NATO拡大に関するアメリカの二枚舌が、いかに究極的に今日の問題をもたらしたか
クラウディオ・ギャロ
2022年2月4日
Strategic Culture Foundation
アメリカ帝国は強権支配をしており、権益を追求するため、その力を使わないとは考えがたい。だがその手段は実に様々なものであり得る。
どうやら、それが自分達の中庭で起きることに気付かずに、ヨーロッパ・メディアは、ウクライナでの戦争の炎を煽っている。70年代末のユーロミサイル問題同様、ワシントンは常に、ロシアに対抗させて、ヨーロッパを犠牲にするのを喜んでいる。あまりに多くのニュースで脳死して、特に、露骨なプロパガンダが、当然のこととして、情報源を信頼に足るものとし描くので、人々はしばしば正確さを確認できない。
アメリカのアントニー・ブリンケン国務長官を見てみよう。彼は最近ロシアについてこう言った。「一つの国は勢力圏を行使する権利を持たない。その観念は歴史のゴミ箱に捨てるべきだ。」世界を止めろ。私は降りたい。信じ難いが、モンロー主義をお聞きになったことがあるだろうか。1954年のグアテマラ侵略、コスタリカ、キューバ、チリ、アルゼンチン、ボリビア、ブラジル、グレナダ、ドミニカ共和国、ニカラグア、パナマ、パラグアイにおけるクーデターと関与について。国務長官は、エドワード・ガレアーノの『収奪された大地 ラテンアメリカ五百年』を読んだことがあるのだろうか?2009年にチャベスは、オバマに、この本を贈ったが無駄だった。(人生後半に著者が、主にスタイルのため、半ば否定したとは言えロングセラー本だ)。
史上の他の帝国と同様、アメリカ帝国には鉄の支配をしており、その権益を追求するためにその力を使わないとは考えがたい。だが手段(その先見の明ある妥協能力を含め)は、指導者のレベル次第で大きく変化し得る。だから、ジャック・マトロックのように偉大なアメリカ幹部外交官が、NATOの旗を持ったウクライナを現在同僚連中とは少し違った見方をするのは驚きではない。ベルリンの壁の秋とソ連の黄昏の年、1987年から1991年までモスクワ・アメリカ大使だった彼はロシア文化の深い知識を持つ洗練された知識人だ。
ミドルベリー国際研究所との最近の長いインタビューで、彼はこう想起している。「私は議会でNATO拡大に反対して、もしそれが続けば、大きな過ちで、ウクライナやジョージアのような国に達する前に止めなければならないのは確実だと証言した。これがどんなロシア政府にも受け入れられないはずだと」。
これまで20年、アメリカの外交政策は反生産的なロシア嫌悪に損なわれ続けている。「基本的問題の一つは、これまでの25年にわたる、ロシアは対立国あるいは敵だという感情の進展だったと大使は指摘する。世界にはその雰囲気を作る理由がないが、一歩一歩、我々はそれを作りあげたのだ」。
興味深いことに、マトロック大使は、NATOの態度の方向転換は、部分的には「より小さいNATO同盟諸国」の圧力にもよるが、主にクリントン時代の国内理由で起こされたと説明している。スティーヴン・ウォルトはクリントン政権の「リベラルの錯覚」を現在のウクライナ問題の原因として批判する最近のForeign Policy論文で極めて似た見解を示している。
マトロックはこう思い出している。「私が証言から出てきたとき、それを見ていた二人が言った。「ジャック、なぜこれに反対して戦っているんだ?」私は「私がそれはまずい考えだと思うから」と言った。彼らは言った。「だがクリントンは再選を望んでいる。彼にはペンシルベニア、ミシガン、イリノイが必要だ。それら全てに非常に強力な東ヨーロッパ系人がいる」これらの人々の多くが東西問題に関してレーガン民主党員になっていた。彼らはウクライナ[NATO]拡張が、ポーランドと最終的にウクライナを含むことを強く主張している。だからクリントンは再選されるためには、それらが必要なのだ」。
利己的に、クリントン政権は「非常に不誠実だった」。「クリントン自身、エリツィンに「平和のためのパートナーシップ協定」がNATO拡大に取って代わるべきだと言った。エリツィンは言った。「それは素晴らしい。それは素晴らしい考えだ」。だがアメリカは二枚舌を使っていたのだ。「まさに、その同じ時に、我々の大使はポーランドにこう言うよう指示された」。これはNATO加盟への第一歩だ。だから、私としては残念だが、当時我々は二枚舌外交をしていたと私は言わなくければならない。」
