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2024-12-04

anond:20241204154336

イケボ実況者たちが実況したせいでファンの女が作品なだれこんだ

男が悪い

2024-12-01

No.102 (1998/2/9)

←前後→

陳という名の中国人メガネの女、そしてぼくを合わせた三人は、チームを組んで働いていた。いや、強制的に働かされていたといった方が正しいだろう。ぼくらの上官は嫌な奴だった。何かと文句をつけては、おかまいなしに殴る蹴るの暴行を加えるのが趣味なのだ。数日前、陳とメガネは耐え切れずに逃亡を企てたことがあったが、見張りに捕まった二人はさらに上官の酷い暴行を受けただけであった。

さて今日は何か集会があるというので、ぼくら労働者たちはホール一角に集められ、椅子に座らされていた。正面の舞台を見渡すと、腕を縛られた見覚えのある数人の仲間の姿が並んでいる。怯えたような表情を浮かべている者もいれば、すっかり諦めて悟り切った様子の者もいる。一体これから何が始まろうとしているのだろうか。やがて指揮官たちと舞台の上の労働者たちの間で二三の短いやりとりが交わされたが、ここからでは遠くて何を言っているのかうまく聞き取れなかった。そして手始めに一番左側の男が後向きに立たされると、突然銃で撃たれてしまった。背中に生々しい傷跡を残して倒れる男。ホールに沸き起こる拍手喝采の渦。ぼくは凝視していることができずに思わず目を背ける。そしてこれが処刑のための集会であることをようやく理解した。処刑は次々と事務的に行なわれていく。左側の労働者から順番に、何か短い問答があり、書記官がそれを書き留める。そして次々と後向きにされ、あっけなく銃殺されるのだ。一番最後の男はすっかり取り乱した様子で走り出したがすぐに取り押さえられ、再び舞台の上に引き戻される。そしてお馴染みの短いやりとりの後、最後には完全に諦め切った様子で、ありがとうございます、などと呟いているのだった。

ようやく全員の処刑が終わった。そのときぼくらの上官が立ち上がり、今日特別に二人の諮問対象者が追加されたと宣言した。続いて舞台に引っ張り出されてきたのは、陳とメガネであった。彼らは逃亡を企てた廉で処刑されることになったというのだ。ぼくはあまりのことに目を見張った。二人は他の者と同様すっかり諦め切った様子でうなだれている。椅子に座らされ、先ほどと同じように短いやりとりが始まった。とそのとき、陳が突然取り乱したように暴れ始めた。同時にぼくは彼が縛られた手の中に何か小さな機械を隠し持っていることに気付いた。そう、彼はまだ諦めていなかったのだ。先ほどのうなだれた様子も、今の取り乱した様子も演技に過ぎない。彼は例の短いやりとりが終わるまでは決して自分処刑が行なわれないことを知っているのだ。ぼくは思わず観客席で短い叫びをあげて立ち上がった。指揮官たちの注意が一瞬こちらに逸れ、ぼくの上官が何か悪態をつきながら走り寄ってきた。一瞬陳と目が合った。互いの意志確認するにはそれで十分だった。上官はぼくの腕をねじ上げると、観客席の後ろまで引きずっていき、いつものように手早く殴る蹴るの暴行を加える。そして再び舞台の方に戻って行った。舞台に目をやると暴れる陳が間もなく取り押さえられようとしているところだった。そして彼の手からはいつの間にか先ほどの機械がなくなっている。うまく混乱を利用して仕掛けたようだ。そしてぼく以外に事の真相に気付いている者は誰もいないらしい。そのときふと周囲を見回すと、ぼくは上官に引きずられてきたせいでホールの出口近くに横たわっていた上、うまい具合に見張りたちも皆すっかり舞台出来事に気を取られているらしいことに気付いた。ぼくは静かに出口に忍び寄ると、ロープを解いて一気に走り出した。

見張りたちが集会に駆り出されていたせいか警備はすっかり手薄になっていた。ぼくは陳とメガネが一度目に逃亡を企てたとき計画を知っていたので、道に迷うこともなかった。もちろん靴と上着を奪うことも忘れてはいない。それから真っすぐに裏口に辿り着くと、軽々と門を飛び越えて外に出た。夕闇の迫る時刻だった。陳とメガネはうまくやっただろうか。ホールからはもうすっかり遠ざかっていたためか、それともぼくが余りに夢中で走っていたからだろうか、予期していた爆発音は聞こえなかった。後ろを振り返り、立ちはだかる巨大な建物の向こうから煙が上がっているのを認めると、ぼくは全てを知って再び走り出した。もうあの二人に出会うこともないだろう、そんなことを考えながら、陽の沈みかけた誰もいない街を走り続けた。

←前

後→

2024-11-14

エレベーター自分の降りる階を伝えるのがいつまでもうまくならない

しょうもない悩みだとことわっておく。

きっと皆この状況になったことはあるだろうから思い出してほしい。

俺は6階の書店に用がある。その商業施設エスカレーターフロアを回らないと複数階上がれないつくりで面倒だから、1階にいる俺はエレベーターで上がることにした。エレベーターは4基くらいあって、スムーズにやってくる。10人ほどの客が先になだれこんで、俺はぎりぎりでその上りエレベーターに乗り込んだ。10人ほどの客は皆揃って7階の映画館用事があって、点灯しているランプは7階だけ。人気映画の開場と被ったんだろう。運が悪い。定員まで詰まったエレベーター内は狭く、自分ではボタンまでたどり着けない。

もちろん声をかければいいだけなのはわかる。実際そうする。しかしどう声をかけるのがベストなのかがわからない。

すみません、6階おねがいします」と言うことが多い。それで伝わる。でも言ったそばから「いろいろなことを省略しすぎているのではないか」と不安になる。フルで言うなら「すみません、6階のボタンを押してください。おねがいします」という形になるだろうけど、長過ぎるから省略せざるをえない。でも「6階おねがいします」はちょっと自分希望だけをぼやかして伝えて人を意の通りに動かそうとする嫌な人間みたいなんじゃないかとか考えてしまう。

すみません、6階おねがいします」の間にそんなことがよぎるから最後の方はちょっとよれた発声になる。恥ずかしい。それを想像して嫌になって伝えることができず、7階で降りてからエスカレーターで1階分降りることすらある。エレベーターを一本見送って一番に乗り込んでドア横のボタン位置を死守することもある。俺はいつになったら後ろめたさも恥ずかしさも惨めさもなく満員のエレベーターを使えるようになるんだろう。知恵があれば授けてほしい。

