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【劇場漫才師の流儀】(241) 僕のモーニングルーティン

「僕のモーニングルーティンなんて誰が興味あんねん」ですね(笑)。一時期、『YouTube』で流行りましたよね。有名人が朝に起きてからの流れを動画で配信するの。編集者さんが「巨人さんのモーニングルーティンを教えて下さい!」と言うので、今回、動画ではありませんが、僕のモーニングルーティンを紹介したいと思います。まぁ、あんまり期待せんといてな。普通やから。起床時間は劇場の出番によって違うんやけど、大体8時過ぎ。まぁ、夜中に何回も目が覚めますが。僕は長袖の綿のパジャマを着て寝ています。オールシーズン、長袖です。寒がりやから、肌が出ているのが嫌なんですよ。布団も、夏場でも重たいのじゃないとだめ。人がひとり乗っかってても寝られるかも。目覚まし時計は1個だけかけます。それで十分。気付かずに寝坊した、なんてことは一度もないですね。布団を出たら、1時間くらいかけて準備をします。先ず顔を洗って、歯を磨いて、お白湯を1杯飲みます。朝に水分を補給するのは体にいいと聞いたのでね。朝食は大体、3パターンやな。“おかいさん”か、“ぶっかけ”か、トースト。おかいさんって、関東の人はわからんかな。お粥のことやね。“お粥さん”とも言うけど、大阪は“おかいさん”っていうことが多いな。“ぶっかけ”は卵かけご飯のことです。

おかいさんの食べ方は、ちょっと変わっていまして。大きめのどんぶりにおかいさんを入れて、上に目玉焼きをのっけるんです。そこにチューブ式のバターをかけて食べます。フロリダにロケに行った時に、地元の人がこれを食べていたんです。バターに塩分が含まれているので、目玉焼きも美味しく食べられるし、何より準備してくれる嫁が楽なんですよね。物足りない時は、色んな種類が入っている小袋のふりかけを、そこにひとつかけます。トーストの時も、嫁に目玉焼きは焼いてもらいます。前職が卵屋だったからか、朝は卵を食べんと落ち着かないんです。食事を終えて、神棚と仏壇にお茶とお水をあげて、線香に火をつける頃に、大体便意をもよおしてきます。このタイミングが一番多いな。なので、慌てて線香を立てて、トイレに駆け込むんです。新聞は『朝日新聞』と『日刊スポーツ』を定期購読しています。食事しながら野球の結果を確認して、芸能ニュースに目を通して。あと、何十年も必ずチェックする欄があります。裏1面を1枚めくると、占いのページがあるんです。『0学占星術』という運命学らしいんですけどね。その日のバイオリズムが書かれていて、滅茶苦茶よく当たるんですよ。なので、書いてある内容を参考に行動したりもします。ただ、最近は読んだ後直ぐに「あれっ、今朝は何て書いてあったっけ?」ってなるんです。なので、当たったかどうかもわからない。年を取るってこういうことですね。読んでも意味ないのかな。困ったもんです。 (聞き手・構成/ノンフィクションライター 中村計)


オール巨人(おーる・きょじん) 漫才コンビ『オール阪神・巨人』のボケ担当。1951年、大阪府生まれ。大阪商業高校卒業後、1974年7月に『吉本新喜劇』の岡八朗に弟子入り。翌1975年4月に素人演芸番組の常連だったオール阪神とコンビを結成。正統派漫才師として不動の地位を保つ。著書に『師弟 吉本新喜劇・岡八朗師匠と歩んだ31年』・『さいなら!C型肝炎 漫才師として舞台に立ちながら、治療に挑んだ500日の記録』(ワニブックス)。近著に『漫才論 僕が出会った素晴らしき芸人たち』(ヨシモトブックス)。


キャプチャ  2022年11月7日号掲載

テーマ : お笑い芸人
ジャンル : お笑い

【安田理央の「アダルトカルチャーの今と未来」】(12) エロ本編集部を舞台にした映画がリアル過ぎて胸が痛い

『テアトル新宿』で、10月28日から1週間限定で公開される『グッドバイ、バッドマガジンズ』という映画があります。エロ本編集部を舞台にした映画と聞いて、「どうせまた現実離れした話だろうなぁ」と思っていたのですが、試写を見て、そのあまりにリアルな描写に「痛テテテ…」と胸を押さえたくなりました。映画の舞台は2018年。大手コンビニが成人向け雑誌の取り扱いを止める1年前の話です。つまり、“エロ本最後の1年”とも言える時期なんですね。サブカル雑誌『GARU』に憧れていた主人公の詩織がその版元に採用されるものの、配属はエロ本編集部(※しかも入社1日目にGARUの休刊が発表)。戸惑いながらも奮闘する詩織ですが、エロ本は既に瀕死の状況にありました。エロ本といいつつ、メインは付録のDVDで、本誌の写真もほぼAVメーカーからの流用で、編集部の撮影はほぼなし。近年の多くのエロ本の編集者は、生身の裸を見る機会がないのです。僅かに残った独自企画のモノクロページも、営業から「それは削って、その代わりにDVDの収録時間を増やせ。あとパンツの付録付けろ」と言われたり、エロ本の編集部に飛ばされてきたGARUの元副編集長が延々と付録DVD用の動画編集をやらされていたりと、この時期のエロ本を知っている人なら、痛みを伴う“あるある”の連続です。

