fc2ブログ

【Global Economy】(348) 子供とSNS、アメリカで模索…自殺やいじめ懸念で規制進む

アメリカで子供のSNS利用を規制する州が増えている。SNSの過度な利用が子供の自殺やいじめを引き起こしているとの懸念が背景にある。SNSの規制は言論の自由の侵害に繋がるとの見方もあり、差し止め訴訟も相次ぐ。SNSとどう向き合うべきか、手探りの状況が続いている。 (ニューヨーク支局 小林泰裕)



20240429 05
フロリダ州では先月25日、14歳未満の子供がSNSのアカウントを保有することを禁じる法案が成立した。14~15歳は保護者の同意が必要となる。SNS事業者に対しては利用者の年齢確認の徹底や、14歳未満のアカウントの削除を求め、違反した場合は1件あたり最大5万ドル(※約770万円)の民事罰を科す。多くのSNSでは利用年齢を13歳以上とする等、年齢制限を設ける。だが、実際には年齢を偽って利用する子供も多いとみられている。ロン・デサンティス州知事は、「SNSは様々な形で子供達に害を与えている。この法律により、親が子供を守る能力が強化される」と強調した。『全米州議会議員連盟』によると、昨年は全米の少なくとも12州で、子供のSNS利用に関する規制が導入された(※①)。今年は約30州で同様の法案が審議される見通しだ。訴訟も相次ぐ。アメリカの42の州・区の司法当局は昨年10月、『メタ』を相手取り、子供や若者の精神面に悪影響を与えたとして、一斉に提訴した。ニューヨーク市は今年2月、中国発の動画共有アプリ『TikTok』等の運営会社を提訴した。どちらの訴訟も、損害賠償や不適切なサービスの差し止め等を求めている。背景には、SNS依存による若者の心の健康への悪影響や自殺の増加が社会問題になっていることがある。

『全米疾病対策センター』の2020年の発表によると、2009~2018年の間にアメリカの14~18歳の若者の自殺率は10万人あたり6.0人から9.7人に6割増加した。アメリカの保健当局は昨年、1日3時間以上をSNSに費やす子供は、鬱病等心の健康の問題を抱えるリスクが2倍になると警鐘を鳴らした。2021年の調査では、10代の子供は1日平均3.5時間をSNSに費やしているという。アメリカの調査機関『ピューリサーチセンター』の昨年の調査によれば、アメリカの13~17歳のうち、インターネットを「ほぼ常に」使用と回答したのは46%に上った。2014~2015年調査の24%から倍増した(※②)。SNSの使用率は、『YouTube』が93%で最も多く、TikTokが63%で続いた(※③)。こうした状況を受け、大手SNS企業への風当たりが強まっている。今年1月には、メタ・『X』・『スナップ』・TikTok・『ディスコード』のSNS大手5社のCEOらがアメリカ議会上院司法委員会の公聴会に呼び出され、議員から厳しい追及を受けた。メタのマーク・ザッカーバーグCEOは、「全てのことを申し訳なく思う。皆さんの家族が苦しんだことは誰も経験するべきではない」と謝罪した。対策として、メタは『インスタグラム』と『フェイスブック』で10代の若者に対し、自傷行為や暴力、摂食障害に関する投稿へのアクセスを自動的に制限する仕組みを導入すると発表した。TikTokは18歳未満の利用者に対し、1日の利用時間を60分に制限する機能を導入すると発表した(※④)。尤も、SNS企業は売上高の大部分を広告収入が占める。メタは売上高の95%超、YouTubeを運営する『アルファベット』(※『グーグル』の親会社)も70%超が広告収入だ。フロリダ大学のアンドリュー・セラパク氏は、「SNS企業にとって、利用者を増やし、多額の広告収入を得る為には若年層の利用拡大が不可欠だ」と指摘し、「その為、SNS企業が打ち出している対策の多くは、只のPR活動に過ぎない」と批判する。

続きを読む

テーマ : 経済
ジャンル : 政治・経済

【記者発365】(83) ライオン像と戦前の政党物語

ライオン像と聞いて思い浮かぶのは、ライオンズマンションか百貨店の三越か――。実は、『三越』日本橋本店から地下鉄銀座線で5駅、虎ノ門駅近くにも由緒正しいライオン像があると知った。『桜田会』という財団法人の事務所入り口に鎮座する。戦前は、二大政党のひとつであった立憲民政党(※1927年結党)の本部玄関前に置かれていた。都心が春の暴風雨に見舞われた日の午前。学習院大学の井上寿一教授(67)と桜田会へお邪魔した。井上さんは桜田会編の共著『立憲民政党全史』を出したばかりだ。ライオン像の前で増田勝彦理事長(72)が迎えた。「桜田会は戦前、民政党のシンクタンクでした」。1934年設立。戦後に党本部の敷地やライオン像を継承した。今は研究者への助成等をしている。三越のライオンは座っているが、こちらは4本足ですっくと立つ。重さは約200㎏。それにしても、何故党本部前にライオン像が? 「浜口雄幸のあだ名は“ライオン宰相”ですよ」と井上さん。浜口(※1870-1931)は民政党の初代総裁で首相も務めた。大きな鼻や口髭が、確かにどこかライオンっぽい。この像は浜口の地元・高知の後援会が贈った。本紙に浜口とライオン像の並ぶ写真が残っている。説明書きは〈首相就任祝いに贈られた鋳像〉で〈1929年7月撮影〉。あれ? よく見ると、桜田会のものと形が違う。抑も、桜田会の像は1930年12月完成のセメント製だ。政治家関連の像に詳しい日本大学の高草木邦人准教授(47)によると、浜口と並ぶ写真の像は1929年落成の首相官邸(※現公邸)にあった。“鋳像”は誤りで信楽焼らしい。ともあれ、浜口はライオン像を2つも贈られていたわけか。当時、支持者の間で浜口にライオングッズを贈るのが流行ったという。新聞には、子供の描いた浜口の似顔絵や、お祭りで担がれている浜口の張りぼての写真も載った。果ては、民政党は閣僚のサイン入りブロマイドまで売った。今のアメリカ大統領選みたいな熱狂ぶり。何でこんなに盛り上がった?

