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【人が集まる街・逃げる街】(150) 埼玉県さいたま市浦和地区…自然や公共施設が充実した住みよい街

浦和に住む知人が数人いるが、彼らはどこに住んでいるかを聞かれると、皆やや誇らしげに「はい、浦和です!」と答える。浦和市は嘗て埼玉県の県庁所在地だったが、2001年に平成の大合併で旧大宮市や与野市と共にさいたま市となり、現在では浦和区等になっている。埼玉県外の人間からすれば、浦和と大宮には大きな違いなどないようにも思えるが、浦和在住の多くの人が「大宮ではなく浦和です」と胸を張るのだ。それだけ惹きつけられるものがあるのだろう。浦和は、江戸時代には中山道の浦和宿として栄えた。地域の殆どが大宮台地上にあって地盤が安定しており、明治以降は別荘地としても評価が高かった。多くの人が押し寄せるきっかけとなったのは、1923年の関東大震災だと言われる。難を逃れた人々が東京や横浜からやって来て、この頃から人口が増加し始める。移住の理由には、安定した地盤に加え、東京へのアクセスの良さ、下水道整備率の高さ、教育環境の充実が挙げられた。また、現在の南区にある自然豊かで美しい別所沼近辺には、多くの画家が集結。神奈川県鎌倉市と並んで、画家の街と言われるようにもなったという。浦和の住み心地はどうだろうか。『SUUMO』が発表した『住みたい街ランキング2020』の関東版で、浦和は10位。同じ埼玉県の街では大宮が4位なので、県下では2番目の人気ということになる。大宮は大規模商業施設等が集積し、住むというよりも買い物や遊びのイメージが強い。

一方の浦和では、駅から降り立つと、街全体に気品と余裕が漂っているようにも感じる。浦和駅周辺には『伊勢丹』浦和店を始め、『浦和コルソ』や『浦和パルコ』等の商業施設がある。西口の側には県庁や市役所等行政機関が整然と並び、『埼玉県立近代美術館』等緑豊かな環境も用意されている。東口の側には『浦和駒場体育館』や、サッカーで有名な『浦和駒場スタジアム』、『さいたま市営浦和球場』等のスポーツ施設が豊富に整備されている。住宅地としての評価は地価にも表れ、浦和区内住宅地の平均地価は今年の公示価格で35万2000円/㎡と、さいたま市内屈指の高水準だ。とりわけ住宅地の最高地価上位5地区の内、4地区が高砂、岸町、前地等浦和区内の住宅地で、最高価格の高砂2丁目は97万9000円/㎡にもなる。2015年には上野東京ラインが開通、宇都宮線・高崎線で東京駅まで直通25~30分程度となったこともあり、浦和駅周辺の高層マンション建設は多い。新築マンションの分譲価格は坪当たり400万円前後にまで高騰している。駅西口南高砂地区では、市街地再開発事業の一環として、地上27階建てのタワーマンションの建設も発表された。1階から4階は商業施設や公共施設、5階から上は『野村不動産』や『三菱地所レジデンス』等によって約530戸の住宅が分譲される予定だ。豊かな環境に恵まれ、充実した公共・商業施設を擁する浦和は、これからもその地位を高めていきそうだ。テレワーク時代を迎え、新たに“働く”為の機能を備えた時、この街の評価は更に高まっていくだろう。


牧野知弘(まきの・ともひろ) 不動産事業プロデューサー。1959年、アメリカ合衆国生まれ。東京大学経済学部卒。『第一勧業銀行』(※現在の『みずほ銀行』)や『ボストンコンサルティンググループ』を経て、1989年に『三井不動産』に入社。『三井不動産ホテルマネジメント』に出向した後、2006年に『日本コマーシャル投資法人』執行役員に就任し、J-REET(不動産投資信託)市場に上場。2009年に『株式会社オフィス・牧野』、及び『オラガHSC株式会社』を設立し、代表取締役に就任。2015年に『オラガ総研株式会社』を設立し、代表取締役に就任。著書に『なぜビジネスホテルは、一泊四千円でやっていけるのか』(祥伝社新書)・『2020年マンション大崩壊』(文春新書)等。


