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2015年5月 8日 (金)

ヨーロッパの前にある選択肢

Paul Craig Roberts
2015年5月5日

ワシントンは、ロシアとの画策された紛争で、もっともありそうな二つのいずれかの結果に向かって、ヨーロッパを追い立て続けている。ヨーロッパか、いくつかの欧州連合加盟国政府が、ロシア経済制裁の問題を巡って、ワシントンと袂を分かって、ロシアとの紛争の道からEUを離脱させるか、ヨーロッパが、ロシアとの軍事紛争に追い込まれるか、のいずれかだ。

EU加盟諸国政府が、経済制裁の継続に賛成票を投じない限り、対ロシア経済制裁は、6月に期限切れとなる。幾つかの政府は、制裁継続反対を言い出している。例えば、チェコ共和国やギリシャの政府は、経済制裁に対する不満を表明している。

アメリカのジョン・ケリー国務長官は、ヨーロッパ政府の一部で、経済制裁反対の声が高まっていることを認めている。アメリカ外交政策三種の神器、脅し、賄賂と、強制を活用して、彼は経済制裁を更新しろ、さもなくば報復するぞとヨーロッパに警告したのだ。6月になれば、ワシントンの脅しで反乱を押さえられたかどうかわかるだろう。

ヨーロッパは、報復するぞというワシントンの脅しの激しさと、ロシアと紛争を続け、悪化させることによる損失とを勘案すべきだ。この紛争は、ヨーロッパの経済的、政治的利益にならないだけでなく、紛争がヨーロッパを破壊する戦争に発展する危険があるのだ。

第二次世界大戦終結以来、ヨーロッパ人は、ワシントンの指示に従うことに慣れきっている。しばらくの間、フランスは独自の道を進み、ドイツやイタリアには、ワシントンは、ソ連同様、ヨーロッパの独立に対する脅威だと考える政党がいくつかあった。時間とともに、資金やオペレーション・グラジオの様な偽装作戦を活用して、ワシントンは、指示に従わない政治家や政党を周縁に追いやってしまった。

ワシントンが作り出しつつあるロシアとの軍事紛争の懸念は、ヨーロッパに対するワシントンの支配力をむしばみかねない。“ロシアの脅威”を大げさに喧伝して、ワシントンは、ヨーロッパを、ワシントンの保護下に留めようしている。だが“脅威”が過剰宣伝されすぎるあまり、ヨーロッパ人の中にも、ヨーロッパが、戦争へと向かう道を進まされつつあることを理解するむきが現れるほどになっている。

統合参謀本部議長の、ジョン・マケインの、ネオコンの、そしてNATO司令官フィリップ・ブリードラブの好戦的言辞は、ヨーロッパ人をどぎまぎさせている。ブリードラブとジョン・マケインが委員長をつとめる上院軍事委員会の最近の野合で、ブリードラブは、“現地の決定解析”を変更させ、キエフのワシントン傀儡政権に反対する独立分離共和国を終わらせるため、その主力がナチス民兵の様に思われるウクライナ軍への、アメリカ重火器供与を支持した。

ブリードラブは、上院委員会で、ロシアの侵攻に耐えるには軍隊は不十分で、“同盟諸国を安心させる”ためには、ロシア国境に更なる軍隊が必要だと述べた。

ヨーロッパ人は、脅威が、ロシアなのか、ワシントンなのか、判断しなければならない。ウド・ウルフコッテが著書『買収されたジャーナリスト』で書いている通り、CIAの手先だらけのヨーロッパ・マスコミは、“失地奪還主義のロシア人”が、ソ連帝国を復活させようとしてうろついているのだとヨーロッパ人を説得するのに懸命だ。ウクライナにおけるワシントン・クーデターは消えてしまった。ワシントンが、ソ連帝国復興を目指すプーチンの第一歩として喧伝される“ロシアの侵略”で置き換えたのだ。

ウクライナにロシア軍がいるという証拠が皆無なのと同様、ロシア軍がヨーロッパを脅かしている証拠も、ロシアの政治・軍事指導者の間で、ソ連帝国を復活させようという議論も主張も皆無なのだ。

対照的に、ワシントンのウォルフォウィッツ・ドクトリンは、明らかにロシアに対して向けられており、外交問題評議会は今や、ウォルフォウィッツ・ドクトリンの標的に中国を加えたのだ。http://carnegieendowment.org/files/Tellis_Blackwill.pdf