井上さんは「大衆の政治参加が一気に進んだ時期だから」と読む。民政党結党2年前の1925年、男子普通選挙制導入で有権者は約300万人から約1200万人へ増えた。民政党は、公正な分配や教育の機会均等等新しい有権者を利する政策を掲げた。二大政党のもう一方、立憲政友会よりもリベラルだ。政策の宣伝映画やキャンペーンソングを作り、人気沸騰の宝塚歌劇も使おうとした。浜口内閣成立時は歌謡曲『東京行進曲』が大ヒット中。大都市圏で花開くモダンな大衆消費文化も背景に、デモクラシーの春がやって来た。春は一瞬で散る。民政党内閣は1931年12月まで僅か2年5ヵ月で終わった。1932年に5.15事件で政友会の犬養毅首相が暗殺され、政党内閣自体が終了。以後、政党が抑圧され軍部暴走、というのがよくある理解だと思う。けど、現実はもっと複雑だった。何しろ、桜田会は5.15事件より後に設立されている。「当時は、政党内閣の復活が真剣に議論されていました」と井上さん。政権を再び担う気が満々だったからこそ、シンクタンクも作った。1937年4月、戦前では最後となった総選挙で民政党は第一党を維持し、無産政党の社会大衆党が第三党に躍進した。井上さんは「国民は両党による穏健な改革を望んだのです」と強調する。だが3ヵ月後、日中戦争が始まると、世は一気に軍国モードへ。軍部は、農民や労働者らのフル動員で総力戦を展開する為、社会保障の拡充や市場経済の規制等“革新”的な政策をも進めようとする。民政党や社会大衆党等の政治家は、時に積極的に協力した。政党政治家は軍等出身の首相の内閣に入閣し続け、戦争を全否定もしなかった。これが当時の限界だった。実のところ、民政党には農民の困窮を自己責任と見下す向きさえあった。結局、存在意義を見失った政党は社会大衆党を皮切りに自ら解散し、大政翼賛会へ。民政党も1940年8月15日に解党した。ぴったり5年後、日本は戦争に負けた。有権者は嘗て、ライオン像に政党政治への夢を託した。政党はその夢に応えてきたか? 今はどうか? 像が問い続けている気もする。〈僕は、半分獅子に同感です〉(※著・宮沢賢治『猫の事務所』より)。 (オピニオン編集部専門記者 鈴木英生)


キャプチャ  2024年4月25日付掲載

テーマ : 歴史
ジャンル : 政治・経済

【WORLD VIEW】(107) アメリカに潜む内戦の危険性



アメリカは内戦に向かう危険性をはらんでいる――。今から2年前、カリフォルニア大学サンディエゴ校のバーバラ・ウォルター教授が著書『How Civil Wars Start(内戦はどう始まるのか)』で鳴らした警鐘だ。ウォルター氏は、CIAが主導して1994年に設置した『政治的不安定性タスクフォース』の元メンバーだ。世界各地の内戦を30年近く分析し、ある国がどういう条件になれば内戦になるのかを研究してきた。関係性が浮かび上がったのは、ある国がどれぐらい民主的か、どれぐらい専制的かを評価する指標『ポリティインデックス』だ。最も民主的をプラス10、最も専制的をマイナス10とする21段階。完全に民主的、或いは完全に専制的な国では内戦は殆ど起きない。一方、プラス5~マイナス5、つまり中間の国はアノクラシー(※部分的民主主義)と呼ばれ、内戦のリスクは専制国家の2倍、民主国家の3倍になるという。リスクを更に高める要因として、人々がリベラルか保守か、共産主義か否かといったイデオロギーではなく、民族や宗教、人種等のアイデンティティーに基づいて政治集団化するようになっているかどうか、を挙げた。アメリカは2016年以前はプラス10だったが、それ以降格下げが続き、2020年12月から2021年初頭にかけてアノクラシーに分類された。この時に起きたのが連邦議会襲撃事件だ。ドナルド・トランプ大統領(※当時)の支持者らが2021年1月6日に議会議事堂を襲撃して占拠し、警察官や暴徒計5人が死亡した。その後、アメリカはアノクラシーを脱し、直近はプラス8だ。しかし、ウォルター氏は昨年のインタビューで「容易に後戻りする」と語っている。