キャプチャ  2020年11月28日号掲載

テーマ : 住宅・不動産
ジャンル : ライフ

【劇場漫才師の流儀】(155) M-1グランプリの審査

男の涙に負けましたね。何の話かというと、今年も『M-1グランプリ』(朝日放送・テレビ朝日系)の審査員のオファーを受けることにしました。あちこちで言っていたように、今年はもうやらないと決めていたんです。ところが、M-1のプロデューサーが何遍も僕のところへ来はったんですよ。「いつものお願いで申し訳ないのですが…」と劇場に来られたり、テレビ局の楽屋に来はったり。4~5回は来たんちゃうかな。その度に「出ぇへんから、もう来んといて!」と帰ってもらっていたんです。でも、何回も来てもらうのも心苦しいので、つい「わかった、行くから」とポロッと言うてしまったんです。そうしたら涙を流しながら頭を下げて「ありがとうございます…」って。そうなったらもう「冗談や」とは言えんようになって。断られても何度でも通うっていうのは大事やなと思いました。思えば昔、「弟子にして下さい!」って僕のところに何遍も来た子がいましたし、雨の中、劇場の前で土下座されたこともあった。こちらも人間ですから、気持ちが動くやないですか。僕が審査員を辞めようと思った理由は色々とあるんですが、一番大きかったのは「僕でええのかな?」ということなんです。今年で69歳ですよ。常に「ちゃんと漫才を見ることができているのかな?」という不安があるわけです。

先日も『ytv漫才新人賞』の審査員を務めてきたのですが、家で録画を見直すと、現場で見た時と評価が変わってしまうことがあるんです。どちらかというと、「あれっ、このコンビ、こんなにおもろかったか?」となることのほうが多い。恐らく、家では審査員としての目で見ていないから、素直に面白がれるんだと思います。となると、「審査って何なんやろ?」と思ってしまったり。言うまでもなく、皆、M-1に懸けています。それに応える審査をしようとなると、本当にめっちゃ疲れるんです。ただ去年、審査が楽しいと思った瞬間がありました。『ミルクボーイ』が評判通りの力を発揮して大ウケした時です。「お客さんも2人の漫才をわかってくれているやん、やりよったな」と。一先輩として「未だ大阪にはこんな漫才師がいてんねんで」と嬉しかったし、誇らしかった。あの瞬間、 ちょっとですけど「審査員を辞めるなんて言わなければよかったな」って思ったんです。「今年もまたミルクボーイのようなコンビが出てくるかもしれない。そう思ったらとても幸せな仕事なんじゃないかな」と思えてきて。僕の家の玄関には、尊敬する夢路いとし・喜味こいし先生が「一生漫才たのむで!」と認めてくれた色紙が飾ってあります。その言葉に応えられるかどうかはわかりませんが、僕なりに、今年も全力で審査員を務めさせて頂きます!


オール巨人(おーる・きょじん) 漫才コンビ『オール阪神・巨人』のボケ担当。1951年、大阪府生まれ。大阪商業高校卒業後、1974年7月に『吉本新喜劇』の岡八朗に弟子入り。翌1975年4月に素人演芸番組の常連だったオール阪神とコンビを結成。正統派漫才師として不動の地位を保つ。著書に『師弟 吉本新喜劇・岡八朗師匠と歩んだ31年』・『さいなら!C型肝炎 漫才師として舞台に立ちながら、治療に挑んだ500日の記録』(共にワニブックス)。


キャプチャ  2020年12月7日号掲載

テーマ : お笑い芸人
ジャンル : お笑い

【山根明のノックアウト人生相談】(91) 孫に好かれるお爺ちゃんになって本人に言い聞かせるのが一番や

Q. 息子の嫁が3歳の孫に、スマートフォンで動画ばかり見せているのが気になります。孫は食事中もスマホの画面に夢中で、しょっちゅう食べこぼししています。画面にかなり近付いて見ているので、視力が落ちるのも心配です。「大人しくなるから」と動画を見せているそうですが、せめて食事中くらいは止めたほうが行儀もいいのではと思います。とはいえ、注意したら角が立ちそうで言えません。このまま黙っておくべきでしょうか? (茨城県・65歳・嘱託職員)