そこには、エロ業界を舞台にした物語にありがちな“世間の常識からはみ出した自由でハチャメチャな世界”はありません。作中では、大半の編集者はパソコンに向かって、黙々と動画編集の作業をしています。ベテラン編集者が「今の子は可哀想だな。編集が流れ作業だから。貧しいんだよ、全部」と言うシーンがありますが、そんな状況の中でも現場の彼らは必死に頑張っているのです。映画のラストに、港町の個人経営のコンビニで、細々とエロ本が売れているというシーンが出てきます。お年寄りや、電波の届かない遠洋漁業の人が買っているというのです。「未だそういう人たちにはエロ雑誌が必要なのだ」と元編集者は呟きます。でもそれは、最早エロ本は限られた人達だけに支えられた存在だということを示しています。さて、筆者はエロ本衰退の原因のひとつは、付録のDVDに頼り切ってしまったことにあると考えています。DVDが主体となり、エロ本としての存在意義が失われていったからです。しかし今、そのDVDも衰退するメディアになりつつあります。DVDを再生できる環境にある人が少なくなっているからです。多くの人はスマホでAVを見るようになりました。ただ、DVDがVHSを駆逐するのには登場から約10年かかりましたが、AVの動画配信が始まってから20年以上が経っても、DVDは意外にしぶとく生き残っています。次回からは、この古参メディアの今と未来を掘り下げてみましょう。


安田理央(やすだ・りお) フリーライター。1967年、埼玉県生まれ。雑誌編集者やコピーライターを経て、1994年からフリーに。著書に『AV女優、のち』(角川新書)・『ヘアヌードの誕生 芸術と猥褻のはざまで陰毛は揺れる』(イーストプレス)等。


キャプチャ  2022年11月7日号掲載

テーマ : 雑誌
ジャンル : 本・雑誌

【山根明のノックアウト人生相談】(175) 騒動時は僕も緊張で下痢しました…信念があるからデンと構えられる!

Q. 学生時代から、緊張がお腹にくるタイプです。受験の際にも、テスト当日に朝から下痢になり、志望校に落ちました。どうしても口説きたい女性とのデートでも、腹痛に見舞われ、残念な結果に。仕事でも、ここ一番や、気が重い会議では、しょっちゅうお腹が緩くなります。いい加減、緊張しがちな性格を克服したいです。どうすれば、山根会長みたいに修羅場でもドンと構えられるようになりますか? (福島県・43歳・会社員)

A. こういう緊張感がある人はね、人間的に真面目な人が多いんですよ。ちゃらんぽらんな人間は、そうじゃないんですけどね。これは病気でも何でもないですから。精神的な問題やさかい、本人しか治す方法がないね。医者でも治せない。まぁ、言うなれば真面目の病だ。僕でもね、緊張したら下痢しますよ。そういうこと、いっぱいあります。特に騒動の時は、僕も下痢していましたからね。思い出したくもないんやけど、自分ではわからん間にお尻が汚れとったからね。だから、ティッシュペーパーをお尻のところに重ねたり、パンツとの間に詰めとったんです。騒動の時は、他人に言えないぐらいのストレスがあったからね。僕自身はもう、投げやりいうんですか。いつ死んでもええわと。連盟や記者団の前で倒れても俺は戦うと。悪いことはしていないという信念を持って、生きとったからね。だから、デンと構えていたんです。若し悪いことしとったら、神経を使って、ソワソワしてね、逃げまくるからね。ファンからも『どうしてデンと構えられるんですか?』ってよく聞かれるけど、それは真似しよう思ってできるもんじゃない。デンと構えるのは、自信があるからですよ。悪いことしとったら、デンと構えることはできないね。この相談者の解決策は、もう少し気楽になることです。例えば、女性のことで悩みがあっても、気楽にね。リラックスする気持ちで、女性を好きになる。真剣に思い過ぎると、下痢することになりますからね。女性に愛を持って、「好きや!」と思うのも、ある程度、自分で考えて調整すべきだね。ホンマにこの人は真面目な人や思う。治すのは本人の気持ち次第ね。リラックスする方法は、本人しかわかりませんから。まぁ、山根明と大阪でお会いして、10日でも一緒におったらね、僕が自信を持って、この人をリラックスさせてあげるけどね(笑)。あっ、でも僕に会うファンの人は皆、「緊張しました」って言うんですよ。何で!? 僕は来てくれて嬉しいから、リラックスして物を言っているんですけどね。先日も、僕の誕生日会が妻の経営するクラブであって、もう超満員ですよ。お花とかプレゼントとか、高級な帽子やマフラーも頂いてね。「好きなお酒飲んで下さい」って。いや僕、ボクシング連盟の会長を辞めて幸せやなと。感動しましたよ。


