの代理戦争は、ロシア正教に対する西側の虚無主義の戦争と同様に、地政学的な賭けである。

私はある司令官に、正教とシーア主義の平行性について言及したことがある。彼は戸惑ったかもしれないが、確かに意図を理解してくれた。

結局のところ、正統派キリスト教とイスラム教を信じるがゆえに拒絶され、嫌がらせを受け、爆撃を受けた人々が、超越的な生存戦争のために正統派とイスラム文明を再び目覚めさせた(信仰を支えとして)と、彼は本能的に気づいたに違いない。

アヴディエフカの呪文、それは聖母マリアがやがて慰めを与えてくれるように、このような困難な時代の触媒のようなものであるが、それをはるかに超えている。ドンバスのこの目まぐるしい旅で私に衝撃を与えたのは、全能の民衆の力である。パレスチナ、シリア、レバノン、イラク、イエメンを含む大シリア全域に散らばる人々と同様に、ドンバスの住民こそがノボロシア完全解放の真の英雄なのだ。

彼らは、シオニズムと、その終末論的な駐屯地入植者である植民地支配の子孫が聖地を占領して以来、アヴディエフカの煮えたぎる大釜よりもずっと有毒で、ずっと長い間、地上の地獄に耐えてきた魂なのだ。

ノボロシアの人々は、イエメンのフーシ派と同様に、そのDNAに信仰を刻み込まれている。私が前線に近いノボロシアで出会った、深く献身的な指揮官や兵士たちは、民衆の総意を反映している。


希望の本道を行く冒険者たち

ベビーブーマーの欧米人にとって、私たちが旅に戻るときにディランに言及せざるをえない。
「本道は冒険者のためにある。感覚を磨け」。
ノボロシアの黒い大地を横断する究極の冒険者は、なぜか、自分たちの土地を守るために不滅の信念の力を呼び起こす志願兵であり、契約兵である。

包囲の大鍋が極限まで煮えたぎったときに、滅びるか降伏するかの西側ゲームの駒たちには、「空もあなたの下に崩れ落ちてくる」ということだ。

シェリー*は直感的に、私たちは誰もが忘却に反抗していること、つまり死が私たちを断罪していることを理解していた。しかし、この反逆は2つのまったく異なる道筋をたどることがある。
*パーシー・ビッシ・シェリー(Percy Bysshe Shelley、1792年~1822年)は、イングランドのロマン派詩人。小説家のメアリー・シェリーは妻。ここでは夫の方を言うのか?

権力に酔いしれた人間は、目の前のすべてを破壊し、そして順番に破壊されていく(それが現在の「嘘の帝国」の運命である)。

そして、詩人や精神的な戦士がたどる道もある。その魂はエオリアン・ハープ*であり、目に見えない巨大な奇跡の力を呼び起こす。
*エオリアン・ハープは弦楽器の一種。ウインド・ハープとも。自然に吹く風により音を鳴らす。ギリシャ神話の風神アイオロスに由来する。

もちろん、ウクライナの代理戦争はアヴディエフカで終わることはなく、10年近く続くドネツク山麓での戦いは続くだろう。

プロパガンダによるテロ攻撃はさらに続くだろうし、市民の窮状はかなり長期化するかもしれない。しかし、すでにはっきりしているのは、千年の歴史を持つロシアの土地でロシアの魂を打ち負かすことを夢見る、下劣な「ルールに基づく秩序」のチェスプレイヤーは、どうしようもなく破滅の運命をたどるだろうということだ。
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