【第二次トランプ政権に備えよ!】(10) 「関税マンは引き上げに本気だ」――マシュー・グッドマン氏(『外交問題評議会』フェロー)
「タリフ(※関税)マンは本気だ」――。日米貿易問題等に詳しいアメリカのシンクタンク『外交問題評議会』のマシュー・グッドマン氏は、大統領への返り咲きを決めたドナルド・トランプ氏の自称を引き合いに、こう警告する。前政権期以上の猛威を振るう恐れもある“トランプ旋風”。どう備えればいいのか、詳しく聞いた。 (聞き手/ワシントン支局 大久保渉)
――関税引き上げの影響をどう見ていますか?
「全ての国に10~20%、中国からの全輸入品に60%を課すという言葉を真剣に受け止める必要がある。通常、こうした戦略は相手国から何らかの譲歩を引き出す交渉材料に使われるが、トランプ氏の言動を吟味すると、彼は関税引き上げが有効な戦略と考えており、本気で実行する可能性が高い。日本も例外ではない」
「トランプ氏の世界観は“貿易赤字は悪”ということ。そして、貿易赤字を減らす最も効果的な手法として、関税引き上げを挙げている。前政権で対中関税を引き上げても貿易赤字が減らなかったように、現実的には効果は薄い。だが、トランプ氏の世界観は現実からかけ離れている。トランプ氏が好んで使うタリフマンという言葉が象徴するように、関税引き上げ自体が目的化している可能性もある」
――現実問題として、トランプ氏は実行できるのでしょうか?
「合衆国憲法上、関税引き上げは連邦議会の権限だが、実際には大統領がいくらでも関税引き上げを決められる法律がある。トランプ前政権は、他国による不公正な貿易慣行への措置(※通商法301条)、国家安全保障上の脅威がある場合の措置(※通商拡大法232条)を使って関税を引き上げた。だが、この他にも経済的な緊急事態に大統領権限で関税引き上げを発動できる法律もある。ジミー・カーター政権で1970年代に成立させた国際緊急経済権限法(※IEEPA)だ。新政権でトランプ氏は同法も使うのではないか」
「最初に狙うのは、連邦議会で超党派の合意ができている中国。次にトランプ氏が『経済的に利用されている』と信じ込んでいる欧州だ。日本が標的になるのは、その後ではないか。関税引き上げにストップがかかるのは、アメリカ国内のインフレでトランプ氏を支持してきた有権者から怒りの声が噴出するケースだけと考えるべきだ。それまでは、経済の国際秩序を無視して引き上げを試みるだろう」
――多くの日本の自動車メーカーが進出するメキシコには「100%の関税を課す」とも述べています。
「メキシコに対する関税引き上げに込めるトランプ氏の狙いは、①メキシコを経由した中国の“迂回輸出”防止②メキシコに生産拠点を築いてアメリカ輸出を増やす中国メーカーへの牽制③メキシコからアメリカに入ってくる不法移民の取り締まり強化――の3つだ。予断を許さないが、日本の自動車メーカーが狙われているわけではないので、政治的に交渉する余地があるのではないかと思う」
――日本にはどんな要求が突きつけられるでしょうか?
「アメリカの対日貿易赤字は前政権時代に比べて減ったとはいえ、未だに大きな額だ。貿易赤字縮小を求め、先ずは農産物の輸入増加等、アメリカからの輸入拡大を要求するだろう。但し、人口減少が続く日本が輸入を大幅に増やすのは無理がある。日本からの輸出制限や、製造拠点をアメリカに移すことを求めてくるだろう」
――国際協調への影響はどうみますか?
「トランプ氏は二国間交渉を好み、多国間で協調する国際的な枠組みを嫌う。日米欧で構成するG7の結束には、前政権時代と同じく罅が入るだろう。ウクライナ支援や、対中国を念頭に置いた経済安全保障強化等、G7の結束が極めて重要な時期だけに、足並みの乱れの影響を懸念している」
「トランプ氏は、ジョー・バイデン政権と日本が主導した経済圏構想〈インド太平洋経済枠組み(IPEF)〉も、即刻廃止するだろう。IPEFの柱の一つである重要物資の供給網(※サプライチェーン)整備等は形を変えて残る可能性があるが、IPEF自体は消滅する」
――『日本製鉄』による『USスチール』買収はどうなりますか?
