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ジェフリー・ディーヴァー『ロードサイド・クロス』(文藝春秋)
年の瀬ということで忘年会シーズン真っ只中。公私あわせるとだいたい週に二回ペースというところで、いやあ、楽じゃありません。アルコール自体は望むところなのだが、若い頃と違ってけっこう次の日に残るのが辛い。二日連チャンだけは避けるようにしているが、こればかりは先方の都合もあるしなぁ。あと、これも若い頃と比べて夜がすっかり弱くなってしまったのも歯がゆい。というわけで、読書が進まない言い訳でした。
およそ一週間ぶりの読了本は、ジェフリー・ディーヴァー『ロードサイド・クロス』。ライムものではなく、キネクシスの専門家キャサリン・ダンスを主人公とするシリーズの第二作である。こんな話。
カリフォルニアで絶大な人気を誇る有名ブログ「ザ・チルトン・レポート」。交通事故を起こした高校生トラヴィスは、このブログのコメント欄で吊し上げられ、個人情報まで暴露。やがて実生活にまで嫌がらせは広がってゆく。
そんな頃、死を予告する十字架が道路沿いに発見され、予告殺人事件に発展。命を狙われたのはトラヴィスをネット上で糾弾した女子学生だった。ほどなくしてトラヴィスは姿を消し、さらに第二、第三の十字架が……。
ううむ、普通には面白い。完成度からいうと前作をも凌ぐだろう。それでもディーヴァーの実力からすれば、今作はやや物足りない。
ブログやオンラインゲームなど今時のネタをテーマとしているのもディーヴァーらしいし、本筋の事件に加えて、ダンスの母親が別件の殺人容疑で逮捕されるというサブ・ストーリー、さらには恋愛や親子の絆といったダンスの私生活のエピソードを絡め、トドメにはいつものどんでん返し。いつものとおり十分すぎる盛り込み方である。それがなぜ物足りなく感じるのかといえば、盛りだくさんにしすぎた歪みがあちらこちらに出ているのかな、と。
特に気になる点が二つあって、ひとつは肝心のキネクシス(相手の言動を観察分析する科学)を利用した見せ場が少ないこと。リンカーン・ライム・シリーズから派生し、わざわざダンスを主人公とする物語を始めたからには、やはりこちらでやりたかったことがあったはず。
そのひとつが、何といってもキネクシスを用いた心理的な捜査法ではないのか。ライムが物証に則った徹底的な科学捜査をとるのに対し、ダンスは容疑者の心理を読み、攻め込んでゆく。この対比はライム・シリーズでも描かれているとおり。それなのにダンスをダンスたらしめる最大の武器を出し惜しみするというのはいかがなものか。インターネット上でのアバターを使ったキネクシスなど面白い趣向もあるのに、けっこうサラッと流しているのが実に残念だ。
気になる点がもうひとつ。こちらの方が問題としてはより引っかかる。それはサブ・ストーリー的に扱われるダンスの母親の事件である。前作のエピソードからつながる事件で、しかも母親が殺人の容疑者となるのである。これ以上ないってぐらい重いネタなのだが、実はこれが全編通して非常に淡泊な扱い。ダンスは肉親だから母親の捜査に参加できないのは当然としても、この決着はない。
メインの事件との関わりもそれほど濃いものではないし、むしろ母親の件はカットして、そのネタだけで独立した作品に仕立て上げた方がよかったのではないだろうか。
あざといまでのケレンがディーヴァー作品の魅力。そのバランスが本作では乱れてしまっている。盛り込むだけ盛り込んだため、ところどころで中途半端になってしまった。そんな印象である。
およそ一週間ぶりの読了本は、ジェフリー・ディーヴァー『ロードサイド・クロス』。ライムものではなく、キネクシスの専門家キャサリン・ダンスを主人公とするシリーズの第二作である。こんな話。
カリフォルニアで絶大な人気を誇る有名ブログ「ザ・チルトン・レポート」。交通事故を起こした高校生トラヴィスは、このブログのコメント欄で吊し上げられ、個人情報まで暴露。やがて実生活にまで嫌がらせは広がってゆく。
そんな頃、死を予告する十字架が道路沿いに発見され、予告殺人事件に発展。命を狙われたのはトラヴィスをネット上で糾弾した女子学生だった。ほどなくしてトラヴィスは姿を消し、さらに第二、第三の十字架が……。
ううむ、普通には面白い。完成度からいうと前作をも凌ぐだろう。それでもディーヴァーの実力からすれば、今作はやや物足りない。
ブログやオンラインゲームなど今時のネタをテーマとしているのもディーヴァーらしいし、本筋の事件に加えて、ダンスの母親が別件の殺人容疑で逮捕されるというサブ・ストーリー、さらには恋愛や親子の絆といったダンスの私生活のエピソードを絡め、トドメにはいつものどんでん返し。いつものとおり十分すぎる盛り込み方である。それがなぜ物足りなく感じるのかといえば、盛りだくさんにしすぎた歪みがあちらこちらに出ているのかな、と。
特に気になる点が二つあって、ひとつは肝心のキネクシス(相手の言動を観察分析する科学)を利用した見せ場が少ないこと。リンカーン・ライム・シリーズから派生し、わざわざダンスを主人公とする物語を始めたからには、やはりこちらでやりたかったことがあったはず。
そのひとつが、何といってもキネクシスを用いた心理的な捜査法ではないのか。ライムが物証に則った徹底的な科学捜査をとるのに対し、ダンスは容疑者の心理を読み、攻め込んでゆく。この対比はライム・シリーズでも描かれているとおり。それなのにダンスをダンスたらしめる最大の武器を出し惜しみするというのはいかがなものか。インターネット上でのアバターを使ったキネクシスなど面白い趣向もあるのに、けっこうサラッと流しているのが実に残念だ。
気になる点がもうひとつ。こちらの方が問題としてはより引っかかる。それはサブ・ストーリー的に扱われるダンスの母親の事件である。前作のエピソードからつながる事件で、しかも母親が殺人の容疑者となるのである。これ以上ないってぐらい重いネタなのだが、実はこれが全編通して非常に淡泊な扱い。ダンスは肉親だから母親の捜査に参加できないのは当然としても、この決着はない。
メインの事件との関わりもそれほど濃いものではないし、むしろ母親の件はカットして、そのネタだけで独立した作品に仕立て上げた方がよかったのではないだろうか。
あざといまでのケレンがディーヴァー作品の魅力。そのバランスが本作では乱れてしまっている。盛り込むだけ盛り込んだため、ところどころで中途半端になってしまった。そんな印象である。
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