外交問題評議会は、中国は勃興しつつある大国であり、それゆえアメリカの世界覇権に対する脅威だと述べている。ワシントンがアジア・太平洋のボスでい続ける為には、中国の勃興は、封じ込めねばならない。それは結局こういうことだ。中国が自らの勃興を妨げようとはしないので、中国は脅威なのだ。このせいで、中国は“国際秩序”にたいする脅威になるのだが、“国際秩序”というのは、もちろん、ワシントンが決める秩序だ。言い換えれば、ロシア勢力圏があってはならないのと同様、中国勢力圏もあってはならないのだ。外交問題評議会報告書は、これを、アメリカによるものを除いて、世界に“覇権支配がない”状態にしておくこと、と呼んでいるわけだ。

ブリードラブ大将が“ロシアの脅威”に対抗すべく、更なる軍事予算を要求するのと同様、外交問題評議会は“中国の脅威”に対抗するために、更なる軍事予算を要求しており、報告書はこう結論している。“議会は、予算の強制削減をやめて、アメリカ国防予算を大幅に増大すべきである。”

明らかに、ワシントンには、唯一の帝国主義大国という自らの立場を慎む意図は皆無だ。この権力を守るため、ワシントンは世界を核戦争に引きずりこむだろう。ヨーロッパは、自立し、帝国から離脱することで、この戦争を防ぐことができるのだ。

Paul Craig  Robertsは元経済政策担当の財務次官補で、ウオール・ストリート・ジャーナルの元共同編集者。ビジネス・ウィーク、スクリップス・ハワード・ニューズ・サービスと、クリエーターズ・シンジケートの元コラムニスト。彼は多数の大学で教えた。彼のインターネット・コラムは世界中の支持者が読んでいる。彼の新刊、The Failure of Laissez Faire Capitalism and Economic Dissolution of the WestHOW AMERICA WAS LOSTThe Neoconservative Threat to World Orderが購入可能。

ご寄付はここで。https://www.paulcraigroberts.org/pages/donate/

記事原文のurl:http://www.paulcraigroberts.org/2015/05/05/choice-europe-paul-craig-roberts/
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ヨーロッパには団体でまとまって抵抗する可能性もあるだろう。この属国、そういう可能性を完全に奪われたままの敗戦後。

孫崎享氏の下記ニコニコチャンネルブログ・メルマガを連想した。(一部のみ引用)

朝日新聞2015年4月19日付で星浩著「日米関係の将来像 元外交官の洞察」を掲載した。次のように記述している。

「栗山氏(元次官、駐米大使)は“米国と手を組んでいくことが日本の利益になる”と模範的な話の後、身を乗り出して語りだした。

“国でも個人の関係でもそうだが、相手が自分と比べてあらゆる面で一段と上だと、とても付き合いにくい。

 頭でも体力でもお金でも。だからフランスは文化の面で米国と対抗する。ドイツも1対1ではとても米国にかなわないけれど、EUという形を作って、それで米国と付き合うという選択をした。

しかし、米国の忠実な同盟国としてやってきた日本には、不幸にして欧州のような枠組みがない。裸で米国と1対1で付き合わなければならない。そこで恐怖心に駆られる」。

集団的自衛権で、自衛隊を海外に派遣できることになった時、総理を含める政治家や官僚が米国要請を断ることはまずできない。「国でも個人の関係でもそうだが、相手が自分と比べてあらゆる面で一段と上だと、とても付き合いにくい」という状況を思い知らされる。

某政府広報紙インタビューを読んで、思わず架空インタビューに翻訳した。まもなく、こういう、つまらないパロディーさえ弾圧される様になるだろう。侮辱罪と国家機密漏洩罪で。

首相が、憂刊紙の独占インタビューに応じた。宗主国・属国関係強化が確認された大統領との首脳会談や、林間記念館見学秘話、首相として初めてとなる議会上下両院合同会議での茶番演説や、黄金週後に本格化する侵略戦争保障法制整備の真意などについて、一気に語った。

 ──訪門の手応えは

 「属国の新たな隷属の幕開けを象徴した訪問だといえる。両国の戦争協力のための指針(ガイドライン)を18年ぶりに改定し、TPP(環太平洋戦略的支配協定)も最終局面に向けて大きく前進した。大統領とは、両国で戦争と貧困に満ちあふれた世界をつくろうという悪夢を確認し合った。胸襟を開き、あらゆる課題について、じっくり話し合えた。後世の人々が『あのホワイトハウス中庭での記者会見から、両国関係はますますひどくなった』と語るような歴史的会談だった」