事件から3年以上経つが、人々は今も激しい対立や分断を目の当たりにしており、何かを契機に再び暴力が起き、内戦に行き着くのではないかという不安を持っている。先日公開された映画のタイトルは『Civil War(内戦)』。連邦政府から一部の州が離脱し、戦争となる映画だ。設定は現実離れしているが、“只のフィクション”として笑い飛ばされてはいない。不安を裏付けるデータには事欠かない。『公共宗教研究所』と『ブルッキングス研究所』が昨年公表した報告書では、「愛国者は国を守る為に暴力に訴えなければならないかもしれない」という意見に賛同する人は、回答者の4分の1近い23%に上った。議会襲撃事件を受けて2021年に尋ねた時は15%だった。別の調査では、政府に対する暴力行為が時と場合によっては「正当化される」と答えた人が、3人に1人を占めた。暴力を許容する世論の広がりを感じる。何が起きているのかを聞く為、テロリズムや反乱等に関する研究で第一人者のブルース・ホフマン博士を訪ねた。CIAでの勤務経験もあり、現在はシンクタンク『全米外交問題評議会』の上級研究員やジョージタウン大学外交大学院の教授を務めている。ホフマン氏は、「大統領選で誰が当選するかに関わらず、復讐か、弾圧か、根拠もなく『選挙が盗まれた』と争うことで引き起こされる暴力なのか、何らかの形の暴力が起きると、多くのアメリカ国民は予期している」と率直に語った。議会襲撃事件では1000人以上が訴追され、厳しい判決を受けている。にも拘わらず、政治的暴力を支持する風潮は収まっていない。ホフマン氏は、「前大統領や選挙で選ばれた議員がこうした極端な立場を代弁し、暴力を正当化したり、分断や偏向、憎悪等を当たり前のことのようにしたりしているからだ」と指摘する。

続きを読む

テーマ : アメリカお家事情
ジャンル : 政治・経済

【記者発365】(82) 派閥政治、名残の椅子

岸田文雄首相の突然の岸田派(※宏池会)の解散宣言から約3カ月。今月中旬に自民党本部近くにある宏池会事務所を久しぶりに訪れると、閑散とした事務所内では、6月頃の閉鎖に向けた作業が淡々と進んでいた。解散決定時の所属議員は46人。定例会合がある毎週木曜の昼になれば、集まってきた議員が空いている椅子に好き好きに座り、昼食を取ったものだ。誰が誰の近くに居て、どんな姿勢で岸田会長の話を聞くのか。担当記者が、派内の人間関係のちょっとした変化に気づける場でもあった。2020年9月、勢揃いした議員達の前で、岸田会長が椅子から立ち上がり、総裁選への初出馬を表明したのも、この場所だ。宏池会の営みと共にあった複数の椅子は、近く廃棄業者に引き渡される。聞けば処分費用もかかるという。「必要なら持っていっていいよ」。宏池会担当だった私としては歴史的価値を感じるし、いわゆる“もったいない精神”も発揮して、岸田氏が座っていた辺りの3脚を職場用に引き取らせてもらうことにした。池田勇人元首相が1957年に創設した宏池会。池田、大平正芳、鈴木善幸、宮沢喜一、岸田と5人の首相を輩出し、自民6派閥で最も古い派閥だったが、岸田首相の解散宣言を受けて、約67年の歴史に幕を下ろすことになる。嘗ては国政選挙が近づくと、事務所の壁一面に、各候補者の名前と今後3週間ほどの日付が手書きされた選挙応援スケジュール表が張り出された。いつ、誰が、どの候補者の地元に応援に入るかが一目でわかる一覧表だ。厳しい戦いが予想される候補者の欄には〈岸田文雄〉や〈林芳正〉等議員名が記された付箋が次々に貼られ、派閥を挙げての支援体制が組まれた。一覧表には“さぼっている議員”をあぶり出す効果もあり、派内での活動圧力になっていた。派閥は“カネと人事”だけではなく、選挙の互助システムでもあった。勿論、支援はただではない。“数は力”。応援に入った新人候補が当選すれば、派閥への入会を促して組織を大きくしていく。

