アメリカ・シェール・エネルギーに関するロシアの指摘は正しいのか?
F. William Engdahl
2019年11月6日
New Eastern Outlook
最近のペンシルベニア・シェール生産者大会での発言で、ドナルド・トランプ大統領は、シェールオイル同様、シェールガスのこれまで10年間にわたる壮大な成長を指摘して、非在来型シェール・エネルギーが「アメリカを世界史上最も偉大なエネルギー超大国」にしたと述べた。一見すると、この業績は本当に印象的だ。2011年以来、アメリカはロシアを越えて、天然ガスの世界最大の生産国になった。2018年までにアメリカはロシアとサウジアラビアを追い越して、世界最大の石油生産国になった。それはもっぱら、アメリカの非在来型シェールオイルとガスによるものだ。だが成功は短命かもしれない。
シェールエネルギーの勃興と、西テキサスやノースダコタや他の場所の好ましい地質学的条件が、中東やベネズエラ政策でのみならず、アメリカに世界政治で明確な地政学的手段を与えたのだ。ロシア・ガスが主要な供給元であるEUでも。アメリカは、ガスと石油における主導的役割に基づいて、政策を続けることができるのだろうかか、それとも、これは、出現した時と同じぐらい突然に終わる一時的急上昇にすぎないのだろうか?
勝ち誇ったトランプがピッツバーグでシェール産業に演説していたのと、まさに同じ時、ロシアのノヴァク・エネルギー大臣が、アメリカの重要な地域におけるシェールオイル生産増加が最近減速していることを指摘していた。「もし予想が正しければ、近い将来、生産は頭打ちになるだろう。」彼はここ数カ月のシェールオイル掘削の大幅減少と、2020年シェールオイルの大幅減速が増すというウォール街による予測を示した。アメリカ・シェールガスの見通しは、現在の国内供給過剰にもかかわらず、肯定的なものとはほど遠い。LNG輸出ターミナルのインフラは増えているが、アメリカが、ロシアのガスと競合して、EUへの主要供給元になるのに十分なものからはほど遠い。しかもウォール街からの金も干上がりつつある。
EUでのトランプ敗北
トランプ政権は、供給の多様性を主張して、ロシアの従来形天然ガスの代わりに、アメリカ・シェールガスを買うよう、EUや世界の他の地域を説得する上で大きな政治的努力を払った。今それは決して実現しそうもないように見える。ロシアからバルト海を横切ってドイツに至る、能力を倍増し、ウクライナ・パイプラインへの依存を減らすヨーロッパ・ノルドストリーム2ガスパイプラインを中止させようとするアメリカの強い圧力にもかかわらず、最後のEU障壁デンマークは、領海を通るガスプロム・ルートを承認すると発表した。何カ月にもわたるワシントンによる圧力後のデンマークの決定は、アメリカ・シェールガスを液化LNGとして、ロシア・パイプライン・ガスの代用にするというトランプのエネルギー地政学戦略の明確な敗北だ。ガスプロムは、2020年始めまでに、ガス輸送能力を倍増するノルドストリームの二本目の完成を計画している。
最近の2018年7月、ワシントンでの欧州委員会ユンケル委員長との会談で、トランプは、欧州連合(EU)が間もなくアメリカ液化天然ガス(LNG)の「大規模バイヤー」になると発表していた。二年前の最低水準からすれば輸出は増えているが、それはまだ起きていない。ロシアのガスを阻止するアメリカ失敗はその希望に対する大打撃だ。
今日までのアメリカLNG供給元とポーランド間の限定された契約は別として、ノルドストリーム2をEUが承認した今、来年の対EU市場アメリカLNG大量輸出の見込みはほとんどない。
ノルウェーに頼るポーランド
アメリカ・シェール液化天然ガスのEU輸出成功例の一つ、すなわちポーランドさえ、ほかのところで、非ロシア・ガスを探している。2018年、アメリカ・シェールガス会社とのガス契約調印に続いて、ポーランドはノルウェー・ガスに頼った。ポーランド国営ガス企業の社長ピョートル・ヴォジニャクは「2022年から、100億立方メートルの計画容量のバルト・パイプ経由で、我々はノルウェーの大陸棚上で我々自身が採掘する約250万立方メートルの天然ガスを輸入するつもりだ。我々はノルウェー市場から残りの燃料を買う予定だ。」と発表したばかりだ。より高価なアメリカ供給元からの膨大なポーランド・ガス購入の夢は、もはやこれまでだ。
