【迫り来る北朝鮮と中国の脅威】(04) 「“ポスト習近平”がカギを握る」――ウィル・ハットン氏(オックスフォード大学ハートフォードカレッジ学長)インタビュー
今年初め、中国の景気減速を受けて、世界の金融市場が混乱に巻き込まれました。こういった動きは、9年前に拙著『The Writing On The Wall(不吉な予告)』で予測していたことでした。当時、中国の経済成長には著しいものがありましたが、考えれば考えるほど「こんな経済がいつまでも続く筈がない」と確信しました。株価下落によって、まさにそれが露呈したのです。今、中国では過剰投資・過剰生産が問題にされています。未だ嘗て、中国のようにGDPの40%以上も投資を続けていた国などありません。そんな投資を続けていても利益が追いつく筈がないから、企業は莫大な負債を抱えて二進も三進も行かなくなる。そのことは目に見えています。ある意味、中国は、日本が1990年代初期に直面したのと同じ問題に直面しています。中国の成長は『プラザ合意』の後、1986年から1993年の間に日本で起きた経済ブームと似ているのです。当時の日本は企業の負債の割合が非常に高かったのですが、同じことが今、中国で起きています。この負債の多くが不良債権化しており、今後、回収に手間取ることになるでしょう。「中国経済の回復には相当の時間がかかる」とみて間違いありません。
ウィル・ハットン氏は、『英国放送協会(BBC)』の経済記者や『オブザーバー』紙の編集長等を経て、学界に転じた政治経済学者である。コラムニスト・作家としても知られ、1990年代のイギリスの政治経済を論じた『The State We're in』は、イギリス国内でベストセラーになった。2006年に刊行された『不吉な予告』では、中国の経済成長は世界経済の崩壊リスクを孕んでいることを論じた。
ここまで中国経済が悪化したのは、中国共産党がこの数十年間に亘って、国有銀行をまるで自分の財布のように利用して、経済を動かしてきたからです。企業が回収の当ての無い設備投資を続けることができたのも、国有企業や準国有企業に対して薄外で貸付けを行ってきたからでした。愈々、そのツケが回ってきたのです。中国では、民間企業でも雇用を創出する義務が課されています。その為、中国共産党は銀行に対して「企業を支援せよ」と命じてきました。そんな状況は、私が本を書いた時から今に至るまで全く変っていません。中国経済の問題は、株式市場を見ているだけではわかりません。全貌は明らかではありませんが、安易に借り込んできた企業の負債は大きく膨らみ、金融システムは脆弱です。過剰な設備投資を続けてきた為に、成長モデルは基本的に壊れています。ですから、株式市場に一体、どれくらいの本当の価値があるのかもわかりません。党中央の指導者たちは、中国が危機にあることをとっくに認識していると思います。