山根明(やまね・あきら) 『日本ボクシング連盟』前会長・在日コリアン2世。1939年、大阪府生まれ。大阪商業大学ボクシング部ヘッドコーチ、大阪経済大学ボクシング部監督、シドニー五輪日本選手団ボクシング競技監督を歴任。2011年2月に日本ボクシング連盟会長に就任、2012年10月に理事会全員一致で終身会長となったが、助成金の不正流用等を理由に2018年8月8日を以て同会長・理事を辞任。著書に『男・山根 “無冠の帝王”半生記』(双葉社)。


キャプチャ  2022年11月7日号掲載

テーマ : 人生を豊かに生きる
ジャンル : 心と身体

【Test drive impression】(269) フルモデルチェンジした“トヨタの顔”を公道試乗! 16代目クラウンが激変した理由

https://wpb.shueisha.co.jp/news/car/2022/11/02/117640/


キャプチャ  2022年11月7日号掲載

テーマ : 新車・ニューモデル
ジャンル : 車・バイク

【中小企業のリアル】(52) 三木特殊製紙(愛媛県四国中央市)――創意工夫で可能性に挑戦



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公園の展望台から愛媛県四国中央市の全景を眺めると目立つのは、製紙工場の4本の高い煙突だ。四国のほぼ中央に位置する宇摩は紙の町で、約500もの紙関連企業がある。尤も、この地域の紙産業の成立は江戸中期といわれ、高知や愛媛県の大洲の和紙に比べて後発である。宇摩の紙産業の始まりは、山奥の集落で周囲に自生する楮を原料に紙漉きを始めたこととされている。それが軈て平野部にまで広まり、地場産業として定着していった。温暖な瀬戸内といえども冬季に採れる作物は限られるので、農閑期の副業として都合がよかったからである。更に、冬は微生物が繁殖しないので、良い紙ができた。宇摩地域は天領・今治藩領・西条藩領と分割統治されていたことから、他の産地の紙産業のように販売等で特定の藩の庇護を受けることもなく、自力で販路を切り開かねばならず、大変な苦労があった。だがその一方で、製造にも自由な工夫を試みることができた。例えば三角乾燥機の開発だ。一辺60㎝、長さ2m弱の三角形の金属筒を作り、中を蒸気で熱する。漉いた紙を貼って回転させて乾かすのだが、それまでの天日干しと違って、速く乾き、天候にも関係なく24時間操業可能、しかも皺のない仕上がりで、生産能率は倍増した。そして明治に入り、廃藩置県で他の産地が藩という後ろ盾を失い衰退していったのに対し、自前の販売網を構築していた宇摩の紙は躍進のチャンスを掴んだのである。日本の4大製紙メーカーの一つである『大王製紙』も、太平洋戦争中にこの地で14工場が合同合併して誕生した。その大王製紙に比肩する製紙工場で工場長を務めていた三木軍次が1947年、軍から払い下げの物資で機械を組み上げて始めたのが、現在の『三木特種製紙』の前身である『三木製紙工場』だ。

当時は戦後の出版ブームで普通紙の需要が旺盛だったが、軍次は創業当初から薄葉紙、絶縁紙等の特殊紙の生産に取り組んだ。絶縁紙は送電設備に使用され、戦後の送電網復興には欠かせない製品であった。金箔の裏打ち原紙もヒットした。薄い丈夫な紙(※30㎝角程度)に金箔を挟んで交互に積み重ね、これを鎚で何百回も叩いて引き延ばし、約0.2gの金を畳1畳分(※厚さ約1万分の1㎜)にまで延ばすのだが、その際bに最も大切なのが金箔を挟む和紙だ。丈夫で、しかも伸縮性がなければならない。これを京都の金箔業者に出荷したところ、その繋がりで、西陣織の帯等に使われる金糸や銀糸(※紙を紙縒りのように紐状に伸ばして金箔や銀箔を付着させる)に使う紙に展開されることになった。1950年代に入り化学繊維メーカーが台頭すると、軍次はレーヨンやビニロンで作れば丈夫な紙になるのではないかと考えた。だが、化繊は水分を弾くので、そのままでは紙にできない。そこで、繊維を均一に分散させる為の界面活性剤・接着剤を色々試し、ある種の融着繊維を混ぜ込めば均質な紙にできることを発見して、1958年に世界初の化学繊維紙を開発した。それまで障子紙は破れ易く、半年に一度は張り替える必要があったが、化繊が入ると撥水性もあり、強度が高まるし、変色も少ない。年に1回の張り替えで済むようになって喜ばれ、『ミキロン』と名付けた商品は大ヒットした。経営が軌道に乗り始めた1953年には、三木特種製紙と社名を変更した。原料パルプを“タネ”と呼ぶが、“木材以外に色々なタネを使う”という意味を込めている。今では“あらゆる繊維を紙にする”が同社の合言葉であり、新しいタネと、それを分散する技術、更に水分と馴染ませる薬品の開発がポイントになっている。次に取り組んだのが、自動車や家電等工業用で使用する両面テープ基盤素材だ。接着剤の性能向上もあって、大いに使われるようになった。更に、そこで生まれた自動車メーカーとの繋がりから、塗装時の区切りに使用するマスキングテープを開発した。この素材は、縦方向に切れ難く、横方向に直ぐ切れるものがよいとされていて、接着剤との相性等微妙な工夫を施した。1970年代には、ポリエステルを素材にした紙を抄いた。これは耐熱、耐水、耐油性が高く、色艶も良いので、特に高級菓子の包み紙等に使われ、人気を集めたが、意外な用途にも広がった。電気絶縁性が高いことから、撚り線コードの絶縁用に使用されたのだ。ポリエステル紙の評判は海外にも伝わり、1980年代に入った頃にはソビエト連邦から大量注文があった。固定電話の配線基板に使っていたらしい。この時の量産の為に開発した技術は、水処理用の逆浸透膜の支持体にも利用され、大いに役立っている。