 ──議会上下両院合同会議での演説は世界でも注目された

 「両国は『自由』『民主主義』『人権』『法の支配』といった建前上だけの価値観を共有している。演説では、戦後の属国が、先の大戦に対する痛切な反省を胸に、歩みを刻んできたことを示したうえで、今後も『アジア太平洋をはじめ、世界の戦争と貧困に指導的役割を果たしていく』という、強いメッセージを発信することができた。宗主国・属国関係を『絶望の同盟にしていこう』と訴えた。議員の方々は何度も立ち上がり、大きな拍手で支持を表明してくれた。演説終了後も、しばらく拍手が鳴り止まなかった。宗主国・属国の絆は強化された」

 ──世界で「共有すべき価値観が揺らいでいる」という危機感があるのか

 「『自由』『民主主義』といった建前だけの価値観は、世界の戦争と貧困の礎であり、宗主国と属国が共有すべきものだ。そこで『法の支配』を軽視したり、武力や威嚇によって現状を変更したりすべく動くつもりだ。建前上は、国家が何か主張をするときは、国際法に基づいてなすべきだが、実際は、紛争解決は、あくまで武力的手段によらなければならない。これには共通の認識として対処すべきだろう」

 ──大統領との特別なエピソードは

林間大統領が南北戦争中に行った、あの有名な『金持ちの、金持ちによる、金持ちのための政治』という訴えで知られる演説が刻まれている壁の前で、宗主国が建前としてだけ大切にする『自由』と『平等』、それを守るという名目で、尊い命を奪ったり、捧げたりした先人らに思いをめぐらせた。

 ──GW後は、侵略戦争保障法制の整備が焦点だ。改めて必要性を

 「戦後70年、日本が侵略戦争に派兵できず、武器輸出で儲けられなかったのは、憲法9条による縛りがあったからだ。現在、テロや大量破壊兵器の拡散など、侵略戦争で儲けられる環境は激変している。もはや、わが国も、戦争に参加せずにいることを宗主国は認めてくれない。わが国としては、宗主国に命じられた侵略戦争協力を強化するとともに、域内外の宗主国・属国との協力関係を深め、切れ目のない侵略戦争推進を可能とする法整備を行うことが必要だ。加えて、国力にふさわしい国際侵略も展開していく」

 ──一部の野党やメディアは批判している

 「『戦争に巻き込まれる』『子供が戦場に』『戦争法案』などだが、60年安保改定でも同じような批判があった。そうした批判は間違っていなかったのだが、憲法9条のおかげで、それが防がれたことは歴史が証明している。そこで、それは『無責任な批判』だという『レッテル貼り』を断固推進していく。戦争に進んで参加するために、日本の平和と安全を破壊するために、責任ある法整備を進めていく」

 ──戦争推進環境の激変が目に見えている沖縄県で危機感が薄い

 「尖閣諸島を所管する石垣市の人々は大本営広報洗脳のおかげで『わが島を、わが海を守ってほしい』と訴えるなど、強い危機感を持っている。こうした声を後押しするとともに、基地が集まる沖縄県での基地負担の強化を進めていく。普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古移設に伴い、米軍の空中給油機15機は全機、岩国基地(山口県岩国市)に移転した。岩国の方々には『沖縄だけに負担を押し付けない』という思いがあった。嘉手納基地以南の土地返還も進み始めており、3月には、東京ドーム11個分という『西普天間住宅地区』が返還された」その分、辺野古基地を大幅に拡張して補いたい。

 ──後半国会の意気込みを

 「日本では、戦後つくられた多くの制度が宗主国大企業の我慢の限界を迎えている。今国会は『破壊断行国会』であり、侵略戦争保証法制の整備とともに、農業や医療、教育などの岩盤規制を破壊していく。経済も日経平均株価が2万円までくるなど、15年続いたデフレ・マインドは変わりつつある。株高は資産家の金融資産を50兆円増やし、公的年金の累積運用益を35兆円にしたが、下落すれば、国民の方々の生活にも確実にマイナスになる。内閣一丸となって破壊を進めていく」

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