加藤典洋「戦後入門」
レビュー紹介
「「1948年生まれ」「東大文学部仏文科卒」の著者の書いた「戦後入門」という勇ましい題の本である。全635頁で、本文586頁の極厚新書本である。「あとがき」(「おわりに」ではない)はたったの7頁だが、たいへんに面白いので、忙しい方は、まず「あとがき」を読むことをお勧めする。(個人的には、「はじめに」はあまり面白くない)。「あとがき」には、いろいろなことが書かれているが、「私の書いた本の中で一番読みやすいだろう。すぐに読めてしまうだろう」は全くその通りであるが、「書かれた内容は大きくて広いはず」はちょっと疑問が残る。
現代未来日本への政治的提言である第五部+「おわりに」が、約186頁と、薄いちくま新書一冊分の分量があり、本書の中心部分となっている。鳩山民主党政権の再評価を含むこの部分は面白いし、話題になることは間違いないだろう。しかし、あとがきの「これまで発表してきた「アメリカの影」「敗戦後論」での主張を誰も引き取ってくれない」と同じ運命を辿りそうな感もある。
概略と私的感想
第一部「対米従属とねじれ」。約60頁。「敗戦後論」「アメリカの影」の再論。
第二部「世界戦争とは何か」。約107頁。世界戦争論。大変興味深い。第一次大戦についても論じられているが、中心は、第二次大戦と戦後である。ここで、第二次大戦について、「自由と民主主義の原則に立つ連合国と、ファシズム政治体制を押し立てる枢軸国が、二つのイデオロギーを掲げてぶつかった世界戦争」という通説を、連合国による過去の変造、つまり、後出しじゃんけんであり、実質的には、ドイツ、イタリア、日本の間に、ファシズムという共通のイデオロギーがあったとは言えず(全体主義、独裁をファシズムというなら、スターリンソ連もファシズム国家である)、連合国側が国際秩序の擁護者であり、ドイツ、イタリア、日本が、国際秩序を無視する、ならずもの国家であったに過ぎない。それで、戦争は連合国の勝利に終わり、最終的には、原爆の発明、使用、独占によって、アメリカ一国の勝利に終わった。しかし、アメリカは「原爆投下」という、ならずもの国家を越える悪行「人類に対する罪」を犯して、戦後世界秩序の支配者となったため、そのことを隠ぺいする理論構成と実践が必要となった.それが、変造された「連合国対枢軸国」「民主主義国家(ソ連??)対ファシズム国家」世界戦争論である。第三部「原子爆弾と戦後の起源」。約149頁。原爆投下後史。原爆投下というほぼワンテーマで、投下後から終戦。投下したアメリカの戦後、投下された日本の戦後を論じる。原爆投下に一切抗議していない、疑似的・絶対平和主義の原爆慰霊碑が、無条件降伏主義の象徴として論じられる。
第四部「戦後日本の構造」。約65頁。主に憲法9条を中心とする戦後政治史。短い。戦後の日本は、米国国内、世界の、原爆投下に対する批判情報から遮断されていたが、その一方、憲法9条に、太平洋戦争以来の戦勝国の理念の精華が盛り込まれていたとする。
第五部「ではどうすればよいのか」+「おわりに」。約186頁。上述の通り。賛否両論多々あると思うが、一読の価値はある。個人的には、米国との不平等な安全保障契約をいったん解除して、改めて契約を結べと言っているようにも聞こえる。」
レビュー紹介
「「1948年生まれ」「東大文学部仏文科卒」の著者の書いた「戦後入門」という勇ましい題の本である。全635頁で、本文586頁の極厚新書本である。「あとがき」(「おわりに」ではない)はたったの7頁だが、たいへんに面白いので、忙しい方は、まず「あとがき」を読むことをお勧めする。(個人的には、「はじめに」はあまり面白くない)。「あとがき」には、いろいろなことが書かれているが、「私の書いた本の中で一番読みやすいだろう。すぐに読めてしまうだろう」は全くその通りであるが、「書かれた内容は大きくて広いはず」はちょっと疑問が残る。
現代未来日本への政治的提言である第五部+「おわりに」が、約186頁と、薄いちくま新書一冊分の分量があり、本書の中心部分となっている。鳩山民主党政権の再評価を含むこの部分は面白いし、話題になることは間違いないだろう。しかし、あとがきの「これまで発表してきた「アメリカの影」「敗戦後論」での主張を誰も引き取ってくれない」と同じ運命を辿りそうな感もある。
概略と私的感想
第一部「対米従属とねじれ」。約60頁。「敗戦後論」「アメリカの影」の再論。
第二部「世界戦争とは何か」。約107頁。世界戦争論。大変興味深い。第一次大戦についても論じられているが、中心は、第二次大戦と戦後である。ここで、第二次大戦について、「自由と民主主義の原則に立つ連合国と、ファシズム政治体制を押し立てる枢軸国が、二つのイデオロギーを掲げてぶつかった世界戦争」という通説を、連合国による過去の変造、つまり、後出しじゃんけんであり、実質的には、ドイツ、イタリア、日本の間に、ファシズムという共通のイデオロギーがあったとは言えず(全体主義、独裁をファシズムというなら、スターリンソ連もファシズム国家である)、連合国側が国際秩序の擁護者であり、ドイツ、イタリア、日本が、国際秩序を無視する、ならずもの国家であったに過ぎない。それで、戦争は連合国の勝利に終わり、最終的には、原爆の発明、使用、独占によって、アメリカ一国の勝利に終わった。しかし、アメリカは「原爆投下」という、ならずもの国家を越える悪行「人類に対する罪」を犯して、戦後世界秩序の支配者となったため、そのことを隠ぺいする理論構成と実践が必要となった.それが、変造された「連合国対枢軸国」「民主主義国家(ソ連??)対ファシズム国家」世界戦争論である。第三部「原子爆弾と戦後の起源」。約149頁。原爆投下後史。原爆投下というほぼワンテーマで、投下後から終戦。投下したアメリカの戦後、投下された日本の戦後を論じる。原爆投下に一切抗議していない、疑似的・絶対平和主義の原爆慰霊碑が、無条件降伏主義の象徴として論じられる。
第四部「戦後日本の構造」。約65頁。主に憲法9条を中心とする戦後政治史。短い。戦後の日本は、米国国内、世界の、原爆投下に対する批判情報から遮断されていたが、その一方、憲法9条に、太平洋戦争以来の戦勝国の理念の精華が盛り込まれていたとする。
第五部「ではどうすればよいのか」+「おわりに」。約186頁。上述の通り。賛否両論多々あると思うが、一読の価値はある。個人的には、米国との不平等な安全保障契約をいったん解除して、改めて契約を結べと言っているようにも聞こえる。」