【誰の味方でもありません】(53) シェアハウス今昔
10年程前から、若者たちの新しい居住形態としてシェアハウスが注目されている。正確にいえば、昭和の木賃アパート等、若者の共同生活は昔から存在した。1968年の建設省調査によると、共同住宅の内、専用風呂付きは5%、専用トイレ付きは22%しか存在しなかったという。つまり、多くの若者はシェアを当たり前にしていたのだ。状況が変わったのは、1980年代のワンルームマンションブームから。“財テク”ブームの折り、手軽な不動産投資の対象としてワンルームは最適だった。生まれた時から個室が当たり前になった世代からもワンルームは好まれた。しかし、都心の一人暮らしは窮屈なのに高価だ。そこで脚光を浴びたのがシェアハウスだった。リビングやバスルームを共有する生活ならば、同じ家賃でもっとレベルの高い場所に住めるという訳だ。意識の高い人々も、この流行を煽った。「多様な人々が一緒に住むことで生まれる繋がりが、個人の生活を豊かにするばかりではなく、新しいビジネスアイディアが生まれる」といった具合だ。そういえば、“シェア”や“ノマド”といった価値観を高らかに謳い上げる安藤美冬さんっていたな…。しかし、実際のシェアハウスはそれほど素敵なものではなかった。2014年に国土交通省が発表した調査によると、居住者がシェアを選んだ最大の理由は「家賃が安いから」。そこに「立地が良い」「即入居が可能」と続く。
「コンセプトが気に入った」「イベント等が楽しそう」と答えた人は1割程度に過ぎない。特に、窓の無い狭小ハウスに住む人の約半数は、月収が15万円以下だった。リベラル風に言えば、シェアハウスは貧困の温床だったのだ。しかし、そのシェアハウスも減少傾向にあるという。この数年で都心の景気が回復し、住宅事情も改善したからだ。結局、多くの人は好んで知らない人となんて住みたくなかった訳である。それでもシェアハウスには一定の需要はあり続けるだろう。旧来の常識では、「シェアは若者だけがするもので、結婚や育児を契機に独立していく人が多い」と考えられていた。だが、僕の周りには、子供を産んでもシェアハウスに住み続ける人が一定数いる。ワンオペ育児が問題になる昨今、子育てには寧ろ良い環境だという。そこでの住人は“新しい親戚”のようなイメージだ。友人は、家族と違って何ら法的に保証される関係ではない。友だちには婚姻届もパートナーシップ証明書も必要ない代わりに、気が合わなくなったらそれまでだ。しかし、友人関係とは得てして複数同時に結ばれるもの。初めは1対1で仲良くなっても、次第に双方がその友人を紹介していくからだ。つまり、誰か友人と別れようと思ったら、そのコミュニティーごと切り捨てる必要がある。しかし、それは時に親と絶縁するよりも難しい。シェアハウスに住まなくても、うっかりすると友人関係は親戚のようになってしまうのだ。
古市憲寿(ふるいち・のりとし) 社会学者。1985年、東京都生まれ。東京大学大学院博士課程在籍。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)。著書に『希望難民ご一行様 ピースボートと“承認の共同体”幻想』(光文社新書)・『絶望の国の幸福な若者たち』『誰も戦争を教えてくれなかった』(共に講談社)等。近著に『大田舎・東京 都バスから見つけた日本』(文藝春秋)。
2018年5月31日号掲載
「コンセプトが気に入った」「イベント等が楽しそう」と答えた人は1割程度に過ぎない。特に、窓の無い狭小ハウスに住む人の約半数は、月収が15万円以下だった。リベラル風に言えば、シェアハウスは貧困の温床だったのだ。しかし、そのシェアハウスも減少傾向にあるという。この数年で都心の景気が回復し、住宅事情も改善したからだ。結局、多くの人は好んで知らない人となんて住みたくなかった訳である。それでもシェアハウスには一定の需要はあり続けるだろう。旧来の常識では、「シェアは若者だけがするもので、結婚や育児を契機に独立していく人が多い」と考えられていた。だが、僕の周りには、子供を産んでもシェアハウスに住み続ける人が一定数いる。ワンオペ育児が問題になる昨今、子育てには寧ろ良い環境だという。そこでの住人は“新しい親戚”のようなイメージだ。友人は、家族と違って何ら法的に保証される関係ではない。友だちには婚姻届もパートナーシップ証明書も必要ない代わりに、気が合わなくなったらそれまでだ。しかし、友人関係とは得てして複数同時に結ばれるもの。初めは1対1で仲良くなっても、次第に双方がその友人を紹介していくからだ。つまり、誰か友人と別れようと思ったら、そのコミュニティーごと切り捨てる必要がある。しかし、それは時に親と絶縁するよりも難しい。シェアハウスに住まなくても、うっかりすると友人関係は親戚のようになってしまうのだ。
古市憲寿(ふるいち・のりとし) 社会学者。1985年、東京都生まれ。東京大学大学院博士課程在籍。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)。著書に『希望難民ご一行様 ピースボートと“承認の共同体”幻想』(光文社新書)・『絶望の国の幸福な若者たち』『誰も戦争を教えてくれなかった』(共に講談社)等。近著に『大田舎・東京 都バスから見つけた日本』(文藝春秋)。

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