2024-11-07

渋谷ファンタジー新宿リアル

元々渋谷はハリボテ感が強い街だった。

驚くほど文化的ものがなにも育たずに空虚な店に埋め尽くされてる街だ。

その結果一種ファンタジー感も生まれてあの交差点を含めて「サイバー東京イメージに近い景観を手に入れた。

外国の人は渋谷に来ると興奮する「そうそTOKYOってこんな感じ」が表現されている。

原宿に裏原があったように渋谷にも裏渋谷的な流れも確かにあった。

特に音楽との結びつきは比較的強いものがあったと思う。サブカルともある程度親密であった。

それと道玄坂ラブホテル街は今は知らないがクラブ文化とともにどこかさっぱりとした猥雑さという独特な空気もあった。

しかし今ではほんとに空っぽの街という印象が強い。

新宿は常にリアルだ。

トー横の生々しさはもちろん、どこを歩いても人間がたくさんいる。

ザ・ノンフィクション流れるサンサーラ「いきて~る いきてい~る~♪」がこんなに似合う街もそうない。

塩っぱいだけの店が立ち並ぶ中、あちらこちらで謎の目配せが発生する街。

無理やりおしゃれにしようとして大きなLEDを頭上に掲げてもみんなうなだれ歩いてるから誰も見ない。

こんなに豊かで物に溢れてるのにまったく幸せそうに見えない、まさにこれがTOKYOという感じ。

他の街はみんな嘘をついているのだ。

ごくごく一部の富を得たもの達が腑抜けた顔で犬を連れ歩く街など、ほとんどの人には関係のない場所だ。

そんな生活に憧れてでも手に入らない、死んだ目でうろつく街それが新宿だ。

2024-10-12

ノーベル平和賞を与えるべきは「はだしのゲン」の方だと思ってしま

が、それをやると作者と集英社が手柄を総取りした感じになっちゃうから被団協にしたんだろうなあ。

でもやっぱ影響力や訴求力という点では「はだしのゲン」が圧倒的に感じる。

連載開始から50年の間、戦争原爆についての市民目線でのエピソード子どもたちに与え続けてきたのは本当に凄い。

戦争エピソードをお祖父ちゃんに聞こう」みたいなのはさ、結局その人達体験したことしか言わないから都会なら田舎疎開した話だし、田舎なら都会から疎開なだれまれた話だけになっちゃうんだよね。

本当に原爆のことを実体験を持って伝えられる人は広島長崎の極一部にいた人だけで、あまりにも数が少ない。

でもジャンプ漫画だったら日本全国の子どもたちが読むし、学校公立図書館単行本も置かれているから皆いつの間にか読んで学ぶことが出来てる。

ゲンの良い所って「戦争を持ち上げたり批判したりで手の平クルクルしてる奴らはカス」ってエピソードはあっても「天皇かい詐欺師に騙されてアジア搾取した日本民族はカスから滅んだほうがいい」ってエピソードはないこと。

戦争に対して後ろ向きな作品によくあるただただ悲観的な内容じゃなくて、トラウマエピソードがクソほど山盛りなはずなのにやたら前向きなノリなんだよね。

当時の出版業界の多少の無茶ならセーフなノリのおかげで、米軍に「オウ、ナイスデザイン」な骸骨を売りつける今なら通らなそうなエピソードとかもあるし。

戦争によって普通暮らしを取り上げられた子ども等身大の戦いを描いて、その中で原爆による悲惨な影響が現れているって所が、読み手に対して原爆人間距離感を考えさせると思うんだよ。

ぶっちゃけさ、被爆体験者のエピソードってどっかで他人事じゃん?

だっていきなり現れて1時間だけ好き放題言って帰っていくだけの被爆前は学校通ってたっぽいこと以外は何の情報もない老人でしかないもの

でもゲン被爆する前から戦争と戦ってきた数々のエピソードがあって、被爆の影響が人によってバラバラタイミングでいつ現れるとも知れない中でどこまでも付きまとってくることの恐怖を語ってくれるわけだよ。

この生々しさはさ、いきなりやってきたよく分からんジジババの「辛かったねえ・・・戦争はクソだねえ・・・天皇はいい人なのに不思議だねえ・・・」な思い出話からだけじゃ伝わらねえわけよ。

やっぱ「はだしのゲン」は凄いと思うよ。

ノーベル平和賞もらって良かったと思う。

2024-10-06

[]監督退任報道などで揺れる中、佐藤約2カ月ぶり弾も……ドローで3試合勝利 

明治安田J1オレオレFC1-1FC東京>◇第40節◇5日◇ロイスタ

 オレオレFCは、ホームFC東京と1―1の引き分けで3試合勝利となった。0ー0で迎えた後半30分、FW佐藤の約2ヶ月ぶりとなる今季5得点目で先制。だが勝利が見えかけた後半40分に失点し、無念のドロー勝ち点1は積み上げたが、降格圏内(18位以下)とは8差の暫定13位と気の抜けない戦いが続く。

 悔し過ぎるドローだ。残り5分の失点で追いつかれ、勝ち点2を失った。退任報道の野河田彰信監督は2試合連続で会見を拒否鈴木潤主将は「この1週間、色々な事があった中で勝ちたかった。勝ち点2を失った試合です」とうなだれた。

 0ー0で迎えた後半30分、FW佐藤FWラモン・ワーグナークロスドンピシャのヘッドで約2ヶ月ぶりの今季5得点目。前節・湘南戦で大逆転負けを喫し、一部サポーター口論に発展。”みそぎの一戦“でサポーターのもとに駆け寄り、お辞儀ポーズで喜びを分かち合った。

 後半40分にCKのこぼれ球相手にミドルを決められ失点した。佐藤は「ゴールは嬉しいが、勝てなかったので……悔しいです」と歯切れは悪かった。野河田監督今季限りでの退任報道に加え、外国籍2選手がチーム規律違反解雇、元ユース選手スタッフ逮捕など1週間揺れた中での試合で3試合ぶりの勝利はならず、降格圏との勝ち点差を広げられなかった。