それが自派が力を蓄え、“ボス”を総裁に押し上げる為の常道だった。だからこそ、複数の派閥が競い合うように、新人候補の元へ秘書軍団を送り込み、選挙の後は新人議員の争奪戦を繰り広げた。「あんなに応援してやったのに、アイツはうちに入ってこないんだよ」という派閥幹部の愚痴もよく聞いた。私欲も絡む権力闘争の側面は否定できないが、それが自民党の強さでもあったのは確かだ。今月28日投開票の衆議院3補選で、自民党が自前候補を擁立できたのは島根1区のみ。その島根でさえ苦戦が伝えられ、“全敗”の危機が囁かれるが、党内にはどこか白けたムードも漂う。政治資金パーティー裏金事件を受けた逆風の影響は当然あるが、派閥間競争がなくなり、選挙応援に力が入っていないのが要因の一つだろう。島根では、衆議院比例代表の中国ブロックの議員秘書で構成する秘書会がてこ入れを図るが、手探りの支援が続く。派閥の手足として幾つもの選挙応援に入り、辣腕を発揮したベテラン秘書は、「もう俺が生きていく世界じゃなくなったよ。古い人間になったということだ」と寂しげだ。尤も、派閥は問題が起きる度に解散を宣言し、何度も復活を繰り返してきた歴史がある。宏池会(※当時は宮沢派)も1994年にも解散を表明したが、翌年に政策集団『木曜研究会』として事実上、活動を再開した。茂木敏充幹事長をトップとする茂木派(※平成研究会)の前身も、金権政治で批判された派閥『経世会』が政策集団に生まれ変わった『平成政治研究会』だ。麻生太郎副総裁が率いる麻生派は政治団体を解散せず、政策集団に移行して活動を続ける。今回の派閥解散も推して知るべし、ということかもしれない。今秋には党総裁選が行なわれる。首相の座を事実上かけた党内最大の権力闘争が、“派閥復活”の土壌となることは想像に難くない。従来の派閥を禁止し、〈カネと人事からの完全な決別〉を謳った岸田首相の政治改革に対し、「派閥を率いる他の実力者の力を奪い、資金と人事権の独占を図った」との分析もある。宏池会の名残の椅子と共に、派閥の行く末に注目していきたい。 (政治部 飼手勇介)


キャプチャ  2024年4月23日付掲載

テーマ : 自民党の腐敗
ジャンル : 政治・経済

【坂東賢治の目】(25) 対立の“管理”に動く米中

アメリカのジョー・バイデン大統領が、動画投稿アプリ『TikTok』を運営する中国企業にアメリカ事業を最長360日以内に売却するよう求める法案に署名し、成立した。売却を拒否すれば、アプリ配信が禁止される。TikTok側は「言論の自由を保障した憲法違反だ」と提訴する意向だ。州レベルの同様の訴訟ではTikTok側が実質勝訴している。中国は「経済的いじめだ」と売却を許可しない方針だ。最終決着までには時間がかかるだろう。アメリカ政府や議会は「中国に情報が漏れる恐れがある」と政府職員らの使用を禁じ、ウクライナ支援等と一括した法律を成立させて、国民の“アプリ禁止”に踏み込んだ。だが、アメリカのZ世代が自ら選び取った人気アプリだ。アメリカ国内だけで1億7000万人のユーザーがいる。反発も少なくない。「オンライン上のプライバシー保護はゼロに等しい。SNS全体の問題でTikTok特有の問題ではない」「議員は中国恐怖症を政策の根拠にせず、幅広い研究者や専門家と話し合うべきだ」「安全保障と関係があるように装って、言論の自由を制限しようとしている」。米紙に掲載されたユーザーの意見だ。情報漏れも“恐れ”だけで直接の証拠はない。中国脅威論が高まる中、“坊主憎けりゃ袈裟まで憎い”と狙い撃ちにされた感もある。アメリカ市場から排除された中国通信大手『華為技術(ファーウェイ)』の第二弾というわけだ。対中強硬姿勢を示してきたドナルド・トランプ前大統領が「責任はバイデンにある」と距離を置くのは、若者の反応を考えた選挙戦略だろう。売却期限が当初の180日から延ばされたのも、大統領選を避ける為とみられている。大統領の署名と同じ日、アントニー・ブリンケン国務長官が上海入りし、26日に北京で王毅外務大臣(※共産党政治局員)と会談した。今月上旬のジャネット・イェレン財務長官に次ぐ重要閣僚の訪中だ。2日のバイデン氏と習近平国家主席の電話協議の合意が実行されたことになる。一昔前なら、TikTok禁止法の成立だけで対話が止まったかもしれない。岸田文雄首相の訪米で日米比首脳が会談し、南シナ海を支配下に置こうとする中国に対抗する連携拡大で合意したばかり。22日には国務省が新疆ウイグル自治区でのジェノサイドを批判する人権報告書を発表した。中国外務省報道官は「政治的デマとイデオロギー的偏見に満ちている」と批判したが、ブリンケン氏訪中には影響しなかった。