A. 私自身、孫も曾孫もいてますから、この話は非常にわかります。「スマートフォンで動画ばかり見せているのが気になります」って書いていますけど、その通りですよね。私自身も、この場にいたら、やっぱり気になります。やっぱり食事の時は食事をさせると。こういう癖がついたら、例えば食事にでも呼ばれて、他人様のところに行った時にも、食事せずにスマホをいじって、ジーッとしとったりね。なんぼ子供であっても、お爺ちゃんが気になるのに、他人様が気にならんことないからね。お爺ちゃんが孫に対して愛情があるから、こう いう相談をしていると思いますけどね。ただ嫁の場合ね、実の両親からは、無茶苦茶なこと言われても辛抱するんですけど。主人の両親から何か言われた場合、ちょっとでも気に障る表現をしたら、息子と嫁の2人の間は仲が良くても、お爺ちゃんによって、夫婦関係がおかしくなることもあります。これ、孫だけの問題じゃない。だから何か言うんやったら、自分の息子になら、ちょっと言ってもええけどね。できる限り、嫁には遠慮したほうがええ。僕は若い時分はね、孫の好きな食べ物、カレーライスとかね、色々と手料理を作って、孫に食べさせたりしました。そういう風に、普段から接触がある場合はね、色んなことを自然に言えるんですよ。若し孫がね、ダメなことをしていたら、「あっ、〇〇ちゃん、それダメだな~」とか、自然に言ってあげることができるわけ。孫を膝の上に乗せて、話しかけたりしとったら、嫁に言わなくてもね、直接孫に「気をつけたほうがええ」って自然に言えるんですよ。僕も孫に対して、ワーッと叱ったこともありますよ。でも、その代わりにね、美味しいもん作って食べさせましたから。孫はもう30歳ですけど、「お爺ちゃんが小さい頃、美味しいカレーライスを作ってくれた」と今でも言いますよ。15歳とかになると言うことを聞かないけど、3歳いうたら未だ赤ちゃんですからね。お爺ちゃんが一番、言い易いんですよ。お爺ちゃんと孫の、普段の関係が大事なんですよ。ただ、この相談内容を見たらね、距離があり過ぎる! 孫に対しての愛情が、ちょっと少ないね。だから、先ずは孫に好かれるお爺ちゃんになってもらいたい! 1ヵ月で等と急がずに、何ヵ月かかってもいいんです。家庭平和の為ですから。気を長くして、孫と自然に触れ合うお爺ちゃんになることです。


山根明(やまね・あきら) 『日本ボクシング連盟』前会長・在日コリアン2世。1939年、大阪府生まれ。大阪商業大学ボクシング部ヘッドコーチ、大阪経済大学ボクシング部監督、シドニー五輪日本選手団ボクシング競技監督を歴任。2011年2月に日本ボクシング連盟会長に就任、2012年10月に理事会全員一致で終身会長となったが、助成金の不正流用等を理由に2018年8月8日を以て同会長・理事を辞任。著書に『男・山根 “無冠の帝王”半生記』(双葉社)。


キャプチャ  2020年11月30日・12月7日号掲載

テーマ : 人生を豊かに生きる
ジャンル : 心と身体

【Test drive impression】(183) マツダ初の女性開発リーダーが担当…『MX-30』の観音開きドアが半端ない!

https://wpb.shueisha.co.jp/news/lifestyle/2020/12/02/112517/


キャプチャ  2020年12月7日号掲載

テーマ : 新車・ニューモデル
ジャンル : 車・バイク

【中小企業のリアル】(29) 小松ばね工業(東京都)――困難な注文も職人技で



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『小松ばね工業』の本社がある東京都大田区で製品サンプルを拝見すると、その中に絹糸程の細さのワイヤーが置いてある。よく見ると、極細のコイルばねだ。これは狭心症や心筋梗塞の治療で使用するカテーテルのガイドワイヤーで、血管の狭くなった患部にカテーテルを到達させる役割を担っている。線材は直径0.03㎜。手に取ってみると、柔らかさの中に芯のある弾力性が感じられる。医療機器やカメラ、電子機器等に使われる精密ばねが、小松ばね工業の最も得意とする分野だ。最近は日本でも女性社長はそれほど珍しくなくなってきたが、2代続けて女性社長という企業はかなり珍しい。小松ばね工業はその珍しい企業のひとつ。先代社長の小松節子会長と小松万希子社長だ。万希子氏は『ものづくりなでしこ』(※ものづくり企業の女性経営者の会)の設立メンバーで、大田区でも有名な社長の一人だ。同社の歴史は1941年、小松節子会長の養父である小松謙一氏が、前身であるばね工場『小松製作所』を創業したことに始まる。当初からカメラシャッター用の精密ばねを手掛け、超精密ばねのパイオニアとしてばね業界をリードしてきた。1958年には時計用精密ばねの生産に着手する等、常に時代が要求するばねを形にし、その後。3代に亘りこの分野を専門に製造・販売を手がけてきた。戦後は高度成長の波に乗り、順調に発展してきたが、1980年に謙一氏が急逝した為、節子氏が社長に就任することになった。節子氏は学生時代から約25年間バレエ教室を運営し、その時も約50人の生徒がいたが、教室は諦めざるを得なかった。

