<

![endif]-->

fc2ブログ

①長谷川幸洋「 新聞は、2020年に生き残れるか」

アマゾンレビュー紹介

本書はTV等でも馴染みのある著者(新聞社論説副主幹)によるものであるが、自己批判を含めた新聞業界、より端的には「新聞記者」について自己反省と将来の有り様に危機感とをもって、特に経済的側面、インターネット事情を踏まえた情報判断・処理能力を求め、現在のジャーナリズムに警鐘を鳴らすものと思われる。構成・内容は、商品紹介の通りであるが、まず著者は(財政制度等審議会・政府税調委員等の経歴を持つ)、政府発表情報の垂れ流しに依存した現況(記者クラブの弊害と記者らの官僚のポチ化)を批判し、経済・財政の知識不足を指弾すると同時に、財政数値の見方(プライマリー・バランスや財政健全性)を、簡易な数式を使って詳細に解説する(併せて安倍政権の増税にもマクロ経済的理由から反対している)。そしてこれまでの新聞論調(財政制度批判)の的外れを指摘する。ちなみに著者は再販制度や宅配制度にも批判的だが、宅配はアメリカでも見られる。

そして経済知識の肝要性と同時に、自己体験の批判も加えながら客観的なジャーナリズム批判…と言うよりも有るべき将来像を提言していると見た方が正しい。単に現状批判を主観的に展開するのではなくて、資料や分析考察を提示する手法は建設的であり好感がもてる。それでいて、現状の記者クラブ制度の悪弊につき「官僚のポチ化」と手厳しい。後半に入るとかかる「ポチ化」の主体である官僚政治に考察の重心を移しつつ、大手新聞社を出し抜いた(『週刊ポスト』による)いわゆる復興予算流用問題に焦点をあてる。実際のスクープ記者(フリーランス)との取材を元に、右スクープが実際はネット上で公開されていたデータであり、そのうち疑問のある項目について電話取材しただけという話に、著者は驚きとともに改めて(記者クラブ)新聞記者の緩さとネット活用の遅れを痛感している。

この事情には私自身も驚いた。あの流用問題(使用費目)がネット上に所管官庁から公開されていて、誰でも閲覧できるものが、大手メディアでは何処も記事に出来なかったのだから、”社会の木鐸”どころか”社会の節穴”になってしまう。このような展開を経て、著者は今後のメディア(紙・ネットほか)においては誰でもが「記者」であり与えられた情報を認識加工でき、「読者」に目を向けニーズに応え支持されなければ「廃業」であると言う。即ち「読者」(視聴者)のイニシャティブを指摘する。全体に既存メディア・記者に手厳しいが、自身が新聞業界に身を置く現状を斟酌しても、単なる批判に留まらずジャーナリズムの将来像を見据えた建設的意見等も提示していることは評価できる。


② 政府はこうして国民を騙す。

記者クラブ制度により、マスコミが馴れ合い体質となり堕落したのは、今や、“常識”にすらなりつつある。
記者クラブに所属する新聞人が、自らの立場よりも、国民の利益を優先し、自らの良心に従って真っ向から闘うのは、至難の業に違いない。

本書の著者・長谷川氏は、東京新聞の論説副主幹。
まさに、その“至難の業”に挑んだ実体験に基づいた著作こそ、本書である。
本質を見抜く慧眼に加え、並々ならぬ勇気と胆力がなければ、これほどの行動は取れない。

本書の白眉は、「オフレコ(記録に残さない)破り」に基づいて書いた記事に関する経済産業省の成田達治大臣官房広報室長とのやりとりであろう。
成田氏は、記事の件で、長谷川氏の上司である論説主幹に電話を入れてきた。
それを聞いた長谷川氏は、折り返し成田氏に電話を入れる。
上司を通し、組織的な圧力を利用して干し上げようとの「恫喝」。これに対して、長谷川氏は「直接対決」を挑むのである。
「対応を考えさせてもらう」との成田氏の脅しに対し、「あなたから、そういう電話があった件もまた書かせてもらう」と切り返す。
この後、東京新聞の記者に対して、経産省幹部との懇談への「出入り禁止処分」という制裁を加えてくる。

こうして「権力の本性」をあぶり出し、暴いていった経緯が、本書で明かされている。
「オフレコ」を唯々諾々と守っているだけでは、結果的に体制を利するのみである。
「『官僚のオフレコ』は、官僚が姿を隠して、誘導する手口である。役所の利害優先であって、国民の利害優先ではない」からだ。
一対一で合意した「オフレコ」以外は、“守るか守らないかの判断は、ジャーナリスト側にある”との矜持ある「オフレコ」論も痛快である。

その上で、東電の賠償問題に関して、資源エネルギー庁長官のオフレコ発言をなぜ、暴露しようと思ったか、を明かす。
それは、「経済産業省と資源エネ庁が東電の株主と取引金融機関、さらには自分たちの自身の利益を守るために、国民の利益を犠牲にして存続させる枠組みを作ろうとしていたから」。
そして、「資本主義と株式会社の原理原則にしたがって株式は100%減資、銀行は債権カットして会社を整理したうえ、足りない分は国民に負担を求めるのが筋だ」と主張する。

この本で扱われている問題は、東電の賠償問題、原発再稼働問題、検事による虚偽の報告書作成問題、消費増税に関する問題など、多岐にわたる。
いずれもが、国家の行方を左右する大問題であり、難問である。
その判断はともあれ、大事なのは、国民の「真実を知る権利」が実質的に閉ざされてきた現実である。

権力のチェック機能を果たすどころか、自ら政官業の権力構造の中に安住し、むしろその権力性を助長する現在のマスコミ界。
既得権益集団どうしが、巧妙に守りあい、多くの国民を犠牲にする、その本性のあざとさには、嫌悪感のあまり吐き気を覚えるほどである。
閉塞感に満ちた「ムラ社会」の中で生きながら、「ムラ八分」を恐れずに事実を伝え、権力の本性を暴き出す長谷川氏こそ、ジャーナリストの名に値する数少ない言論人である、と尊敬してやまない。

最後に、“知の怪物”佐藤優氏の推薦の言葉を紹介したい。
「霞が関と永田町の内在的論理をもっとも正確につかんでいるジャーナリストが長谷川幸洋氏だ。……日本の現在と未来に関心を持つすべての人にこの本を奨める」(作家・元外務省主任分析官)。
プロフィール

正木明人

Author:正木明人
正木明人が、発信するブログです。

21世紀初頭のこの混乱は、人類の生存を危ぶませるに十分なものです。
その中で、何をなすべきか?
何時の時代も、国民世論の形成は困難を極めた。
なすこともなく、危機を迎えることはできない。私たちは、後続世代にどのようにつなげていけるのか?

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
地方政府改革編①
ジャンルランキング
[ジャンルランキング]
政治・経済
83位
ジャンルランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
経済分析
6位
サブジャンルランキングを見る>>
ジャンルランキング
[ジャンルランキング]
政治・経済
83位
ジャンルランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
経済分析
6位
サブジャンルランキングを見る>>
リンク
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
Powered By FC2ブログ

今すぐブログを作ろう!

Powered By FC2ブログ

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード