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2022年4月16日 (土)

NATO制裁と、来るべきグローバル・ディーゼル燃料(軽油)大惨事

2022年4月11日
F・ウィリアム・エングダール
New Eastern Outlook

 進行中のグローバル・インフレーション危機の中、高いエネルギー価格は、2月末以来のウクライナにおけるプーチンによる行動の直接の結果だと、NATOの国家指導者と主流メディアは念仏を繰り返している。原因は欧米による制裁だというのが現実だ。制裁には、主要ロシア銀行に対するSWIFT銀行間アクセスも含み、他にも最も厳しい制裁がいくつか課されているが、ウクライナでの軍事行動にはほとんど影響を与えていない。多くの人々が見落としているのは、それが益々欧米、特にEUとアメリカの経済に影響を与えている事実だ。ディーゼル燃料(軽油)のグローバル供給状態を更に綿密に観察すると憂慮すべきものだ。だが、アメリカ財務省とEUにおける欧米の制裁計画者は自分たちが何をしているか完全に理解している。そして、それは世界経済にとって悪い兆しを示している。

 我々の大半は、ディーゼル燃料を汚染物以外の何かとは滅多に考えないが、実際それは、ごくわずかのエネルギー源しか、そうではない形で世界全体の経済に不可欠なのだ。最近ヨーロッパ石油精製協会の一部であるFuels Europe長官は「工場を出入りするほぼ全てがディーゼル油を使うので、ディーゼル燃料とGDP間には明確なつながりがある。」と述べた。

 ロシアのウクライナにおける軍事行動第一週の終わり、まだロシアディーゼル燃料輸出に具体的な制裁なしでも、なおヨーロッパのディーゼル価格は既に30年ぶりの最高価格だった。それは戦争には全く無関係だった。2020年3月以来の過酷なグローバルcovid封鎖と、同時の、いわゆる環境重視の取り組み、略称ESGのおかげで、ウォール街とグローバル金融企業による石油とガス会社に対する投資引き上げが原因だった。ウクライナでのロシア軍事行動のほとんど初日、共にイギリス企業の世界最大の石油会社二社、BPとシェルは、ディーゼル燃料供給不足の恐れを理由に、ドイツへの発送の配達を止めた。ウクライナ戦争前、ロシアはEUの全ディーゼル油の約60から70%を供給していた。

 2020年、ロシアは毎日百万バレル以上輸出し、アメリカに次ぐ世界二番目に大きなディーゼル燃料輸出国だった。その大部分、約70%がEUとトルコに行った。フランスは最大の輸入国で、それに続いてドイツとイギリスだった。フランスでは、全道路車両の約76%のトラックがディーゼル油を使う。EUでは大半の車が一層経済的で効率的なディーゼル燃料を使うから、ディーゼル需要はアメリカよりはるかに高い。4月第1週、ウルスラフォン・デア・ライエンEU委員会会長は、石炭に対する禁止令から始まるロシア・エネルギーに対する新たな制裁を誇らしげに発表した。EUはロシア石炭の最大輸入者だ。彼女が石油とガスは後日続くと言った。そのばかな動きは石油とガス価格を遙かに高くなるよう強いるから、EUの大部分にとって既に最高のエネルギー価格を更に引き上げるだけだ。

 ウクライナ危機の始めの時点で、covid封鎖が石油とガス生産の需要供給状況に大打撃を与えていたため、ディーゼル燃料の世界備蓄は既に2008年以来最も低かった。今ディーゼル燃料の未曾有の危機の準備は整っている。世界経済にとって影響は驚異的だろう。

 世界貿易を動かすディーゼル

 ディーゼル・エンジンは、従来の動力装置として最高のエンジン効率だ。それはルドルフ・ディーゼルが1897年に開発した圧縮着火の原理に基づいている。1ガロン当たり、より大きい効率と、より長い走行距離数のため、ほとんどすべての貨物トラック動力装置をディーゼルが動かしている。トラクターから収穫機まで、ほぼ全ての農業装置を動かしている。ガソリン・エンジンより遙かに燃料効率が良いため、EUで広く使われ、自動車燃料のほぼ50%だ。それはキャタピラ・ブルドーザーなどのあらゆる大型掘削機の大半で使われる。建設装置で使われる。ディーゼル・エンジンは世界中の全ての非電化鉄道、特に貨物列車で蒸気機関を置き換えた。ディーゼル燃料は一部発電所や、ほぼ全ての重い軍用車両で使われる。

 そのため、一時的であれ、より長期であれ、ディーゼル燃料の世界的欠乏は壊滅的事件だ。商品をコンテナ港から内陸の目的地に輸送できない。それどころか、ディーゼル燃料しでは、トラックがスーパーマーケットや他の何に対しても食物を配達できない。供給連鎖全体が凍結する。ディーゼル・エンジンをエンジンを破壊せずにガソリンで代用する可能性はない。

 2020年3月に始まった準備不十分な産業と輸送の世界的covid封鎖まで、ディーゼル燃料の需要と供給は均衡がとれていた。ところが突然の封鎖が、トラック輸送、自動車、建設、農業に対するディーゼル燃料需要を崩壊させた。儲からない精製所は閉鎖された。能力は低下した。世界生産がcovid前の通常の形に戻った今ディーゼル燃料備蓄は特に世界最大のディーゼル燃料消費者である欧州連合とアメリカで危険なほど低い。

 配給制度?

