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レオ・ブルース『怒れる老婦人たち』(ROM叢書)
レオ・ブルースの『怒れる老婦人たち』を読む。歴史教師キャロラス・ディーン・シリーズの第八作目にあたる。
まずはストーリー。ディーンが勤めるクィーンズ・スクールのあるニューミンスターから、四十マイルほど離れたところにある小さな村グラッドハースト。そこで同居して暮らす三人の老姉妹がいた。
長女ミリセントは熱心なキリスト教徒で資産家。次女ボビン夫人と三女フローラの生活の面倒も見ていたが、周囲とはトラブルばかり起こす村の厄介者でもあった。ある日、そんな彼女の死体が、教会墓地の掘ったままにしてある墓穴から発見される。
警察は物盗りの方向で捜査を進めるが、警察を信用していないボビン夫人はディーンに調査を依頼する……。
▲レオ・ブルース『怒れる老婦人たち』(ROM叢書)
前回の『ブレッシントン海岸の死』がちょっと弱かったこともあって少し心配ではあったが、本作はいつもどおりのラインに戻したようでひと安心。大傑作とは言わないけれど、長所短所合わせてレオ・ブルースならではの特徴がふんだんに発揮された佳作といえるだろう。
短所からいうと、いつも以上に地味な作品である。もともとストーリーの起伏が少ないシリーズではあるが、本作は頭から尻尾まで、徹頭徹尾、キャロラス・ディーンの調査すなわち関係者への聞き取りに終始する。
唯一、終盤で第二、第三の事件が起こるけれど、それ以外の部分は本当に動きがない。第二、第三の事件にしても非常に淡白な描き方で、そもそも第一の事件なんてボビン夫人から説明されるだけだからもっと始末が悪い。
おまけに今回は賑やかしのゴリンジャー校長も悪ガキのブリグリーも控えめ。このケレンのなさがある意味、著者の作品の、とりわけキャロラス・ディーンものの大きな特徴ではあるのだが、もう少し山っ気があっても良いのになあとは思う。おそらくだが、ブルースにはこういう作品が多いから、なかなか一般的な人気が出ないのだろうなあ。
ただ一方で、本格ミステリとしての山っ気は旺盛で、言うまでもなくこちらが最大の長所である。本作ではトリックと呼べるものがひとつ使われていて、それも悪くはないのだが、むしろ事件全体の構成そのものに工夫がされており、そちらの方にこそ感心する。
要はプロット作りが上手いわけだが、大掛かりなトリックなどはなくとも、本格ミステリのコードを踏まえた上でそれを逆手に取るというか、読者がミステリに詳しいほど綺麗にやられる。本作もまさしくそういうタイプのネタではなかろうか。
また、相変わらずの感想になってしまうが、ブルースは会話が実に上手い。ストーリーは地味だけれど全然退屈しないのは、この会話が面白いからである。本作ではタイトルからして“怒れる老婦人たち”とあるように、まずエキセントリックな老婦人が多く登場し、それぞれにディーンとの絡みを見せる。他にもメイドのナオミや警察官、その他大勢の関係者とのやりとりが見ものである。
それこそ漫才にでも通じるような、よく読んでみるとボケとツッコミみたいになっている箇所が山ほどある。ここかしこに「何でやねん」とか「ちょっと何言ってるかわかんない」というようなセリフに思わず脳内変換してしまうほどだ。
まあ、管理人の読み方が特殊なだけかもしれないが、淡々と進んでいるかのような会話が、実はくすぐり満載というところもを魅力としては小さくない。
ということで、最初にも書いたように、本作は地味ながらもブルースの特徴が発揮された佳作である。これが私家版、同人という形でしか刊行されないことが本当にもったいない。翻訳の小林晋氏はレオ・ブルース全長編の邦訳を宣言なさっているが、まだ先は長い。それはそれで楽しみではあるが、どこかの出版社がぜひ協力できないものだろうか。
まずはストーリー。ディーンが勤めるクィーンズ・スクールのあるニューミンスターから、四十マイルほど離れたところにある小さな村グラッドハースト。そこで同居して暮らす三人の老姉妹がいた。
長女ミリセントは熱心なキリスト教徒で資産家。次女ボビン夫人と三女フローラの生活の面倒も見ていたが、周囲とはトラブルばかり起こす村の厄介者でもあった。ある日、そんな彼女の死体が、教会墓地の掘ったままにしてある墓穴から発見される。
警察は物盗りの方向で捜査を進めるが、警察を信用していないボビン夫人はディーンに調査を依頼する……。
▲レオ・ブルース『怒れる老婦人たち』(ROM叢書)
前回の『ブレッシントン海岸の死』がちょっと弱かったこともあって少し心配ではあったが、本作はいつもどおりのラインに戻したようでひと安心。大傑作とは言わないけれど、長所短所合わせてレオ・ブルースならではの特徴がふんだんに発揮された佳作といえるだろう。
短所からいうと、いつも以上に地味な作品である。もともとストーリーの起伏が少ないシリーズではあるが、本作は頭から尻尾まで、徹頭徹尾、キャロラス・ディーンの調査すなわち関係者への聞き取りに終始する。
唯一、終盤で第二、第三の事件が起こるけれど、それ以外の部分は本当に動きがない。第二、第三の事件にしても非常に淡白な描き方で、そもそも第一の事件なんてボビン夫人から説明されるだけだからもっと始末が悪い。
おまけに今回は賑やかしのゴリンジャー校長も悪ガキのブリグリーも控えめ。このケレンのなさがある意味、著者の作品の、とりわけキャロラス・ディーンものの大きな特徴ではあるのだが、もう少し山っ気があっても良いのになあとは思う。おそらくだが、ブルースにはこういう作品が多いから、なかなか一般的な人気が出ないのだろうなあ。
ただ一方で、本格ミステリとしての山っ気は旺盛で、言うまでもなくこちらが最大の長所である。本作ではトリックと呼べるものがひとつ使われていて、それも悪くはないのだが、むしろ事件全体の構成そのものに工夫がされており、そちらの方にこそ感心する。
要はプロット作りが上手いわけだが、大掛かりなトリックなどはなくとも、本格ミステリのコードを踏まえた上でそれを逆手に取るというか、読者がミステリに詳しいほど綺麗にやられる。本作もまさしくそういうタイプのネタではなかろうか。
また、相変わらずの感想になってしまうが、ブルースは会話が実に上手い。ストーリーは地味だけれど全然退屈しないのは、この会話が面白いからである。本作ではタイトルからして“怒れる老婦人たち”とあるように、まずエキセントリックな老婦人が多く登場し、それぞれにディーンとの絡みを見せる。他にもメイドのナオミや警察官、その他大勢の関係者とのやりとりが見ものである。
それこそ漫才にでも通じるような、よく読んでみるとボケとツッコミみたいになっている箇所が山ほどある。ここかしこに「何でやねん」とか「ちょっと何言ってるかわかんない」というようなセリフに思わず脳内変換してしまうほどだ。
まあ、管理人の読み方が特殊なだけかもしれないが、淡々と進んでいるかのような会話が、実はくすぐり満載というところもを魅力としては小さくない。
ということで、最初にも書いたように、本作は地味ながらもブルースの特徴が発揮された佳作である。これが私家版、同人という形でしか刊行されないことが本当にもったいない。翻訳の小林晋氏はレオ・ブルース全長編の邦訳を宣言なさっているが、まだ先は長い。それはそれで楽しみではあるが、どこかの出版社がぜひ協力できないものだろうか。
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