中国外務省は、王氏との会談に関する国内メディア向け事前説明で“歓迎”を表明した。その上で、①正しい理解の確立②対話の強化③相違点の効果的管理④互恵協力の促進⑤大国としての責任の共有――を五大目標に挙げたという。一方、アメリカ側はロシアの軍需産業への中国の支援を問題視し、制裁の可能性もちらつかせてきた。台湾や人権問題を含めて「懸念を明確且つ率直に提起する」(国務省高官)ことが優先課題だ。11月の大統領選に向け、トランプ氏と渡り合わなければならないバイデン氏は“強い大統領”を演じたい。だが、ウクライナとガザ情勢で手一杯だ。対中関係の不安定化を望んでいないのが本音だろう。習氏も不動産不況を始めとする国内経済の変調を抱え、国際関係の安定を志向している。“安定”の演出は米中首脳の共通の利益だ。2022年のナンシー・ペロシ下院議長(※当時)の訪台や、昨年2月に中国の気球がアメリカ上空を飛び、撃墜された事件、更には中国軍内の汚職事件の影響を受けて停滞していた米中両軍の対話も進み始めた。16日には、ロイド・オースティン国防長官と中国の董軍国防大臣が1年5ヵ月ぶりにテレビ電話で協議した。23日の中国海軍創設75年に合わせ、山東省青島で中国では10年ぶりの『西太平洋海軍シンポジウム』が開かれた。南シナ海で対立するフィリピンは欠席したが、アメリカからスティーブン・ケーラー太平洋艦隊司令官が参加した。米中共に対立を求めているわけではないと示したいのだろう。海上自衛隊の酒井良海上幕僚長は海自ヘリ事故で出席を取り止めた。昨年11月にアメリカで行なわれたバイデン・習会談では、二大国の競争を管理する必要性が確認された。対立の構図は変わりようがないが、対話を絶やさず、衝突を避ける狙いだ。一連の対話からは“競争の管理”が曲がりなりにも機能し始めているように見える。この間、ドイツのオラフ・ショルツ首相が訪中し、王氏はインドネシアやカンボジアを歴訪した。習氏は近く訪仏を予定し、5月にはロシアのウラジーミル・プーチン大統領が訪中する見通しだ。中国の全方位外交は、11月の大統領選でトランプ氏が復帰する“もしトラ”への備えでもある。覇権を争う米中に比べ、日中の対話は圧倒的に少ない。日米がグローバルパートナーでも利害が完全に一致するはずもない。日本にも、中国との関係を独自に“管理”する対話が不可欠である。


坂東賢治(ばんどう・けんじ) 本紙論説室特別編集委員。1957年、長崎県生まれ。東京外国語大学中国語科卒。秋田支局、政治部、香港支局長、中国総局長、ニューヨーク支局長、北米総局長、外信部長等を歴任。


キャプチャ  2024年4月27日付掲載

テーマ : 中国問題
ジャンル : 政治・経済

【あるガザ市民の日記】(07) この街を離れる時が来た

20240429 04
●11月8日
イスラエル軍の地上侵攻は続いている。だが、今日は勇気を出してガザ市を離れ、より空爆が激しい北部に行くことにした。ガザ市ではパン屋を見つけることができないからだ。空爆で道路が寸断されていて、タクシーは使えない。約1時間半歩き、漸く店に辿り着いた。何と、幸運なことに小麦粉があった。これで自宅でパンが作れる筈だ。喜んで帰り道を歩いていると、激しい異臭がする場所があった。何かと思って近づくと、そこにはごみの巨大な山があった。高さは約20m、そして長さは1㎞あるかもしれない。ガザのごみ処理場はイスラエルとの境界近くにあり、今は危険でとても近づけない。その為、多くの人が避難し、人口の減った北部の街中にごみ捨て場を造ったようだ。そして北部では、空爆で破壊された住宅の周辺等に落ちている紙や木材を拾っている人が多かった。ガスが使えない為、火を付ける薪の代わりにするのだ。今、この目で見ているのは、イスラエルによるガザ市民への“集団的懲罰”だと感じる。何故、ガザでは街がこれほど破壊され、罪のない市民が生活に苦しみ、通りで物を拾わないといけないのだろうか。再び1時間半かけて自宅に戻り、午後4時頃に家族と米だけの昼食を取った。もう、ガザにはお金持ちも貧民もいない。誰もが等しく、腹を空かせている。そして考えていることは、食料と水のことだけだ。今夜の空爆は昨夜に増して激しい。いつもは空爆が終わっていた夜明けになっても、爆撃音は強まるばかりだ。状況は更に危険になってきたかもしれない。絶望が心を支配し始めた。今日はこれ以上、文章を書くことができなそうだ。
●11月9日
イスラエル軍に指示されているガザ南部への避難を改めて考え始めた。これまで10月13~15日、27~29日の二度に亘って南部に避難したが、生活環境の悪さに耐えかねて、ガザ市に戻ってきた。だが、ガザ市の状況は日毎に、いや1時間毎に悪化している。我々は今日、妹の家から妻の両親の家に移った。ガザ市の中で、比較的被害が少ないとされるリマル地区にあるからだ。だが9日夜、標的になったのはこの地区だった。あまりにも激しい空爆が一晩中続き、朝が来るまで我慢できないほどだった。朝方、家の近くの通りを走って逃げる人達がいた。避難所として使われている国連の運営する学校が、遂に空爆されたという。ニュースでは、ガザ市で最も安全とされていたガザ最大のシファ病院からも、人々が避難し始めたと報じられている。もうここにとどまることはできない。ガザ市を離れる時が来たようだ。 (構成/エルサレム支局 三木幸治)


