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ヘレン・マクロイ『幽霊の2/3』(創元推理文庫)
突如、文壇に現れた新人作家エイモス・コットル。処女作のヒットを皮切りにベストセラーを次々と発表し、一躍、文壇の寵児に躍り出た。その一方でエイモスは金にうるさい映画女優と結婚してしまい、彼の本を扱う出版社の社長やエージェントは気が気ではない。そんななか出版社社長の自宅でパーティーが催されることになる。関係者が集うなか、余興のゲーム「幽霊の2/3」の最中に、エイモスが毒殺されるという事件が起こる……。
トリッキーなサスペンスものが著者の真骨頂。本作もメイントリックは意外と他愛ないし、構成もどちらかというとサスペンスタッチだけれども、物語を終始貫いている謎、つまりエイモスという男はいったい何者なのかという興味で、ぐいぐい引っ張ってゆく。最後に明かされる事件の真相も十分に意外なもので、こういう手があったかという新鮮な驚きを味わった。
また、サスペンスタッチとは書いたが、ここ数年で紹介された作品が証明しているとおり、本格マインドをけっこう備えているのも事実。特に終盤の「気づいた点リスト」などを見れば、著者がいかに伏線等に気を配っているかがわかる。
さらには出版業界の内幕物という側面すら仕掛けの一つとして機能させるテクニック。『幽霊の2/3』という絶妙なタイトルも含め、マクロイを語るときに忘れてはいけない一作といえるだろう。
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Comments
ポール・ブリッツさん
あれ、ネタバレとはほど遠いと思うんですけどねぇw
ま、それはともかくマクロイの面白さはやばいぐらいですね。意外な犯人とか驚くべきトリックとかとは全然違う、いわゆるミステリのコードを少し(決して大幅ではない)外してくるというテクニック、そこが素晴らしいですね。
Posted at 18:40 on 09 12, 2010 by sugata
ついに買って読みました。
これは面白い!
事件の様相が予想外の方向へ一変する第七章は興奮しました。
マクロイ、やるなあ……。
でも今、評を読み直して思ったのですが、sugataさんちょっとネタバレにも通じかねないぎりぎりのコメント書いてましたね(^^)
すっかりコメントの内容を忘れてマクロイを無事読み終えた今となっては、そのぎりぎりさがちょっと面白かったです。
「ころすものところされるもの」(平仮名なのはFC2の融通の利かない禁止ワードが……(泣))も読みたいですねえ~♪
Posted at 13:53 on 09 12, 2010 by ポール・ブリッツ
makiさん
いらっしゃいませ。マクロイ初体験が『幽霊の2/3』とは、これまた贅沢な話ですね。
基本的にはハズレのない作家だと思いますので、ぜひ楽しんで下さい。特に『ひとりで歩く女』や『家蠅とカナリア』はお見逃しなく。
Posted at 00:37 on 11 19, 2009 by sugata
これで初めてマクロイを読みました。面白いですね!
こちらを参照させていただいて、他の作品も読もうと思っています。
Posted at 19:47 on 11 18, 2009 by maki
ポール・ブリッツさん
いやあ、オリンピックに大雪、都知事選とビッグニュースが多いから、たぶん紛れるんではないでしょうか(笑) まあ、これ以上は止めておきましょう(^^;)
Posted at 00:20 on 02 11, 2014 by sugata