 代表ウィーク開けとなる次節は19日アウェイ柏レイソルと対戦する。残り7試合残留と共にチームの真価が問われる戦いとなる。

2024-09-30

 三四郎はこの時ふと汽車水蜜桃をくれた男が、あぶないあぶない、気をつけないとあぶない、と言ったことを思い出した。あぶないあぶないと言いながら、あの男はいやにおちついていた。つまりあぶないあぶないと言いうるほどに、自分はあぶなくない地位に立っていれば、あんな男にもなれるだろう。世の中にいて、世の中を傍観している人はここに面白味があるかもしれない。どうもあの水蜜桃の食いぐあいから、青木堂で茶を飲んでは煙草を吸い、煙草を吸っては茶を飲んで、じっと正面を見ていた様子は、まさにこの種の人物である。――批評家である。――三四郎は妙な意味批評家という字を使ってみた。使ってみて自分うまいと感心した。のみならず自分批評家として、未来存在しようかとまで考えだした。あのすごい死顔を見るとこんな気も起こる。  三四郎は部屋のすみにあるテーブルと、テーブルの前にある椅子と、椅子の横にある本箱と、その本箱の中に行儀よく並べてある洋書を見回して、この静かな書斎の主人は、あの批評家と同じく無事で幸福であると思った。――光線の圧力研究するために、女を轢死させることはあるまい。主人の妹は病気である。けれども兄の作った病気ではない。みずからかかった病気である。などとそれからそれへと頭が移ってゆくうちに、十一時になった。中野行の電車はもう来ない。あるいは病気が悪いので帰らないのかしらと、また心配になる。ところへ野々宮から電報が来た。妹無事、あす朝帰るとあった。  安心して床にはいったが、三四郎の夢はすこぶる危険であった。――轢死を企てた女は、野々宮に関係のある女で、野々宮はそれと知って家へ帰って来ない。ただ三四郎安心させるために電報だけ掛けた。妹無事とあるのは偽りで、今夜轢死のあった時刻に妹も死んでしまった。そうしてその妹はすなわち三四郎が池の端で会った女である。……  三四郎はあくる日例になく早く起きた。  寝つけない所に寝た床のあとをながめて、煙草を一本のんだが、ゆうべの事は、すべて夢のようである。椽側へ出て、低い廂の外にある空を仰ぐと、きょうはいい天気だ。世界が今朗らかになったばかりの色をしている。飯を済まして茶を飲んで、椽側に椅子を持ち出して新聞を読んでいると、約束どおり野々宮君が帰って来た。 「昨夜、そこに轢死があったそうですね」と言う。停車場か何かで聞いたものらしい。三四郎自分経験を残らず話した。 「それは珍しい。めったに会えないことだ。ぼくも家におればよかった。死骸はもう片づけたろうな。行っても見られないだろうな」 「もうだめでしょう」と一口答えたが、野々宮君ののん気なのには驚いた。三四郎はこの無神経をまったく夜と昼の差別から起こるものと断定した。光線の圧力試験する人の性癖が、こういう場合にも、同じ態度で表われてくるのだとはまるで気がつかなかった。年が若いからだろう。  三四郎は話を転じて、病人のことを尋ねた。野々宮君の返事によると、はたして自分の推測どおり病人に異状はなかった。ただ五、六日以来行ってやらなかったものから、それを物足りなく思って、退屈紛れに兄を釣り寄せたのである。きょうは日曜だのに来てくれないのはひどいと言って怒っていたそうである。それで野々宮君は妹をばかだと言っている。本当にばかだと思っているらしい。この忙しいものに大切な時間を浪費させるのは愚だというのである。けれども三四郎にはその意味ほとんどわからなかった。わざわざ電報を掛けてまで会いたがる妹なら、日曜の一晩や二晩をつぶしたって惜しくはないはずである。そういう人に会って過ごす時間が、本当の時間で、穴倉で光線の試験をして暮らす月日はむしろ人生に遠い閑生涯というべきものである自分が野々宮君であったならば、この妹のために勉強妨害をされるのをかえってうれしく思うだろう。くらいに感じたが、その時は轢死の事を忘れていた。  野々宮君は昨夜よく寝られなかったものからぼんやりしていけないと言いだした。きょうはさいわい昼から早稲田学校へ行く日で、大学のほうは休みから、それまで寝ようと言っている。「だいぶおそくまで起きていたんですか」と三四郎が聞くと、じつは偶然、高等学校で教わったもとの先生広田という人が妹の見舞いに来てくれて、みんなで話をしているうちに、電車時間に遅れて、つい泊ることにした。広田の家へ泊るべきのを、また妹がだだをこねて、ぜひ病院に泊れと言って聞かないから、やむをえず狭い所へ寝たら、なんだか苦しくって寝つかれなかった。どうも妹は愚物だ。とまた妹を攻撃する。三四郎おかしくなった。少し妹のために弁護しようかと思ったが、なんだか言いにくいのでやめにした。  その代り広田さんの事を聞いた。三四郎広田さんの名前をこれで三、四へん耳にしている。そうして、水蜜桃先生青木堂の先生に、ひそかに広田さんの名をつけている。それから正門内で意地の悪い馬に苦しめられて、喜多床の職人に笑われたのもやはり広田先生にしてある。ところが今承ってみると、馬の件ははたして広田先生であった。それで水蜜桃も必ず同先生に違いないと決めた。考えると、少し無理のようでもある。  帰る時に、ついでだから、午前中に届けてもらいたいと言って、袷を一枚病院まで頼まれた。三四郎は大いにうれしかった。  三四郎は新しい四角な帽子かぶっている。この帽子かぶって病院に行けるのがちょっと得意である。さえざえしい顔をして野々宮君の家を出た。  御茶の水で電車を降りて、すぐ俥に乗った。いつもの三四郎に似合わぬ所作である。威勢よく赤門を引き込ませた時、法文科のベルが鳴り出した。いつもならノートインキ壺を持って、八番の教室はいる時分である。一、二時間講義ぐらい聞きそくなってもかまわないという気で、まっすぐに青山内科玄関まで乗りつけた。  上がり口を奥へ、二つ目の角を右へ切れて、突当たりを左へ曲がると東側の部屋だと教わったとおり歩いて行くと、はたしてあった。黒塗りの札に野々宮よし子と仮名で書いて、戸口に掛けてある。三四郎はこの名前を読んだまま、しばらく戸口の所でたたずんでいた。いなか物だからノックするなぞという気の利いた事はやらない。「この中にいる人が、野々宮君の妹で、よし子という女である」  三四郎はこう思って立っていた。戸をあけて顔が見たくもあるし、見て失望するのがいやでもある。自分の頭の中に往来する女の顔は、どうも野々宮宗八さんに似ていないのだから困る。  うしろから看護婦草履の音をたてて近づいて来た。三四郎は思い切って戸を半分ほどあけた。そうして中にいる女と顔を見合わせた。(片手にハンドルをもったまま)  目の大きな、鼻の細い、唇の薄い、鉢が開いたと思うくらいに、額が広くって顎がこけた女であった。造作はそれだけである。けれども三四郎は、こういう顔だちから出る、この時にひらめいた咄嗟の表情を生まれてはじめて見た。青白い額のうしろに、自然のままにたれた濃い髪が、肩まで見える。それへ東窓をもれる朝日の光が、うしろからさすので、髪と日光の触れ合う境のところが菫色に燃えて、生きた暈をしょってる。それでいて、顔も額もはなはだ暗い。暗くて青白い。そのなかに遠い心持ちのする目がある。高い雲が空の奥にいて容易に動かない。けれども動かずにもいられない。ただなだれるように動く。女が三四郎を見た時は、こういう目つきであった。  