アメリカLNGの輸出は、ガスを積載して出荷するためのガスを液化するための高価なインフラや特殊な港湾施設やタンカー建設に依存している。最近の非常に安いアメリカ国内ガス価格と高い投資コストから、主要輸出施設の完成が遅れている。2018年、その多くがシェール抽出によるアメリカ天然ガスの生産が、ガス供給過剰を引き起こし、アメリカのガス価格を25年の最低にした。今年のガス生産は去年より10%多い。
二番目に大きいアメリカガス生産者チェサピーク・エナジーは更なるガスに対する投資を急激に削減し、資産を売って、負債を減らそうとしている。2008年に、同社は豊穣なヘインズビル鉱区を発見したが、かつて「アメリカで最も収益があるガス田」と呼ばれた北ルイジアナと東テキサス鉱区での生産を、低価格のために減らしている。同社はシェールガスブームをフルに利用するため、連邦準備銀行がゼロ金利維持した2010年の後、大規模借金をした。今やガスは溢れ、連邦準備銀行政策がきつい状態で、同社も他社も巨額の借金と、下落するガス価格を押しつけられている。
彼らは倒産することができ、エクソンモービルのようなより大きな競争相手が、安く彼らのガス埋蔵を買うことができるが、EUや中国へのアメリカLNG輸出に対する将来投資の経済的側面は明るくない。ワシントンの貿易戦争は、アメリカLNG輸出業者がインフラを拡大していた、まさにその時に、安定したLNG輸入を求めてロシア、オーストラリア、カタールや他のものに中国が目を向けるよう仕向けたのだ。アメリカ関税に報復するため、中国はアメリカLNGに25%の輸入関税を課して、効果的にアメリカ・ガスの可能性を潰したのだ。アメリカ・ガスは、EUでもアジアでも、いくつかの他の生産者との厳しい競合に直面しなくてはならないのが現実だ。
アメリカ・シェールオイルの凋落?
現在、アメリカ・シェールガスが世界的主要勢力となる見込みは大きくないが、近年、アメリカ・シェール掘削の主要な焦点であるシェールオイルの展望は全く違う問題に直面している。世界的な景気下降の不安を前に、益々多くのウォール街企業がリスクを減らすにつれ、シェールオイル・プロジェクトへの投資は大幅に削減されている。
アメリカの非在来型シェールオイル生産は、これまで10年間ほどににわたり、多くの人々にとって驚くべきものだった。米国エネルギー情報局によれば、アメリカ原油生産高は2018年、一日1096万バレルの記録に達した。日産約650万バレル、原油全体のほぼ60%が、主としてテキサス西部の巨大なパーミアン盆地のシェール資源だ。だが増加のペースは、際立って鈍化しており、シェールオイルの死のスパイラルは確実だと一部の人々が予測している。
アメリカ・シェール石油が年率180万バレル増加した、2018年末のピークの成長から、今四半期には、その半分に減るとRystad Energyは推定している。彼らは「2017-2018年の重要な油井活動の拡張」は「基盤のより急速な下落を犠牲」で実現したと指摘している。いわゆる若い井戸が始めの数四半期に大量の石油を産出し、生産高は急速に減少する。
世界石油価格は50ドルの範囲で立ち往生しており、ベネズエラ、イラン、サウジアラビアでの地政学ショックにもかかわらず、シェールオイルの経済はストレスに直面している。大半の小規模シェール企業が赤字操業しており、もしこれが間もなく変化しなければ、アメリカ・シェールオイル破産の速度は雪だるま式に加速しかねない。
