前回は“田舎の野菜と山の幸の原価計算のお話”をした。内訳は苗代やガソリン代等。ここに人件費は入らないが、兎に角、そこそこお金がかかるというお話。そして今回は、獣肉の原価について。
よく若人に「猟師になればお肉って買わなくて済むんですか?」と聞かれる。在りし日の東出青年も、そう思っていた。腹いっぱい肉食いたいし。率直に申し上げれば、答えは“YES”。しかし、“腕が良いor人間関係が上手”である必要がある。
鹿や猪を獲る猟法には2種類ある。罠猟と鉄砲猟。罠は最もポピュラーで安価な仕掛けが、自作をすれば1基5000円くらい。既製品で1万円くらい。仕掛けだけなら高くない気もするが、大型獣は罠に掛かると1日で、下手すると数時間で死ぬ場合もある為、毎朝の見回りが必要になる。
家の真裏に山があれば歩いて見回れるが、車で見回りをしないといけない場合はガソリン代がかかる。動物が掛かったら掛かったで、壊れた罠の修繕も必要になる為、ちょっとずつお金がかかる。狩猟免許の受験料や用具類で、初期費用は総額10万円くらいか。鉄砲は安い中古銃で5万円以内。弾が1発300円。ガンロッカー等の備品、免許の類の受験料含め、色々込みで大体18万円くらいかかる。
私の猟法の単独忍びであれば、1頭獲ったらその肉は全て独り占め。巻き狩りと呼ばれるグループ猟なら、1頭からとれた計20㎏の肉を8人で等分したりする。鹿を4頭獲り全て精肉し、大型の冷凍庫で保存すれば、家族5人が1年間に摂取する動物性蛋白質を優に確保できるのではないだろうか。
しかし、鉄砲猟も獲れるまでには射撃場で撃ちまくって腕を磨き、坊主が続いても山に向かわねば獲れるようにはならない。山に通うには、高速代やガソリン代、車が無ければ電車賃とバス代等、細々とした出費がかかる。初年度から18万円分の肉は獲れない為、“狩猟で今までかかっていたお肉代がかからないようになる”には、かなりの時間がかかるのだ。
しかし、裏技もある。それは“先輩猟師に可愛がられて、山から獲物の引き出しや解体を手伝う序でに肉を貰う”方法である。自分では獲れなくても、冷凍庫が獣肉でパンパンという猟師も稀にいる。以上の話から鑑みるに、田舎の食材の多くはスーパーマーケットで売られているものより安くはあるが、決してタダ等ではなく、寧ろ初期投資にはお金がかかるし、時間をかけて取り組まないと手に入らないものばかりだから値段が付け難いのだ。
だから、都会から地方に移住したのであれば、「何かを頂けるだけありがたい。しかし、貰ってばかりでは悪いから、何かお手伝いなり物品でお返しをせねば」と思うのが人の道だと思う。「田舎に元々あるものを分けてくれてんでしょ?」と胡座をかいていては、到底地元に馴染めない。
食物を得ることの大変さも理解できず、都会風を吹かせて「これだから田舎は…」「田舎は冷たい」等と知った口を利く若造がいれば、日々の糧を得ようと真っ黒になるまで日焼けしたオッチャンに「別に来ねえでもいいぞ。呼んだ覚えねえから」と言われてしまうのである。このままでは分断の危機。次回は今のところ考える、解決策を!
東出昌大(ひがしで・まさひろ) 俳優・ファッションモデル。1988年、埼玉県生まれ。大学中退後、宝飾デザイナーを目指し、ジュエリーの専門学校に進む。2006~2011年までパリコレクションで『ZUCCa』や『ヨウジヤマモト』等にモデル出演。2012年公開の映画『桐島、部活やめるってよ』で俳優デビュー。この作品をきっかけにファッションモデルとしての活動を辞め、俳優に転身。主な出演映画に『クローズEXPLODE』・『コンフィデンスマンJP』シリーズ・『スパイの妻』等、テレビドラマは『あまちゃん』『ごちそうさん』(NHK総合テレビ)・『問題のあるレストラン』(フジテレビ系)・『あなたのことはそれほど』(TBSテレビ系)等。
2024年10月29日号掲載
テーマ : 政治・経済・社会問題なんでも
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