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テーマ : 経済
ジャンル : 政治・経済

【Global Economy】(291) 洪水に地盤沈下、備え急ぐ…供給網の要、東南アジアに懸念

東南アジアの主要都市で、浸水リスクへの懸念が強まっている(※①)。多発する豪雨等の被害に加え、急激な都市化で地盤沈下が進む場所もある。東南アジアはサプライチェーンの要であり、進出企業は対応を迫られている。 (バンコク支局 山村英隆)



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「出勤を見合わせる等し、交通渋滞を緩和するように配慮してほしい」――。今月上旬、タイの首都バンコクで、副知事を務めるタビ ダー・カモンウェート氏は、首都圏に住む人達に「道路が冠水する恐れがある」として、3日間に亘り在宅勤務を要請した。タイでは雨期の終わりにあたる9~10月、各地で水害が発生する。今年は観光地のプーケットや東北部等で大規模な洪水が起きた。高層ビルが建ち並ぶバンコク中心部でも年に数回、豪雨で道路が冠水することがあり、経済活動はストップしてしまう。雨期が明けても気は抜けない。タイを流れるチャオプラヤ川はなだらかで、上流部で大雨が降って暫くした後、下流のバンコク等で洪水が起きるケースがある為だ。東南アジアではこの他、フィリピンやベトナムでも毎年のように台風による被害が起きている。東南アジアの都市部では、下水道の排水機能が抑も低いことが指摘されている。放水路にごみがたまって排水機能が落ちているケースもあり、一度豪雨に見舞われると影響が拡大しがちだ。水害は、気候変動の影響でより深刻化していると考える人が多い。シンガポールの『ISEASユソフイシャク研究所』が先月公表した調査『東南アジア気候見通し2022年版』(※②)によると、東南アジアの大都市部の住民が、気候変動が影響を与えていると考える現象のトップは洪水となっている。東南アジアの大都市では、新たな脅威として地盤沈下の影響も深刻化している。地下水の汲み上げ過ぎが主な原因とされる。特に深刻と言われているのが、インドネシアの首都ジャカルタだ。

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『世界銀行』は2016年、「(海に面する)北ジャカルタの一部エリアでは、地盤が年に15~25㎝も沈下している。このままでは、2025年には海面下4~5mに沈んでしまう」と指摘した。既に、満潮時に海水が浸入するエリアがある。地盤沈下は、フィリピンの首都マニラやベトナムの商業都市ホーチミン等でも大きな問題となりつつある。東南アジアでは、製造業を始め世界的な企業が多数の生産拠点を構える。大きな水害が起きれば、市場に商品が届かなくなるといった事態が起こり得る。2011年に起きたタイの大洪水では、工業団地のある中部のアユタヤ等で被害が広がった。昨年12月にマレーシアで起きた洪水では、クアラルンプールやセランゴール州等が豪雨に見舞われた。何れも自動車や半導体等の企業が生産停止となり、世界的な混乱に繋がった。現地に進出する企業数は増加傾向で(※③)、サプライチェーンは複雑化している。東南アジアで企業活動のリスク分析を手がける『タイ国東京海上火災保険』の林将大シニアリスクコンサルタントは、「自社の生産拠点が被災しなかったとしても、部品を仕入れている工場が被災したり、周辺の交通網に被害が出たりすれば、生産全体に影響が出る恐れがある」と指摘する。最悪の事態を避けるには、浸水リスクが少ない場所に工場を移転させることが最も早い解決策だ。だが、日系企業関係者からは「工場の移転は現実的ではない」という声が上がる。例えば自動車産業では、バンコク周辺に大手自動車会社の生産拠点の他、部品を納入する関連会社の工場が集積している。また、現地に進出する企業は工場開設時に多額の投資をしている。他の場所へ直ちに移転するのは難しい。この為、現地に進出する企業では、災害時でも生産を続ける為の自衛策を取っている(※④)。