三四郎はこの表情のうちにものうい憂鬱と、隠さざる快活との統一を見いだした。その統一の感じは三四郎にとって、最も尊き人生の一片である。そうして一大発見である三四郎ハンドルをもったまま、――顔を戸の影から分部屋の中に差し出したままこの刹那の感に自らを放下し去った。 「おはいりなさい」  女は三四郎を待ち設けたように言う。その調子には初対面の女には見いだすことのできない、安らかな音色があった。純粋の子供か、あらゆる男児に接しつくし婦人でなければ、こうは出られない。なれなれしいのとは違う。初めから古い知り合いなのである。同時に女は肉の豊かでない頬を動かしてにこりと笑った。青白いうちに、なつかしい暖かみができた。三四郎の足はしぜんと部屋の内へはいった。その時青年の頭のうちには遠い故郷にある母の影がひらめいた。  戸のうしろへ回って、はじめて正面に向いた時、五十あまり婦人三四郎挨拶をした。この婦人三四郎からだがまだ扉の陰を出ないまえから席を立って待っていたものみえる。 「小川さんですか」と向こうから尋ねてくれた。顔は野々宮君に似ている。娘にも似ている。しかしただ似ているというだけである。頼まれ風呂敷包みを出すと、受け取って、礼を述べて、 「どうぞ」と言いながら椅子をすすめたまま、自分は寝台の向こう側へ回った。  寝台の上に敷いた蒲団を見るとまっ白である。上へ掛けるものもまっ白である。それを半分ほど斜にはぐって、裾のほうが厚く見えるところを、よけるように、女は窓を背にして腰をかけた。足は床に届かない。手に編針を持っている。毛糸のたまが寝台の下に転がった。女の手から長い赤い糸が筋を引いている。三四郎は寝台の下から毛糸のたまを取り出してやろうかと思った、けれども、女が毛糸にはまるで無頓着でいるので控えた。  おっかさんが向こう側から、しきりに昨夜の礼を述べる。お忙しいところをなどと言う。三四郎は、いいえ、どうせ遊んでいますからと言う。二人が話をしているあいだ、よし子は黙っていた。二人の話が切れた時、突然、 「ゆうべの轢死を御覧になって」と聞いた。見ると部屋のすみに新聞がある。三四郎が、 「ええ」と言う。 「こわかったでしょう」と言いながら、少し首を横に曲げて、三四郎を見た。兄に似て首の長い女である三四郎はこわいともこわくないとも答えずに、女の首の曲がりぐあいをながめていた。半分は質問があまり単純なので、答に窮したのである。半分は答えるのを忘れたのである。女は気がついたとみえて、すぐ首をまっすぐにした。そうして青白い頬の奥を少し赤くした。三四郎はもう帰るべき時間だと考えた。  挨拶をして、部屋を出て、玄関正面へ来て、向こうを見ると、長い廊下のはずれが四角に切れて、ぱっと明るく、表の緑が映る上がり口に、池の女が立っている。はっと驚いた三四郎の足は、さっそく歩調に狂いができた。その時透明な空気の画布の中に暗く描かれた女の影は一足前へ動いた。三四郎も誘われたように前へ動いた。二人は一筋道廊下のどこかですれ違わねばならぬ運命をもって互いに近づいて来た。すると女が振り返った。明るい表の空気の中には、初秋の緑が浮いているばかりである。振り返った女の目に応じて、四角の中に、現われたものもなければ、これを待ち受けていたものもない。三四郎はそのあいだに女の姿勢服装を頭の中へ入れた。  着物の色はなんという名かわからない。大学の池の水へ、曇った常磐木の影が映る時のようである。それはあざやかな縞が、上から下へ貫いている。そうしてその縞が貫きながら波を打って、互いに寄ったり離れたり、重なって太くなったり、割れて二筋になったりする。不規則だけれども乱れない。上から三分一のところを、広い帯で横に仕切った。帯の感じには暖かみがある。黄を含んでいるためだろう。  うしろを振り向いた時、右の肩が、あとへ引けて、左の手が腰に添ったまま前へ出た。ハンケチを持っている。そのハンケチの指に余ったところが、さらりと開いている。絹のためだろう。――腰から下は正しい姿勢にある。  女はやがてもとのとおりに向き直った。目を伏せて二足ばかり三四郎に近づいた時、突然首を少しうしろに引いて、まともに男を見た。二重瞼の切長のおちついた恰好である。目立って黒い眉毛の下に生きている。同時にきれいな歯があらわれた。この歯とこの顔色とは三四郎にとって忘るべからざる対照であった。  きょうは白いものを薄く塗っている。けれども本来の地を隠すほどに無趣味ではなかった。こまやかな肉が、ほどよく色づいて、強い日光にめげないように見える上を、きわめて薄く粉が吹いている。てらてら照る顔ではない。  肉は頬といわず顎といわずきちりと締まっている。骨の上に余ったものはたんとないくらいである。それでいて、顔全体が柔かい。肉が柔かいのではない骨そのものが柔かいように思われる。奥行きの長い感じを起こさせる顔である。  女は腰をかがめた。三四郎は知らぬ人に礼をされて驚いたというよりも、むしろのしかたの巧みなのに驚いた。腰から上が、風に乗る紙のようにふわりと前に落ちた。しかも早い。それで、ある角度まで来て苦もなくはっきりととまった。むろん習って覚えたものではない。 「ちょっと伺いますが……」と言う声が白い歯のあいから出た。きりりとしている。しかし鷹揚である。ただ夏のさかりに椎の実がなっているかと人に聞きそうには思われなかった。三四郎はそんな事に気のつく余裕はない。 「はあ」と言って立ち止まった。 「十五号室はどの辺になりましょう」  十五号は三四郎が今出て来た部屋である。 「野々宮さんの部屋ですか」  今度は女のほうが「はあ」と言う。 「野々宮さんの部屋はね、その角を曲がって突き当って、また左へ曲がって、二番目の右側です」 「その角を……」と言いながら女は細い指を前へ出した。 「ええ、ついその先の角です」 「どうもありがとう」  女は行き過ぎた。三四郎は立ったまま、女の後姿を見守っている。女は角へ来た。曲がろうとするとたんに振り返った。三四郎赤面するばかりに狼狽した。女はにこりと笑って、この角ですかというようなあいずを顔でした。三四郎は思わずうなずいた。女の影は右へ切れて白い壁の中へ隠れた。  三四郎はぶらりと玄関を出た。医科大学生と間違えて部屋の番号を聞いたのかしらんと思って、五、六歩あるいたが、急に気がついた。女に十五号を聞かれた時、もう一ぺんよし子の部屋へあともどりをして、案内すればよかった。残念なことをした。  三四郎はいさらとって帰す勇気は出なかった。やむをえずまた五、六歩あるいたが、今度はぴたりととまった。三四郎の頭の中に、女の結んでいたリボンの色が映った。そのリボンの色も質も、たしかに野々宮君が兼安で買ったものと同じであると考え出した時、三四郎は急に足が重くなった。図書館の横をのたくるように正門の方へ出ると、どこからたか与次郎が突然声をかけた。 「おいなぜ休んだ。きょうはイタリー人がマカロニーをいかにして食うかという講義を聞いた」と言いながら、そばへ寄って来て三四郎の肩をたたいた。  二人は少しいっしょに歩いた。正門のそばへ来た時、三四郎は、 「君、今ごろでも薄いリボンをかけるものかな。あれは極暑に限るんじゃないか」と聞いた。与次郎はアハハハと笑って、 「○○教授に聞くがいい。なんでも知ってる男だから」と言って取り合わなかった。  正門の所で三四郎はぐあいが悪いからきょうは学校を休むと言い出した。与次郎はいっしょについて来て損をしたといわぬばかりに教室の方へ帰って行った。