「会社勤めをしたことがなかったので戸惑いました。番頭さんたちからは『経営は私たちがやるから、ただ社長の椅子に座っているだけでいい』と言われた」と節子会長。しかし、勉強家の節子氏は、社長宛のDMの中に企業経営セミナーの案内を見つけ、通うことにした。「そこで経営というものを少し学びました。決定的だったのは、“社長業”という合宿セミナーでした。ここで同じような中小企業経営者と知り合いになり、色々アドバイスを貰いました。今考えれば当たり前の話ですが、会社が潰れたら全責任を負うのは社長ただ一人だと気付かされました」と振り返る。セミナーで学び、最初に取り掛かったのが『小松ばねの経営計画書』の作成。“お客様第一。在庫を作らない経営体制の確立”に着手した。「先代の時代はどんぶり勘定でしたが、バランスシートを分析し、理想の形にする為に借り入れを減らし、手形の発行も止めることにしました。それまでは社員の前で話をすることもなかったのですが、意を決し、社長として話をしました。バレエの先生をしていたので、声の大きさには自信がありましたが…」と節子氏は笑う。こうして徐々に社内を掌握し、業績を立て直していった。その経営方針の正しさは、1989年に先代の故郷である秋田に新工場を新設したことで証明されている。無事にやり遂げて、初めて自分が経営者だと実感したという。1999年にはインドネシアに独立資本の工場を開設した。次に工場を造るなら海外だと見据え、取引先は全くなかったが、進出を決めた。その後のインドネシアの成長ぶりは周知の通りである。大田区の工場では最も早い海外進出組になる。小松ばね工業の工場内を歩くと、多くの機械が並んでいて、多種多様なばねを作っている。細いワイヤーがくるくると巻かれて、一定の長さになるとぷつんと切れる。上下左右からアームが出てきて加工を施し、殆ど自動的にばねを作っていく。「全て受注生産で、年間約5000種、10億個のばねを生産しています。少量でも1000万個単位の注文でも対応できるように、工場には800台近い機械を置いています。古いメカ方式からコンピュータ制御の最新マシンまであります。其々の機械の特性を使いこなして、お客様の要求に応えています。新入社員にも教育の一環として、動きの基礎となっているメカ機械の操作を覚えてもらいます。また、治工具や金型の自社製作も継承しています。これができるので、新しい注文に対しても、長年の経験に裏打ちされた製造方法の工夫、迅速な対応が可能となっています」と万希子社長は胸を張る。ばねはカメラや時計、更には電子機器や通信機器の部品として組み込まれ、メーカーに納められる。秘密事項であることもあり、最終製品が何かわからないことも多い。「今までに10万種類以上のばねを作りました。当社には全てのばねの設計図や、それを作る為のデータが保存されています」。需要側の技術が進歩するから、小松ばね工業への要求もどんどん厳しいものになってくる。カテーテル用の極細のものもあるし、複雑な形をしたばねの一部分の表面を、後でハンダ付けできるよう一皮削れというような注文もあるという。

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テーマ : 経済
ジャンル : 政治・経済

【Global Economy】(217) コロナ禍で変わる働き方…“在宅”定着へ各国手探り

世界の主要国で、新型コロナウイルスの感染拡大で広がったテレワークの定着に向けた試行錯誤が続いている(※①)。必要な権利や仕事の管理方法、職住一体化に伴う課税の在り方等、既存の制度では対応し切れない課題が山積みとなっている。 (経済部 有光裕)



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ドイツで今、『モバイルワーキング法』を制定する構想が注目されている。アンゲラ・メルケル首相が率いる『キリスト教民主同盟(CDU)』と連立政権を組む『社会民主党(SPD)』のフベルトゥス・ハイル労働社会大臣が提唱している。ハイル氏の草案には、1年間に職場以外で24日間以上働ける権利を認めることや、雇用主に労働時間を記録することを義務付け、違反した場合は3万ユーロ(※約360万円)の罰金を科すこと等が含まれている。CDU内には「ドイツ企業の競争力が落ちる」等、導入に慎重論が出ている。メルケル首相は「草案について、もっと議論する必要がある」と話すが、関心の高いテーマであることは間違いない。スペインでは9月、テレワークに関する新しい規定に政府と経済界、労働界が基本合意した。テレワークをする為に必要な機器の代金や通信料を、企業が負担すること等を定めた。テレワークに使う機器や想定される費用、実際に業務を行なう場所、テレワークと出社の割合、システム障害が起きた場合の対策、テレワーク中の社員の様子を会社が調べる方法等を、労使が事前に文書で確認するという。勤務時間外にメールやスマートフォン、メッセージ等の着信を拒否できる制度も広がる可能性がある。フランスが2017年、勤務時間と個人の時間のバランスを取る為に導入し、夜間にメールのシステムを停止する会社もある。『ハーバードビジネススクール』の研究者等は7月、新型コロナウイルス感染拡大で都市封鎖(※ロックダウン)があった北米や欧州等の約314万人のデータを分析した結果を発表した(※②)。メールの送受信の増加等で、1日あたりの労働時間は約48分長くなったという。