 今年始めの時点で、世界のディーゼル油備蓄は既に危険なほど低く、価格を驚くほど上げた。ウクライナ戦争の影響前、2022年2月時点で、アメリカのディーゼル油関連備蓄は、covid前の季節平均を21%下まわっていた。EUで備蓄は、8%あるいは3500万バレルcovid前の平均レベルを下回っていた。アジアの中枢、シンガポールでの備蓄は正常値より32%低かった。合計すると、三つの地域全てのディーゼル油備蓄は去年危険なほど低く、昨年同時期を約1億1000万バレル下まわっていた。

 2021年1月と2022年1月の間にEUのディーゼル燃料価格は、ほぼ二倍になったが、それはウクライナ制裁前だ。いくつか理由があったが、主な理由は、世界的covid封鎖と世界貿易の流れの再開に起因する原油価格急騰と供給途絶だった。問題を大きくさせたのは、3月初旬、ロシアに対する欧米制裁の中「エネルギー安全保障を保証する」ため、中国政府がディーゼル燃料輸出に禁止令を課したことだ。それに加えて、最近のバイデン政権による全てのロシア石油とガス輸入に対する禁止令で、これは2021年、全てのロシア重油輸出の推定20%を含んでいた。同時にEUは、いつものイデオロギー的知恵で、ロシア石炭の輸入禁止令、ロシア原油禁止令をまとめ上げつつあり、ディーゼル燃料とガスも、これに続くと報じられている。

 4月4日、ドイツでディーゼル燃料のリットル当たり平均価格は2.10ユーロだった。2021年12月27日には1.50ユーロだった。数週間で40%の上昇だ。2月24日ウクライナ軍事行動以降、ロシアに対する未曾有のアメリカとEU制裁後、益々多くの欧米石油企業や石油トレーダが報復の恐れから、ロシア原油やディーゼル燃料の扱いを拒否している。ウクライナで戦いが継続する限り、これがエスカレートするのは確実だ。

 3月27日、ロッテルダムに本拠地がある世界最大の独立エネルギー商事会社VitolのCEOが、今後数カ月で、ディーゼル燃料配給制が世界的規模で益々ありそうだと警告した。彼はこう指摘した「ヨーロッパはロシアからディーゼル燃料の約半分を、中東からディーゼル燃料の約半分を輸入している。そこにディーゼル油の体系的不足があるのです。」

 4月7日、以前アイルランド国立銀行にいた主導的アイルランド人エコノミスト、デイビッド・マクウィリアムスが憂慮すべき発言をした。「石油だけ上がっているわけではなく、ディーゼル燃料が上がっている、今後二ないし三週間あるいはその前に、欧米で実際にディーゼル燃料が尽きる可能性がある。我々はかなりの量ディーゼル燃料を輸入しており、それは最初に処理するイギリスの二つの精製所から来る。それら精製所は現時点で原油がない。だから我々は基本的に、一日しのぎ一時間刻みの基盤で経済活動をしているのだ。」彼はこう補足した。「これは単なる石油危機ではなく、我々が50年間同じものを見たことがないエネルギー危機だ。」彼によれば、ディーゼル燃料備蓄がそれほど低い理由はEU加盟国が、石油とディーゼル燃料の膨大な供給をロシアに外注するほうが遙かに安いと見たためだ。

 アメリカの状況は、より良いわけではない。政治的理由から、ディーゼル燃料危機の本当の状態は、バイデン政権とEUが軽視していると報じられている。アメリカでは、インフレーションは既に40年で最高だ。本格的な転換を阻止する進行中のグローバル・ディーゼル燃料危機が意味するのは、トラックや自動車、農業や採鉱など全ての形の輸送に対する劇的影響だ。それは既に不振な世界経済にとって大惨事を意味するだろう。それでもドイツの「Ampel」(交通信号)連合のような政府は、常軌を逸した二酸化炭素排出ゼロ目標や、石油や石炭やガスを段階的に廃止を計画し、バイデン徒党は、爆発するエネルギー価格は、頼りにならず高価な太陽光や風力を選び、石油など炭化水素を断念するための更なる口実になると内心見ている。産業が相互に結びついた本物の世界経済は、レゴおもちゃゲームとは違う。大いに複雑で細かく微調整されているのだ。この微調整が組織的に破壊されつつあるが、全ての証拠が、それが意図的であることを示している。ダボス・グレート・リセット優生学の狙いにようこそ。

 F. William Engdahlは戦略リスク・コンサルタント、講師。プリンストン大学の政治学位を持つ石油と地政学のベストセラー作家。オンライン誌New Eastern Outlook独占記事。

記事原文のurl:https://journal-neo.org/2022/04/11/nato-sanctions-and-the-coming-global-diesel-fuel-disaster/

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 ありがたいことだ。属国大本営広報部は決して掲載しない記事。

 耕助のブログ NATO・ロシア代理戦争を巡るスコット・リッターとマイケル・ハドソン対話翻訳が掲載されている。

No. 1432 NATO・ロシアの代理戦争

 英語原文は下記。

NATO-Russia Proxy War: Revealing Signs of a Fading America: Scott Ritter, Michael Hudson

https://www.globalresearch.ca/nato-russia-proxy-war-revealing-signs-of-a-fading-america/5775462

NATO-Russia Proxy War: Revealing Signs of a Fading America

https://www.unz.com/mhudson/nato-russia-proxy-war-revealing-signs-of-a-fading-america/

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