anond:20240930192717

2024-09-03

女子男子枠といえば、関西私立中女子枠と男子枠を取ってる共学があるんだよな

何故かというと偏差値の高い女子校がないので、共学化した元男子校に優秀な女子なだれ込むから

校舎が元男子校だったこともあって、共学化による女子受け入れのキャパティ男子ほどではなく、そのため成績順ではなく女子枠と男子枠になってる

まり女子男子枠がある背景には何らかの事情があるので、そこを引っ張り出して考えなきゃならんのだよな

理工学部に偏りがあるのは単純に女子と理工の組み合わせの悪さとしか思えない

2024-08-26

anond:20240825062944

増田国会図書館に寄ることにした。全裸で。増田はてなが好きである。いや、嫌いである。その愛憎半ばするはてなについてよりよく理解するために、はてな創業者が著した『「へんな会社」のつくり方』を読んでみたいと思っていた。だがどこにもない。図書館にいっても満喫にいってもラーメン屋にいってもおいてないのである国会図書館にはおいてあるだらふ。増田は心を弾ませて正門をくぐった。だがである。入れないのだ。全裸からではない。営業時間外とのこと。営業時間は9時半から17時半。知的好奇心時間など関係あるのであらふか。増田はうなだれ国会図書館をあとにした。

2024-08-22

概念を獲得したとき知的衝撃について

Xcelという語を提唱する。

これは「1種類以上のジェンダー攻撃する孤独人間」という定義にする。

あいったん飲み込んでほしい。最後説明する。

フェムセルという言葉がある。フェムセルインセル女性である。近い日本語訳弱者女性だろう。

フェムセルにはミサンドリスト過激フェミニストが多い。フェムセルは「男は全員死ね」だとか「すべての男はカス」などの発言を行う。

インセルという言葉を聞く前に初めてフェムセルという概念に触れた人間は、おそらくこの「フェムセル」という概念によって、脳に鮮烈な閃光が走るだろう。

なぜか。まずフェムは女性的という概念である。フェムテック女性健康課題解決に導くテクノロジー)やファムファタール(男にとっての「運命の女」。男を破滅させることが多い。いわゆる地雷女子のような)にもつながる。

またセルはcellibate(alone living【ひとりぼっちで生きる】)という意味である。また、インセルという言葉が裏にあることによって、膨大な言語体系を垣間見せてくれる。

それだけではない。こうした概念を表すために必要システム環境思想のもの自分の中に欠けていたことを認識させられる。

言葉として成立しており、また流通しているということを知ると、その裏に膨大な知識体系や人間があることが認識できるのは刺激的だ。

自分が興味を持っているのは、フェムセルのものではなく、背後にある体系の一端を知ることにある。本来はその背後すら見えない。知ることができない。

まるで高く固く冷徹な塀のように、言葉たちが膨大にそびえ立っている。しかしひとたびゲートウェイとなるような言葉発見できればそこからなだれ込むように入っていけるのだ。

あるいは、すでに塀の中に入っていたとしてよくわからないまま歩いているのだが、ひとたびゲートウェイとなるような言葉発見すると「あっ、これはこの位置か!」となって急に今までやってきたことがクリアになる。

自分とそこそこに関係している問題について手探りに調べているときに、1つの接触点に到達するとそこからグッと乗り込んでいくことができる点はすばらしい。

別の例を挙げよう。Discordがある。Discordは使ってない人からすればあまり興味がないしろものだ。ただのチャットシステムのようなものだ。だがその裏には文化がある。

Discordをよく使う人間ゲーマーが多い。つまりゲーム文化がそこに含まれている。Twitch英語やYayにもつながっていくし、botコンピュータにも関連しやすい。

そこではありとあらゆる常識が異なる。Discordを知らない人間はいないし、Discordを使えない人間もいない。英語が使えるなども特段不思議なことではない。

たとえば見知らぬ道を歩いていて、どこに出るのか全くわからないが歩いていると、いつもの見知った道に出て「あー、この道に出るのか」となるところ。

たとえばコンテナの仕組みを知って、どうやってコンテナ船が移動しているかを知るときトレーラーや積み込み、大型自動車免許と牽引免許パナマックス級やコンテナターミナルなどの存在海路商社重要性まで見えてくるような感覚

今まであいまいに理解していたものが「全体としてはこういう構造になっていたのか」と感じられるところ。

まり正確な具体例を豊富に出しすぎると身バレが気になるのでこの辺にしておくが、こういったよくわからなかったもの自分の中に包摂(Inclusion)されていくさまは非常に気持ちがいい。

これをエウレカとか啓示的体験と呼ぶらしい。ある種の悟りに近い体験なのかもしれない。

哲学に「環世界」という語がある。これはわれわれ自身が見ている世界世界全体ではなく、それぞれの世界しか見ていないという概念である比喩ではなく実際にそうだ。

ダニでさえ自分の環世界をもっている。そして、ダニから見た世界では、われわれ人間はただの環境である。環世界とはそういう話だ。

エウレカ体験は、まさにこの環世界が別の環世界の一部と結合し、自分の環世界が非常に大きく広がることによるのかもしれない。

ともかくこうした今まで全く興味がちっともわかなかったことが、ある言葉ひとつで爆発的に広がりを迎え、どんどん前に進んでいけること、これが生きることの醍醐味ではないか

またフェムセルの話であれば、Xcelとして、フェムセルインセルを同等のものとして考えて、とにかく1種類以上のジェンダー攻撃する孤独人間定義することもできる。

Xcelという語が出てくるのはフェムセルインセルだけでなく、クロスセルエクセルまたXが未知数、X=Twitterであることが背景にあるから出てくるのである

ここではクロスセルが、人によってはエウレカポイントかもしれない。

この記事には自分属性が溢れている。

いろいろ意見がほしい。

2024-08-19

なんか自民総裁選話題ばっかりのまま次の衆院選なだれ込みそうだな

岸田さんはこの辺を想定してたのかな?

2024-08-01

ふたたび精子観察キットを使ってみた

 少し前に、精子観察キットで自分が放った精子を眺める増田を書いた。

https://anond.hatelabo.jp/20240711233856

 相変わらず仕事漬けの日々で、なかなか友達に会うとか旅行に行くような時間も取れず、最近は夜な夜な性教育の実技というか実験を試すのが楽しみになってしまっている。少し成果があったので、学んだことを書こうと思う。

新たな精子観察キットとの出会い

 前回の記事で、ロート製薬が発売している精液検査キット・ドゥーテストという商品が気になっていると話した。ドゥーテストというのはもともと妊娠検査薬ブランドのようで、そこに精液検査ができるキットが追加されたようだ。2回測定できて、5500円というやや高価なセットであるが、そこそこきちんとしたセルフ検査キットとなると、それくらいの値段が相場なのだらうなと言う感覚を受けた。

 なぜ、このドゥーテストが気になったのか。それは他の精子観察キットにはないレンズに魅力を感じたかである。これまで試してきたSeemやメンズルーペは、小さなレンズスマートフォンに貼り付ける方式採用していた。しかしドゥーテストは置き型の筒状のレンズ採用している。しかも他の製品にはできなかったピント調節機構を有している。メンズルーペは安価精子を観察できると言う特徴を有していたが、反面、精子解像度には弱点があった。seemがサービスを停止したいま、高解像度精子観察キットを探すことが筆者の中で大きな課題なのである

購入

 ドゥーテストロート製薬通販で発売している商品だが、Amazonで購入できるようになっていた。実家ならしながらこんな研究に興味を持ってしまった筆者はAmazon宅配ロッカーを愛用している。速さでいえばヨドバシに軍配が上がるとはいえ、ナイショなものAmazonで買うに限る。