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目が届かない場所で働く従業員の管理に、企業は頭を悩ませている。スタンフォード大学のニコラス・ブルーム教授は、「テレワークの成功には、実効性がある評価システムが欠かせない」と指摘する。テレワークの効果は見方が分かれている。『Apple』のティム・クックCEOが「非常に上手くいくことがわかった」と評価する一方、アメリカの金融大手『JPモルガンチェース』のジェイミー・ダイモンCEOは「一定の分野で生産性が下がり、疎外感も高まった」と指摘した。来年6月末まで社員が在宅勤務を選べるようにした『グーグル』は、仕事を上手く進められる出社割合を調査した。「全く必要ない」と回答した社員は、5月時点では20%だったが、7月には10%に半減した。「時々」と答えた社員は、5月は53%だったが、7月には62%に上昇した。従業員の管理には慎重な対応が求められる。イギリスで8月、データ保護を担当する政府機関『個人情報保護監督機関(ICO)』が、同国の大手銀行『バークレイズ』の対応を問題視し、調査を始めたことが明らかになった。特定の個人のパソコンの使い方や、机の前にいる時間がわかるようにしたことが問題視された。ソフトウェアで社員の働き方を調べている企業は珍しくないが、EUは2018年、個人情報保護を強化する『一般データ保護規則(GDPR)』を施行した。従業員に対し、会社が集めるデータの利用目的等を知る権利を認めており、今回は説明不足とみられている。サイバー攻撃への対策も課題となる(※③)。『国際刑事警察機構(ICPO)』は8月、「テレワーク用のシステムやネットワーク、ソフトウェアを急いで配備した組織が多く、企業や政府等を狙った犯罪が増えている」と警鐘を鳴らした。コロナ禍に便乗した政府機関や保健当局等を装ったメールで個人情報やパスワードを盗む“フィッシング”や、テレワーク中の社員のパソコンから会社のネットワークに侵入したり、テレビ会議の弱点を狙ったりする攻撃が目立つという。

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テーマ : 経済
ジャンル : 政治・経済

【新型コロナウイルス・試練の電機業界】(11) 「車はCASEが加速。規模で1番手を目指す」――東原敏昭氏(『日立製作所』社長兼CEO)インタビュー

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――2021年3月期は売上高が1兆円超減少、営業利益も4割以上減る厳しい計画です。
「全く気にしていない。寧ろ、予想数字を出せたことに意味がある。1兆円も売り上げが減少したら、普通は厳しい。コロナ禍がどう収束するかわからないが、固定費を維持して、いつ復帰してもいい状態を作りながら、利益率5%台を示せたのが大きい。特にITの営業利益率は前期12%、今期も10%の見通しだ。リーマンショックのあった2009年3月期の(国内製造業最悪の)7873億円の最終赤字から10年かけて進めた改革の成果を実感している」
――ITはよくても、自動車を中心に影響が大きく出そうです。
「一番不透明なのは、まさに自動車だ。新車需要が減っていて心配だが、今後はCASE(※車の電動化や自動化等)が加速する。逆に言うと、電動化部品でシェアやボリュームを取ってオピニオンリーダーにならないと淘汰される危機感があり、ホンダ系3社との事業統合は欠かせない。欧州の自動車部品会社も買収し、モーター、インバーター、サスペンション、ブレーキの4分野で、2024~2025年に1番手か2番手になることを目指す」
――家電事業も営業利益率が5%未満と低く、課題を抱えています。
「家電は日立唯一の消費者向け。顧客の感触を得られる為、大事にしたい。出資比率には拘っていない。空調はジョンソンコントロールズとの合弁(※日立は40%出資)の為、営業利益段階での貢献はない。他の家電もグローバルな販売チャネルがある企業と組めれば、4:6や3:7で日立がマイノリティー出資でいいと思っている。世界中の顧客データが手に入ることのほうが重要だ」
――上場子会社再編を進める中、『日立建機』と『日立金属』の2社が残りました。今後どうしますか?
「コロナ禍に関係なく、来期までに(売却か完全子会社か)方向性を出したい。建機と金属の両社トップに言っているのは、『グローバルに戦える形をどう作りますか?』ということ。建機にはダンプトラックの自動運転で日立のIoT基盤“ルマーダ”を使ってもらっているが、51%の株式保有では中途半端でガバナンスを握れない。また、中国の景気に連動するボラティリティー(※変動率)の高さも問題だ」
――日立金属は10年以上に亘り検査不正をしていたことが発覚し、幹部5人が引責辞任しました。
「これは物凄いショックだ。2018年の日立化成の不正に続いて、何でまたと思う。先ずは金属がどういう会社なのか、何でそうなったのかを自分の目で見極めたい」
――アフターコロナはどういう世界になるでしょうか?
「人間を中心にした快適な生活をどう構築するかが重要になると思う。そうした中で、日立の強みはITとOT(※制御技術)とプロダクトを併せ持っていることだ。エネルギーや自動車、鉄道等全ての分野で境界がなくなり、スマートシティーのような大きなインフラになるだろう。そこで最適なインフラを提供するIoT基盤が、日立のルマーダだ。ルマーダ上にデータを取り入れ、時系列で最大の幸福度を感じるエコシステムを提供したい」 (聞き手/本誌 冨岡耕)