キャプチャ  2023年11月19日付掲載

テーマ : 中東問題
ジャンル : 政治・経済

【JRはどこへ】(番外編) 地域の為に走る企業に――唐池恒二氏(『JR九州』相談役)インタビュー

20240429 03
「鉄道が嫌い」と、ずっと言ってきた。その私が作ったのが『ななつ星in九州』だ。社内では「社長の道楽」と言われ、運輸部長だった古宮洋二・現社長にも「儲かりません」と反対された。大手旅行会社に説明しても「そんな高い列車に乗る人はいない」と酷評された。『JR九州』が発足して間もない頃、熊本県を走るSLの企画を任されたことがあった。当時は、昔の客車を再現するような、鉄道マニアに向けたアイデアが常道だった。私がターゲットにしたのは、普段はマイカーを使っていて、鉄道に殆ど乗らない家族連れだった。鉄道を使わない人達の心理を理解しなければ、顧客は増えないと考えたからだ。ななつ星も、いわゆる鉄道好きを狙った列車ではない。民営化直後、JR九州が「まだ見ぬお客さまに会いに行こう」とやり続けた延長線上にある。全ての路線が赤字だったから、目の前にいないお客を呼びこむ必要があった。JR九州の民営化後の経営は厳しく、石井幸孝・初代社長は「国鉄時代のやり方では会社が潰れるぞ」と言っていた。国鉄時代は管理職と現場の組合員が対立し、職場は荒れていた。JR九州になって直ぐ、小売り大手の『丸井』に修業に出された。初出社するとロッカーに花が飾ってあり、廊下を歩くと社員が皆、挨拶してくる。「これが民間会社か」と感動した。JRに戻ってから、挨拶だけでもと真似した。少しずつ職場が変わっていった。北海道、四国、九州のJR3社は“三島会社”と呼ばれ、本州3社と区別されていた。「本州だって島だろう」と腹が立ち、「見返してやる」という気持ちが仕事の原動力となった。株式上場を前にした国土交通省の調査で、ななつ星等を通じて、地域と一体となって盛り上げていることが評価された。業績を上げることは勿論必要だが、それだけでなく、地域の為に存在している企業ということが大事だ。嘗て多くのローカル線が敷設された時代は、公共交通の選択肢がほぼ鉄道しかなかった。これから20~30年後を考えると、鉄道の在り方を本気で考える時期に来ている。実は、地方のローカル線の赤字の絶対額は小さい。県庁所在地のような路線で、それなりに人が乗る為に廃止できない路線のほうが赤字額が大きい。路線を廃止してバスに転換するのは、地元への説明といった労力を含めて、物凄いコストがかかる。短期的にみたら寧ろ廃止しないほうがよい。其々の地域に適した交通は何なのか。20年、30年と将来を考えて、地元と共に議論していく必要がある。


キャプチャ  2023年6月1日付掲載

テーマ : 鉄道関連のニュース
ジャンル : ニュース

【永田町LIVE】(16) “派閥丸抱え”改め“地域単位”…裏金事件余波、自民党の秘書団は機能するか

明後日投開票の衆議院3補欠選挙で、自民党が選挙戦術の転換を余儀なくされている。政治資金パーティー裏金事件の余波で、派閥が候補を全面支援する選挙戦を展開できなくなった為だ。唯一の与野党対決となり、岸田文雄政権の命運をも左右する島根1区で、自民はある作戦に乗り出した。カギになるのは秘書団の動向だ。 (取材・文/政治部 竹内望・野間口陽・遠藤修平)

20240429 02
「政治資金の問題で大変な政治不信を招いております。心からお詫びします」――。補選が告示された今月16日、自民の小渕優子選対委員長は島根1区から立候補した自民新人の出陣式に駆け付け、深々と頭を下げた。自民は東京15区、長崎3区で候補の擁立を見送り、既に“2敗”が確定。立憲民主党元職との一騎打ちとなった島根1区は、絶対に譲れない議席だ。島根は保守王国として知られ、竹下登元首相や“参議院のドン”と呼ばれた青木幹雄元参議院議員会長(※何れも故人)らが強固な地盤を築いてきた。松江市等を含む島根1区では、小選挙区比例代表並立制が導入された1996年以降、細田博之前衆議院議長が9回連続で当選した。ところが、今回は全く様相が異なる。昨年11月に死去した細田氏は晩年、『世界平和統一家庭連合』(※旧統一教会)との関係やセクハラ疑惑で批判を浴びた。更に、会長を務めた安倍派(※当時は細田派)で6億円を超える政治資金収支報告書の不記載が発覚。細田氏の後継候補となる自民新人の支援体制が揺らいでいるのだ。「選挙は先ず、派閥でやるものだ」。党関係者がそう語るように、派閥は政策の議論だけでなく、ポストやカネの配分、そして所属議員への選挙支援等を活動の柱に据えてきた。選挙時には経験豊富な派閥の秘書団が陣営の選対に入り、選挙活動を取り仕切る。派閥幹部も連日、選挙区に入り、応援演説や企業・団体回り等でてこ入れを図る。