問題はアメリカのシェールオイル経済の大半が不透明なことだ。 近年、シェールオイル企業への大量の投資は、石油埋蔵量が増加するという企業見積もりに基づいていた。しかしながら、この数値は主要な利益相反の影響を受けるのだ。2008年以来、証券取引委員会は、石油会社が埋蔵量を決定するために、開示の対象とならない「独自の方法」を使うことを許してきた。生産高がブームになり、金が豊富な限り、誰もたいして気にしなかった。今それは変化している。最近パーミアン盆地で最大企業の一社Pioneer Natural ResourcesのCEOスコット・シェフィールドは、シェール油のための最良の場が石油産業に不足していることを認めた。それは「スイートスポット」と呼ばれるもので、利益を得るため経費が十分低い。わずか二年前、パーミアン盆地のシェール埋蔵量をサウジアラビアに例えたシェフィールドにとって、大きな転換だ。
ここで、ありそうなのは、アメリカ・シェールオイル部門の生産率の更なる下落と、それゆえアメリカ石油全体の下落だ。シェールブームは、従来の井戸より遥かに速く、最大産出量に達し、枯渇する油井に依存することが知られていた。技術がその効果を緩和するのを助けたが、金が安く借りられ、石油価格が上がっている限りのことだった。2018年から石油価格が下がった。2018年10月、ウエスト・テキサス・インターメディエイト石油は1バレル75ドル以上の値段だった。今日価格は、56ドル付近で、大半のシェールオイル会社にとって、危険なほど損益分岐点に近い。
S&P Global Plattsのシン・キムは「業界が考えているより速く、シェールに失望する可能性」を見ている。「アメリカ・シェールの日産100万あるいは150万バレルという、一貫したレベルの、生産伸び率に見合うものは他に何もありません。」と彼女は言う。
アメリカ・シェールオイルの急速な衰退の地政学的結果は、アメリカ対外政策の選択肢に重大な影響を与え、アメリカの油田投資が低下すれば、アメリカ経済にも影響し、トランプ再選にとっても良いニュースではない。一つの不吉な兆しは、以前のシェール低迷の際は、シェールオイル採取業者が、需要復活を待って使わない装置をそのままにしていたのに対し、今回は装置が部品に解体されたり、スクラップとして売られたりしている事実だ。
F. William Engdahlは戦略リスク・コンサルタント、講師。プリンストン大学の政治学位を持つ石油と地政学のベストセラー作家。オンライン誌New Eastern Outlook独占記事。
記事原文のurl:https://journal-neo.org/2019/11/06/is-russia-right-about-us-shale-energy/
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昨日は、昼から、バラエティーやら呆導番組やらを、音を消して、翻訳しながら、時々ながめてみた。森田知事の行動はしつこく報じていたが、国会討論での下劣野次問題や入試問題に触れたものは皆無だった。民間企業による大学入試導入は既定事項なのだから、決して触れるなと全ての局に通達が回っているのだろうか。TPPの時と同様に。そして検閲は更に強化されつつある。
日刊IWJガイド「外務省が『検閲』!? ウィーンの芸術展公認取り消しの理由は『「両国の相互理解を深め、友好を促進するという要件に合致しない』から!?」2019.11.8日号~No.2612号~
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日々の翻訳ご苦労様です。
当方71歳、腰椎狭窄症手術の失敗で痛みで歩行困難。
近現代史を俯瞰するに徳川崩壊以降日本はまともな国になる事は出来ないと思います。
上質な2.26でも起これば別ですが。
貴兄たちが上質な意見を発露されていますが、共感を感じる人は少ないのでしょう。
体験はしていませんが、大正から昭和10年くらいまでが,
まっとうな国家であったような気がします。
ご自愛の上健闘を祈念します。
投稿: 瑠東東治 | 2019年11月 9日 (土) 08時12分