【水曜スペシャル】(705) 「俺にしかできない音を俺自身も聴きたい」――Charさん(ギタリスト)インタビュー
「テクニックは勿論必要だけど、それだけで良い音を出すことはできない」――。日本ギター界のレジェンド、Char(※左画像、撮影/手塚耕一郎)に“他人の心を打つ音楽”を奏でる為の秘訣を問えば、楽器の良い音は勿論のこと、雷や鳥の鳴き声といった自然界の良い音、或いは嫌な音を知っていることが先ず大事だと説く。「俺が好きなのは、その奏者がどういう人間なのか見えてきたり、それ以外の景色を見せて勝手に想像させてくれたりする演奏。例えば、速弾きに『すげぇ!』とは思うけど、もう一度聴きたいとはならない。聴いた人が理屈じゃなく、『何か良い』『もう一回聴きたい』と思えるような音楽じゃなかったら、只のBGM。だったら無いほうがいいと思うんだよね」と信念を語る。そんなCharが今月、最新アルバム『SOLILOQUY』を携えた全国ツアーを開始する。タイトルは日本語で“独り言”。敬愛するジェフ・ベックにインスピレーションを受けて書いた『JEFF-SOLILOQUY-』を始め、収録した全12曲の作曲、編曲、演奏、プロデュース等、制作に関わる一切をChar一人で手がけたことに由来する。「以前は曲のアイデアがあっても、欲しい楽器の音を重ねていくには沢山の人の関与が必要だったけど、今はデジタル技術の向上で、クオリティーの高い音源を機材から引き出し、聴き応えのある表現が一人でもできるようになった。落書き(=思い浮かんだフレーズやテーマ)から色んな色(=音源)を使って、自分の絵(=楽曲)が描けるのは楽しい」と話す。
だが、一方で「バンドを組んでいるヤツらが羨ましい」とも。「あったらあったでうざいんだよ。作った瞬間、解散したくなる」と、これまでの経験を振り返って目尻を下げて笑うが、「何年かに一度、一緒に演奏しているとゾーンに入ることがあって、『ああ、コイツらとやっててよかった』と思うことがある。もうそれは言葉では言い表せない程」と明かす。今回のツアーでは、ほぼ初対面に近い腕利きの3人をバンドに起用した。「会ったことのない人間同士で新しいものを生むには、其々の個性や得手不得手を短い期間で把握し、判断しないといけない。それが楽しいんだよ。新しい解釈や発見に導かれ、自分を育てることもできる」。唯一、メンバーの採用時に確かめたのは「お前、たばこ吸う? 酒飲む?」だけ。喫煙者であり、酒を愛するChar流の仲間集め。「バンドを作るっていうのは、いつの時代もそういうところから入るから」。そう冗談を交えながら、「演奏が上手いのは当たり前」と一流の余裕を見せた。8歳でギターを始めてから、今年で60年になる。『ギター・マガジン』の〈ニッポンの偉大なギタリスト100〉で1位に選ばれる等、日本ロック界の重鎮だが、「音楽はやればやるほど若い時よりも深さを知っちゃって、終わらないんだよ」と困ったように笑う。「6本の弦と21のフレットの組み合わせで、未だ自分が弾いたことのない表現に辿り着く瞬間が嬉しい。俺にしかできない音を俺自身も聴きたい」と言う。どこまでも高みを目指して立ち続けるステージ。酒は好きだが、飲んで上がることはしないという。理由を尋ねれば、「声が半音下がって、喉が閉まっちゃう」と話す。そして、「あとなんだろうな」と言葉を選んで、こう付け加えた。「しらふで音楽に酔いたいよね」。 (取材・文/東京本社学芸部 伊藤遥)
2023年11月8日付夕刊掲載