キャプチャ  2020年6月20日号掲載

テーマ : 経済ニュース
ジャンル : ニュース

【新型コロナウイルス・航空と鉄道に激震】(05) 2009年にもあった国際線統合論…“JAL・ANA統合説”の真贋

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「JANA誕生か?」――。エアライン業界が危機に陥ってから、“JAL・ANA統合説”に関する記事やSNSでの投稿が散見されるようになった。2社の株主にとっても関心の高いテーマのようで、直近の株主総会では共に統合説について質問が出た。しかし、『ANAホールディングス』の片野坂真哉社長は「再編に関する記事も出ているが、こういった事実は全くない」とし、『日本航空(JAL)』の赤坂祐二社長も「日本の航空会社を一本化することは全く考えていない」とする。「住金と新日鉄だって合併した。経営環境に合わせて企業が再編されるのは世の理だ」。ある金融機関のOBが言う。2001年の9.11同時多発テロ事件を始め、航空会社はイベントリスクを経験する度に再編を繰り返してきた。世界を見渡せば、欧州主要国等日本より航空需要が大きい国でも、メガキャリアは1社だけのところが多い(※左表)。実は10年前、当時の民主党政権で統合論が浮上したことがある。2009年12月末。当時の峰崎直樹財務副大臣が、民間のシンクタンクのペーパーを基に、JALの国際線をANAに集約する案を菅直人副総理や前原誠司国土交通大臣、辻元清美国交副大臣らに示した。「世界では人口1億につき、国際線は1社が目処。JALの立て直しに向け、国際線を2社で争っていていいのか、という話をした。抑々、JALは借金を帳消しにし、公的資金を入れて再スタートするのに、ANAは泥沼の競争をやっている。あまりに不平等なので、競争は国内だけにして、国際線はANA1社にしたほうがいいというロジックだった」(峰崎氏)。この案を示された前原氏は、「お前はANAの回し者か!」と激高したという。

同席した辻元氏によれば、国交省は当初から2社体制の維持という方針を決めていて、峰崎氏の提案が省内で議論されることはなかったという。「JALは明日潰れるかもしれない状況で、1社化を議論している場合ではなかった。ただ、ANAに配慮してLCC(※格安航空)はやらせたし、沖縄空港の貨物ハブ構想にもANAを入れた」(辻元氏)。それでも統合論は燻り続ける。ある銀行で9年前に作成された内部文書がある。『航空業界に対する今後の取り組み』と題された文書は、「我が国の航空業界は、数年で完全自由化市場に近づいていく」と分析し、「世界の業界再編の動きは続く。日本の航空会社もアライアンスの盟主となるためには統合が必要となる可能性が高い」としている。JAL再建中にも拘わらず、既に次の再編を予見しているのだ。そして国際線は、JAL・外資の資本提携、ANA・外資の資本提携、JAL・ANAの経営統合という3つのシナリオを挙げ、「再編を我が行が主導」とも記している。新型コロナウイルス感染拡大の影響で、再びエアライン経営に危機が訪れた今、国際線だけでも2社が統合する可能性はあるのか。ある元JAL幹部は、「10年前の議論では、前提としてJALの放漫経営が問題視されていた。近年は2社の経営に取り立てて大きな問題点はなかった為、大胆な再編に国交省や政府が乗り出す場面にはなり得ない」とみる。勿論、行政に「世界的メガキャリア誕生へ、航空業界を舵取りする」という強い意志があれば、これを好機と捉えてもおかしくはない。ただ、国交省や業界幹部等複数の関係者は、「国交省が航空業界を舵取りしてやろうという意識は薄れている」と言う。ある国交省関係者は、JAL・ANA統合論を否定した上で、「長期的に見れば航空市場は未だ広がっていく。その中で役所が民間経営に介入するべきではない。役人が全知全能の存在で、全てを見通した上で『くっつきたまえ』と言うなら別だが、役所の人間にそんな能力はない」と話す。11年前、『朝日新聞』のインタビューで「オールアジアの中で、日本に巨大航空会社が2つ存在することは考えられない」としていた『経営共創基盤』の冨山和彦代表だが、JAL再生タスクフォースの立場を経て、「国は公共政策としてどこまで民間の経営に介入するべきなのか。結論を政府の側が決めるのは多くの場合、変な煩悩が働くし、規模を追えば問題が解決するほど単純ではない」と話す。慶應義塾大学商学部の中条潮名誉教授も、「統合論は全くのナンセンス。政策的に国際競争力を上げたいなら、アライアンス間の協業を深化できるよう、規制を緩和したほうがいい。JAL・JAS(※日本エアシステム)統合ですら、社内文化の歪みの解消にかなりの時間を要した」と指摘する。また、JALのあるOBからは、こんな本音も漏れる。「この10年、ANAのJALへの敵対視は露骨過ぎた。JALが“親方日の丸”だった時代にやられたことをやり返したい気持ちはわかるが、これでは仮に統合するにしても、規模で劣るJAL側が冷遇される姿しか目に浮かばない」。JAL・ANA統合論は“雨夜の月”ということか。 (取材・文/本誌 森創一郎・森田宗一郎)


