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ジェフリー・ディーヴァー『死の教訓(下)』(講談社文庫)
疲れ切った頭には拷問に等しかった『死の教訓』上巻。しかし、さすがはディーヴァー。下巻はかなり盛り返した。
と言っても、この程度じゃ人に勧めるところまではいかない。
第一、本書が書かれたのは、『眠れぬイヴのために』の前なのだ。一般にディーヴァーの出世作は『眠れぬイヴのために』とされており、続く『監禁』『静寂の叫び』などで大化けし、『ボーンコレクター』で遂に人気実力ともメジャー級になったと言われている。結局、本書は最初期の『汚れた街のシンデレラ』『死を誘うロケ地』ほどひどくはないが、『眠れぬイヴのために』には及ばない、といった程度の作品なのだ。
とある田舎町のニューレバノンで女子大生の死体が発見された。死姦の跡や、犯行が半月の夜に行われたらしいことなどことから、保安官やマスコミはカルトがらみの猟奇犯罪として事件を扱う。そんな動きに納得しないのが捜査主任のビル・コードだった。ビルは捜査の基本に忠実に、一歩一歩、犯人を追いつめようとする。しかし、そんなビルのもとへ、犯人とおぼしき者から脅迫のメッセージが届けられ、家族に姿なき魔の手が忍び寄る。
設定は悪くない。確かに最近の作品ほどのド派手な要素はないが、田舎町のごく普通の家庭が抱える様々な悩みや問題がうまく事件と絡み合い、考えさせる力を持っている。
例えば主人公ビルの家族の問題(これがまたてんこ盛り)はもちろんだが、保安官、捜査官、大学警備主任、大学関係者、被害者の家族など、彼らはそれぞれがそれぞれの困難に直面している。自分一人ではどうにもならない悩みも多く、それが葛藤を生み、対立を生み出してゆく。このあたりをしつこく描写してゆくところは、逆に最近の作品にはない部分で、なかなか読ませる。
ただし、前半(上巻)は、いろいろな登場人物に含みを持たせすぎようとして、少々、いや、かなり煩わしい。おまけにすぐに場面を切り替えるので、展開がごちゃごちゃしすぎて読みにくいったらないのである。
面白くなってくるのは上巻も終わりに近づいてから。さまざまな伏線が一本にまとまりを見せ、数々の怪しい人物たちが、本来の役目をまっとうしてゆく。ここまできてようやく後年のディーヴァーを彷彿とさせる、という表現に相応しくなる。ただ、前半の失点を取り返すところまではいかず、結局は並レベルの作品と言うことになるだろう。それを承知で読むのなら、そこそこは楽しめるはずだ。
と言っても、この程度じゃ人に勧めるところまではいかない。
第一、本書が書かれたのは、『眠れぬイヴのために』の前なのだ。一般にディーヴァーの出世作は『眠れぬイヴのために』とされており、続く『監禁』『静寂の叫び』などで大化けし、『ボーンコレクター』で遂に人気実力ともメジャー級になったと言われている。結局、本書は最初期の『汚れた街のシンデレラ』『死を誘うロケ地』ほどひどくはないが、『眠れぬイヴのために』には及ばない、といった程度の作品なのだ。
とある田舎町のニューレバノンで女子大生の死体が発見された。死姦の跡や、犯行が半月の夜に行われたらしいことなどことから、保安官やマスコミはカルトがらみの猟奇犯罪として事件を扱う。そんな動きに納得しないのが捜査主任のビル・コードだった。ビルは捜査の基本に忠実に、一歩一歩、犯人を追いつめようとする。しかし、そんなビルのもとへ、犯人とおぼしき者から脅迫のメッセージが届けられ、家族に姿なき魔の手が忍び寄る。
設定は悪くない。確かに最近の作品ほどのド派手な要素はないが、田舎町のごく普通の家庭が抱える様々な悩みや問題がうまく事件と絡み合い、考えさせる力を持っている。
例えば主人公ビルの家族の問題(これがまたてんこ盛り)はもちろんだが、保安官、捜査官、大学警備主任、大学関係者、被害者の家族など、彼らはそれぞれがそれぞれの困難に直面している。自分一人ではどうにもならない悩みも多く、それが葛藤を生み、対立を生み出してゆく。このあたりをしつこく描写してゆくところは、逆に最近の作品にはない部分で、なかなか読ませる。
ただし、前半(上巻)は、いろいろな登場人物に含みを持たせすぎようとして、少々、いや、かなり煩わしい。おまけにすぐに場面を切り替えるので、展開がごちゃごちゃしすぎて読みにくいったらないのである。
面白くなってくるのは上巻も終わりに近づいてから。さまざまな伏線が一本にまとまりを見せ、数々の怪しい人物たちが、本来の役目をまっとうしてゆく。ここまできてようやく後年のディーヴァーを彷彿とさせる、という表現に相応しくなる。ただ、前半の失点を取り返すところまではいかず、結局は並レベルの作品と言うことになるだろう。それを承知で読むのなら、そこそこは楽しめるはずだ。
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