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テーマ : 経済
ジャンル : 政治・経済

【最強の話術を身に付けろ!】(20) 『amazonのすごい会議』著者が伝授! これが“効率的な会議”の要諦だ

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会議での議論を活性化させ、有意義な場にする為には、ファシリテーター(※進行役)の役割が大変重要だ。会議全体が冷め過ぎも熱し過ぎもしないよう、熱量(※雰囲気)を如何にコントロールしながら進めていけるかが腕の見せどころ。会議の成否は、ファシリテーターの運営次第で決まってくる。
①意思決定会議
議案の説明から入るのが一般的だが、『Amazon.com』ではその場で議案資料が配付され、それを各出席者が最大15分間かけて黙読するのが通例。その間、質問は一切受け付けない。出席者全員に議案内容をしっかり把握してもらい、黙読後に質問や議論に移る。議論が上手くかみ合っている間はいいが、意見が分かれて議論が熱くなり、収拾がつかなくなった時、ファシリテーターは「ちょっと冷静になろう」と声をかけて熱を冷ます。一歩引いてお互いの主張を聞いてみることが求められる。高台に上がって皆の動きを俯瞰する会議運営手段のひとつで、Amazonでは“バルコニー”と呼ぶ。これにより、今までとは違う観点へ議論を導ける。逆に、発言が少ない人にはどう対処するか。意思決定会議では、出席者にははっきりと意思表明を行なってもらう必要がある。発言の少ない人は賛成だから意見がないのか、それとも意見があっても言い淀んでいるのかがわからない。後者の場合、頭の中にモヤモヤとある意見を上手く言語化できない人もいる。その時は、ファシリテーターから「貴方の言いたかったことは○○○ということですよね」と言葉を足してやる。これを“リフレーズ”と呼び、発言の少ない出席者に意見表明を促す運営手段だ。また、発言の中には、重要な視点だが本筋からずれている意見も時にはある。問題は、そういった意見がちょっとした盛り上がりを見せ、その流れが暫く続いてしまうと、会議の場の集中力が途切れてしまうこと。そうならないように、この種の意見はホワイトボードの片隅に一旦保留しておく(※パーキングロット)。その後で必要なら取り出し、不要なら消去する。そうすれば発言者のプライドも傷付かない。意思決定に当たり、AmazonでNGだったのはソーシャルコヒージョン(※社会的一体性)。創設者のジェフ・ベゾス氏が嫌っていた考え方で、「社会的な柵に配慮して妥協するような結論の出し方は止めるべきだ」ということ。社内や部署の利益が優先され、顧客の思いが反映されていない施策、足して2で割ったようなアイデアは実施する意味がない。
②アイデア出し会議
意見が出る環境をつくることが大切。ただ、座って「意見を出して下さい」と言っても上手くいかない。ファシリテーターは考え得るお題を色々な角度から振ってみる。議題に対して様々な質問を投げてみて、意見を聞くのもいい。特に、議題を挙げた部署とは異なる所属の出席者からの発言は求めたほうがいい。エキスパートの常識とは違った新たな視点で、良いアイデアがポロッと出てくるかもしれないからだ。出てきた意見を幾つかにグルーピングしておくのもファシリテーターの仕事。その為、議題をどう分解すべきかを事前に設計しておく。粗削りでも、アイデアは早くどんどん出してもらったほうがいい(※クイックアンドダーティー)。最初からあまり精度を求め過ぎてしまうと、意見が出なくなるし、決まらない。スピードを落としてまで最終的な品質を過剰に高めることは得策ではないのだ。構想3年等と言っていたら、完成した時には世の中がすっかり変わっている。不確実性は高まっており、あくまでスピード重視でいくべきだ。アイデア出し会議では、よく「そんなものは売れない」等と、折角の意見に対して批判が出たりする。そんな時、ファシリテーターは「売れない根拠を教えてもらえますか? 論理的に説明して下さい」との投げかけが必要。ファクトも裏付けもないなら、その批判は単なる感情論に過ぎない。逆に、リーズナブルな批判ならそれに従えばいいわけだ。また、抑もアイデア出し会議の人数は多くないほうがいい。Amazon内ではよく“2ピッツァ”という言葉で表現する。2枚のピザを食べられる程度の人数で、6~8人だ。関係者が大人数いる場合なら、数チームに分けてディスカッションしてもらう。そうしないとアイデアが深まらないからだ。
③進捗管理会議
実施することが決まった後のキックオフまでの会議や、立ち上げ後のパフォーマンスを測る会議がこれに当たる。期限を決め、問題は起きていないか、KPI(※重要業績評価指標)等目標数値を達成できているかをチェックしていく。異常値が出たり、伸び率が頭打ちになったりしたらダイブディープをすべきだ。真因に迫る為に問題点を深掘りすることだ。表面的なKPIの数値は達成していても、別の数値が悪かったりした場合、何か負の影響を与えているものがないかを確認していく。3つの会議に共通することとして、会議の最後の5分間はクロージングに充てる。基本的にはその日の会議の決定(※同意)事項を振り返り、次の会議の日程や議題を伝える。意思決定会議の場合は、決定後の進捗度を測るKPIやKGI(※重要目標達成指標)等、メジャーオブサクセス(※成功の度合いを測る指標)を決める。更に、会議出席者の心構えとして重要なのは、“自分事”としてその会議に参加できるかという点だ。「これは他人の仕事だから自分には関係ない」との思いで会議に臨んだのでは、会社全体にとってマイナスだ。誰が主宰する会議であっても主体性を持って発言し、おかしいと思ったら異を唱える。そして、議案に反対していたとしても、一旦決定したら100%コミットする姿勢が肝要だ。 (『エバーグローイングパートナーズ』代表・事業成長支援アドバイザー 佐藤将之) (構成/本誌 鈴木雅幸)


