【地方銀行のリアル】(49) 三十三銀行(三重県)――2行合併“視界不良”の船出
御三家、三種の神器、三位一体――。日本では古来、3という数字はとりわけ縁起が良いとされてきた。抑もが奇数。偶数のように割り切れず、縁が切れないことを想起させる上、最初の奇数である1と最初の偶数である2を合わせた3は“調和を表す”とも言われる。3の読みである“みっつ”が“満(充)つる”に通じるという語呂合わせからも、好まれて使われるようだ。そんな3に満ち満ちた銀行が今年5月1日、船出する。『三重銀行』と『第三銀行』が持株会社『三十三フィナンシャルグループ』の下で合併して誕生する『三十三銀行』だ。行名ばかりではない。新銀行の初代頭取に就任する予定の三重銀行頭取兼三十三FG社長の名前は渡辺三憲。新銀行発足と共に特別顧問に退くとはいえ、旧大蔵省出身で第三銀行現会長の名前は谷川憲三。まさに三尽くしといったところか。尤も、こうした縁起物の数字とされる3も、旧日本海軍関係者らの間では蛇蝎の如く忌み嫌われていたという。末尾に三の付く潜水艦で不幸な事故が相次いだ為だ。実際、伊号第三(※伊三)潜水艦は1928年に座礁事故を起こした上、1937年には潤滑油タンクの爆発事故で18人が死傷。伊五三は1936年に伊五六と接触事故を起こし、伊六三は1939年に僚艦の伊六〇と衝突して沈没するという憂き目に遭っている。こうした中でも“禍々しさの極み”とも言われているのが、伊号第三三潜水艦だ。
何しろ、就役から3ヵ月後の1942年に艦首を珊瑚礁にぶつけて応急修理中に注水ミスで自沈。水中から引き揚げられ日本本土に回航されて本格修理を終えた1944年、今度は訓練中に急速潜航を行なった際、ディーゼルエンジンの吸気弁から浸水して沈没と、二度も沈没しているからだ。しかも、最初の事故での犠牲者が33人(※後者は102人)というのだから、偶然にしては出来過ぎだろう。だが、伊三三が招き寄せた凶事はこれにとどまらなかった。終戦後の1953年、沈没した伊予灘から引き揚げられ、『日立造船』(※現在の『ジャパンマリンユナイテッド』)の因島工場で調査中、前部魚雷発射管室を開けたところ、内部に充満していた有毒ガスが噴出。立ち入ったエンジニアらが死亡したのだ。犠牲者は3人。こうなると最早、3も33も呪われた数字というしかない。そんな“因縁”をも呑み込んで始動する新銀行は、2020年9月末実績の単純合算で預金量3兆7513億円、貸出金量2兆7943億円。三重銀行、第三銀行単独では現在、預金・貸出金とも地銀102行中70位前後にとどまっているが、合併により預金で38位、貸出金では37位のランクにまで浮上する。本店は四日市市にある三重銀行本店に置き、第三銀行の岩間弘頭取が代表権のある会長に就任。三重銀行現会長で旧『住友銀行』出身の種橋潤治氏は、谷川氏と同じく特別顧問に就く。社外を除く取締役は11人で構成。うち三重銀行出身が6人と多数派を占める形となる。基幹系システムは、合併と同時に第三銀行が利用する『日立製作所』提供のシステムに統合する計画だ。その新銀行が掲げるのが“質の高い地域ナンバーワン銀行”。事業承継やM&A、ビジネスマッチング等法人向けの手数料ビジネスを成長戦略の基軸として収益力を強化。域内トップバンクである『百五銀行』(※本店は津市)を凌駕する存在を目指していこうというもので、「徒に貸出金量を追い求めることはしない」(渡辺氏)という。金融界は2013年から続く異次元緩和の真っ只中。況して、新銀行が主戦場とする東海地区は“名古屋金利”や“岐阜金利”といった言葉にも象徴されるように、全国的にも貸出金利の水準が低いことで知られる。既に三重銀行の総資金利鞘は直近3期連続マイナス。第三銀行も2020年3月期は遂に逆鞘へと転じた。預貸金ビジネスに頼っていては収益の底上げは望めないというわけだろう。とはいえ、百五銀行の背中は遠い。三重銀行と第三銀行のコア業務純益は、2020年3月期の単純合算で88.9億円(※前期比18%減)。これに対し、百五銀行は132.72億円(※同6%減)で、そこには50億円近い実力差があるからだ。