◆ 取り残されているのは・・・ 20年前に10クラブで華々しくスタートしたJリーグは現在、1部・2部合わせて全国に40ものクラブが存在するようになり、その地域ごとに熱心なサポーターやファンがいて、試合内容も取り立ててレベルが低いわけではない。そして、W杯にも日本代表は4大会連続で出場しベスト16までの実績も作ってきたし、先日5大会連続出場を決めた。また、プロサッカー選手という職業は相変わらず「子供がなりたい職業」の上位に位置して夢を与えつづけている。Jリーグ以降、日本サッカー界は驚くべきスピードでレベルアップしてきた。
Jリーグは矢継ぎ早にシーズン移行や2シーズン制とCSの復活など、現状打破のため、そして日本のサッカーを盛り上げるべくリーグ活性化策の様なものを打ち出してきている。ただ、これらの施策にはどこか忘れ去られている物があるように感じられてしまうのは筆者だけだろうか。その忘れ去られている何か、取り残されている何かを挙げるとすれば、それは観客(ファン・サポーター・新規客)であり、スタジアムの観戦環境ではなかろうか。
◆ 変わり続けている世の中J創設から20年という時間の中で、世の中は大きく変わった。テレビはアナログからデジタルへ移行し圧倒的に画質が向上。世界中のサッカーにも簡単にアクセス可能になっている。
映画館はシネコンの出現でマルチスクリーンがニーズをすくい、ホスピタリティやシートの改善、3D映画の上映、音響設備の向上などで従来の映画館を駆逐してしまった。 自動車もハイブリッドや内燃機関の効率アップのための技術向上で劇的に燃費の改善をし、ユーザーの使い勝手の良さや安全面の配慮にも力を入れている。同じスポーツのカテゴリーでは、興業の成立と観戦のし易さのバランスを取るためプロ野球はドーム球場(その是非は別にして)を積極的に導入してきた。
これらはユーザーから「こーしろ、あーしろ」と言われて実行してきたものではない。中にはユーザーが気付きもしてない潜在的なニーズな事もあるだろう。しかし、各々の企業や団体が潜在的な要望を探り、議論し、導き出してきた成果なのだ。全ては顧客の創造であり顧客満足度向上のためなのである。
翻ってJリーグは本当に観客をスポンサーや代理店と同じように大事なお客様としてみなしているだろうか。選手と審判の技術向上によって試合の質が上がりさえすれば観客に来てもらえる、というのは非常に大きな要素ではあるが絶対条件ではなく、それだけでは片手落ちである。集客の伸びないクラブが勝ちさえすれば観客が来てくれるだろう、という幻想に似ている。
◆ 「土のグラウンド」から「芝のピッチ」へ 私たちは知らず知らずのうちに現状に満足しなくなっている。今よりももっと良いものを、もっと楽しいものを、もっと良い条件で体験したいと自然に求めていく。だからエンターテインメントの横綱ディズニーランドだってUSJだって顧客維持拡大のため、期待値を越えるのに必死なのだ。それは顧客の期待値を超えないところに「感動」は存在しないからだ。
見渡せば私たちの周りには本当にたくさんの娯楽がある。Jリーグはそんな競合を相手にパイの取り合いをしている意識は果たしてあるだろうか。
欧州や米国(MLS)と比べると日本のスタジアムの多くは、競技場の観客快適性に関して著しく低いままである。ボランティアのおもてなしにも限界があろう。筆者も悪天候で屋根も囲いも無くアクセスも悪い吹き曝しの見にくい陸上トラック付きのスタジアムで観戦はご免である。Jリーグが出来て土のグラウンドから芝のピッチに変わり技術が向上したように、観戦環境だって相応しいものにしていかなくては観客の増加は見込めない。
現代サッカーにおいては、天候に左右されるのは選手とピッチだけでいいのだ。観客をその犠牲にしてはいけない。折角のデートや家族サービスが、雨や風や暑さ寒さのせいで楽しい思い出を台無しにされてはいけないのである。勝負は水物であっても、「このスタジアムの居心地は最高だった、また来ようね。」と思ってもらえなければならない。
次の20年間、Jリーグが本気でその資源の多くを観戦環境の著しい向上に注ぎ込むことを切に願う。スタジアムに関しては当然自治体や法律が絡んでくるので、非常にデリケートな問題で費やす時間も計り知れないかもしれないし、越えなければいけないハードルも相当あるだろう。しかしこの事に取り組まずに新規顧客がリピーターに定着し、サッカー観戦が文化として浸透し得ないと強く思う。これからのサッカー観戦は観客に我慢を強いる、なんてことは無くして行かなければならない。観客にも「芝のピッチ」を。
(おわり)
[ライター]
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【年代】 40~49歳
【性別】 男性
【地域】 中国
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【自己紹介文】 昨今のJリーグ人気回復案にもやもやしたので書きました。贔屓のクラブはファジアーノ岡山です。
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