パンデミックの影響、露制裁の反動で、G7の経済力はBRICSに追い越された!
<記事原文 寺島先生推薦>
G7 vs BRICS
筆者:スコット・リッター (Scott Ritter)
出典:INTERNATIONALIST 360° 2023年3月23日
<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ> 2023年4月27日
2022年6月28日、ドイツ・クリュンのシュロス・エルマウで行われたG7首脳会議。(ホワイトハウス/アダム・シュルツ)
PPP調整後の世界GDPで、BRICSがG7を上回る
昨年夏、世界で最も影響力のある経済大国を自認するG7(Group of 7)が、ドイツのガルミッシュ・パルテンキルヒェンに近いシュロス・エルマウに集まり、年次総会を開催した。その焦点は、追加制裁によるロシアへの懲罰、ウクライナのさらなる武装化、そして中国の封じ込めにあった。
同時に、中国はテレビ会議を通じてBRICS経済フォーラムを開催した。ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカで構成されるBRICSは、いわゆる発展途上国と呼ばれる国々で、経済的な絆の強化、国際的な経済発展、G7の反動的な政策にどう対処するかに焦点を当てている。
2020年初頭、ロシアのセルゲイ・リャブコフ外務副大臣が予測していたのは、国際通貨基金が予測する購買力平価(PPP)の計算に基づき、BRICSがその年の後半に世界全体に占める割合でG7を追い越す、ということだった。
(購買力平価(PPP)為替レートによる国内総生産は、その国で生産されるすべての財とサービスの合計額を米国の物価で評価したもので、単純なGDP計算よりも経済力の比較をより正確に反映するもの)
その後、パンデミックが発生し、世界経済がリセットされたことで、IMFの予測は無意味なものとなった。世界はパンデミックからの回復に集中し、その後、2022年2月にロシアがウクライナに侵攻した後、欧米がロシアに対して大規模な制裁を行ったことによる影響に対処することになった。
G7はBRICSの経済的挑戦に耳を傾けず、ジョー・バイデン米国大統領の政権の信条であった「ルールに基づく国際秩序」の防衛を固めることに注力した。
誤算
G7首脳やウクライナのボロディミル・ゼレンスキー大統領と仮想通話するジョー・バイデン米大統領(2月24日)。(ホワイトハウス/アダム・シュルツ)
ロシアのウクライナ侵攻以来、G7を中心とするロシア侵攻を非難し経済的制裁を求める側と、BRICSを中心とするロシアの行動を支持するわけでもなくまた制裁にも加わらないという微妙な立ち位置で、世界を覆う思想的分裂が起きている。このため、世界経済の実態を把握する上で、知的空白が生じている。
米国とG7友好諸国は、制裁がロシア経済に与える影響と、欧米に与える打撃の両方を誤算していたと、今では広く認識されるようになった。
メイン州の無所属上院議員であるアンガス・キングは、次のことを記憶していると最近述べた:
「1年前にこれが始まったとき、制裁はロシアを麻痺させるという話ばかりだった。ロシアは潰れてしまい、街頭で暴動が起きるという話だったのだが、実際にはうまくいかなかった......(中略)制裁の仕方が間違っていたのか? うまく適用できなかったのだろうか? 私たちは、ロシアが制裁を回避する能力を過小評価していたのだろうか? なぜ、制裁体制がこの紛争に大きな役割を果たさなかったのだろうか?」
なお、IMFは、この制裁の結果、ロシア経済は少なくとも8パーセント縮小すると計算していた。実際の数字は2%で、ロシア経済は――制裁にもかかわらず――2023年以降も成長すると予想されている。
このような誤算は、世界経済やG7とBRICSが果たすそれぞれの役割について、欧米の考え方に浸透している。2022年10月、IMFは従来のGDP計算に重点を置いた年次世界経済見通し(WEO)を発表した。2022年夏にBRICSが政治的な挑戦を行ったにもかかわらず、IMFはG7が依然として世界経済を主導する同盟として強固であると計算していたため、主流の経済専門家は安心したのである。
2023年1月、IMFは2022年10月のWEOの更新版を発表し、G7の強い立場を強調した。IMFの首席経済学者であるピエール=オリヴィエ・グランシャによると、「見通しに対する危険度の均衡は依然として下方に傾いているが、10月のWEOよりも不利な結果への偏りは少ない」という。
この前向きな姿勢が、欧米の主要な経済専門家たちが、この更新版のデータを深く掘り下げることを妨げたのである。私は、個人的に、保守的な編集者たちが「古いデータ」から現在の関連性を引き出そうとすることに消極的であると断言できる。
幸いなことに、「世界経済と金融市場の分析に全体を網羅する手順を採用するブティック型マクロ経済調査会社」と自称するエイコーン・マクロ・コンサルティングのリチャード・ディアスのような経済専門家も存在する。ディアスは、IMFのバラ色の見通しを福音として受け入れるのではなく、専門家が本来すべきこと、つまりデータを掘り下げ、関連する結論を導き出したのだ。
IMFの「世界経済見通しデータベース」に目を通したディアスは、G7とBRICSのPPP調整後の世界GDPの割合を比較分析したところ、驚くべき発見をした: BRICSがG7を上回っていたのだ。