キャプチャ  2021年10月2日号掲載

テーマ : 社会ニュース
ジャンル : ニュース

【儲かる農業2022】(06) 令和の豪農達①…『野菜くらぶ』代表が語る経営危機からの復活劇

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恒例の人気企画“レジェンド農家”は、“担い手農家アンケート”回答者の経営データを事業規模や成長性、安定性等の観点からポイントを付与してランキング化したものだ。今回1位に輝いた『林牧場』と2位の『ファロスファーム』は、農家から規模を拡大した大規模養豚場として業界内で双璧を成す存在だ。共に22%超という高い利益率を叩き出していることからも、業界における断トツぶりが見て取れる。ファロスファームは、4万頭の豚を飼育する農場をたった15人の社員で運営する等、合理的な生産を実現した。疾病を持ち込まない飼育を徹底し、1頭当たりの薬品代は業界平均の1700円弱に対して、約300円に抑えられているという。鈴木達也管理本部長は、「生産性の向上によって、昨今の飼料高、為替変動リスクにも十分耐え得る収益構造を確立している」と自信を見せる。最近は、大手自動車メーカー等製造業からも中途人材を獲得し始めている。製造業のカイゼンを養豚に根付かせることで、競争力を更に高めようとしているのだ。レジェンド農家3位は『舞台ファーム』と、澤浦彰治氏が経営する『グリンリーフ』と『野菜くらぶ』だった。田畑で作物を栽培する農家(※耕種農家)の中で最高位ということになる。澤浦氏は本誌編集部が作成した“農家が選ぶ「カリスマ農家」ランキング”(※左表参照)で3年連続首位であり、レジェンド農家の耕種農家1位と合わせると“二冠王”だ。農業界で最も名誉と言える農林水産祭の天皇杯を受賞する等、澤浦氏は業界のトップランナーとして驀進してきたように見える。

20221031 06
だが4年前、1億5000万円の赤字に沈み、社員に冬のボーナスを払えなくなる事態に陥った。生産性が低い、商品開発が進まない等、複合的な要因で経営が悪化していた。経営の見える化や社員の評価制度の見直し等は行なっていたが、そういった仕組みが生産性の向上に結び付いていなかった。澤浦氏は2019年の年明け早々に社員を集め、業績が悪化しているのは自分自身の責任であることを明確にした上で、働き方を抜本的に改革し、2年で業績が改善しなければ経営幹部の退任も辞さない覚悟を表明。退路を断った。それからKPI(※重要業績指標)を定めて達成状況を日々管理したり、賞与の原資となる積立金の額の増減を毎月社員が見られるようにしたりして、社員のモチベーションを高めた。現在、有機栽培の蒟蒻や野菜等の加工品の販売が好調だが、建設中のミールキットの工場が完成すると更に収益力が高まる見込みだ。10年後に売上高100億円、将来的には経常利益率20%を目指す。この利益目標は、天候の影響を受け易い耕種農家が成長投資を行なう為に達成すべき水準だという。澤浦氏は、「明治維新後の豪農は、現在の貨幣価値で売上高100億円を超える経営をしているところもあった。現代では養豚、養鶏では大規模化が進んだが、耕種農家は畜産ほどインテグレーションが進んでいない。だが、畜産でできて耕種でできない理由はない」と話す。令和の豪農が日本の農業を変革する未来は遠くなさそうだ。