 ある程度の金額を購入すると送料が安くなるため、今回のような高額商品は細かいアダルトグッズ抱き合わせで買うようにしている。今回は女性立小便するときに使える使い捨てトイレ用品を抱き合わせで購入した。このレビューはいつか別の記事で紹介しようと思うが、そんなふうにあれやこれやを買っては秘密レンタルロッカー収納していける、便利な時代に生まれたことをこんなに喜べる瞬間があるだろうか。そうやってこの日も、時折コンビニに行ってはこそこそと不透明紙袋を受け取った。ネカフェ開封して取扱説明書を読む。

寝た子を起こせ

 箱の中身は至って普通精子観察キットである。至って普通とは、精子を貯めるカップ、観察するためのプレート、レンズ説明書、という組み合わせだ。取扱説明書は注意事項だけ書いてあり、主な使い方はスマホアプリグラフィカルに誘導すると言う流れもだいたい共通している。そこで手が止まる。説明には「2〜7日の禁欲をすること」と書いてあった。しかし筆者は息子ともども我慢ができない。早くこのキットの真価を見たいのである

 そうは言っても、筆者の足を引っ張るのが、まさに股間の息子張本人である男性諸君には理解してもらえると思うが、ちんちんとは自身身体の一部ながら、自らの意思を全く尊重してくれない気まぐれな生物であるカメラを向いてくれない子供オモチャで気を引くように、オカズを用意してみてもちっとも反応しない。ところが仕事で退屈な会議を聞いていると、突如として下腹部突っ張り始めるのである。そして帰宅する頃にはすっかり眠ってしまう。まるで駅ではトイレに行かないくせに電車に乗った途端モジモジし始める子供のようではないか

 そんな息子を、まず「やる気」にさせる必要がある。別に、やる気にならなくとも、手で刺激すれば時代勃起し、射精まだ持っていくことはできる。しかし筆者の体感として、射精時の精液の量はメンタルに大きく関係していると思う。

 自慰行為において、快感射精は必ずしも同時に起こらない。物理的に射精できたとしても、残尿感のように精液が出てこず中途半端感覚を覚えたり、真逆に全く快感なく精液だけ放出してどっと疲れることもある。漠然右手でシコるよりも、交際相手キスをしながら手コキをしてもらった方が、快感も上回るし、コンドームを付けて出された精液の量も比べても気持ち多めのように感じる。精子の量が変わらないとしても潤滑剤になる前立腺液などが多ければ精子は活き活きするのだから、出せるものは出しておいた方がいいのである

 なにより、2発で5500円の高級キットを購入したからには、なんとしてでも"質の高い精液"を生み出したいのは、誰もが思うことであろう。出したい、けど、出せない。筆者の欲望と体力、そしてちんちん意思が重なる時が訪れるのを待たなくてはならない。

時は来た

 某日、家族も寝静まった夜、漠然テレビを見ていた時、それは来た。股間に建ったテントの中で遊んで欲しいと誘っている。時はきた。早速準備をするのだが、手間取るとあっという間に萎えしまう。いざ挿入しようとコンドームを箱から取り出すうちに萎えしまった経験はないだろうか。そこで、キットを準備する前にスキンシップを図る。

 こんなこともあろうかと、あらかじめdlsiteでオナサポASMRを購入しておいた。これはダミーヘッドマイクと言う特殊マイクを使って、耳を舐められる感覚再現したり、耳元で囁かれるシチュエーション再現した音声作品だ。「気持ちよくなっちゃうね」などと囁かれながら息子はご満悦だ。右手を竿に当て、左手に探し物をさせる。パッケージの封は予め開けておいたから片手で採精カップさえ取れればいい。

 準備は整った。あとは耳舐めお姉さんにリードされながら竿に当てた手を動かすだけである刹那、疼いていた下腹部がぎゅっと強張った。裏筋を抑えて漏れないように気をつけながらながら採精カップの底を尿道口にあてがって精液を注ぎ込む。これはseemと同じ使い捨てプラスチックカップだ。計量はできない仕組みになっている。

セットアップ

 出した精液を20分以上放置して、粘度がなくなるのを待つ。酸性の膣内に放たれた精子たちは長く生きられない。アルカリ性の粘液に包まれながら、子宮への道が中和されるのをじっと待っているのである。しばらくして子宮からアルカリ性の体液が出ることで中和され、精液をエネルギー源にして精子たちは卵子は向かって泳いで行く。別々の生き物を繋げる仕組みとしてよくできていると感じる。

 その待機中に機材のセットアップを行う。股間の息子はもう一仕事をおえて、もう筆者の眼中にもないほどに存在感を失っている。まず射精に専念し、そのあと機材の設定を行う。これこそが賢者ベストプラクティスというものだ。

 前回の精子観察の課題として、スマートフォンレンズの大型化を挙げた。今時のiPhoneレンズが大きく、机に置いても水平にならないため、上に検査キットを置くと精液が流れてしまう。すると死んで流されている精子と泳いでいる精子の見分けが難しくなってしまう。

 この対策を考えていたのだが、先日大手300円均一ショップスマホスタンドが売られているのを発見し、300円なら失敗しても痛手がないと思い購入して試した。しっかり水平になった。そしてレンズを取り付け、ピント調節を行う。スマホインカムの周りに滑り止めの両面シールを貼り、その上にレンズを貼り付けるのだが、ピント調節のためにクルクル回せば簡単シールが剥がれてしまう。デモ映像スムーズに回していたがどうやって対策しているのであろうか。

 しばらく待っていると、スマホがカタカタと震え出した。固定がイマイチだったのかとスマホスタンドを確かめていると、今度は床が揺れ出した。地震だ! よりにもよってこんな時に揺れるのか。筆者の心臓は爆発しそうであった。家族が気にかけてやってきたら、こんな光景を目にしたらどうする。慌てて精液カップを物陰に隠し、寝室の動きを警戒しながら、セットアップを続けた。レンズを装着し、試料台に模様が映っていることを確認した。どうやら試料台に等間隔に溝が掘ってあり、この模様をゲージとして1区画に何個の精子存在するかで精子濃度を測っているようだ。

精子との対面

 液化した精液を試料プレートに垂らす。プレートは顕微鏡のプレパラートに相当し、カバーガラスが接着されている。精液を棒の先につけて、この棒を試料プレートに載せると、カバーガラスの間に毛細管現象で精液が染み込んでいく。カメラ越しにも、液体が流れ込んで粒々の精子たちがなだれ込んでくるのが見える。かなりの密度だ。しばらくすると浸透して、精子の流れが落ち着く。すると精子たちが四方八方に動き回る様子を見ることができるのである

 青い精子に再び会うことができたことに喜びを感じながら、測定を始める。しばらくして結果が出た。1600万匹/mlと言う数値で、WHO基準より上回っているとの結果だった。しか過去データを見れば、筆者は2400万匹/mlの濃度で精子を出せていた。あのころから月日が経ち、時代健康診断医者から注意される項目も増えてきた。身体の衰えには抗えないのかもしれない、と感じて切なくなってしまった。仕事も忙しいので一過性のものかもしれないが、このまま測定を続けて数値が上がらなかったらどうしようという不安もある。いや嫁もいない男が受精能力ことなど気にしても仕方ないのだが、大切なことは目に見えないのである