派閥が支援した候補者が当選すれば派閥の勢力維持や拡大に繋がり、支援を受けた議員は派閥に忠誠を尽くす。嘗て政界の“闇将軍”と呼ばれた田中角栄元首相(※故人)は最盛期、田中派に議員141人、秘書約1000人を擁し、“田中軍団”と呼ばれた。1985年に脳梗塞で倒れて入院し、翌年の衆院選には病床から臨んだ。本人は一度も姿を見せなかったが、秘書団や傘下の議員らが選挙区を奔走してトップ当選を果たしたことは、今も語り草になっている。こうした“派閥丸抱え”の構図は党内に脈々と引き継がれてきたが、裏金事件で状況は一変した。岸田首相は今年1月、自ら岸田派の解散を電撃的に発表。それが呼び水となり、安倍派、二階派、森山派も解散を決定した。茂木派は政策グループとして存続するものの、政治団体の届け出を取り下げることを決めた。存続を明言しているのは麻生派だけだ。更に、自民が政治改革に向けて発表した中間取り纏めでは、派閥によるポストとカネの配分から決別すると明記。選挙支援には多額の資金が必要な為、従来通りの“派閥型”選挙は一層困難になっている。自民は島根1区で細田氏の後継として新人候補を擁立しただけに、本来なら安倍派(※清和政策研究会)が選挙を取り仕切る筈だったが、同派のあるベテラン議員は明かす。「こうなっちゃって、清和は全く動けなくなった。本当は秘書会を動員したり、派閥のカネを使って地上戦を展開する筈なんだけど、それができなくなった。外から見ているだけだけど、全く力を入れていないね」。では、今回はどう対応するのか。自民は島根1区に派閥の秘書団ではなく、中国ブロックの衆参議員の秘書を派遣する作戦を初めて採用した。派閥単位から地域単位へ――。派閥解消に伴う苦肉の策だが、指揮系統が確立している派閥と違って、調整は難航している。党関係者によると、派遣にあたって秘書団の纏め役がおらず、嘗て岸田首相が率いた岸田派に所属する議員事務所のスタッフが、秘書の動員を要請して回ったという。ただ、党内からはこんな懸念の声も上がる。「これまでのやり方は派閥にとって(勢力が増えるという)インセンティブがあった。地域単位だと、選挙支援に尽力して議員が当選してもメリットが薄く、活発な支援が期待できるかわからない」。


キャプチャ  2024年4月26日付掲載

テーマ : 政治のニュース
ジャンル : ニュース

【永田町LIVE】(15) “カネ”呪縛、派閥解散ゼロ…「総裁選が近づけば再結集も」、野党は“偽装”批判

岸田文雄首相が岸田派(※宏池会)の解散検討を宣言してから3ヵ月余りが経過した。これまでに、自民党6派閥のうち麻生派を除く、岸田、二階、安倍、森山、茂木の5派閥が政治団体の解散を決定したが、正式に解散手続きをした派閥はゼロだ。表立った活動は停止したが、派閥の再結集の“核”は残り続ける状況に、野党は「偽装解散だ」との批判を強めている。何故、各派閥は政治団体の解散に踏み切らないのか? (取材・文/政治部 野間口陽・遠藤修平・高橋祐貴)

20240429 01
派閥解散の先陣を切る形になった岸田派は、自民党本部近くにある派閥事務所の閉鎖に向けて、事務所の備品の処理等を進めている。だが、賃貸物件の事務所は退去に“6ヵ月前の通知”が必要。実際の閉鎖は6月以降となる見込みだ。閉鎖に向けて、派閥幹部が役員会や“密談”の場として使っていた小会議室を取り壊す等、“原状回復”に向けた改装工事も進める予定だ。政治団体『宏池政策研究会』の解散には、解散届の提出と共に、今年分の政治資金収支報告書の提出が必要となる。宏池会事務局は、「改装等事務所閉鎖にかかった費用も含めて収支報告書に記載し、提出しなければならない。ある程度、時間がかかるのは仕方がない」と理解を求める。更なる理由もある。解散の遅れには、政治団体の“残金”の処分方法が決まっていないという事情も影響している。宏池政策研究会の公開済みの収支報告書によると、2022年末の繰越額は7833万円。参議院予算委員会で立憲民主党の辻元清美氏から“派閥の財産処理”を問われた岸田首相は、「様々な議論がある。適切に政治団体として判断する」と躱したが、辻元氏は「偽装解散だ。お金をどうするかだ。口だけで解散すると言ってもだめだ」と畳みかけた。裏金事件の震源地となった安倍派では清算管理委員会を設置し、派閥の残務処理を進めている。6月で派閥事務所は閉鎖する方針だが、正式な解散時期は未定のままだ。2022年時点の繰越額が1億6199万円にも上る“派閥のカネ”について、残額や処理方法が確定していない為だ。今後、安倍派では立件された事務局長の裁判が控えており、裁判費用を派閥として支出することも想定される。どれだけのお金が残ったかが確定するには、未だ時間がかかる状況だ。2月1日に開催した派閥最後の総会では、残った財産について「仮に残った場合は公的機関に寄付等をする」ことで纏まったものの、具体的な寄付先は決まっていない。派閥関係者からは「解散は来年になるだろう」との声も漏れる。二階派も事情は同じで、派閥関係者は「残ったカネをどうするかだ」と頭を悩ませている。2022年の繰越額は1億7056万円。派閥事務所の賃料や事務員の人件費、裁判費用等を差し引いた残高については、所属議員で「山分けすればいい」との案も上がるが、意見集約はこれからだ。自民派閥には解散と復活を繰り返してきた歴史がある。自民の金権政治への批判が高まった1994年にも、当時の宮沢派(※宏池会)、小渕派(※平成政治研究会)、三塚派(※清和会)等5派閥が解散を宣言したが、翌1995年の党総裁選で派閥化の流れが強まり、結果的に復活した。党総裁選は今年9月にも実施されるだけに、「曖昧な形にしつつ、総裁選が近づけば再結集という形をとるのではないか」(党ベテラン)との観測は消えない。残務処理の多さを理由に、総裁選の動きが本格化するのを待っているようにも映る。ある派閥の関係者は、「清算団体を別に作って、残高をプールしておけばいい。派閥を解散しても、どうせまた人は集まる。そういう時が必ず来る」と語った。