キャプチャ  2022年5月28日号掲載

テーマ : 農業
ジャンル : 政治・経済

【愛犬&愛猫の大問題】(27) 「うちの子と、うちの子じゃない犬・猫が教えてくれること」――糸井重里氏(『ほぼ日』代表取締役)インタビュー

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――日本ではまだまだペットを巡る悩みは“たかが犬・猫”と言われ、 大の大人が口にするのは憚られる空気があります。
「そうかな? 表立ってはそう言われないところまでは来たと思います。犬猫あっての人間の社会だという認識が広まって、ペットを家族と呼ぶことへの抵抗も小さくなっています。私たちの会社である“ほぼ日”も、ペットロスを理由に休むことは自由です」
――ペットが家族の一員として認められるようになった転換点は何でしょうか?
「嘗ては『殺処分は可哀想だ』と思っても、引き取るのは奇特な行為でした。大きな転換点は東日本大震災では。被災地で飼い続けられない犬や猫が大量に出た結果、保護犬・保護猫として家族に迎えることが“当たり前のこと”としてオーソライズされ、一般的になりました。ただ、地方自治体の動物愛護センターに飼えなくなった子を持ち込む人は、自分で里親を探す努力を最大限してほしいと思います」
――今や家族になった犬・猫。人間に何を与えているのでしょう?
「権力者は人心を掌握するのにパンとサーカスを与える、という言葉があります。生命を繋ぐ食糧も楽しみも、どちらも人間には大事なものだということ。人間は、ペットがいないからといって生きていけないわけではないけれど、生きる上で重要なものをペットが与えてくれています。犬や猫を飼っている人は必ずといっていいほど、『この子にどれだけ助けられたか』と言います。例えば、ホームレスが犬や猫を飼っていることもあります。自分自身の食べ物が十分でなくても、それを減らしてでもペットに与えているのです。それは何故か? 誰かの面倒を見て細やかにでも役立っていると思うことは、自分の心を救ってくれるからです。そういう面倒を見るという関係性を、犬や猫との間に求めているのです。東日本大震災の時、被災地で地元の人がバーベキューで歓待してくれました。彼らの食糧を奪っている気がして『何だか悪い』と言うと、『ご馳走するというのは自分達がしたいこと。それができないとちゃんと生きていることにならない』と返されました。他人の面倒を見たい、関係を持ちたいというのは人間の本質的な欲求。その欲求を犬や猫は満たしてくれるのです。動物をケアすることは、ある種、“面倒臭いこと”です。でも、人間は面倒臭いことを全部省いていくと、寧ろ生きていけなくなる生き物なのだと思います。だから、面倒臭さを齎し、人間の“何かを世話して何かと関係したい”という欲望を満たしてくれるペットは、人間を人間らしくしてくれる存在といえるのです」
――ご自身は2018年に愛犬のブイヨンを亡くしました。
「多形紅斑という珍しい病でした。ペットの最期を看取る際、どこまで医療を尽くして延命を図るのかという点で、人間のほうが試されます。ブイヨンの場合、“もう一日延命するか否か”を僕が判断しました。点滴の麻酔で眠り、家族の胸に抱かれて亡くなりました」
――ブイヨンが糸井さんに与えてくれたものは何ですか?
「ブイヨンがいたからあったもの全部、としか言いようがないです。入院治療は大変でしたが、半日帰宅して一瞬食欲を取り戻してくれたというようなことでも、思い出が一つ増える。そして、こういう思い出を通して夫婦、つまり人間同士の関係も深くなるんです」
――闘病というつらい経験を通しても、愛犬や家族との関係性が築けたということですか?
「名前を付けて一緒に暮らした関係の累積は、簡単には他の犬や猫では埋められません。新しいペットと関係をつくることはできますが、代替するのとは違います。うちはブイヨンが死んだ5ヵ月後、同じ犬種のブイコを迎えました。2頭ともさつまいもが好物というところは同じなんですが、食いつき方ひとつ取っても2頭で全く違います。だから、さつまいもを巡る反応の違いをきっかけにして、ブイヨンの思い出を反芻してしまうんです。昔の文学青年が“山のあなたの空遠く”と詩を諳んじて愛おしんだように、いなくなってしまった犬や猫のことを思い出すのは、誰にでもできる芸術的な行為ではないでしょうか」
――全ての犬・猫は、人間のミューズ(※ギリシャ神話の詩と音楽の女神)かもしれません。そういう動物の為に、人間は何ができるでしょうか?
「これまでの動物愛護活動では、不幸な境遇にある犬や猫達の“悲惨さ”を訴えることが多かったのですが、先ずは自分が飼っている“うちの子”を可愛がることから始めるといいと思います。飼い主とうちの子が先ず幸せになる。そうしたら、『幸せじゃないどこかの子に何ができるだろう?』と考える。そんな風にして自分の幸せが溢れ出た分だけ、ちょっとお金や時間をどこかの子に使う。それが持続的に動物を愛していくやり方ではないでしょうか」
――ほぼ日のペット写真共有アプリ『ドコノコ』は累計ダウンロード数が33万に達して、愛犬家や愛猫家から静かな人気を集めています。
「ドコノコは犬と猫の住民台帳的なサービス。ペットとして飼われている子だけでなく、地域猫であっても、誰かが“この子はどこそこにいる子”と認識すれば、それで人間との関係性ができます。うちの子も、よその子も、地域の子も、皆、誰か人間に紐付いている。そういう風に他の子を見れば、地域猫の姿が見当たらないような時にも『どうしたのかな?』と考えるようになります。ドコノコには迷子になった犬猫の掲示板機能がありますが、スタート時に比べて発見率が段違いに上がっています。それは正しく、誰かがケアして誰かに紐付いている子であれば、皆が気にするようになるからでしょう」 =おわり

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テーマ : 動物・植物 - 生き物のニュース
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【魚が食卓から消える日】(01) サーモンだけでなく鮭ハラスも100円皿で提供できなくなる!?

20221031 03
サカナは日本の伝統的食文化の根幹を成す食材です。島国に住む私達にとって、魚介類はいつでも気軽に食べられる存在でした。しかし、そんな時代は過去のものになってしまうかもしれません。ロスジェネ世代のど真ん中に生まれた私は、大学卒業後に紆余曲折あって語学留学の為にアルゼンチンに渡りました。その後、現地の水産業者に雑用係として雇われ、エビやイカを買い付けに来る日本企業との商談等を担当しました。帰国後、輸入商社を経て日本の大手水産会社に就職し、昨年独立。水産貿易商社の代表兼水産アナリストとして活動しています。気付けば20年近く、この業界に身を置いていることになります。因みに、私の父も築地の魚市場で40年以上、商売をしていたので、子供の頃から私の生活はサカナと共にありました。そんな私が今、日本の水産業界で目の当たりにしているのは、過去に経験したことのない大きな変化です。日本の魚食文化は、このままでは大きく衰退してしまうでしょう。そんな懸念を業界の外にいらっしゃる皆さんとも共有したく、この度、筆を執らせていただくことにしました。では早速、具体的な話に入りましょう。例えば今年、庶民の味方だった回転寿司チェーンが軒並み価格変更に踏み切ったことは、読者諸氏にとっても印象的だったのではないでしょうか。業界最大手の『スシロー』は10月から一番安い皿を10円値上げすることを発表。『くら寿司』も110円皿を減らして220円皿を増やす方針を打ち出し、『はま寿司』も“平日寿司1皿90円”を終了させる等、各社は値上げに動いています。私の実感としても、回転寿司では最近、150円や300円等の価格帯のメニューが明らかに増えています。