 それはそうとして、このレンズ精子をよく拡大してくれるところは面白い。改めて観察するとすでに半分くらい動いていないように見えるが、それを除けば元気に泳ぎ回っている様子を観察して、アプリとは関係なくスマホ動画を撮ってみる。同じような構造レンズではseemのほうがピントがきっちり合って観察できたように感じるがこれほどの倍率はなかった。

ピントが合いづらい理由を考えてみたが原因はよくわかっていない。スマホ保護フィルムなどの厚みが焦点距離に影響してしまうのだろうか。しかし、精子観察のためにわざわざスマホ保護フィルムを剥がすのは、少し考えものである。真面目にやるならバキバキになってもいいiPhoneSEでも調達して観察した方が良いのではないかと思う。

生殺与奪

 一通りの観察を終えた。精子受精卵にたどり着くことを使命とし、精液に守られながら子宮を目指す。したがって厳しい外界では長生きできない。

 しかし前回の増田でこの精子にあれやこれや実験をしてみてはというコメントを見た。そして精子はまだ細胞でありながら生命ではない。片付けるついでに気になったことを試してみる。筆者はこの精子たちの生殺与奪を握っている。

 試しに、試料台にティッシュペーパーの切れ端を載せてみる。液が吸い寄せられ、精子たちも漂うように吸い寄せられていく。しか精子たちはそれでも元気に泳いでいる。

 次に気になった点として、このキットを水洗いしてみると言うものだ。説明書では使い捨てと書かれているが、正確な数様に影響するにしても精子を見るだけなら洗えば使えるのではないかと思った。ものは試しだ。水につけて洗い流してみて、再びレンズの上に乗せる。

 驚くことに、まだ精子がいた。本当に少なくなってしまったが、よろよろと泳ぎ回る個体がところどころ残っている。カバーガラスの間に水を流し込むのは難しいらしいが、水道水に流してもある程度は生きられるのかと驚いた。まだ精液の粘液部分を身に纏って生き続けていたのかもしれないが、筆者が想像する儚い細胞というイメージ覆った。

 これではキットを再利用できないということを改めて実感したとともに、一度放たれてしまった精子を完全に追放する仕組みの難しさも感じた。もちろんカバーガラスの中の狭い空間というのは特殊空間だが、膣内だって広い空間ではない。筆者な単純計算で一発で8000万ほどの精子を送り込むことができる。そんな数の精子たちが膣内に放たれてしまったら、僅かも子宮に辿り着いてしまったら。膣を水洗いするなんて簡単にはできないであろう。よくコーラを流し込めば避妊できるなんて俗説を信じるなという性教育を見かけるが、イメージに反して精子はしぶとく生きることのできる細胞なのかもしれない。

 そしてここまで書いて気づいた。せっかくなのだからコーラを垂らして精子が本当に死ぬか確かめてみればよかったのだ。精子はもう片付けてしまったし、うちの冷蔵庫三ツ矢サイダーなのだ。なんて愚かなことをしてしまったのだろう。大学時代理科実験はやり直しが効かないか実験計画作成重要であると散々言われたのを、今更思い出した。筆者の2800円がこうして散っていった。

実験を終えて

 ドゥーテストは、倍率も大きく、精子をよく見ることができた。さら精子の量を測定してくれる貴重なサービスとなったので、妊活指標としたい人には向いているかもしれない。

 ただ、ピント調節が少し難しく、はっきりと精子を観察できるわけではないという点も課題として感じた。採精カップメンズルーペが優れていると感じているので、メンズルーペのカップ射精し、ドゥーテストレンズで観察するのが最も効率よく精子観察ができるのではないかと思った。またカップも使い回すと精子が残ってしま可能性があるので、入念に洗うことが必要であると学んだ。

 また、ドゥーテストの高倍率レンズ精子の動きを観察するのにとても良いので、可哀想だが精子にあれこれ試して動きを観察してみると面白いと思う。酸性状態にしてどれほど生存できるか、などは特に気になった。しかしこう言う実験をするのであれば、闇雲に料理酢を流し込むなどと言うのはナンセンスで、pHを正確に測らないと意味がない。測定するための試験紙を買うのが良いのか、紫キャベツを煮出すのがよいのか、と頭を抱えながらamazonで調べると、2000円もしないpH測定器が売られているのを見る。ガチャポンを回すくらいの気持ちオモチャと割り切って買うか、やめておくか。悩ましい。

 そして筆者は実際の膣がどれほどに酸性環境なのかを知らない。どうやって測定するのがよいだろうか。一番シンプルなのは交際相手女性に、「膣内にph測定器を突っ込ませてくれ」と頼むことだが、ひみつ道具存在すら打ち明けられずにいる相手にこんな話をしたら精子をどうこうするまえに筆者の人間関係がどうにかなってしまうし、女性の性周期を知らない筆者にとって測定するタイミングも難しいと感じてある。どこかに膣のpH趣味で測っている物好きなレディは居ないものだろうか。

 さて、前回のコメントでこんなものがあった。

男性顕微鏡を買うと精子を観察してみるらしい」とのこと。顕微鏡なんて一般のご家庭にあるわけがないだろうと、試しに500倍の顕微鏡の値段がいかほどのものか調べてみた。するとヨドバシに5000円くらいの子供向け顕微鏡があることを発見してしまった。最初からこれを買えばよかったのではないか……? しか顕微鏡なんてますます置き場に困る。でも精子観察し放題、好きな時に好きなだけ射精して観察できるのである20代の筆者がコンスタント精子を観察して何十年かデータを溜めたら、それこそ何か世の中に役立てることができたりしないだろうか。いや精子よりもっと仕事とか町内会とかできちんと社会貢献した方がいいことはわかっているのだが。

 あとは一案として、とりあえず顕微鏡を買って、しばらく精子観察に使ったあと、飽きたら近所の子どもらに寄贈してやろうか。子供を産むか産まないか、それ以外にも未来世代にできることはあるだろう。

 いや、思春期学生顕微鏡プレゼントする財団でも作るなんてアプローチもあったかもしれない。これは教育振興である。まずは花粉とかプランクトンとか観察してもらって、科学に興味を持ってもらう方が重要で、そこからどういった方向に探究心が芽生えようとそれは本人の自由である科学大国日本を支える若者を増やしたいと願っている筆者の気持ちに偽りはないのだから