キャプチャ  2024年4月23日付掲載

テーマ : 政治のニュース
ジャンル : ニュース

【WEEKEND PLUS】(486) 新滑走路に対空ミサイル、レーダー拠点まで!? “永世中立国”カンボジアの港湾都市が中国軍基地化していた!

南シナ海に面する中立国カンボジアの港湾都市が、東南アジア広域の高速鉄道計画や運河計画、そして現地のリゾート開発と並行して、中国軍の軍事拠点と化しつつある。その最前線をフォトジャーナリストの柿谷哲也が迫真リポート!




20240426 07
19世紀後半から20世紀初頭の1910年代にかけて、アメリカは国内の大陸横断鉄道、そしてアメリカ大陸初の横断水路である『パナマ運河』を完成させた。これにより、軍事的・経済的に太平洋、大西洋双方向へのアメリカのプレゼンスは飛躍的に増大し、世界帝国への礎となった。近年、太平洋を挟んでアメリカと対峙し、超大国への野望を隠さない中国は、どうやらこの歴史を分析し、模倣しているようだ。東アジアから南アジアで進めている、経済面と軍事面を複合的に織り交ぜた“南下作戦”は、アメリカが嘗てやってきたことと実によく似ている。2021年12月、中国は雲南省昆明市からラオス国内を縦断し、タイ国境に接する首都ビエンチャンまでの高速鉄道を開通させた。2027年にはタイの首都バンコクからナコンラチャシマ、マレーシアのコタバルからクラン港の区間も完成する予定で、将来的にはこの高速鉄道網をマレー半島南端のシンガポールまで繋ぐ計画がある。なお、対岸のインドネシア・ジャワ島では、既に首都ジャカルタからバンドンまでの高速鉄道も営業している。最終的にはマラッカ海峡に海底トンネルを建設し、中国からインドネシアまで完全陸路で大量の兵員を輸送できる体制の構築を目指す筈だ。更に、マレー半島を東西に横断する全長102㎞、幅400m、平均水深25mの『クラ運河』の建設計画もあり、総工費は280億ドル(※約4兆2000億円)、中国の技術なら5年で完成すると見積もられている。中国の立場からすると、この運河が開通すれば、アメリカ軍の影響力が強いマラッカ海峡を通らずに、インド洋と南シナ海を行き来できるようになる。

20240426 08
前置きが長くなったが、本題はここからだ。クラ運河構想の東の出口、タイランド湾の制海権を握ることを目指す中国が、湾の東側で進めている“南下作戦”の最前線――それが、今回筆者が訪れたカンボジア南端の港湾都市、シアヌークビルだ。シアヌークビルでは2016年に中国資本の本格進出が始まり、カジノ付きホテルが多数建設された。2020年には一大海洋リゾート計画がぶち上げられ、山ひとつ分の土地が確保され、建設が始まっている(※①)。実は、これは中国が軍事目的を隠して計画を進める際の典型的な“最初の一手”だ。1998年にウクライナから旧ソビエト連邦製空母『ワリャーグ』のスクラップを購入した際も、当初は「船体のみを使用して海上カジノリゾートに改造する」と説明していたが、結局、2011年にはこれが中国海軍初の空母『遼寧』として生まれ変わっている。また、山東省青島や広東省海南島に空母基地を建設する際も、先ずリゾート開発が先行し、その流れで空港が拡張されて軍用機の運用に使える3000m級の滑走路ができ、港湾の桟橋も増設され――という手順だった。筆者がシアヌークビルを訪れるのは2020年以来だ。当時は首都プノンペンからバスで6時間ほどかかったが、その後、コロナ禍にも拘わらず中国資本により高速道路が整備され、今回は約2時間で到着した。なお今回、筆者はシアヌークビル国際空港を利用しなかったが、現在は当時2400mだった滑走路が3300mに延長されている。地方の空港には明らかにオーバースペックだが、この長さなら中国海・空軍の各種戦闘機や、大型のY-20輸送機も運用できる。また、滑走路の横には広大なエプロン(※駐機スペース)も整備されていた。カンボジアには雨季があるので、何れ屋根付きの整備用格納庫が造られるだろう。

続きを読む

テーマ : 中朝韓ニュース
ジャンル : ニュース

轮廓

George Clooney

Author:George Clooney

最新文章
档案
分类
计数器
排名

FC2Blog Ranking

广告
搜索
RSS链接
链接