【誰の味方でもありません】(90) 流行するオンラインサロンの宗教性
あるベンチャー企業の話だ(※一応、架空ということにしておく)。創業当初、人手もお金もなかったので、大学生をアルバイトで安く雇うことにした。更に、事業が拡大しそうになったので、今度はアルバイトをインターンと名前を変え、タダ働きをさせることにした。すると不思議なことに、お金を払っていた時よりも熱心な学生が集まって来る。ここで経営者は更に一計を案じた。インターンではなく“教室”ということにして、集まってきた人から授業料を取って仕事を任せてみたのだ。結果は大成功だった。お願いしている仕事自体は、アルバイト時代と教室時代で大して変わっていない。しかし、教室の場合、皆が何かを得ようと熱心だし、仕事を義務だと思わずに、自己研鑽の一過程だと信じてくれる。結果、お金を払って頼んでいたことが、逆にお金を生む収益源になってしまったのだ。この事例は極端だが、お金を払った時のほうが熱意を持って物事に取り組めるというのは、誰にでも心当たりがあるのではないだろうか。例えば、最近流行のオンラインサロン。有名人が主宰者となり、支援者から月謝を集め、様々な交流をする集まりのことだ。ホリエモン等の人気サロンは、月に1000万円以上の収益を上げている。
中には、仕事にしか見えないことに、メンバーが嬉々として取り組んでいるサロンもある。イベントの準備をしたり、文字起こしをしたり、主宰者の鞄持ちになったり。当人が満足しているのだから、他人が口を挟むことは何もない。ただ、その様子は新興宗教に似ている。同じ価値観を持った人が集まり、教祖や教団の為に尽くそうとする。信者は新たな信者集めに奔走したり、他宗教を罵ったりする。勿論、宗教を持つのは悪いことではない。日本では『オウム真理教』事件以降、宗教に対するアレルギーが強くなったが、この国の人々から信仰心が消えたわけではない。世論調査を見てみると、特定の宗教を信じる人は減っているが、あの世の存在、奇跡、お守り、お札の力等、“宗教的なもの”を信じる人の割合は増加傾向にある。実際、21世紀に入るとスピリチュアルブームが起こり、パワースポットも話題になった。しまいにはどこでもパワースポットということになり、原発事故前にはある脚本家が原子炉格納容器の上に立ち、「まさにウランの核分裂が起きているというものすごいパワースポット!」と叫ぶ有り様だった(※『婦人公論』2009年8月22日号)。人々が一切の宗教と無縁で暮らすことは難しい。合理的思考だけで生きていけるほど強い人は中々いない。そこに登場したのが新興宗教であり、スピリチュアルであり、オンラインサロンなのだろう。しかし、教祖もまた人間。彼や彼女が不安になった時はどうするのか? 教祖だけが入れる宗教、儲かりそうである。
古市憲寿(ふるいち・のりとし) 社会学者。1985年、東京都生まれ。東京大学大学院博士課程在籍。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)。著書に『希望難民ご一行様 ピースボートと“承認の共同体”幻想』(光文社新書)・『絶望の国の幸福な若者たち』『誰も戦争を教えてくれなかった』(共に講談社)・『大田舎・東京 都バスから見つけた日本』(文藝春秋)等。
2019年2月28日号掲載
中には、仕事にしか見えないことに、メンバーが嬉々として取り組んでいるサロンもある。イベントの準備をしたり、文字起こしをしたり、主宰者の鞄持ちになったり。当人が満足しているのだから、他人が口を挟むことは何もない。ただ、その様子は新興宗教に似ている。同じ価値観を持った人が集まり、教祖や教団の為に尽くそうとする。信者は新たな信者集めに奔走したり、他宗教を罵ったりする。勿論、宗教を持つのは悪いことではない。日本では『オウム真理教』事件以降、宗教に対するアレルギーが強くなったが、この国の人々から信仰心が消えたわけではない。世論調査を見てみると、特定の宗教を信じる人は減っているが、あの世の存在、奇跡、お守り、お札の力等、“宗教的なもの”を信じる人の割合は増加傾向にある。実際、21世紀に入るとスピリチュアルブームが起こり、パワースポットも話題になった。しまいにはどこでもパワースポットということになり、原発事故前にはある脚本家が原子炉格納容器の上に立ち、「まさにウランの核分裂が起きているというものすごいパワースポット!」と叫ぶ有り様だった(※『婦人公論』2009年8月22日号)。人々が一切の宗教と無縁で暮らすことは難しい。合理的思考だけで生きていけるほど強い人は中々いない。そこに登場したのが新興宗教であり、スピリチュアルであり、オンラインサロンなのだろう。しかし、教祖もまた人間。彼や彼女が不安になった時はどうするのか? 教祖だけが入れる宗教、儲かりそうである。
古市憲寿(ふるいち・のりとし) 社会学者。1985年、東京都生まれ。東京大学大学院博士課程在籍。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)。著書に『希望難民ご一行様 ピースボートと“承認の共同体”幻想』(光文社新書)・『絶望の国の幸福な若者たち』『誰も戦争を教えてくれなかった』(共に講談社)・『大田舎・東京 都バスから見つけた日本』(文藝春秋)等。
2019年2月28日号掲載
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