岐路に立つミャンマー
2021年3月31日
ドミトリー・モシャコフ
New Eastern Outlook
2021年2月1日に権力を掌握した軍に対し、無数の街頭デモが沈静化しないミャンマーで起きている出来事は大いに注目されている。文民政府から軍事政権へと変化したが、事態がどのように進展するのか全く不明なのだ。軍は権力を維持することが可能なのだろうか、あるいは、大規模デモと軍内部の分裂という圧力の下で、アウンサンスーチーと彼女の党が権力に復帰するのだろうか。
これまでのところ、ウィンミン大統領と国民民主連盟(NLD)党党首で、大統領府大臣・外務大臣のアウンサンスーチーと、何百人もの与党幹部や活動家が逮捕されたままという状態だ。だが一方、軍に対する抗議の規模と敵意は、ひたすら増大している。
NLDが総選挙で印象的な勝利をした後、党が軍により活動を禁止され、権力の座から降ろされ、それを支持する、あらゆる公的発言が極めて残酷に鎮圧された1989年の、いわゆる民主革命後に展開した状況が繰り返されていると、ミャンマーの政治プロセスを観察している人々の多くが考えている。タン・シュエが率いる軍は、不満を抱いている全ての人々を逮捕したり、接触が困難な場所に隔離したり、射殺したりして、何十年間も、完全な権力を掌握し続けるようにしている。
だが、ミャンマー社会は、1989年以来、時間とともに、大いに変化したので、現在のクーデターと当時のクーデターとの類似は実際、全く表面的だ。これは最近特に、軍が文民政府に権力を譲るのに同意した際に顕著だった、当時。欧米諸国とアメリカは、軍事政権が何十年間も、その中で暮らしてきた制裁を解除し、日本、アメリカ、中国やASEAN諸国から、海外投資と技術がミャンマーに流れ込むお膳立てをした。ミャンマーで本物の好況が始まり、過去数年間、国のGDP成長率は、5-7%の水準が続いていた。国富レベル増加のおかげで、中小企業が現れ始めた、新しい産業組織が出現し、貿易総取引高、生活水準と消費量の水準が目立って上昇した。2011年以来、一人当たり所得が、900ドルから1,600ドルまで増大した。経済的変化のうねりのおかげで、NLDの立場は強化され、NLDは、その政策がいかに正しいか、これら全ての成功を自身のせいにした。この党は主流になり、国中に下部組織を作るのに成功し、活動家たちは、国民の中でも最も教養がある、裕福な人々の支持で、権力闘争に対する用意をすっかり調えていた。
だから、NLDが大衆の熱意以外、他のいかなる資源も持っていなかった1989年と対照すると、現在は全てが異なっている。NLDは強力な組織構造、オピニオン・リーダー、多くの県当局、新聞、ラジオ、テレビというメディア、ジャーナリストの同情と、ロビー運動さえ持っている。これは、ミャンマー軍と、その将官が、逮捕や処刑にもかかわらず、権力を求めて戦い続ける本格的な相手に直面していることを意味する。
今でさえ、軍事力で、NLDの抵抗を抑える軍の能力のなさを見て、多くの人々が、常にミャンマーの国家制度を維持する中核組織と見なされた軍が権力維持が可能かどうか疑いを表明し始めている。実際、NLD指導部が、実際の政府から、軍とその代表を永久に脇に追いやる、いわゆる「民主主義への移行」のお膳立てをする憲法を変える計画が既に準備されているのを知っていたので、この狙いを実現するため、軍は、国の支配権を自身の手中に収めたのだ。国内で、長年の間に、軍に反対する人々が、いわゆる「緊張の場」を作りだし、欧米非営利組織(NGO)の影響力と、その直接参加で、政権を握る軍に代わる選択肢として「市民社会」が組織されていた。
憲法修正を開始し、軍を権力から排除することが、選挙で、NLDにとって大勝利だと考えられていた。2020年11月の選挙で、与党はそれを実現するのに成功した。だが軍は選挙運動と投票経過を、しっかり追い、その中で最も重大な違反、不正操作と偽造が行われており、そのため選挙結果は合法的とみなすべきではないと述べた。NLD支持者は当然これとは意見が違い、軍が主張していることの正当性を受け入れるのを拒否した。そこで生じた状態で、軍指導部には二つしか道はなかった。法廷で、選挙に異議を申し立て、多数の違反と不正行為が起きていたのを証明するか、権力から排除され「民主主義への移行」が起きるの阻止するために、権力を自身の手中にするかだ。
軍が根拠がない主張をせず、違反を証明する証拠の山を集めて、法廷が彼ら側につくと期待していたことは指摘する価値がある。だが、それは起きず、NLDとその考えが、支配的な民間人エリートの中で、どれほど人気が高いか確認するのに役立つだけだった。その主張を認めさせるのに失敗し、軍指導部は権力奪取を強いられた。時事問題ショーとして、軍がより長く権力の座に留まれば留まるほど、益々、内部政治闘争は一層凄まじくなり、支配層エリート間で達せられるべき妥協が一層実現不可能になる。
現在、ミャンマーの状況は明白な行き詰まりにあり、ミン・アウン・フライン大将率いる軍が、極めて緊急の問題に直面しているのは明白だ。1980年代から2000年代初期まで存在していた現実へと180度戻るのを絶対望まないミャンマー社会の激しい抵抗に直面して、次に何をすべきか?大半の人々にとって、あの時代は、貧困、無能力、軍官僚の全能と、軍に課された厳しい規則への服従と結び付いている。
何らかの形で国民を安心させようとして、軍は既に一年以内に確実に議会選挙を行うと発表した。だが、一体どの党が選挙に参加できるか、まだ明確ではない。一方、新政権は、あらゆる手段で、インターネット・アクセスを阻止し、ニュース局やソーシャル・メディアネットワークを閉鎖しようと試みている。それが、これが成功するかどうかは疑わしく、最も可能性が高いのは、軍が再度、公式にNLDの活動を禁止することだ。だが、そうなれば誰も年内の選挙を合法的と認めず、外国の種々の制裁がすぐ続くだろう。
だが一方で、ミン・アウン・フラインのような思慮ある政治家、軍指導者が、合意された条件でさえ、権力をリベラル派に委ねるべきではないと考えている。NLDと、軍の支援がなければ、内戦を再開する好機を待つばかりの、チン族やカチン族、モン族、シャン族やカレン族などの多くの少数民族が擁立して、長く続いている軍隊に対処できないのは確実だ。加えて、民主派が麻薬密売組織のボス連中を抑えて、ミャンマー北東で次の「黄金の三角地帯」が転生するのを阻止できるかどうか明確ではない。
だから、権力を獲得した軍と、権力から追い出された民主派の双方が、国の未来がかかった非常に困難な選択に直面している。妥協する機会は、まだ失われていない。更に、紛争を解決するためには、第三勢力、つまり評判が良いミャンマー仏教僧団代表が関与する必要がある。今大切な事は、破壊した社会で、ミャンマー人間の対話を復活させ、双方が国を救う方法を見いだすのを可能にすることだ。
ドミトリー・モシャコフは、歴史学博士、教授、ロシア科学院東洋学研究所東南アジア豪州太平洋州研究センター所長、オンライン誌「New Eastern Outlook」独占記事。
記事原文のurl:https://journal-neo.org/2021/03/31/burma-is-at-a-crossroads/
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