「トランプ氏に阻止される可能性が極めて高い。自国の鉄鋼労働者を守る為に自らの判断で阻止したと宣言することで、“タフな男”を演出できる為だ。実際にはUSスチールで働く労働者にとって不利益になる。彼らが猛烈に反対し、連邦議会を動かす事態になれば覆るかもしれないが、その可能性は低い」
「バイデン大統領が買収に難色を示したのは、大統領選で買収に反対する全米鉄鋼労働組合の支持を得る為だった。選挙に負けた今、バイデン氏が敢えて買収の可否を判断するメリットはなく、結論を先送りしてトランプ政権に委ねることになる」
2024年11月14日付掲載
――関税引き上げの影響をどう見ていますか?
「全ての国に10~20%、中国からの全輸入品に60%を課すという言葉を真剣に受け止める必要がある。通常、こうした戦略は相手国から何らかの譲歩を引き出す交渉材料に使われるが、トランプ氏の言動を吟味すると、彼は関税引き上げが有効な戦略と考えており、本気で実行する可能性が高い。日本も例外ではない」
「トランプ氏の世界観は“貿易赤字は悪”ということ。そして、貿易赤字を減らす最も効果的な手法として、関税引き上げを挙げている。前政権で対中関税を引き上げても貿易赤字が減らなかったように、現実的には効果は薄い。だが、トランプ氏の世界観は現実からかけ離れている。トランプ氏が好んで使うタリフマンという言葉が象徴するように、関税引き上げ自体が目的化している可能性もある」
――現実問題として、トランプ氏は実行できるのでしょうか?
「合衆国憲法上、関税引き上げは連邦議会の権限だが、実際には大統領がいくらでも関税引き上げを決められる法律がある。トランプ前政権は、他国による不公正な貿易慣行への措置(※通商法301条)、国家安全保障上の脅威がある場合の措置(※通商拡大法232条)を使って関税を引き上げた。だが、この他にも経済的な緊急事態に大統領権限で関税引き上げを発動できる法律もある。ジミー・カーター政権で1970年代に成立させた国際緊急経済権限法(※IEEPA)だ。新政権でトランプ氏は同法も使うのではないか」
「最初に狙うのは、連邦議会で超党派の合意ができている中国。次にトランプ氏が『経済的に利用されている』と信じ込んでいる欧州だ。日本が標的になるのは、その後ではないか。関税引き上げにストップがかかるのは、アメリカ国内のインフレでトランプ氏を支持してきた有権者から怒りの声が噴出するケースだけと考えるべきだ。それまでは、経済の国際秩序を無視して引き上げを試みるだろう」
――多くの日本の自動車メーカーが進出するメキシコには「100%の関税を課す」とも述べています。
「メキシコに対する関税引き上げに込めるトランプ氏の狙いは、①メキシコを経由した中国の“迂回輸出”防止②メキシコに生産拠点を築いてアメリカ輸出を増やす中国メーカーへの牽制③メキシコからアメリカに入ってくる不法移民の取り締まり強化――の3つだ。予断を許さないが、日本の自動車メーカーが狙われているわけではないので、政治的に交渉する余地があるのではないかと思う」
――日本にはどんな要求が突きつけられるでしょうか?
「アメリカの対日貿易赤字は前政権時代に比べて減ったとはいえ、未だに大きな額だ。貿易赤字縮小を求め、先ずは農産物の輸入増加等、アメリカからの輸入拡大を要求するだろう。但し、人口減少が続く日本が輸入を大幅に増やすのは無理がある。日本からの輸出制限や、製造拠点をアメリカに移すことを求めてくるだろう」
――国際協調への影響はどうみますか?
「トランプ氏は二国間交渉を好み、多国間で協調する国際的な枠組みを嫌う。日米欧で構成するG7の結束には、前政権時代と同じく罅が入るだろう。ウクライナ支援や、対中国を念頭に置いた経済安全保障強化等、G7の結束が極めて重要な時期だけに、足並みの乱れの影響を懸念している」
「トランプ氏は、ジョー・バイデン政権と日本が主導した経済圏構想〈インド太平洋経済枠組み(IPEF)〉も、即刻廃止するだろう。IPEFの柱の一つである重要物資の供給網(※サプライチェーン)整備等は形を変えて残る可能性があるが、IPEF自体は消滅する」
――『日本製鉄』による『USスチール』買収はどうなりますか?
「トランプ氏に阻止される可能性が極めて高い。自国の鉄鋼労働者を守る為に自らの判断で阻止したと宣言することで、“タフな男”を演出できる為だ。実際にはUSスチールで働く労働者にとって不利益になる。彼らが猛烈に反対し、連邦議会を動かす事態になれば覆るかもしれないが、その可能性は低い」
「バイデン大統領が買収に難色を示したのは、大統領選で買収に反対する全米鉄鋼労働組合の支持を得る為だった。選挙に負けた今、バイデン氏が敢えて買収の可否を判断するメリットはなく、結論を先送りしてトランプ政権に委ねることになる」
2024年11月14日付掲載