キャプチャ  2020年10月3日号掲載

テーマ : 経済ニュース
ジャンル : ニュース

【新型コロナウイルス・鉄道の悲劇】(06) アフターコロナの課題…これまでの投資が余剰に問われる経営センス


20201130 05
新型コロナウイルス感染症の流行は思わぬ天災であり、且つ社会的な影響が長期間残る事態が見込まれる、これまでにない類いの災害でもある。流行自体未だ現在進行形だが、鉄道会社の今後の経営は、“密を避けるべく”スタートした就業形態の変化により、早急な方針転換を余儀なくされるかもしれない。大都市近郊に限らず、日本の鉄道は朝夕の通勤・通学輸送が最も重要な使命のひとつだ。鉄道の設備投資は、ラッシュのピークとなる時間帯でも安全に輸送が完遂できるよう、車両数も列車が走る線路設備も整えられる。裏返してみれば、鉄道は設備産業である以上、日中等利用客が少ない時間帯には、車両や線路の一部が遊休化するのは止むを得ない。一説には、1日の利用客数が始発から終電まで平均的に乗車すれば、車両の数は現状の半分で済むと言われる。利用客の増加はよいが、“集中”は極力避けたいというのが、鉄道会社の経営上、共通の考えだろう。国土交通省は毎年、各路線の混雑率(※輸送力に対する実際の輸送量の比率)を発表している。混雑率の低下、ラッシュの平準化の為、各社は行政とも協力して、地下鉄との相互直通運転や複々線化といった対策を長年、取ってきた。その結果、現在は目標とされる、ピーク時の混雑率150%以下を達成する路線が多くなってきた。しかしそれでも、一般的な通勤電車の1両当たりの定員は150人前後。大きさは長さ約20m×幅約3mだから、約225人が約60㎡の空間に入っている。

勿論、感染症の予防の観点からは、1㎡に3人以上の人間が密集する状態は好ましくない。“密”を避ける感染対策は、PRの効果もあって鉄道利用客の間にも広く浸透した。そして、満員電車の解消が自然に達成されてしまったのである。緊急事態宣言下で、大いに空いた電車を目撃した向きも多いだろう。これは、休業は勿論だが、各企業がテレワークを積極的に実施した為でもある。パソコン通信が普及し始めた平成の初め頃には、「将来は会社に出社せずとも仕事ができるようになる」と吹聴された。それが図らずも、ごく短期間のうちに実現してしまったのである。新型コロナウイルスは何れ、ワクチンの開発等によって沈静化させなければならない。だがそうなっても、企業はテレワークの効用は享受し続けるだろう。社員が在宅していても事業が進捗するなら、事務所経費や通勤経費を節減できるからだ。一部のIT企業等には、早くも東京都内の事務所を廃止する動きがある。例えば、『富士通』は2023年3月までにオフィス面積を半減させる方針だ。つまり、感染症の心配がなくなっても、通勤客の数が大きく減少したままとなる事態が考えられる。更には、混雑を意識的に避ける時差出勤や時差通学も、皮肉にも感染症によって普及した。利用の平準化も自然に生まれつつある。こうした状況が、徐々にではなく急激な変化として表れたことは、ラッシュのピークに合わせて設備投資を行なってきた各鉄道会社にとってありがたい事態かと言えば、そうでもない。所有する車両や線路の遊休化は、設備産業としては非常な痛手。寧ろ誤算だろう。しかも、鉄道車両は1両2億円程度、地下鉄1㎞の建設費は数百億円に上る程、鉄道の設備投資は巨額だ。今後の見通しは不透明だが、長期的な設備投資計画の大幅見直しの形で影響が表れるかもしれない。遊休化し、利益を生まなくなりそうな設備は、どう処理するのか。一つの方向性は、思い切った撤収だ。ただ、利用客への影響が大き過ぎる、複々線を複線に戻すといった大規模リストラにまでは及ぶまい。

