Posted
on
ヘレン・マクロイ『あなたは誰?』(ちくま文庫)
ヘレン・マクロイの『あなたは誰?』を読了。珍しやちくま文庫からの刊行だが、以前こそ戦前国産探偵小説を出してくれたこともあったが、翻訳物となると最近ではチェスタトンがあるぐらいで、他はとんと思いつかない。チェスタトンにしても純粋なミステリは少ないし。
どういう経緯があったかは知らぬが、この先の展開が気になるところではある。
まあ、それはともかく。本作は精神科医のベイジル・ウィリング博士を探偵役とするシリーズの一冊。マクロイ初期の本格探偵小説ということで、これは読む前から期待が膨らむ。
こんな話。ナイトクラブの歌手・フリーダは精神科医の卵であるアーチーと婚約し、二人はお披露目のため、アーチーの故郷ウィロウ・スプリングへ向かうことになった。ところがその矢先、フリーダのもとに「ウィロウ・スプリングには行くな」という警告の電話が入る。
不安はそれだけではない。この婚約を快く思わないアーチーの母・イヴ、いつかはアーチーと結ばれることを夢見ていた幼馴染のエリス、ヨーリッパから突然やってきた一族の厄介者イヴの従兄弟・チョークリー。小さな火種がくすぶる中、到着早々にフリーダの部屋が荒らされる事件が起き、そして隣人のマーク上院議員の家で催されたパーティでついに殺人事件が起こる……。
おお、これはいいではないか。物語の興味はストレートなフーダニット。いったい誰が殺人事件の犯人なのか、ということだが、それと並行して描かれるフリーダを脅迫する人物の存在が面白い。
二つの事件の犯人は同一犯なのか、それとも別人なのか。それぞれの動機は何なのか。状況からどちらの事件も犯人は内部のものに限られている。しかもその容疑者はごくごく少数。この極めて難易度の高い状況で、マクロイは周到な仕掛けを講じ、伏線を張りまくる。
特に感心したのはメインの仕掛けである。この仕掛けが事件全体を構築しているといってもよいのだが、マクロイはその仕掛けをストレートに真相につなげるのではなく、そこから一捻り加えており、ここが巧いのである。ネタの性格上、曖昧にしか書けないのが歯がゆいかぎりだが、これはまあ読んで驚いてほしいとしか言いようがない。
実を言うと、この仕掛けは今ではそれほど珍しくもないのだが、それを1943年の時点で、この完成度で成立させているのが素晴らしい。
ちなみにタイトルの『あなたは誰?』の原題は『Who’s Calling?』。
冒頭ですぐにその意味するところが理解できるだろうけれど、実は本当の意味は別のところにある。読後、そのタイトルのつけ方の巧さにも唸らされるわけで、いやあ、マクロイの作品はどこをとっても面白い。おすすめ。
どういう経緯があったかは知らぬが、この先の展開が気になるところではある。
まあ、それはともかく。本作は精神科医のベイジル・ウィリング博士を探偵役とするシリーズの一冊。マクロイ初期の本格探偵小説ということで、これは読む前から期待が膨らむ。
こんな話。ナイトクラブの歌手・フリーダは精神科医の卵であるアーチーと婚約し、二人はお披露目のため、アーチーの故郷ウィロウ・スプリングへ向かうことになった。ところがその矢先、フリーダのもとに「ウィロウ・スプリングには行くな」という警告の電話が入る。
不安はそれだけではない。この婚約を快く思わないアーチーの母・イヴ、いつかはアーチーと結ばれることを夢見ていた幼馴染のエリス、ヨーリッパから突然やってきた一族の厄介者イヴの従兄弟・チョークリー。小さな火種がくすぶる中、到着早々にフリーダの部屋が荒らされる事件が起き、そして隣人のマーク上院議員の家で催されたパーティでついに殺人事件が起こる……。
おお、これはいいではないか。物語の興味はストレートなフーダニット。いったい誰が殺人事件の犯人なのか、ということだが、それと並行して描かれるフリーダを脅迫する人物の存在が面白い。
二つの事件の犯人は同一犯なのか、それとも別人なのか。それぞれの動機は何なのか。状況からどちらの事件も犯人は内部のものに限られている。しかもその容疑者はごくごく少数。この極めて難易度の高い状況で、マクロイは周到な仕掛けを講じ、伏線を張りまくる。
特に感心したのはメインの仕掛けである。この仕掛けが事件全体を構築しているといってもよいのだが、マクロイはその仕掛けをストレートに真相につなげるのではなく、そこから一捻り加えており、ここが巧いのである。ネタの性格上、曖昧にしか書けないのが歯がゆいかぎりだが、これはまあ読んで驚いてほしいとしか言いようがない。
実を言うと、この仕掛けは今ではそれほど珍しくもないのだが、それを1943年の時点で、この完成度で成立させているのが素晴らしい。
ちなみにタイトルの『あなたは誰?』の原題は『Who’s Calling?』。
冒頭ですぐにその意味するところが理解できるだろうけれど、実は本当の意味は別のところにある。読後、そのタイトルのつけ方の巧さにも唸らされるわけで、いやあ、マクロイの作品はどこをとっても面白い。おすすめ。
- 関連記事
-
- ヘレン・マクロイ『読後焼却のこと』(ハヤカワミステリ) 2019/02/16
- ヘレン・マクロイ『悪意の夜』(創元推理文庫) 2018/10/07
- ヘレン・マクロイ『牧神の影』(ちくま文庫) 2018/08/13
- ヘレン・マクロイ『月明かりの男』(創元推理文庫) 2017/11/19
- ヘレン・マクロイ『ささやく真実』(創元推理文庫) 2017/03/26
- ヘレン・マクロイ『二人のウィリング』(ちくま文庫) 2016/06/25
- ヘレン・マクロイ『あなたは誰?』(ちくま文庫) 2015/11/07
- ヘレン・マクロイ『逃げる幻』(創元推理文庫) 2014/11/03
- ヘレン・マクロイ『小鬼の市』(創元推理文庫) 2013/04/29
- ヘレン・マクロイ『暗い鏡の中に』(創元推理文庫) 2011/07/07
- ヘレン・マクロイ『殺す者と殺される者』(創元推理文庫) 2010/02/23
- ヘレン・マクロイ『幽霊の2/3』(創元推理文庫) 2009/09/16
- ヘレン・マクロイ『割れたひづめ』(国書刊行会) 2006/12/21
- ヘレン・マクロイ『死の舞踏』(論創海外ミステリ) 2006/07/30
- ヘレン・マクロイ『歌うダイアモンド』(晶文社) 2005/03/02
S・フチガミさん
いやあ、素晴らしい作品でした。マクロイがどういう着地点を企んでいるのか、非常に興味をもって読みました。実は終盤のベイジルの説明があったときは、「あ、これ系?」という気持ちも少しあったのですが、読み進むうちにこれはそんなイージーなものではないなと。それを踏まえての285ページ以降は実にスリリングでした。まあ、当時はこのネタそのものも全然イージーではなかったと思いいますし、リアルタイムで読んでいたら、どれだけ衝撃的だったのかと思います。
完成度の高さもまったく同感で、サプライズだけでいったら他に譲る作品もありますが、トータルの出来では確かにこれはトップクラスです。
ぜひ今後も面白い作品をご紹介ください。とりあえず次のコニントンにも期待しております。がんばってください!
Posted at 19:21 on 11 07, 2015 by sugata