これは予測ではなく、達成された事実を述べたものである:BRICSはPPP調整後の世界GDPの31.5%を占め、G7は30.7%を占めていた。G7にとってさらに悪いことに、予測された傾向は、この2つの経済圏の間の溝が今後ますます広がっていくことを示していた。
BRICSの世界的な経済力の蓄積が加速している理由は、主に3つの要因に起因しているものと考えられる:
・ Covid-19のパンデミックによる残留的な影響、
・ ウクライナ侵攻後のG7によるロシア制裁の反動と、G7の経済政策に対する途上国の反発の高まり、そして、
・ 各国の経済的潜在力を高めることを支援するという純粋な願いよりも、植民地主義時代後の傲慢さに根ざしていると考えられる優先的な動き、である。
成長格差
BRICSとG7の経済力が、それぞれ中国と米国の経済に大きく影響されていることは事実である。しかし、これらの経済的枠組みに参加している他の国々の相対的な経済的軌道を無視することはできない。BRICSの大半の国々が今後数年間は力強い成長を遂げるという経済見通しを示しているのに対し、G7諸国は、現在のロシアへの制裁という自業自得の部分もあるが、低成長、英国の場合はマイナス成長であり、この傾向を覆す見込みはほとんどない。
また、G7加盟国が固定的であるのに対し、BRICSはアルゼンチンやイランが申請し、サウジアラビア、トルコ、エジプトといった地域の主要経済大国が参加に関心を示しているなど、拡大傾向にある。さらに、イランとサウジアラビアの関係を正常化させた中国の外交的功績が、この潜在的な拡大をより爆発的なものにしている。
米ドルの世界支配が続く見通しが立たなくなり、ロシアと中国が推進するユーラシア大陸横断経済同盟の経済的可能性も相まって、G7とBRICSは相反する軌道に乗った。BRICSは、PPPだけでなく実際のGDPでも、今後数年でG7を追い越すはずである。
しかし、主流の経済専門家たちが、この結論に達するのを首を長くして待っていてはいけない。ありがたいことに、リチャード・ディアスやエイコーン・マクロ・コンサルティングのように、古いデータから新しい意味を見出そうとする異端児も存在する。
________________________________________
スコット・リッターは、旧ソ連に駐在した元米海兵隊の情報将校である。旧ソ連では軍備管理条約を実施し、ペルシャ湾では砂漠の嵐作戦、イラクでは大量破壊兵器の武装解除を監督した。近著に『Disarmament in the Time of Perestroika』(クラリティ・プレス刊)がある。
G7 vs BRICS
筆者:スコット・リッター (Scott Ritter)
出典:INTERNATIONALIST 360° 2023年3月23日
<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ> 2023年4月27日
2022年6月28日、ドイツ・クリュンのシュロス・エルマウで行われたG7首脳会議。(ホワイトハウス/アダム・シュルツ)
PPP調整後の世界GDPで、BRICSがG7を上回る
昨年夏、世界で最も影響力のある経済大国を自認するG7(Group of 7)が、ドイツのガルミッシュ・パルテンキルヒェンに近いシュロス・エルマウに集まり、年次総会を開催した。その焦点は、追加制裁によるロシアへの懲罰、ウクライナのさらなる武装化、そして中国の封じ込めにあった。
同時に、中国はテレビ会議を通じてBRICS経済フォーラムを開催した。ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカで構成されるBRICSは、いわゆる発展途上国と呼ばれる国々で、経済的な絆の強化、国際的な経済発展、G7の反動的な政策にどう対処するかに焦点を当てている。
2020年初頭、ロシアのセルゲイ・リャブコフ外務副大臣が予測していたのは、国際通貨基金が予測する購買力平価(PPP)の計算に基づき、BRICSがその年の後半に世界全体に占める割合でG7を追い越す、ということだった。
(購買力平価(PPP)為替レートによる国内総生産は、その国で生産されるすべての財とサービスの合計額を米国の物価で評価したもので、単純なGDP計算よりも経済力の比較をより正確に反映するもの)
その後、パンデミックが発生し、世界経済がリセットされたことで、IMFの予測は無意味なものとなった。世界はパンデミックからの回復に集中し、その後、2022年2月にロシアがウクライナに侵攻した後、欧米がロシアに対して大規模な制裁を行ったことによる影響に対処することになった。
G7はBRICSの経済的挑戦に耳を傾けず、ジョー・バイデン米国大統領の政権の信条であった「ルールに基づく国際秩序」の防衛を固めることに注力した。
誤算
G7首脳やウクライナのボロディミル・ゼレンスキー大統領と仮想通話するジョー・バイデン米大統領(2月24日)。(ホワイトハウス/アダム・シュルツ)
ロシアのウクライナ侵攻以来、G7を中心とするロシア侵攻を非難し経済的制裁を求める側と、BRICSを中心とするロシアの行動を支持するわけでもなくまた制裁にも加わらないという微妙な立ち位置で、世界を覆う思想的分裂が起きている。このため、世界経済の実態を把握する上で、知的空白が生じている。