こうした背景にあるのは原材料費の高騰です。食品の値上げラッシュが続いていますが、中でも魚介類の値上げ幅は特に顕著です。6月の消費者物価指数では“食料”が前年同月比4.1%の上昇となりましたが、中でも“生鮮魚介”に限っては14.8%も高騰しているのです。現在、日本は食用魚介類の4割以上を輸入に頼っていることを考えると、円安や原油価格の高騰が水産物価格を押し上げる一因となっていることは間違いないでしょう。ただ、事情はそれほど単純ではありません。こと生鮮魚介の価格高騰においては、漁獲量の減少や国際的な争奪戦の中での買い負け、サプライチェーンの崩壊によるコスト増等、それ以外の要素も複雑に絡み合っています。そしてその絡み合い方は、魚種によっても異なってきます。先ず、皆さんに身近な回転寿司の定番ネタ、サーモンについてお話ししましょう。これまで、手頃な価格で提供されるサーモンは、ノルウェーとチリが二大供給地でした。大規模に養殖されることから価格や供給量も安定していたのですが、今春に回転寿司店から突然、姿を消しました。原因はウクライナ戦争です。ロシア上空を民間機が飛行できなくなったことで、ノルウェー産サーモンの空輸に支障が出たのです。報道によれば、ノルウェー産の輸入量はロシアの侵攻開始直後に30%も減ったといいます。ただ、直ぐに中東等の迂回ルートが確立され、供給量自体は回復しました。しかし今なお、ノルウェー産は回転寿司のレーンに戻ってきていません。迂回による輸送コストの転嫁で、仕入れ値が採算ラインを越えたのです。外国産サーモンが100円皿の寿司ネタとして日本に輸入・流通しているパターンは、大きく分けて3つあります。先ずは、①生のサーモンを空輸でアジア各地にある水産加工場に運び、そこで寿司ネタ用にカットして凍結。日本に船(※冷凍コンテナ)で運ぶ方法。②は生産地の加工工場でフィレ(※3枚おろし+骨取り)にしたものを凍結し、日本まで海上輸送。各店舗で切り分けて提供するというパターン。そして③は、凍結したサーモンを海上輸送で加工工場に運んで一旦解凍し、寿司ネタ用にカットして再び凍結。また船で日本まで輸送するという方法です。コストとしては①が最も高く、②は店舗でのコストやオペレーションの手間がかかります。③は価格的には抑えられますが、ワンフローズン(※冷凍回数1回)で済む①や②と比べ、一度解凍して再冷凍する為、味や品質面で評価が下がると言われています。そうした中、チェーン店では代替品としてチリ産や国産のトラウトが使われ始めましたが、これらも合わせて上昇しています。チリ産トラウトは1年前までは1㎏当たり2000円前後で取引されていましたが、現在は2800~3000円となっています。国産トラウトは更に高く、1㎏当たり約3500円。これらを一般的な回転寿司のネタのサイズ(※8g)に換算すると、単純計算で1枚あたり22円以上。1皿2貫として、寿司ネタのみの原材料費が45円、若しくはそれ以上となると、100円の売価を維持することは難しいと予想します。因みに、回転寿司ではとろサーモンとして販売されることが多い鮭ハラスという脂の乗った部位があります。ハラスは元々、スモークサーモンを生産する際に切り落とされた部分を、原料として安く買い付けて加工していました。しかし、最近では生産者がハラスの商品としての価値に気付き、安く販売することを嫌がり始めています。その為、原料調達に非常に苦労しているといった話も聞きます。ハラスの相場は私の知る限り、2年前より40%前後も上がっており、グレードによっては2300~2500円になっています。ハラスもサーモンの価格に肉薄する中、やはり回転寿司の低価格ネタのラインから姿を消す可能性があるのです。 (聞き手・構成/フリーライター 奥窪優木)


小平桃郎(おだいら・ももお) 水産アナリスト・水産貿易会社『タンゴネロ』社長。1979年、東京都生まれ。大学卒業後にテレビADになるも、語学留学の為にアルゼンチンへ。現地のイカ釣り漁船の会社に採用され、日本の水産会社との交渉窓口を担当。2005年に帰国、輸入商社や大手水産会社を経て独立し、現職。


キャプチャ  2022年8月30日・9月6日号掲載

テーマ : 寿司・鮨・すし
ジャンル : グルメ

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George Clooney

Author:George Clooney

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