2024-07-31

anond:20240731111355

AIなだれ込んで規制がなかった時期と比べたら今はお通夜みたいなもんよ

2024-07-27

東京オリンピック開会式の思い出

パリオリンピック開会式面白かった。

時間帯も公演?時間も長いかバッハじいさんの話で若干寝落ちしかけたけど、ジダンの登場でテンション戻って結局全部見ちゃった。

ところで東京オリンピックは4年前(3年前)なのにもう結構忘れてるな?!ということに気づいたので、覚えてることを書き出してみる。



布袋さんの演奏もかっこよかったな…と思ったけどあれは閉会式だな。

あとなんか思い出したら追記する

2024-07-22

大学生ファミレスより高いレストランに来るな

俺達はオメーラみたいなジャリと一緒のフロアでメシ食いたくないから高くて静かな店に来てんだよ。

いや、「大事デートバイト代ふんぱつしました」みたいなカップルが来てキョトキョトしてるくらいなら全然許せるよ。

居酒屋に来るノリでグループでガヤガなだれ込んで来んなよ。親か。親が富裕層なのか。

大人の店に割り込んできて我が物顔で振る舞うな。大声で頭の悪い会話するな。ていうか来るな。

お前らはからやまでからやま定食5個でも食ってろ。からやまは美味いんだから

2024-07-04

anond:20240704182458

キスマウストゥマウス)って昔は公にできない性行為カウントされてたからね

昔の映画で、カップルキスしそうな場面で足元のカットうつって女性の膝下の足が跳ね上がるやつあるじゃん

 

全年齢漫画キス禁止時代があった(描いたら警察に捕まる)

わいも映像作品キスあんま好きじゃない

キスの瞬間に、それまで役と役として見えてたのが俳優俳優に見えて萎え

セックスなだれ込むのが明白なキスなら平気なんだけど、なんやろなこれ

2024-06-27

[]内容圧倒もホームで失意の敗戦…枠内シュート僅か1本の大分に屈し、ホーム3連敗。野河田監督集中力問題やんか」

明治安田J1オレオレFC0-1大分>◇第24節◇26日◇ロイスタ

 オレオレFCホーム大分トリニータに0-1の完封負けで、ホーム3連敗を喫し、後半戦の初戦で白星スタートを切れなかった。前半からボール支配し、シュート27本を打つも無得点が続くと、後半27分に相手最初シュートが決まり、先制点を奪われた。その後も立て続けに攻め、シュート34本打ちながら、無得点。枠内シュート僅か1本(全体では5本)の大分相手に失意の敗戦を喫した。

 サポーターのブーイングが鳴り響く中、うなだれながら、ピッチを後にするロイブル軍団試合支配しながら無得点で失意の敗戦に野河田彰信監督は「負けは監督責任」と話した。

 前半から試合支配し、大分に後半10分までシュート1本すら打たせなかった。しかし打てども打てども得点できないもどかしい展開。後半27分に右サイドを破られ失点しても、猛攻を続けたが、ポストに嫌われるなど結局34本のシュートを浴びせながら無得点に終わった。指揮官は「結局は集中力問題やんか。相手はたった1本を決めて、ウチは打っても入らん。失点にしても、プレーにしても集中力がないから、ああい試合になんねん」と厳しく指摘した。

 次節は中2日の29日にホーム首位町田ゼルビア戦が待つ。さら守備の中心、DF岩田村山に加え、精神的支柱MF鈴木潤主将が累積警告による出場停止と厳しい状況が続く。野河田監督は「そら、もう痛いけど、(試合は)待ってくれないんでね」とイレブンの奮起を促す。7試合得点に終わったFW森永も「町田を倒せば、自信が着く。1つの勝利が浮上するきっかけにしたいです」と前を向いた。

2024-06-09

博士号が増えると社会全体が底上げ冗談でしょ。

「研究者にならないなら博士号は必要ない」ではなく、気軽に博士号を目指せるほうが社会全体の底上げを期待できるのに、一定層からあまり理解されないらしい

現場を知らないと、こういう理想論が出てくるという好例。博士課程に人がなだれ込めば、捏造データかあるいはパワハラ事例が増えるだけじゃ。それでなくても、すでに壊滅的なのに。

2024-06-02

anond:20240602051152

近所のスーパーが何軒か契約上の都合で消失したりして、買い物難民が最寄りのスーパーなだれ込んで困ってる…😟

2024-04-27

anond:20240427165650

お前みたいなやつはすぐ話を極論に持ってくね

世の中には確実に女として生まれて女としての人生がどういうものかをわかってる人間が四十億いるんだから

そんなだれもわからないなんて話とは次元が違う

2024-03-25

[]今季ワースト5失点で横浜FM惨敗試合後、怒りのサポーター選手達と話し合い

明治安田J1横浜FM5-0オレオレFC>◇24日◇第8節◇日産

 オレオレFC今季ワースト5失点で横浜FM大敗し、リーグ戦4試合勝利となった。前半から相手圧力に防戦一方で19分にPKを決められると、前半だけで3失点。後半23分にMF藤崎が2枚目の警告で退場すると、数的不利に陥ったチームは反撃する余力はなく、さらに2失点を喫した。

 横浜まで駆け付けた2,000人以上のサポーターの前でロイブル軍団醜態晒した。今季ワーストの5失点大敗試合後、サポーターは大ブーイングを浴びせ、「やる気あんのか!?」「勝ちたいと言う姿勢を見せてくれよ!!」と厳しい言葉が飛んだ。鈴木潤主将はうなだれイレブン代表して「今日は本当にすみませんでした」と頭を下げた。

 4試合ぶりの白星を狙って臨んだ一戦。だが、昨年も優勝争いを繰り広げた横浜は甘くなかった。前半から波状攻撃を繰り出す相手に防戦一方で、19分にPKを献上して失点すると、26分、36分と立て続けに失点。後半は選手交代で流れを代えようとしたが、23分に藤崎が2枚目の警告で退場すると、最早、反撃する余力はなく、立て続けに2失点した。MF鈴木亮、森下らが不在。FW森永がコンディション不良で欠場した事も響いたが「言い訳にしたくない。それ以前の問題です」と鈴木潤主将は唇を噛み締めた。

 サポーターと約30分間、話し合いを行った。野河田彰信監督は「今日は怒って当たり前やと思います。これを糧に、コイツらにやらせるようにします」と言えば、鈴木潤主将も「今日申し訳なく思います。だけど、ここで落ち込んだら駄目だし、そういう選手はいません。もう一度、足元を見つめ直して、磐田戦でやります!!」と宣言すると、サポーターから最後拍手ゲキが飛んでいた。

 次節は30日、ホームジュビロ磐田と対戦する。野河田監督は「今日ワーストゲーム。(磐田戦に向けて)そら、やらなアカンやろ」と危機感を示し、明日にもミーティングを開催すると明言。鈴木潤主将も「こういう結果は望んでいない。自分たちが招いたことは、自分たちで取り返すしかない。必ず、挽回して見せます」と、大敗を糧に5試合ぶりの勝利を目指す。

2024-03-23

大谷ピンチですごいうれしい。

私のようないい歳して何者にもなれなかった身分からすると、スーパースターが予想もしないミス落とし穴にハマるのを見ると、めっちゃ溜飲が下がる。

水原うちらのような底辺ルサンチマンを具現化した刺客ルシファーなのではないか、とすら妄想する。

このまま1年くらい出場禁止になり、日本国民全員がうなだれるのを見るのが今から楽しみである

何なら永久追放でもよい。

あのべっぴんな奥さんはどんな表情を見せてくれるだろう。

2024-03-18

anond:20240317222158

エンドロールもずっとしゃべっててロールおわってからラストシーンなだれこむ系の映画もあるんですよ

近年だとカラオケ行こ!がそうだったか

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