米国とG7友好諸国は、制裁がロシア経済に与える影響と、欧米に与える打撃の両方を誤算していたと、今では広く認識されるようになった。
メイン州の無所属上院議員であるアンガス・キングは、次のことを記憶していると最近述べた:
「1年前にこれが始まったとき、制裁はロシアを麻痺させるという話ばかりだった。ロシアは潰れてしまい、街頭で暴動が起きるという話だったのだが、実際にはうまくいかなかった......(中略)制裁の仕方が間違っていたのか? うまく適用できなかったのだろうか? 私たちは、ロシアが制裁を回避する能力を過小評価していたのだろうか? なぜ、制裁体制がこの紛争に大きな役割を果たさなかったのだろうか?」
なお、IMFは、この制裁の結果、ロシア経済は少なくとも8パーセント縮小すると計算していた。実際の数字は2%で、ロシア経済は――制裁にもかかわらず――2023年以降も成長すると予想されている。
このような誤算は、世界経済やG7とBRICSが果たすそれぞれの役割について、欧米の考え方に浸透している。2022年10月、IMFは従来のGDP計算に重点を置いた年次世界経済見通し(WEO)を発表した。2022年夏にBRICSが政治的な挑戦を行ったにもかかわらず、IMFはG7が依然として世界経済を主導する同盟として強固であると計算していたため、主流の経済専門家は安心したのである。
2023年1月、IMFは2022年10月のWEOの更新版を発表し、G7の強い立場を強調した。IMFの首席経済学者であるピエール=オリヴィエ・グランシャによると、「見通しに対する危険度の均衡は依然として下方に傾いているが、10月のWEOよりも不利な結果への偏りは少ない」という。
この前向きな姿勢が、欧米の主要な経済専門家たちが、この更新版のデータを深く掘り下げることを妨げたのである。私は、個人的に、保守的な編集者たちが「古いデータ」から現在の関連性を引き出そうとすることに消極的であると断言できる。
幸いなことに、「世界経済と金融市場の分析に全体を網羅する手順を採用するブティック型マクロ経済調査会社」と自称するエイコーン・マクロ・コンサルティングのリチャード・ディアスのような経済専門家も存在する。ディアスは、IMFのバラ色の見通しを福音として受け入れるのではなく、専門家が本来すべきこと、つまりデータを掘り下げ、関連する結論を導き出したのだ。
IMFの「世界経済見通しデータベース」に目を通したディアスは、G7とBRICSのPPP調整後の世界GDPの割合を比較分析したところ、驚くべき発見をした: BRICSがG7を上回っていたのだ。
これは予測ではなく、達成された事実を述べたものである:BRICSはPPP調整後の世界GDPの31.5%を占め、G7は30.7%を占めていた。G7にとってさらに悪いことに、予測された傾向は、この2つの経済圏の間の溝が今後ますます広がっていくことを示していた。
BRICSの世界的な経済力の蓄積が加速している理由は、主に3つの要因に起因しているものと考えられる:
・ Covid-19のパンデミックによる残留的な影響、
・ ウクライナ侵攻後のG7によるロシア制裁の反動と、G7の経済政策に対する途上国の反発の高まり、そして、
・ 各国の経済的潜在力を高めることを支援するという純粋な願いよりも、植民地主義時代後の傲慢さに根ざしていると考えられる優先的な動き、である。
成長格差
BRICSとG7の経済力が、それぞれ中国と米国の経済に大きく影響されていることは事実である。しかし、これらの経済的枠組みに参加している他の国々の相対的な経済的軌道を無視することはできない。BRICSの大半の国々が今後数年間は力強い成長を遂げるという経済見通しを示しているのに対し、G7諸国は、現在のロシアへの制裁という自業自得の部分もあるが、低成長、英国の場合はマイナス成長であり、この傾向を覆す見込みはほとんどない。
また、G7加盟国が固定的であるのに対し、BRICSはアルゼンチンやイランが申請し、サウジアラビア、トルコ、エジプトといった地域の主要経済大国が参加に関心を示しているなど、拡大傾向にある。さらに、イランとサウジアラビアの関係を正常化させた中国の外交的功績が、この潜在的な拡大をより爆発的なものにしている。
米ドルの世界支配が続く見通しが立たなくなり、ロシアと中国が推進するユーラシア大陸横断経済同盟の経済的可能性も相まって、G7とBRICSは相反する軌道に乗った。BRICSは、PPPだけでなく実際のGDPでも、今後数年でG7を追い越すはずである。
しかし、主流の経済専門家たちが、この結論に達するのを首を長くして待っていてはいけない。ありがたいことに、リチャード・ディアスやエイコーン・マクロ・コンサルティングのように、古いデータから新しい意味を見出そうとする異端児も存在する。
________________________________________
スコット・リッターは、旧ソ連に駐在した元米海兵隊の情報将校である。旧ソ連では軍備管理条約を実施し、ペルシャ湾では砂漠の嵐作戦、イラクでは大量破壊兵器の武装解除を監督した。近著に『Disarmament in the Time of Perestroika』(クラリティ・プレス刊)がある。
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