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【大学を牛耳る悪党たち】(03) 目白大学に梅光学院大学…天下り幹部たちの私利私欲

20201130 04
弁護士に続き、大学を破壊するトップの典型が天下り官僚だ。その代表格は、本誌でも昨年10月号で既報した『目白大学』(東京都新宿区、左画像)だ。法人の主要ポストには5人もの天下りがいる。理事長の尾﨑春樹氏を筆頭に、専務理事、管理部門のトップ、常勤幹事、事務局長と、まさに天下りに支配された大学と言っても過言でない。理事の70歳定年制を導入して創業家を追い出したが、専務理事の田村幸男氏は定年後直ぐに謎のポストを作って復帰し、現在に至る。更に、教員を虐げる行為も進行中だ。同大では、今年4月から65歳以上の教員の給与が大幅に引き下げられた。法人側は“2割減”と表現するが、大学関係者によると、多い人で約2割5分、年収にして270万円が減額される人もいるという。この賃金引き下げについて、法人側は「役員報酬も2割削減する」と明言していたが、賃金引き下げが始まる前日の3月31日になって、役員報酬が減額されないことが明らかになった。「大学に来るのは週3日程度で、10時頃に来て15時過ぎには帰る」と言われる理事長の尾﨑氏の年収は、事務次官と同じ水準の1938万円。「これほど教員を馬鹿にした話はありません。怒りがこみ上げてきます」と関係者は憤る。官僚時代に出世コースに乗ることができなかった天下りたちは、天下った大学でトップに立てば、毎日出勤せずとも事務次官と同じ水準の給与を手にすることができる。尾﨑氏は、『福岡教育大学』の学長選考会議鉄長や、後述する『大分大学』等の国立大学での経営審議会委員等も務めており、天下りポストを広げることにも熱心なようだ。

目白大学の関係者は、こう呟く。「彼らは私利私欲しか考えていません。天下り先の大学では事務次官クラスの給料を貰えて、仕事も丸投げ。これでは天下りは止められないでしょう。斯くも卑しき天下り、です」。また、天下りのトップを抱え、教員への人権侵害行為が以前から問題になっているのが『梅光学院大学』(山口県下関市)だ。理事長は元文科官僚の本間政雄氏。加えて、同大を支配する中心人物は、樋口紀子学長と『追手門学院』(大阪府茨木市)にいた元事務局長と元学長補佐、それに『名城大学』(愛知県名古屋市)の元副学長だと言えるだろう。3人は梅光学院に入り込むと、職業専門学校化を推進した。学院は2016年、大学教員に「辞めなければ退職金が減る」と退職勧奨し、11人を退職に追い込んだ。更に、附属の中学・高校の教員には、コンサルタント会社の『ブレインアカデミー』によるパワハラ研修を開催して、教員14人を精神的に追い詰めて退職させた。因みに、ブレインアカデミーによるパワハラ職員研修は2016年に追手門学院でも行なわれ、受講者に対する「腐ったみかんは置いておけない」との発言も問題になっている。梅光学院の執行部に対しても、司法の厳しい判断が下っている。2016年に雇い止めされた元准教授の男性が、梅光学院に対して地位確認等を求める訴訟を起こし、1審・2審共に勝訴。昨年4月の広島高裁の判決は、梅光学院に1050万円の支払いを命じた。ところが、学院側が応じなかった為、6月には山口地裁下関支部が学院の口座から1050万円を差し押さえるという異常事態が起き、現在も、労働条件を不利益変更したとして10人の教員が提訴した訴訟と、元准教授が雇い止めの無効を求める訴訟が続いている。しかし、経営陣の姿勢は変わらない。関係者は次のように嘆く。「個人の研究室は無くなりました。教員は現在も経営陣の専横的運営に何も言えない状況で、気に食わない教職員は嫌がらせを受けています」。 (取材・文/フリージャーナリスト 田中圭太郎)


キャプチャ  2020年7月号掲載

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