インタビューで、マトロックは非常に正直に率直に話をしているが、アメリカ帝国主義の過ち発言は明らかに期待できない。レーガンの部下で、確固とした反共産主義者で、譲歩しない市場信者の彼は、決して社会民主主義の平和主義者ではない。アメリカがロシアに与えた東方へのNATO拡大に対する暗黙の保証について大使は非常にあいまいだ。彼はドイツ統一条約の中には、東方に対するNATO改宗に反対する誓約がなかったと主張している。だが彼にとって、このような約束は当時決してテーブル上になかった。彼の同じ話は、まだこの保証が文脈の予測可能な部分だった状況を指摘するように思われる。
彼はドイツに統一させるようモスクワを説得する必要性について、文字通り、当時のドイツ外務大臣の言葉を引用している。ハンス・デートリッヒ・ゲンシャーは良くこう言っていた。「NATO管轄は東方に一インチも拡大しないと考えたら、もっと良いではないか?」ジェームズ・ベーカー国務長官は1990年2月9日にソ連代表ミハイル・ゴルバチョフとの会談でほぼ同じ表現を使った。「東方に一インチも」。
だが、少なくとも言葉上の保証は明示的で、この文脈だけではなかった。数年前、新たに機密扱い解除された文書が、ベイカー、ブッシュ、ゲンシャー、コール、ゲイツ、ミッテラン、サッチャー、ハード、メージャーとウェルナーからの、ソ連指導者へのNATO拡大に対する安全保障を示していた。この文書は「ゴルバチョフや他の人々がそういうことは起きないと信じるよう仕向けられたのに、「東方に[1990年代]NATO拡大を推進することに対する、ロバート・ゲイツ前CIA長官の批判を補強する。」この文書によって強化される重要な表現は「信じるよう仕向けられた」だ。
1990年1月31日、ババリアのトッツィングで、西ドイツのハンス・デートリッヒ・ゲンシャー外務大臣が重要な演説をした。ボン・アメリカ大使館がワシントンに送った要約で、彼はこう言っている。「東ヨーロッパの変化とドイツ統一プロセスは「ソ連の安全保障権益に損傷を与えては」ならない。それゆえ、NATOは「その領域の東方向への拡大、すなわちそれをソ連国境により近く動かすこと」を排除すべきだ。
興味深いことに、既にマトロックによってビル・クリントン政権のせいだとされた「二枚舌外交」に導く討論は、ジョージ・H・W・ブッシュ政権で始まっていた。1990年10月25日時点で、国防長官(ディック・チェイニー)オフィスは東ヨーロッパ諸国の加盟のためNATOは「ドアを少し開けた」ままにするはずだった」が、国務省が強情さで勝った。)それはNATO拡大問題に関するアメリカの方向転換は、クリントン時代の内政関心だけでなく、既に国家機構に存在していた傾向も反映していたことを意味する。
最初に「封じ込め」政策を定式化し、後に米国の冷戦態度を批判したアメリカ外交官ジョージ・ケナンは『核の迷妄』(1982年)で、我々が覚えている形でアメリカ-ソ連関係を描写した。読者は「ソ連」を「ロシア」に置き換える必要がある。「私は現在、我々の政府や、ジャーナリズム支配層の大部分に広まっているソ連に対する意見は、実に極端で、実に主観的で、外部の現実のどんな本格的精査でも明らかにするはずのものから遠く隔たっていて、政治行動の指針として役に立たないだけでなく、危険だと思う。」同じ過ちの絶えざる繰り返しだ。
クラウディオ・ギャロは元「ラ・スタンパ」外国版編集者、ロンドン特派員。以前アジアタイムズ、Enduring AmericaとRT.comに寄稿した。主な関心は中東政治と西洋哲学。
個々の寄稿者の意見は必ずしもStrategic Culture Foundationのものを意味しない。
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<本日の再配信>本日は夜7時から「『戦後国体』は『尊米攘夷』!? 戦後の対米従属の構造は戦前の天皇制支配から引き継がれた!? 岩上安身によるインタビュー 第939回 ゲスト 京都精華大学人文学部専任講師・白井聡氏」をお送りします。
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